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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
三日目
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10-3 なんでそこまで観察できてるんですか?


 その部屋は、リルドナの為に開錠した部屋とは対照的に淡い水色の壁紙が張られた部屋だった。

 本棚や衣装箪笥の他、戸棚にはまるで何かに実験に使うようなフラスコやビーカーまであった。

 それらとは、ギャップの激しい可愛らしいベッドがあり、これまた可愛らしいぬいぐるみも置かれている。

 そして、ほのかに甘い香りが立ち込めている、これは先程のラベンダーというヤツだろうか?

「おーい、聞こえてるんだろう?リウェン」


 ―――――――――――――――――――――――――――……――


 俺は問いかけるが、返事は無い。

 まぁ、素直に返事して貰えるとは思ってない、

「しらばっくれてるじゃねぇぞ?

 コソコソと盗み聞きしやがって、この覗き趣味の嘘つきネクラ女っ!」


 ――――――――――――――――――――――――――――っ!(怒)――


 声こそしないが、どことなく怒った気配がした、

 まだまだ足りないか……。

「なぁ、聞いてくれよ、リルドナがポカポカ俺のこと殴るモンだから参ってるんだ」

 やはり『声』に反応は無い、

「酷いモンだろ?例の宿屋での夜なんて、言いがかりもイイトコだ。不可抗力とは言え、リウェンの下着を覗いてしまったことは認める、でも結局暗がりだったしハッキリ見えてなかったんだよなぁ……『白っぽいの』としかわからなかったぜ」


 ――――――――――――――――――――――――――――?――


 キョトンしている顔でもしているのだろうか、感じ取れる気配の質が変わる、

 それとも、『見られてなかった』ということに対して安堵してるのか。

「まぁ、それよりも……リウェンはやっぱり『青』が好きなんだなぁ?

 ペンネームのBlaueAugen(ブラオ・アウゲン)といい、この部屋の壁紙といい、

 やっぱりアレか?自分の瞳の色だからか?

 かつての絶世の美女(クレオパトラ)も緑の瞳で、やはり同じ色のエメラルドを好んだって言うけどさ」


 ―――――――――――――――――――――――――――??――


 急な話題旋回でついてこれてないようだった、だが、それが狙いなのだ。


「だからだろ? 白地に青の縞模様のを穿いて――」


 ――バッチリモロに直視(ロックオン)してやがるじゃないですかー!――


 俺は 白地に青の縞模様の『何を』穿いてとは言ってないのに、

 的確に判断し、ツッコミを入れてきた、やっぱり頭良いんだな。

 つまり、アレだ。リウェンの下着は白と青の『しましまおぱんつ』なのだ。

「でも……チェックメイトだぞ?」


 ――あ……しまった――

 ――……お、思わず反応しちゃったじゃないですかー!――


「で……なんでこんなまどろっこしい真似してるんだ?」


 ――そ、それは……――


「答えないと、そこのベッドにフジコちゃんダイヴをかまして、顔を埋めるぞ?」


 ――へ、変態っ!――


 あくまで脅しで冗談なのだが、率直に『変態』と揶揄されるとちょっと凹む……。


<仕方ないですね、ちょっとだけお話しましょうか>


 観念したのか、また違う質の声が俺に届く、どうも通信手段を切り替えたらしい。

 

<その前に、今から通信コードを送りますので、そちらで通話なさって下さい。そのままですと、個室に閉じこもって独り言を呟いてる『危ない人』になっちゃいますから>


 だから率直に言われると凹むんだが……。

 程なくして、俺の意識に直接呪文(スペル)が浮かび上がってきた。


復唱要求です(くりかえしてください)

 俺は言われるがままに、呪文(スペル)を復唱する。

 途端に、何かの術式が起動し、

 より鮮明にリウェンの声だけでなく息遣いまで聞こえる気がした。

<これで、念じれば、わたしに『声』は届くようになりました。お試しください>

 お試しください、と言われても、何を喋ろうか……

 どうせなら、即ツッコミくるような内容がいいか?

(えーっと、穿いていたのは、

 白地に青の縞々で、サイドはリボン結びになっている気合の入った――)

<ちょ、ちょっと!何を具体的に説明しやがるんですかーっ!?>

 どうやら、ちゃんと届いているらしい。

 俺の言葉がクリティカルだったのか、どことなく言葉遣いが乱れている気がする。

 でも、これって心中までダイレクトに届いたりしないのだろうか?

(なぁ、この通信って、俺の心の中丸見えになっちゃったりしない?)

<わたしもそこまで野暮じゃありません、ちゃんと『念じなければ』通信は機能しませんのでっ!>

 ……ちょっぴり語尾に怒気が篭っているのは気のせいか?

 あんまりにも弄りすぎたのがいけなかったのかも知れない。

(……で、なんでこんな監視するみたいなことしてるんだ?)

<監視といいますか。そもそも、わたしには魔導書(グリモワール)に届く範囲の音か、危機感知(マリスサーチ)から自動警告(オートアラート)へと変換された信号を受け取るくらいしか、そちらの状況を知り得る手段がありません……。純粋に心配だった。と言ったら信じて貰えます?>

(信じなくも無いが……それだけじゃ理由として弱くないか?)

 俺の反論に、そうでしょうね、とため息交じりの声を漏らす。

 イロイロ裏がありそうな仕事だったし、今更シロと思ってやれない。

(俺も不振に思う点はいくつか見つけたんだ、例えばザスコさんのこととか――)

<……やはり、そこにお気づきでしたか。

 そうですね、わたしもあの一件が無ければ、そのままご一緒したんですけど、

 ――エインさん、

 この手の財宝探索系の仕事(クエスト)で起こり易いトラブルって何だか知ってます?>

(仲間割れ……か?)

そうです(ゲナウ)。より正確には財宝の横領からの暴挙というべきでしょうか>

 考えたくも無いシナリオだが、決して少なくも無い事例だ。

 財宝を目の前にして、依頼主を殺害してまで横取りをする連中が世の中には居る。

 最もそれがギルド側に知られれば、当然、重い刑罰が掛かるのは当然のこと、資格を失うことになる。

 冒険者人生をそこで終わらせることになるのだ。

 そんな暴挙にでるには、それ相応の覚悟が必要になるわけだが……

(死人に口無し、とはよく言ったモンだよな……)

<おっしゃる通りです。複数犯で口裏を合わせてしまえば、どうとでもなるんです>

 現実の世界は推理小説じゃない、アリバイなんて単なる口裏あわせで成立してしまうのだ。

 つまり、『事故』と主張してしまえば、それで全て片付く、というわけだ。

<ですので、わたしは調査事項が出来てしまったので、居残りを選びました>

(表面上はまだ発生していない事件の容疑者の絞込みか?)

そうです(ゲナウ)。私の役割は諜報……というか兵站全般ですので――>

 そこでリウェンは言葉を一旦切る、

<――ですが、わたしが抜けると回復手段が無くなってしまいます。もうお気付きと思いますが、姉は割りと耐久力が無いんですよ。いや、というかモロイ……いやいや、むしろ()でしょうか?>

(サラリと酷いこと言ってないか? まぁ、確かに軽装だし、傷を受けたら血を流すのは当たり前だよな)

<普段なら、わたしが障壁を張ったりするんですが……それでぶしつけですが、回復役としてエインさんの手を借りることにしたんです。どんなに力の小さな魔法であっても、使えるのであれば増幅および補強によって実用レベルまで引き上げることは可能なんです>

 その言葉に魔導書(グリモワール)のことが頭によぎる。

 恐ろしいまでの能力特化の内容だった。

(何にせよ、お陰で助かったよ)

<わ、私は自分の身内を護りたいが為だけに、貴方を利用したんですよ?>

(それ、嘘だろ?『護りたい』対象に俺も入ってるし)

 魔導書(グリモワール)の補助術式の内容から、俺自身への配慮がされていることは一目瞭然だ。

 そして、何よりも……彼女の()でわかってしまうのだ。

<わ、わたしは、姉が心配で……傷だらけになっても無理をする人ですから>

(うん。それは本当だろうな)

<――は、はいー?な、なんですかっ!それって!?>

(あれ?自分で気付いてないんだ)

 どうやら、無意識の内から出る癖のようで、本人に自覚は無いらしい。

 意外に『嘘をつく』という行為には心的ストレスが付きまとう。それが顔に出たり、脈拍に変化が出たり、症状は十人十色だが……リウェンの場合は口に出るようだ。

 しばらくは彼女との会話で主導権(イニシアティブ)を握れそうだ。

 皆はもう気付いてるかもしれないよな?

 俺よりも、皆のほうが気付き易い癖だと思うぜ?

(まぁ、これ以上は訊かないことにしておくよ)

<えっ?>

(どんな舞台演出を用意してるか知らないけど、それを引き摺り出す無粋はしない……というか、俺には何も知らない無色な一般人の方が都合が良いんだろ?)

<……。そうです(ゲナウ)

(これは、推理小説じゃないけど、ノックス第九条みたいなモンだよな)

<……もしかして、『無能』て呼び方を根に持ってませんか?>

(まぁ、俺はホームズ役じゃなくワトスン役なわけだ)

 なんとなくピッタリかもしれない、無能で結構。

 存分に主観で物語を観劇させて貰おうじゃないか。

(まぁ、話はここまで。また何か訊きたいことができたら通信するよ)

<あ、それなんですけど。

 わたしの力だとその宿舎がギリギリの射程圏内なんです。

 ――なので、屋敷本館まで進むと通話出来なくなるんですよ>

(それも、本当みたいだな……。

 じゃあ、今までみたいに危険を報せて貰ったり出来なくなるのか?)

<いえ、危機感知(マリスサーチ)は生きていますので、自動警告(オートアラート)の報告対象をエインさん自身に設定しなおせば大丈夫です。あんまり気持ちの良い感覚じゃありませんけど……>

 その言葉で俺はリウェンの配慮を読み取ることが出来た。

 危険報告の術式は精神干渉を及ぼし、かなり精神的に悪いモノらしい、リウェンはそれを自分対象とすることで中継ポイントとなり、俺の精神を蝕むことなく危機を報せてくれていたのだろう。

(リウェンはそれを肩代わりしてくれてたんだろ?)

<まぁ、わたしの精神回路は頑丈ですから。多少の精神干渉を受けても私自身はなんともありません>

 なんとも姉に似て強情というか強がりというか……。

<とりあえず、設定を書き換えておきますが……どうしても辛いときの為に解除コードも送っておきます>

(何から何まで悪いな)

<……>

 俺の言葉が皮肉になってしまったのか、それ以上、彼女は何も語らなくなった。

 何も答える気も無いし、何も訊ねるつもりも無いのだろう。

 俺はその部屋を出て、再び外から施錠をし直した。

 つくづく、これが推理小説だったら反則だよな、と思わざる得なかった。




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