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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
四日目
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11-2 魔導書に書かれた処方箋




 パチパチと音を上げ、暖炉の中の炎はすっかり冷えてしまった身体を温めてくれた。

 俺はその温かいオレンジの揺らめきを呆然と眺めている。

 朝の起き抜けから、いきなりの事態に俺の頭はとっくに処理できる許容値を超えてしまっていた。

 暖炉のすぐ傍のソファには、小さな黒い人影が横たわっている。

 黒い髪に黒い服の少女、リルドナだった。その黒い髪と服とは対照的に白い肌の持ち主だったが、今はすっかり赤黒い液体で汚れてしまっている。

 そのソファは二人掛けの物だったが、小柄な彼女をすっぽり納めてベッドの代わりを果たしていてくれた。

 ただし、掛けられている布はシーツではなく、野営用のテントの物だと思われる肌触りの悪い生地だ。

 そちらの布も、やはり赤黒い液体で汚れてしまっている。

 ――ソファの方を汚さない為の配慮だ。

 

 改めて彼女の身体を見る。

 服自体は黒色の為、ベッチャリと赤黒い液体に汚れても、濡れている程度にしか見えない。

 せめて着替えさせてやりたかったが、この中で他に女性は居ない。

 居たとしても、着替える物があるかどうかも怪しいが……。

 汚れは石畳に接していた下半身が酷い、その反面上半身の衣類はさほど汚れていない。

 変わったデザインの上着は比較的綺麗なものだ、

 そしてその小さな身体に反して大きな胸が静かに上下している。

 視線をそのまま頭の方へと向けると

 ――首は繋がっている。

 生きている。

 

「……ふぅ……」

 思わず安堵の声が漏れてしまう。

「……大丈夫か?ナンセンスだぞ」

 呆れたようにルーヴィックのお得意の言葉が降りかかる。

 実はもう何度もこれを繰り返している、

 暖炉を見つめて、リルドナを見つめて、そしてホッと安心する。

「うるせぇ、お前が紛らわしい真似するからだろぉ!?」

「頚椎を真心で捉えないようにしただけだ」


 あの時、ルーヴィックは刃をリルドナの首目掛けて振り下ろしはしたが、その刃は背を向けていた。――つまり峰打ち。

 気絶させる為の一撃なワケだが、その挙動は勢い良く振り抜いているようにしか見えず。

 俺には首を刎ねられたようにしか見えなかった。

 ヤツが言うには、インパクトの瞬間に衝撃を後方へと逃がす一撃らしい。

 ともかく、リルドナがさらに暴れだす前に無力化し、状況整理へと移っていた。

 人員は大まかに二手に別れていた。

 ブルーノ達は、『現場』の検証を行っている、

 犯行が人間によるものなのか、森に棲む魔物か何かの仕業なのかは断定できない。

 しかし、この仕事(クエスト)は冒険者ギルドを介して依頼されている。

 人間か魔物。そのどちらにしても、死人が出てしまった以上は、正式に手順を踏んで処理をしなければならないのだ。


 その一方で俺達はリルドナの面倒を見ることになっていた。

 本来なら、ロイに対する傷害罪を問われ、看護ではなく、監視がつく筈だったのだ。

「しっかし、見事に気絶させたもんだな……」


 あれだけ賑やかだったリルドナが大人しく、身動きもせずに横たわってるのも珍しく思えた。

 静かに眠っているように見える彼女だが、その表情は悪夢でも見ているかのように苦渋に満ちている。

「……うなされて…いるのかな?」

 俺と同じような印象を受けたのか、ロイがポツリと呟いた。

「かもしれません、あれ程錯乱していた直後ですし」

 果たして、このまま時間の経過とともに意識を取り戻したとして、彼女は正気に戻ってくれるのだろうか?

 また、見境無く暴れたりしないだろうか……?


「なぁルーク。このままそっとしておくだけで大丈夫と思うか?」

「――難しい、俺にもわからない……早めに何か手を打っておきたいところだ」

 感情の読めない顔のまま、そう短く答えた。

 この『わからない』は、安全を保障できるか『わからない』という意味だろう。

「……魔導書(グリモワール)だ、」

「え?」

魔導書(グリモワール)を見てみろ、きっと何かわかる筈だ」

「って、言われても俺には読めな――」

「リルのことは彼女(・・)が一番わかっている」

 俺が「読めない」と言い切る前に言葉を被せてきた。

 リルドナのことは『彼女』が一番わかっている?


 ……。

 そうか。

 つまり、俺には読めなくても、聞けば良いということか。

「わかった、調べてくる」

「――頼む、」

 短く言葉を交わし、応接間から階段へ、そのまま一気に駆け上がる。さらに二階の廊下の突き当たりの部屋へと駆け込み、手早く白い布袋から魔導書(グリモワール)を取り出した。


「……頼むから、応答してくれよ……」

 祈るようにリウェンに呼びかける。


(リウェン、リウェン!応答してくれ)

<ふ、ふぁい?>


 幸いなことにすぐに反応があった、

 ――――――――――――――――が。


<ふぁ……ぐーてんもるげん……んー?>

(……)

 もうなんていうか『今しがたまで夢の中に居ました!』と言わんばかりの反応だ。

 多分、彼女は低血圧なんだろう、すぐにエンジンが掛からないようだ。

 そんな幸せな夢うつつな声を聞いてしまうと、切羽詰っているこちらとしては……

 ――少しイラっときた。


(おいっ!寝ぼけてんじゃねぇぞ!さっさと起きろ、この青白縞々のヒモパン女!)

<ふ、ふぇ!?

 なななななんですか!朝っぱらから何てこと言いやがるんですかー!?>


 俺の言葉がクリティカルだったのか、一気に覚醒を促すことが出来た。

 というか、ヒートアップさせてしまったかもしれない。


<い、いいですか? あれはヒモじゃなくてですね?あくまで飾りとしてのリボンがサイドに付いているだけなんですっ!決してアレを解いたからといって脱げたりはしないんですからねっ!?>

(――長いっ、どーでもいい!)

<さ、先に下着に話題を持っていったのはエインさんじゃないですか!

 寝起きの女の子に対して、いくらなんでも人権侵害(あんまり)ですよーっ!?>


 意識の覚醒ついでに別な回路も覚醒してしまったようで、リウェンの口は止まらない。


<いいですか? この衣類そのものには、キチンと魔術的な意味をもって構成しているんですよ?>

(ストップだっ! 今はそれどころじゃないだ……)

いいえ(ネイン)、ここはキッチリ話に決着をつけましょう、そもそもエインさんはですね――>


 その後みっちりと一〇分間は説教じみた説明が続いたのだった……。

 えーっと、俺は何しにきたんだっけ?


 

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