9-1 姉さんは脳まで筋肉なので大丈夫です
みんなーっ!赤ルアがはじまるよぉー!
赤ルアを読むときは部屋は明るくして、
ディスプレイからよぉ~く離れて見てね♪
大きなお友達もわかったカナ?
……あ、あれ?
……。
あ、暗号化し忘れてましたっ!
…………。
Verzeihung.
Ich zeigte sehr unansehnlich eine Stelle
※*※*※*※*※*※*※*※*※*※
おかしい、何かがおかしい、理不尽だ。
俺こと、エイン=エクレールはとにかく不満だった。
度重なる回復魔法の使用で魔法力を使いきり、その反動で不足した魔力を補うように生命力を侵食され、
全身に一時的な呼吸困難だか、酸素欠乏症だか、よくわからない症状で苛まされ、
挙句に、同じく魔法力切れを起こしたリルドナの代わりに、彼女の荷物を運ばされているのだ。
確かに、俺がこの中では比較的軽装で荷物も少ない、それは認める。
「でも、俺の容体を考慮してもいいだろぉ!?」
「問題ない、軽度の症状だ。すぐ元に戻る」
まだ戻ってねぇ!と言いたいが、余計に消耗するだけなのでやめた。
この淡々と、「問題ない」と言ってのける男は、全身黒で統一された礼服だか、燕尾服だか、よくわからない格好の上、やや細身で俺よりも背が高く、執事か牧師のように見えなくもない……こんな主人にも神様にも敬う気配が無い男だが……。
髪も瞳も黒く、本当に真っ黒なのだ。それだけでも無機質だが、この男は表情が硬い、まるで錆びついた水車のようにビクともしない。悪さするときに『作り笑顔』を見せることもあるが、基本的に無表情だ。
「それにこいつが、俺達以外に荷を預けるのを嫌がるだろう」
彼が言う『こいつ』とは、彼の肩で意識を失っている人物…俺よりも頭一個分丸まる背が低く、髪も服も黒一色で、法衣だか、修道服だか、二重回しだか、よくわからない服装をしている女――リルドナだった。
この兄妹が並ぶと、黒い長い影と、黒い短い影となり、あたかも時計の長針と短針のようでもある。
「――ったく、何入れてるんだか……」
本当に、『よくわからない』コトだらけで困り果てているのだ。
「それにしても、リルドナは大丈夫なのか?」
「問題ない、魔法力切れで一時的に機能が低下しているだけだ」
そう彼女は先程の騒動で全魔法力を込めた砲撃……魔砲と言うべきかも知れない一撃を放った為、スッカラカンな状態なワケだ。だがそれよりも――
「――その頭のほうが心配だ……」
俺が示す視線の先には彼女の頭があり、冗談としか思えないような巨大なタンコブが生えていた。岩壁にクレータを作るほどの激突だ、相当な力が掛かっていたに違いない……。
「そうだな……元々かなり悪いしな、計算もよく間違える――」
「そっちの心配じゃねぇぇぇぇ!!」
今更だが、彼女はあまり頭が良くない。いや、むしろ悪い?というか単細胞か、良く言ってもINT3だろう。
そのくせ、彼女はイロイロなんでも器用にこなす。この辺もやはり『よくわからない』部分だと言える。
「心配するな、これ以上は悪くならんさ」
「どことなく、ひでぇ……」
そもそも頭に出来た巨大なタンコブも、この男の所為だ。いくらこれ以上悪くならないと言っても、ハゲたらどうするんだ。一応これでも、こいつは女なんだ。
切り立った崖と、無骨な岩壁に左右を狭められた断崖地帯。
すっかり長くなった影を引きずるように、緩やかな坂を登る。
意識の無いリルドナをルーヴィックが背負い、同じく意識が無く重体のアビスをゼルとガディが担架のようなモノで運んでいる。
それは野営の道具を流用したのか、適当なパイプ状の棒に肌触りが決して良くないような布地を張った簡素なモノだったが、深い傷を負ったアビスを運ぶには充分に適した機材だった。
飛竜を迎撃した場所から、体感で八〇メートルほど歩いた所で、急な下り坂に変わり、みるみる内に森の中へと俺達の姿を飲み込んで行った。
木々が邪魔をして視界が悪くなり、目的の屋敷が目視し難くなってきた。辛うじて見えるその姿を見失わないように気を配りながら、俺達はひたすら歩き続ける。
――それにしても、だ。
「こいつがあんな凄い魔力を持ってたとはなぁ」
俺は先程の光景を思い返す、
スルーフの作った魔力を撃ち出す魔法弾の銃、それを使って超凶悪な威力で、空一面ピンク色に染め上げる光の帯を迸らせた。
魔力を持っている事に関しては、別段驚かなかった。彼女の妹であるリウェンは魔法校の主席卒業という程の優秀な魔術師らしい……姉妹なら大小の差はあれども同じ才能は持ち合わせていてもおかしく無いからだ。
予想外だったのは、その絶対量。俺は本物の大魔道士とか実際に会ったことは無い、正直なところ、どのくらい凄いか判断も付かない……ただ言えることは
――宝の持ち腐れ。
その才能を開花させるかは、その後の成長過程で決まる筈なので、おそらく勉強嫌い(に違いない)リルドナは魔法についてさほど学ばなかったのだろう。
……あの女に、やたら長い呪文やら、複雑な魔法陣を扱えるとは到底思えない。『色付け』も出来るとは思えなかったのだが、
「一体、何の属性を付与して撃ったんだろう?」
精霊の力の宿る『色付け』つまり属性付けには元素を象徴する対応した『色』がある程度決まっている。
火なら赤、水なら青、といった具合に割りと「お約束」な組み合わせがあるのだが……。
「…何だよ、アレ。
ピンクにしか見えなかったんだが……」
「…ふむ?」
そう、彼女は発した光は、『白っぽい赤色』というか、どう見てもピンクだった。
ちょっと俺の知識では判断の付かないパターンだ。
俺の独白に近い言葉に反応を示してくれたのはやはりルーヴィックだった。
「リルは何も付与していなかったな。
……そもそも、あいつにそんな高等な技術は無い、」
「つまり……無色…?」
無色というには、しっかり『色』が着いていたと思う。
「別に無色だからといっても、透明や白とは限らない
――というか、見事に白色のお前のほうが珍しいと思うが?」
「……そういうモンか?」
思い返せば、この目の前の男は銀色の光だった、文字通り十人十色なのだろうか。
俺の思考の手助けでもするかのように、ルーヴィックは言葉を重ねる、
「リウェが言うには、本人が得意とする属性や能力に依存することが多いようだ」
「得意な能力かぁ……」
それは先程スルーフが口にした『血系特性』とかいうモノに関係するのだろうか、ソレがどんなモノか、わかっているのは『目が良すぎる』に関係している、ということぐらいだ。
あと、地下壕で耳にした『赤』というモノも気に掛かった。
「――なぁ、『赤』とか『血系特性』ってなんだ?」
「……。聞いてどうする?」
訊いた瞬間、空気が張り詰めたのがわかった。彼の言葉の抑揚に尖ったモノが含まれ始めている。
「――。どうもしない、ただの興味本位だ」
理由としては最低かもしれない。だが、他意は無いということを示すには、下手に小細工を飾り付けない方がいいのだ。
「――、血系特性とは持って生まれた異能の力のことだ、遺伝的に備わることが多い為、『血系』と称される。そして、『赤』とはその能力の中の一つだ」
「魔法とは違うのか?」
「違う、フェアリーが飛び回るのも、ドラゴンがブレスを吐くのも、魔法では無いだろう?」
「……リウェンにもソレがあるのか?」
「ある。また違った能力だがある。……二人はそういう血統の生まれなんだ」
「二人はか、なるほどな」
カチリと思考の片隅で要因合わさった気がした。
だが、それよりも――
「何にしても、反則級だよな、
あれだけの身のこなしが出来て、異能の力があって、さらにはあの魔力だ」
「ふむ?」
「大体、あれだけの魔力があるんだ。複雑な構成じゃない、単純に魔力を撃ち出す魔法だけでも習得すればいいんじゃないのか?」
「それは無理だろう、」
俺はふむ?と先を促す、
「『リルだから』で片が付く――」
……つまり、それが意味することは――
「「単細胞だから」」
見事なタイミングでルーヴィックとハモってしまった。
本人が聞いてたら噛み付かれるかもしれない……。
「……だぁれが、バカですってぇ……?」
その瞬間、再び地獄のカルドロンが、その口を大きく開けた気がした。




