8-7 弾幕はパワーだぜ!……です
夕焼けに染まる空。
それを多い尽くすように翼を持つ者達は羽ばたく。
竜族亜種、飛竜は、数という最大の暴力で空を支配していた。
「――で、今度はねーちゃんが、か」
「いやいや、リルちゃんは弓使ってるし、いけると思うよ」
例の銃を手にして、不適な笑みをともに現れたリルドナを見るなり上がった言葉がそれだった。
俺とスルーフはその姿を見守るようにやや離れた場所で待機している。
「というわけで、援護射撃するから護衛よろしくね」
そう言い放つと、上空の飛竜に対し照準をつける。
「そこよ、迂闊なヤツ!」
妙にノリノリの口調で飛竜目掛けて魔法弾を放つ――
……果たして、ソレは魔法弾といっていいのだろうか。銃口から放たれたソレは、白っぽい赤――というかピンク色に近い一条の光の帯。
その射線軸上の飛竜は、容赦無く貫かれ、身体に大きな風穴を空けて、次々にボトボトと墜落していく。
「……う、嘘ぉ?」
撃った本人も予想外だったらしく、目を白黒とさせている(赤いけど)
「――お、おいっ!?力の入れすぎだ!無茶な……」
「や……て、手加減したわよ?」
「試作品だと言っている、下手すると壊れるぞ?」
その言葉にリルドナは咄嗟に銃口の宝石を見つめ、
「あ、ホントだ。ヒビ入ってるわ……」
「――な、なんて無茶な……」
どうやら、リルドナの魔力は相当強いらしく、魔法の銃が耐えられないようだった。そう何回も撃てそうに無いかもしれない。
「おイおイ、登場いきなリで、あと数発で退場かヨ?」
「まぁいい、壊れるまで撃てばいいだけだ」
作った本人の了承も無しに壊れてしまうこと前提で話が進んでいる。いくら錬金術は研究が本懐で、過程である『作品』がオマケだとしても、それはあんまりじゃないかとか思ったが、
「壊れてしまうのは仕方ないが……彼女の身体が心配だ」
「うーん、全然。これくらいなら、ヘッチャラだけど?」
リルドナの魔法弾は当たれば即死級の威力だ、しかし、あと何発撃てるかわからない。
日没までの時間も心配だ、天候も怪しい。
どうする?
一気にケリをつけたいところだが――
「どうせ壊れるなら全力で一気に仕留めてあげるわ」
なんという『力こそ正義』の絶対攻撃主義……それもアリかもしれないが、
「よせリル、それだと発射時のバックファイアーで全員焼けてしまう」
あまりの高出力の所為で周囲にも被害がでるようだ。
そうなると――
「ガディさん、アーカスさん、
派手に暴れて見せて、飛竜を一旦空中に追い払うことは出来ますか?」
「出来なクは無いと思うゼ」
「一時的なら可能だ」
――環境土台は作れる。
「ルーク、リルドナをどうにかして空中に飛ばせることは?」
「可能だ、打ち上げればいいだけだ、手段は問わない、の話なら」
――発射環境も作れる。
「リルドナはその状態で射撃出来そうか?」
「変な体勢で吹き飛ばされてる、じゃ無ければいけるわ」
――条件は揃った。我ながら無茶苦茶な作戦だと思うがこれで行くしかない。
「それならボク達も牽制に参加した方が良さそうだね」
「ま、やってみるぜぃ」
さすがに意味を汲み取ったのだろう、深く問い質すことも無く、動き出す。
「よぉーっし、おっぱじめるぜ!」
ゼルの槍が乱暴に横薙ぎに振り回され、それに飛竜が怯んで急停止する。
そこへロングソードを抜き去ったブルーノが斬り掛かり、一撃を加えるが、それ以上の追撃をしない。
傷を負った飛竜はたまらず空中へ逃げた。
ガディもまた、乱暴に大剣を振り回す。別に仕留めても逃げられても構わないので、その剣の軌跡は滅茶苦茶だ。
当たれば致命傷。飛竜は「これは適わん」と言わんばかり散り散りに逃げいていく。
それでも間に割って突撃した飛竜をアーカスが激しい斬撃で出迎え、やはり追い返す。
少しづつだが、地上へと強襲する飛竜が減ってきた。
「――捉えた。リル飛ばしてやるから、俺を踏み台にしろ」
「ふえ?踏んでいいの?」
彼はそれに答えず、時計を一瞥し、
「しっかり飛べよ?六秒後に来い」
俺は簡単に飛ばせ、と言ったが実際どうやるかなんて考えていなかった。
果たして彼はどうするのだろう、きっとまともな手段じゃないとは思うが……。
そうこうしてる間に、リルドナは助走をつけ大きく跳躍し、ルーヴィックを踏みつけるように落下していく――
その瞬間、彼は身体を大きく捻り、真上を蹴り上げるような動作でリルドナの踏み足目掛けて足を繰り出す。
彼女もそれに反応し、ルーヴィックの蹴りに合わせるようにさらに大きく跳躍する。
「――ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
が、やはり相当な勢いで上空へと打ち上げられたのか、情けない声を上げながら昇っていく。
急激な加速度と空気抵抗に曝されながら、彼女は呟いた。
「こ、こういう飛んでるの仕留めるときに、使う諺ってあったわよね……」
銃を構えながら、ああ、そうだったわね。と頷きながら、それを口にした、
「曰く…『墜ちろ蚊トンボ!』キリッ、よ!」
その言葉と共に夕焼けの空が、一面白っぽい赤色の光――つまり朱色からピンクに――に包まれ、その光に飛竜達が残らず溶けていくようだった。
かつて大戦時の魔道師同士が衝突した時、激しい光と共に要塞が消滅したという話がある。今ある光景はまさにそれに通ずるモノだろう。
「す、すげぇぇ……」
「笑うしかねぇよなぁ……」
そのあまりの光景に皆言葉を失う。
次第に光が消えて、元の夕焼けに染まった朱色の空へと戻っていく。
その中で黒い小さな影が舞い降りてくる――というには、あまりにも重力加速度を身に纏っているが……。
「――はいはい、どいてどいて~」
「うぉう!?」
ズン!という凄まじい音と振動と共に、目の前に屈み込んだ彼女が現れた。
相当な高さがから落下したのだが、どうやら彼女は全身を使って落下のエネルギーを緩衝したようだった。やっぱり野生のノラネコだな……。
「ごめんね、メガネ。やっぱり壊れちゃったわ」
彼女の左手には例の銃のグリップ部分しか残っていなかった。
「いや、いい。
寧ろ、そこまでの威力が出たという結果の方が重要だがね?」
「……。研究者の鑑ですね」
「とりあえず、コレだけでも返――」
スルーフに壊れた銃の残骸を返そうとした、その時だった。
ずる、べたーん。
それは起きた。
「あ、あれ……?」
「お、おい?」
彼女は、まるで自分の作った母艦の通路で華麗にすっ転ぶ、ドジっ娘大佐のように転んだ。
あまりにも見事なコケっぷりのその姿には見覚えがあった……。
「そんなトコまで姉妹で似なくていいと思うぞ?」
「お、おかしいわね……力が…入らない……わ」
その言葉の通り、力が入らないのだろう、立ち上がることも出来ずに、前のめりに転んだままの突っ伏している。
ハッキリ言って、その姿はうつ伏せに突っ伏して、お尻を突き出すような体勢の為、あまり年頃の娘が維持して良い格好とは思えない……。
「ふむ、燃料切れだ」
その声と共に、ひょい、とリルドナを担ぎ上げるルーヴィック。彼が言うのはつまり魔法力切れということだ。……あくまで、『担ぐ』で『抱きかかえる』ではなく……。
「しばらく大人しくしていろ、俺が運んでやる」
まるで丸めた絨毯でも運ぶかのような扱いに見えた。きっと俺もああいう風に担がれたんだ。
「――ね、ねぇ、お兄ちゃん?」
「なんだ?」
「一ついいかしら?」
「ふむ?」
「やっぱりね、あたしも女の子だしぃ。こういう荷物みたいな抱え方はどうかな~?って、個人的にはお姫様抱っことかが良いんだけど、まぁ憧れるというか。ベ、別に兄妹の超えてはいけない禁断の愛へのフラグを立たせる切り口にしようとか、そういうのじゃないんだけど、そもそも常に無表情なお兄ちゃん相手だと、どういうイベントに発展するかとか考えるだけでも楽し――」
ゴンッ!という効果音と共にルーヴィックは勢い良く振り向いて、口を開いた。
「おぉ、そうだエイン、
悪いがこいつの荷物を運んでやってくれないか?」
「お、おう。いいけど……今、モノ凄い音で頭ぶつけなかったか?」
ルーヴィックの背後の岩壁には、大きな人の頭大のクレータが出来ていた。どうみても今作られてホヤホヤのモノに違いない。
「む、いかんな、気付かなかった。リル大丈夫か?」
…絶対。確実に過失じゃなく、故意だろぉ!?
だってそうだろう?
ヤツが振り向く直前にやや苛立った声で「――長い、」と、ポツリと呟いたのが聞こえたんだ……。
『丁重に』沈黙化された彼女はピクリともしなくなった……。
夕焼けに夕立が迫り来る中、見事に強襲する飛竜を殲滅することに成功した。
目的の建物まで残すところ僅かになり気持ち足取りが軽くなった俺達は先へと進む。
――どうでもいいけど、俺も魔法力切れで辛いんだ、荷物持ちさせんな……。




