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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
三日目
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10-4 南京錠はオモチャなんですか?



 部屋に戻ると、ゼルとロイの視線が突き刺さった。

 リルドナはまだ戻っていないらしい、

 一からお湯を沸かすのだ、そんなに早く戻ってこられるわけもない。

「何か見つかったかい?」

「うーん、特には。

 ……ただあっちの部屋が上級使用人用の個室かな?ってわかったくらいですね」

「何か収穫あったてぇーのか?」

「いえ、さすがに見るからに女性の部屋だったので……物色するような真似はしませんでしたよ」

 ほぼ確信を持って言えるが、あの二つ部屋の主は……。

 例え、そうでなくとも。やはり女性の部屋を無闇に漁るほど、俺は無神経じゃない。

「ふむ、エインが漁らなくとも、鍵を開けてしまったのならば他の人間がそうするかも知れん」

 今の今まで、飾り物の鎧甲冑みたい沈黙していたヤツが口を開いた。

 会話に参加こそしてはいるが、視線は依然として盤面に刺さったままだ。

「あ~、そこは大丈夫だ。ちゃんと外から施錠したからな」

「ほう、器用だな?」

「うん、ボクもそれって凄いと思うよ?」

「つーか、アンチャン。オメェ進む道を間違えてねーか?」

 ゼルの言うとおり、鍵職人か何かに進めば良かったのかも知れない。

 しかし、これは俺が決めた道だ。他人にとやかく言われて変えることは無いだろう。

「子供の頃から錠前をオモチャ代わりに育ちましたからね、俺にとっては当たり前に出来ることなんですよ」

「――てぇコトはだ、独学でかよ?」

「そうですね、誰かに教わったわけじゃないですね」

 自分の荷物を漁り、中からゴツゴツした金属の塊を取り出す。

 それらは十数個、部屋の隅のテーブルに無造作に並べていく。

「……おや、それは錠…かな?」

「そうです、ここ数日は出来てませんでしたが、俺の日課みたいなモンです」

 それらは全て大きさも形状もバラバラだ。

 旅先の立ち寄った街の鍵屋で、これまで適当に買い集め続けたモノだった。

「古びてはいるけど、錆び付いてねーな、ちゃんと手入れもしてんだな」

「整備も含めて、訓練の一環ですよ」

 手始めに一つ南京錠を手に取り、愛用のピックで鍵穴を探る、

 瞬く間に、パチンと錠が外れてしまう。

「はぇぇな、オイ」

「そりゃ、何回も同じもの触ってますしね」

 次々とパチン、パチンと開錠されていく、

 机上には外れた錠前が次々と山積みにされてしまった。

「ファルクスに着いてからはドタバタしてたんで、新しいのはまだ買ってないんですよ」

「そうだとしても、これは結構なモノだと思うよ……おっと、ここアンパッサンね」

 こちらに注意を向けつつも、しっかりルーヴィックとの対局もこなしている、

 この人、大概器用な人種に分類されるのではないだろうか?

 そこへ、トタタタタ、と軽快な足音が近づいてくる。

「帰ってきたみたいだね」

 果たして、皆が部屋の入り口に視線を集める中、エプロンを装着した『なんちゃってメイド』が姿を見せるのであった。


「ほいー、おまたせっ!」

「悪いな、手間取らせて――て、どうした?」

 口では元気な声で『おまたせっ』と言ってるものの、なんだかソワソワしているように見える。

 女がこういうリアクションを取るとき、それは何を意味するのだろう?

 間違っても「トイレか?」などと言うつもりは無い、

 繰り返すが、エインさんは紳士なのだ。

(というワケで、これはどういうコトだと思う?)

<何、アッサリとわたしを頼ってきてるんですかー!?>

(ここは同じ女性としての、

 それも姉妹なら近い感性持ってるはずだから、その意見が聞きたい!

 同じ世代なんだろう?……いくつ離れてるかは知らんが……)

<わたし達は双子なんで歳は離れてませんよ?……て脱線しちゃうじゃないですか>

(おっと!?

 サラリと新事実がまた発覚したけど!?……これはどういう意思表示なんだ?)

<あのですね、

 何かを気付いて欲しいのですよ、自分の口から言えないのが女の子なんですっ!>

(そー言うモンか? んじゃ、何に気付いて欲しいんだ?)

 実にまどろっこしい、反則かもしれないが、ここはサクっと答えが欲しい。

<そこはご自分でよーっく、観察してあげてくださいっ!>

(お、おいリウェン?)

<……>

 また、先程と同じように彼女は何も語らなくなった。

 なんだか怒ってるような気もしたが、まるで俺にはわからない。

「ど、どうしたのよ?急に黙り込んで……」

「い、いや……なんだか違和感がな、お前ちょっと待てよ?」

 などと適当な言葉で場を繋ぎ時間稼ぎをする、

 そんな俺の言葉に、リルドナは息を呑む気配を見せた、それは何かを期待する素振りか?


 ここは冷静に観察してみよう、

 第一に、リルドナの視線は特にティーポットへは向いていない、つまり何かしらを施したのは紅茶ではない、ということになる。

 第二に、俺がリルドナを見ると、すっと視線を外してしまう、これは彼女がこちらを見つめているのを、俺に悟られたくないからではないだろうか、そして何故俺を見つめているか、それは『俺が何かの変化(・・・・・)に気付いてくれるか』を観察する為だろう。

 ここまでくれば導き出す答えは……『何かの変化』はリルドナ自身にある、つまり服装に変化があるはずだ。

「ちょっと、動くなよ?」

「あ、あひぃ!?なによ」

 俺はわざとらしく、まじまじとリルドナを観察する、足元から、黒のパンプス、長い裾の袴ときて、白いエプロンとその下に黒いブレザーにヘアピンで留めた袖口、ここまでは応接間で見た給仕姿だ……残るは……首から上、

 顔は……ハズレだった、とか言うとブサイクみたいに聞こえちまうな……。

 その顔には新たに別段化粧をしたと言う感じは見受けられない。

 さらに視線を上へと移動させると、


「なるほど、それか」


 ――そこにあった、頭の上にチョコンとあった。

 それはホワイトブリム。

 つまりヘッドドレスのことだ、ちなみにブリムとは帽子の鍔のコト。

 室内帽が衰退していく昨今では、それに替わるヘッドドレスを意味するようになったのだ。


「へ、ヘンかな?」

「いや、殺人的に似合っているぞ?」

「うん、これはポイント高いよ?

 ちゃんとボクが足りないって言ってた部分を覚えてるなんて、

 リルちゃんグッドだよ!メイドをなんたるか弁えているよ!

 そんな、リルちゃんに……このボクはあぁぁぁぁぁ・・・!!」

「オイ、落ち着けよ……ロイィ?」

「このボクはあああああぁぁぁぁぁあああああっっ、うがッ、げほげほごほごほガハァッ!!」

 えーっと、ロイさんってこんなヒトだったっけ?

 なんだか遠くのお星様まで飛んで行ってしまったようだ。

 流石のリルドナもかなりヒいている。

「ま、まぁ。本当に似合ってると思うぞ」

「……はァ、はァ、ボクもそう思うよ」

「そ、そう?あ、あは、あははははは」

 ボン!と顔を真っ赤にしてその場でクルクル回り始めた、左手にティーポットを持ち、右手でスカート(ていうか袴)の裾を摘んで優雅に舞っている。

 ――とは言い難い回転速度で、ギュルギュル回っている、よくもそれでティーポットの中身をぶちまけないものだと関心する。

 誰がこの回転を止めるのだろうか。

 そこへ、ポンと俺の肩に手を置かれる感触、

「(ムノー君、今の対応はバッチリ合格点だよ、彼女すごく喜んでる)」

「(はぁ、そういうモンなんでしょうか?)」

 まぁ、リウェンというカンニングペーパーを使った結果なんだが。

 というわけで、リウェンに報告してみる。

(てわけで、バッチリ正解だったらしい)

<そーですか、よかったですねっ!>

 何故かリウェンはご機嫌ナナメだった、何か悪いこと言ったか?

 そんなことよりも――

 いい加減、回転を止めて欲しいと思ったところに、

 やはり頼れるのはヤツだった。

「大丈夫か?ナンセンスだぞ。折角の紅茶が冷めるぞ?」

「――あ、そうねぇ」

 ルーヴィックの言葉に、リルドナは大きな時定数を伴って緩やかに回転速度を落す。

 そのまま優雅な動きで給仕へと移行する。

「んじゃ、ご要望のダージリンね」

「本当にお前はイロイロ茶葉を持参しているんだな」

 次々とカップに湯気のたつオレンジ色の液体が注がれていく、そこから広がる独特の香りは紅茶に詳しくない俺でもわかるほどだ。(後に知ったがマスカットフレーバーという香りらしい)

 本来はストレート、つまり香料も砂糖もミルクも入れないのがポピュラーらしいが、一個だけ角砂糖を入れさせてもらった。

 その王道に則ってストレートで飲んでいるのは、ロイとリルドナだけだが……。

「うん、やっぱり淹れ方が上手いね、流石だよ」

「あははは、ありがと」

 わざとらしい笑いとともに頭を掻いている、

 どうもこれはリルドナの照れ隠しの時の癖のようだ。

「さっきのお仕事モードの変身ぶりは凄かったよね」

「変身っていうか、あれが普通だったしねぇ~」

「リルちゃんは接客担当してたの?」

 ピクン、と一瞬硬直し、寂しそうな笑いを浮かべる、

「よしてよ、あたしってこの外見よ?」

 と言いながら、自分の瞳を指差す。

「――させて貰えるワケ……ないでしょ」

「ん?どういうことだよ?」

 確かにリルドナの赤い瞳は珍しいが、それがどうだというのか。

 その疑問にはロイが答えてくれた、

「……この国の古い悪習だよ。今時ソレを忌わしいと捉える方がどうかしてるっ」

 ロイの語尾に力が篭っているのが視て取れた、

 あの赤い瞳を単に珍しいとしか思って居なかった。しかし当事者達はそうではないらしい、二人のやりとりを見る限り、その確執はかなり根の深いものに思える。

 ――リルドナはその『目』の所為でどんな人生を歩まされて来たのだろう。

 父親と母親、どっちがどっちの特徴を持っていたかもわからないが、

 姉と妹でああも違う違う色の髪と瞳を持って生まれて……どう扱われてきたんだろう?


「――でも、ソレさえなえれば問題無いってことなんだよな?」

「……えっ?」

「そうだね、リルちゃんはかなり可愛い部類に入るし、容姿端麗を要求されるパーラーメイドでも問題ないと思うよ」

 今日何度目かわからない、ボン!という音とともに顔を真っ赤にうろたえる。

 そんなリルドナを見て、やっぱりこいつは笑顔じゃないとな、と何度も思わされるのだった。

 その笑顔が見れれば、俺の気持ちも晴れるというモノ。


 ――でも、何故か。

 俺の心はすっきりと晴れてくれなくなっていた……。




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