10-5 そのお話は吸血鬼?殺人鬼?
使用人の四人部屋の寝室。
そこそこ広いが、四人と考えるとやや手狭だ。
そんな場所に男四人が集まってチェス盤に視線を集めている。
「う~~~」
「お前の手番だぞ?受け手を聞こう」
未だに継続していた、ルーヴィックとロイの対局、
ゲームは終盤、見るからにロイの敗色が濃い。
「やっぱりダメだ~、投了だよ」
「ふむ、諦めるのか」
局面を見る限り、まだ何手かは指す手もあるようだったが、
潔くロイは負けを認めてしまった。
「まぁ、もう少し打つ手はあるけどね、でもジリ貧にしかならないよ?悪戯に勝負を長引かせるよりも、ゲームを振り返って何が悪かったかを検証するのも対局の一部として重要な要素だよ」
「小難しいコト言ってるが、コイツは楽しめなくなったらサッサと次へ行っちまうのさ」
その言い方は悪いが一理ある。
チェスの重要な攻防は中盤戦にあると言ってもいい、ここで如何に終盤で『詰める』為の手筈を整えるかに掛かっている。
極端な言い方をすると、終盤は『如何にして相手を詰める』か『如何にして詰められないようにする』かのどちらかになってしまう、一発逆転などというシナリオはまず存在しない。
最も、そうでないパターン……『中盤も均衡した状態で通過する』という状況が生まれるくらい互角の攻防が続いたのなら、それは稀に見る名勝負ではないだろうか。
そもそも、勝ち負けが絶対ではないのだ、過程を楽しめなければ意味が無い。
ただ、俺個人の意見としては……
やはり最後まで諦めずに食らい付いて行きたいのが本音だった。
「俺としてはチェックメイトされるまでは勝負は終わらないと思ってます」
「おや?ムノー君は負けず嫌いなんだね」
「そういう訳じゃないです、相手の指す手を最後まで見たいだけです」
「うーん、それも次に繋がる『手』だね、ボクとは趣向が違うけどアリだと思うよ」
彼がそう言い終わる頃には、
すでに駒が再配置され、次のゲームの準備が整っていた。
実に手際の良い人だ。
「じゃ、どうぞ。真打ち登場ってことで、がんばってね」
「やっぱり、俺もやらないとダメなんですか……」
ロイの顔は「もちろんだよ」と語っている、
ルーヴィックは相変わらずの無表情の鉄仮面。
やっぱり俺には拒否権は無さそうだ。
「先手はくれてやる」
「そりゃどうも」
最早、恒例となった言葉を交わし、ゲームが始まる。
ふと、視界の端にリルドナの顔が掠めた。
その表情は、呆れたというか、疲れたというか、影の差したソレとなっていた。
というかコレは、『ヒマそう』と捉えるべきか。
「そういや、リルドナはチェスしないのか?」
「……えっ!?」
急に声を掛けられてビクンと反応を示す。
しかし、回答は彼女でなく、目の前の男からもたらされる。
「ソイツには無理だ。ルールなど三歩で忘れてしまう」
「丸っきりネコじゃねぇか……」
頭の中までネコらしい。
そこを突かれて、不機嫌に「フーっ!」と怒りを露に威嚇している。
やっぱりネコじゃないのか?
「まぁ、そう言わずにさ、今度一緒にやってみようよ」
「あ、あたしに出来るの?」
「うん、何回もやってれば、いつかは身に付くよ。ボクが教えてあげるよ」
妙に親切な『優しいお兄さんモード』になってリルドナに寄りかかる。
どうもロイは、メイドモードのリルドナを見てからなのか、
妙に彼女も目をかけているように思える。
「オイオイ、ロイィ?その辺にしとけよ、下心ミエミエだぜ?」
「いやいや、女の子にこうやって優しくするのが大切なんだよ?
ゼルも少しは考えなよ、そんなんじゃ……そうだなぁ~、うーん」
「オイオイ、また何か『出る』話じゃないだろうな、
言っとくけどなァ、新月じゃないし『レッドアイズ』こねーからな!」
「よーっし、それなら、あれだ。ノスフ――」
「リル、悪いが何か作って来てやってくれ」
ルーヴィックが急に口を開き、
あたかもロイの言葉を遮るようにリルドナへとソレを投げかけた。
「んっ?作るって?何を……かしら?」
「何でも食えるモノならいい、お前もまた腹の虫を披露したくないだろう?」
その瞬間、リルドナの顔がみるみる赤くなっていく。
ボン!と一気に赤面しないのは、おそらく頭で意味の処理が追いつかなかった所為だろう。
「も、もうっ!あれは違うって言ってるでしょっ!」
「違っても、問題ない」
尚も噛み付こうとするリルドナだったが、
相手がルーヴィックだけに程なくして諦め、そのまま退室していった。
「話を断ち切ってすまなかったな、続けてくれて構わん」
「オイ、オレは別に聞きたくねーんだが……」
ロイが口にしようとしたのは、
その手の『怪談話』、ゼルとしては聞きたくも無いお話なのだろう。
「まぁ、そもかくゼルのところには、今度はノスフェラトゥがくるねっ!」
「水を差されても、サラリと笑顔で無理やり力技で正面突破しちゃうんですね……
…………で、ノスフェラトゥってなんですか?」
半ば呆れつつも、ここは社交辞令なので律儀に訊ねてみる。
「そうだねぇ、吸血鬼って言ったほうが想像しやすいかな?」
「ああ、それならわかります」
吸血鬼は怪奇小説でも割とメジャーな分野だ。
人間社会に解け込むように潜む、夜の貴族といったイメージのアレだ。
フェリアが怖がったのであまり読み聞かせることはなかったが。
「民間伝承でも割と有名なのかな?
まぁ、この地域のモノじゃないんだけどさ、私生児が私生児を産むと、その子供は死後、吸血鬼ノスフェラトゥになっちゃうのさ。」
「……?死後……ですか?」
「うん、そして夜な夜な、お墓を抜け出して、人を襲って血を吸うのさ」
「――て、オイ。この辺にゃ、墓なんてねーぞ?」
「ふっふふふ……別にお墓じゃなくても、そこに死体が在れば……さ?
この森で、不幸にも命を落とした浮かばれない人達が眠ってるかもしれないよぅ?」
「う、うぜーぜ……」
どうしてこう、この人はいやらしく笑うのだろう。
何が何でも、こじつけてでもゼルを怖がらせたいらしい……。
「……確かに、土の中から這い出てくるのは『おぞましい』ですけど、
そんなドロドロの格好じゃ、もうただのゾンビと大差ないんじゃないですか?」
「そうかなぁ? まぁ汚れてても気にならないと思うよ、どうせ大した服装してないし」
「……? どんな格好してるんです?」
妙だ、想像と合わない。
「どんな格好も何も、亡くなって埋葬されたままの格好だしね、大抵は屍衣――つまり死に装束のことなんだけど――そういう簡素な格好をしてるね」
――あれ?
俺の記憶と何か違う。
「あの……他に外見的特長ってあります?」
「そうだなぁ……うん、あれだ。
吸血鬼は蘇った死者、まぁ動く死体?なんだけど……顔色は良いんだよ」
「はぁ?」
「なんてことないよ。血を吸うから、その分血色も良くて、ややぽっちゃりとした健康体そのものの外見だね」
やっぱりだ。
怪奇小説に出てくるようなモノと根本的に違う。
(おーい、リウェン、これってどういうことなんだ?)
<――――>
しかし、返事は無い……。
「ん、どうかしたの?黙り込んじゃって……まさかキミも苦手だった?」
「いえ、そうではなくて……何か違うんですよ」
「違う? ムノー君が知ってるヤツはまた違うモノなのかな?」
俺は昔読んだ本の記憶を辿りつつ、
一言一句、確かめるように口から搾り出した。
怪奇小説に登場する彼らは、あたかも貴族と思わせるような風貌と性格を持ち、深窓の令嬢のような儚く細い線と青白い顔を併せ持っている。
何よりも、彼らには個人を分類する名前まで付いている。
一方のロイの話だと、あくまで一種族としての名前だ。
それらが俺の認識の相違点だった。
「――確かに、それは別物っぽいね、ちゃんと固有の名前が付いてるみたいだし」
「地域によって違うんでしょうか?」
「つーか、どっちもカンベンだ……」
ゼルがため息をつく中、ロイが思案する素振りを見せる、
いつの間にか『ゼルを怖がらせる』という目的が見失われつつあるようだ。
「――あるね、この地方にもそういうのが……」
「確か『トゥイーニーの黒猫』てヤツだけど、綺麗な顔立ちの女性の吸血鬼だったらしいよ」
「……吸血鬼なのか猫なのか女中なのかわからない名前ですね……
まさか、どこぞのノラネコ女みたいに黒髪赤瞳じゃないでしょうね?」
「いや、白髪に赤瞳だったらしいね。『黒猫』ていうのは真っ黒なドレスに黒のフードを被ってたかららしいよ。あと、『獲物』を生かすも殺すもすごい気まぐれで、相当な気分屋だったらしいんだ」
「猫の気質ってわけですか」
髪は白いらしいが、全身黒づくめとか、つくづくどこぞのノラネコ女だ。
「これは、五世紀前くらいに実際に起きた事件が元らしいんだけどね」
「――て、オイオイ。そりゃ白の末裔のヤツじゃねーのか?」
実際の事件を引っ張り出してきた所為か、ゼルも怪訝な顔を浮かべる、
「お二人とも知ってる内容みたいですけど、有名な話なんです?」
「この国の抱える悪習の妄想みたいなモノなんだけど……
さっきリルちゃんが読んでくれたお話にも出てきたでしょ?『白き魔王』て」
「三柱の魔王のひとつですね」
「それで、ソレは『白き魔王』とか『白銀の魔女』とかイロイロな呼ばれ方してたみたいだけど。
ソイツは何でも人から血を吸って命を奪い、その亡骸を自らの手先として操る力持っていたとかで、この周辺地域を恐怖のどん底に陥れたらしいんだよ。」
「で、その大昔の魔王だか魔女がどうしたんです?」
少し、話が突拍子もない方向へと進みそうだったので、話を纏めるよう促す。
「まぁ、言っちゃえば、その魔王も実在して、その子孫たちが『白の民』と言われる人々で、その一族は皆共通して真っ白な髪に真っ赤な瞳を持っていたそうなんだよ……さっき言った『トゥイーニーの黒猫』もその一人ってわけだね」
「つまり、大昔の魔王がその吸血鬼のご先祖様ってことですか」
単なる吸血鬼騒ぎから魔王まで系譜が遡っていくトンデモ話だ。
この手の話は、話を誇大表現する為に、後から別の伝承にくっ付けられたケースが多い。これもその類ではないだろうか。
「なんかごちゃ混ぜになりそうなんですが、その黒猫は何をどうしたんです?」
「あらすじを流すね、物語はある富豪の屋敷の御婦人が、身寄りの無い双子の女の子を使用人として招き入れるところから始まるんだ」
「あ、なんとなく読めました。その双子が……ですか」
この手の話の定番とも言える展開だ。
物語は、事件の発端となり得る危険因子を招き入れるところから始まるのだ。
「せっかちだね。まぁ、確かにその双子は白髪赤瞳だったんだけどね。当時はまだまだ『白き魔王』の恐怖根強く残っていて、世間一般では白髪赤瞳は不吉の象徴そのものだったんだけど、御婦人――その屋敷の当主の若い奥様はそんな空気も跳ね飛ばして双子の少女を受け入れたんだ、立派な女性でしょ?」
差別偏見から正面から立ち向かう、確かに立派な意志の強い女性だと思う。
口で言うのは簡単なことだが、そんなことをすれば本人も差別の対象になってしまうからだ。
「――で、その子達はまだ幼かったから、まだ身体も小さくてね。
使用人というより、もう養女みたいな感じですくすく成長していくんだ」
初めの内は異変無く物事は進むようだ、
やはり『事』が起こるのは、その双子を大きくなってからか、
「二人が一四歳だか一五歳になって。ある程度身体も大きくなり使用人として仕事もできるようになった、その時からか、あるいわ発覚がそのくらいであって、異変はもっと前から起きていたのかもしれないけど……妙なことが起こり始めた」
「ようやく吸血鬼事件ですか?」
すっかり俺がロイに事件の概要を訊き出す形になっている、ゼルの方はある程度話を知っているのか、一向に口を挟む気配が無い。
「うーん、具体的な記述は無いんだけど、その御婦人は双子を引き取った時には既に娘さんを身篭っていて、その後程なくして無事に出産。そこまでは良かった……いくら出産の疲れがあるとは言え、元々健康で身体の丈夫だった御婦人の身体が弱る一方でちっとも回復しない、娘さんの方も身体の成長が妙に遅かったんだ」
「妙にぼかしてますね、それだと『何か』の仕業か病気なのかわかりませんよね」
「だよね、でも異変はまだ起きる。その娘さんの為に雇った家庭教師の若い女性もやはり被害にあったんだ、こちらは事故って形だけど不振な点が多かった。それだけじゃなく街のあちこちでも似たような異変が起こり始めたんだ……奇しくもそれは双子の姉妹がお使いで街へと行ったルートと合致していたんだ」
人間社会の懐に深く潜り込んだ魔物が、ゆっくりと。しかし確実に牙を向いていく様子が観て取れた。その双子の姉妹はまずクロと見ていいだろう。
「そんな中、現れたんだよ、彼が――」
「事件を解決へと導くヴァンパイアハンター辺りですか?」
「うん、そんなトコ。この話の場合は錬金術師なんだけど。実はその人、お屋敷の当主のお兄さん――つまり家督を継がずに投げ出してまでその道に進んだ人だったんだ」
吸血鬼に錬金術師……最早何でもアリになってきた。
「その人は屋敷に訪れてすぐに看破したんだ……その双子の姉妹が吸血鬼だと」
「……随分と急展開ですね」
「あー、間端折ってるからね。
で、直ちに然るべき手段に出ようとしたんだけど……逃げられちゃったんだ。しかも屋敷の当主と御婦人は双子の手に掛かり命を落としてしまう」
「そこから追撃戦になるんですか?」
「そうだね、その錬金術師から見たら弟と義理の妹を殺されちゃったわけだしね。すぐに追手を差し向けたんだ、彼女達に致命傷を負わせることが出来る『霊銀の矢』を持たせてね」
――こんなトコロでもやはり『銀』が登場する。
魔を討つ金属としてかなりポピュラーだから仕方ないが……
ありきたり過ぎて、やや呆れてしまった。
「やっぱり『銀』ですか、人狼でもなんでもソレな気がしますよ」
「でも、効果は抜群だったんだ、遠く離れた森にまで逃げ込んだ二人の内、双子の妹の方はその矢で見事仕留めることに成功したんだよ」
「……?『妹の方は』ですか……姉の方はどうなったんです?」
「結論から言うと返り討ちに遭った。妹を仕留めたまではいいけど、怒り狂った姉に一瞬にして殺されちゃったらしい」
お話だから仕方ないことだが、これもおかしなことだ。
返り討ちに遭い殺されてしまったのなら、その事実は闇へと葬られている筈なのだから。
「では、追手がやられてしまって、姉の方には逃げ切られちゃったワケですか?」
「いや、それが立場が逆になっちゃったんだ」
「逆?何がです?」
「今度はその姉が、妹を殺された仕返しに、錬金術師を狙って追い始めたんだよ……復讐の鬼と化した彼女は、我が身に降りかかる別の追手は当然の事、行く先々で関わった人間を次々と手に掛けて行ったんだ」
いわゆる、『獣の巣を突付いた』という状態だろうか。
逆鱗に触れられた龍が暴れまわる如く姿が目に浮かぶようだ。
「それなら、その錬金術師がサッサと出向いて事態を収拾すれば良かったんじゃないですか?」
「まぁ、そうなんだけど、相手は吸血鬼だよ。行く先々で人を襲っているんだ、血を吸った分だけ『力』を強めていたんだろうね。すぐには手を出せなくなっていたらしいんだ」
「どうして、そういうことが判るんです?」
「彼女は凄く気まぐれでトドメ刺さないことが多かったからだろうね、生き延びた人が居たんでソレが判ったってワケ。
ともかく、正面から勝負を挑んでは勝ち目がないと踏んだ錬金術師は、かつて事件の起きた屋敷を拠点に幾重にも魔方陣やら結界を敷いて、そこに誘き寄せることにしたんだ」
「随分と悠長な話ですね、追われてるんじゃなかったんですか……」
「まぁ、そこも詳細は省いてるからね。
で、上手く姉の吸血鬼を誘い込んで、幾重にも封印を施し、『力』を奪ってから見事追い詰め、いよいよ仕留めようとしたんだけど――」
ここまで来ておいて、さらに『けど』を付けてくれる、
「また、どんでん返しがあるんですか?」
「そんな大それたモノじゃないけど。
屋敷にいた他の使用人の少女が止めに入っちゃったんだよ。やっぱり、どんな正体であれ、かつての同僚を見殺しには出来なかったんだろうね。
それで、結局また逃げられちゃったんだけど、『力』は封じたから、二度とその吸血鬼が現れることは無かった、めでたしめでたし」
「随分と無理やり終わらせるんですね」
途中かなり省いているとは言え、最後の方は強引極まりない進め方だ。
「――と、まぁ長くなったんだけど、この話どう思うかな?」
「――――――はい?」
やたらと長い話をしたかと思ったら今度は何だ?
どうもロイの思惑がわからない。
「この話ってさ、結局は、『白の民の所為』、『吸血鬼の所為』ってことで決着つけちゃってるけど、本当のトコロどうなんだろうねぇ?
ボクは、この国の頭の古い連中が後から捏造したモノじゃないかな~て思ってるんだけどね、醜い差別意識が生んだ妄想で、双子の姉妹が白髪赤瞳だったという事実だけを取り上げて、一方的に彼女達を『クロ』にしてるんじゃないかな」
――つまり、そういう推理を構築すればいいのか。
吸血鬼だの魔女だの魔王だのでなく、人間の犯行とする……!
「そうですね、話の前半部分だけなら、婦人の体調は何かしらの病気、娘の方も同じ病気を患った、という解釈もできますし。
何よりも怪しいのは、その錬金術師の方じゃないですか?」
「おや? それはなんでかな?」
俺の推論に嬉しそうに聞き返してくる、
「異変が起きたから錬金術師が訪れた。ではなく、錬金術師が訪れたから事件が起きた。
そう考えればいろいろ辻褄が合いそうです。そもそも、あまりもタイミングが良すぎます。
家督を継がずに錬金術師になった彼の目的は……お金を無心する為とかどうでしょうか。
それで弟と口論になり、突発的に殺してしまい、その奥さんも同じく殺してしまう……焦った彼は咄嗟に罪を他人被せた。そこで目を付けられたのが双子の姉妹、差別の対象となる白髪赤瞳を持つその二人なら打って付けといえますしね。
言われ無き罪を問われた彼女達は、パニックに陥りながら逃げ出す。それをわざとすぐ捕まえないで遠方で殺害したんです」
「わざと逃がしたっていうのかい?」
「だってそうでしょ?たかだか一四、五の少女を仕留めるのにそんな遠くの森まで追いつけないなんておかしいですよ。人目の付かない森で殺したかったんでしょうね。」
「あン?なんでそんなメンドーなコトすんだ?」
いつの間にかゼルまで俺の話に食いついてきている。
「表面上は彼女達に死なれたら困るからですよ。実際は森で二人とも殺しておきながら、片方はまだ生きていることにして、架空の吸血鬼として暗躍させたかったんでしょう」
「オイ、ますますわかんねーぞ?」
「簡単なことです。突発的にとはいえ、家督を持つ弟を殺したんです、次に当主になるのは……その錬金術師ですよね?
そこまで来てしまったのなら、屋敷を乗っ取るでしょう、でもソレを快く思わない人間もいる。ならどうします?」
「随分と怖い思考をするんだね……『邪魔者は消す』かな?」
そう言いながらも俺の用意した答えの正解を言い当ててくれる。
「双子は既に死んでいますが、それは他に誰も知らないことです。神出鬼没と言ってしまえばわかりませんし、そもそも『居ない』の証明なんて出来ません。まさに『悪魔の証明』なんですよ。そうして勝手に生み出した架空の吸血鬼に次々と『殺されこと』にして邪魔な人間を排除したんです。
――死者の冒涜もいいところですね、彼女達の命だけでなく尊厳まで奪っている」
「随分とアンチャンはその双子の肩を持つんだな?」
「そういうのじゃありません。
その双子の人間像を想像すると、随分と『出来た少女』だと思うんですよ」
「うーん、なんでそう思うんだい?」
「白髪赤瞳という差別対象の容姿を持ちながらも、外にお使いへと出されるということはそれ相応の信用と信頼を受けていた筈です。それだけ普段からの勤務態度が良かったと推測されます。
あと、『黒猫』の名前の由来の格好に関しても意見すると、外出する際に制服であるエプロンドレスのエプロン部分を取り外せば黒いロングドレスになりますし、差別対象で目立ってしまう白髪をケープで隠したと考えれば筋が通ります。多分、修道女みたいな格好に見えたんじゃないでしょうか」
「あー、なるほど。確かにそう見えるかもね」
「そして、黒ドレスに黒ケープなんて格好、中身の判別付きにくいでしょうから、簡単に『替え玉』を用意して街を歩かせれば、彼女は『居る』ということに出来るんだと思います」
つい、長い話をしてしまったが、この双子の事件は、実質に彼女達が森で殺害される前半部分で終わっている。後半は彼女達の名を語った殺人劇……もしくは、ほぼ狂言と見ていいかもしれない。
「――以上ですが、俺の方も長くなってすみません……」
「いや、ボクとしてはそういう意見が聞けて嬉しいよ」
ここにきて、ようやく俺は気付いた。いや、気付けた
「そこまでの考えに至れたのなら、彼女が――リルちゃんがどういう目に遭って来たのか、想像できるんじゃない?」
ロイの言葉に俺もゼルも押し黙る。
結局、彼が言いたかったのはここなのだろう。
「だからさ、やっぱり優しくしてあげないとダメなんじゃないかな?」
出来の悪い生徒を諭すようにロイは語る、
なんだかいいように言いくるめられたような気がした。




