8-6 魔法力切れにご用心です
「無能、どうだったの?」
「なんとか傷は塞げそうだ」
リルドナとのやりとりに周囲に安堵の色が染み渡る。
そこで気付いた、ロイが銃撃を止め、ルーヴィックの姿が見当たらないことに……。
俺がそのことを訊ねると、リルドナは上を指差した。
果たして、その指差す先には驚くべき光景が広がっていた。
「なんだよ、あれ……」
「いやー、ボクも驚いて何て言っていいか、わかんないよ」
そう……上には確かにルーヴィックが居た、別に高台によじ登ったわけでも、飛行魔法を使っているわけでもなく、上空に留まっていた。
飛竜を踏み台にし、次々と飛び移って滞空しながら戦っているのだ。
別に飛竜達が足場になるためにその場に留まっているわけではない、ルーヴィックに襲い掛かるべく次々と飛び掛っているのだが、それをルーヴィックが先読みし足場として活用して、次へと飛び移る際にキッチリと首を刎ねその数を減らしていっている。
一見すると、ルーヴィックが足を出したところに飛竜が飛んで来ているようにさえ、錯覚してしまう。
「このまま全部仕留めちまうんじゃねーか?」
「いくらなんでも、それは無いでしょう……」
そう、いくらなんでもそれは無い。そもそも彼は足場である飛竜を減らしながら飛び移っているのだ。数が減れば飛び移る選択肢は狭まり、いつかは滞空できなくなる。そうでなくても、飛び移る前に次の足場が遠ざかってしまえばそれで終わりだ。そう、例えば飛竜が『警戒』という思考を持ち、一旦距離をとろうとしたら?
「あ……」
「アンタ、今何か条件立てたでしょ?」
お、俺の所為なのだろうか、飛竜達がルーヴィックへ襲い掛かるのを止め、次々と離れ始めた。
しかし、それでも彼は果敢に切り込み続けた、まるで一匹でも多く道連れにするかのように……。
「お、おい無茶するな!」
離れようと飛行姿勢を変える飛竜を足で捉え、さらに一太刀振るう、がそれが足の届く最後の一匹だった。
彼はその一匹を道連れにし、落下を始める、空中であれだけ飛び回ったのだ、最初に上空へ達した時よりも座標が大きくズレている。
つまり落ちる先はここではなく、ここより離れた崖下だ。
「おい!そのまま落ちるとマズイ!」
「問題ない――」
彼お得意のフレーズが聞こえたかと思うと、シュルシュルと身体に何かが巻きつく感触、そのまま彼は俺の目の前で崖下へと消えて――
「ぐぉ!?」
直後、ガクンと急激に崖下へと引っ張られる牽引力、それはルーヴィックの投げたワイヤーロープ。俺はそのまま崖へと転落しそうに――!
「おっとォ」
「大丈夫か!?」
それをすかさず、アーカスとガディが支えてくれた。危なくヤツと二人揃って転落死するトコだ……。
しかし、俺の不幸はそれで終わらない。
「ぐぐ、ぐぐぐるじ……」
身体に巻きついたワイヤーロープは容赦無く俺を締め上げ、直後ガクンと一際大きな衝撃が伝わる。
運動エネルギーというのは、銃弾でもなんでも、その運動を停止したときに全エネルギーを開放する。
今まさに、落下という運動エネルギーは全解放された、俺という支点へ……。
「…こ、殺す気か……」
「おイおイ、大丈夫かヨ?」
アーカスが半分呆れ声で心配をしているようだった。
「問題ない、すぐにそちらに戻る」
だから問題は俺の方にこそあるんだ!
そして身体に再び激しい衝撃、
多分、ヤツが遠慮なしに岩壁でも蹴って反動を着けているに違いない。やめてくれ、ワイヤーロープを支えているのは、俺という大変モロイ素材を採用しているんだ。安全率も限りなくゼロに近いし、建築法も機材の安全基準も何一つ満たしていないんだぞぉ!?
「ぐおおおおおおおおぉぉ!」
俺の絶叫をBGMにし、ヤツは華麗に元居た断崖の道へと舞い戻った。コイツいつか殺す。
「すまん、心配かけた」
「謝るところはソコじゃねぇ……」
華麗に俺の苦情をスルーし、ヤツは呟いた。
「しかし、いけそうだな」
「何がだよ……?」
「この手を使えば、さらに数を減らせるな」
「先に俺の命が減るわ!」
「……ふむ、残念だ」
俺は残念がるヤツに噛み付きそうになりながら、もう二度とゴメンだと思った。……とはいえ、こんな芸当が出来る身軽な奴なんてそうそう居ないだろう――
いや、待て。
「お前も真似すんじゃねぇぞ!」
「し、しないわよ!」
じゃあ、そのクリクリと目を泳がせる素振りと後ろ手に隠したワイヤーロープは何なんだ!
ちなみに俺達がこんなやりとりをしている間にもロイは懸命に飛竜に銃撃を見舞っている。ちょっと申し訳ない気持ちになってきた……。
「クソ、これじゃあキリが無いよ」
撃ち終えた銃の銃身清掃しながらロイがぼやいた。
もう遠隔攻撃の手段を持っているのは彼一人だ、明らかに殲滅のペースも落ちている。
「オルァー!させねぇよ!」
再装填中に襲い掛かる飛竜をゼルが仕留める、その頻度もかなり増えてきている。当然だ、最初の内はこちらに到達する前にルーヴィックが投擲で仕留めていたのだから……。
状況は思わしくない。
銃弾にもそれを発射する火薬にも限りがある。それに加え雨が降ってしまえば、銃は撃てなくなってしまう。
「マズイな…こりゃジリ貧になっちまいそうだ」
「こんなことなら弓持ってくれば良かったわ」
リルドナが上空の飛竜をムムムと睨みつけてぼやく、
「全く誰よ、その日の気分で太刀が良いとか言い出したのはっ」
いや、それはお前自身だろう……という言葉に作者取材という名目のお休みを与えて遠ざける。今はそんなこと言っている場合では無いのだ。
とにかく、この状況をなんとか打破しなければ、雨が降ってしまえば攻撃手段が無くなってしまう。弾切れも論外、夜になるという時間切れも絶対にダメだ。
雨と夜という時間切れ付きの状況……非常にマズイな。
そこへ、アビスの手当ては終わったのかスルーフが姿を見せた。
「無事に止血出来た。
一応、あの飛竜は毒の類も持っていない様だね。
あと用心が必要なのは雑菌による破傷風くらいだがね」
「そうですか、お疲れ様です」
「君の回復魔法の初期治療のお陰だと思うがね?」
こんな状況だが、正直認めてもらえて嬉しかった、武器や魔法の扱いに関して言えば至って平凡すぎる俺だ、大抵の冒険者は何かしらの得意分野に特化した能力を身に着けている。
何をやらせても並み程度、むしろは並み以下の俺はよく鼻で笑われたものだった。今のような言葉を掛けて貰えるのは始めてかもしれない……。
だが、それに対して素直に喜んだり舞い上がったりする程、俺には可愛い気は無かった。
なので口から出たのは素っ気無い返事だった。
「たまたま上手くいっただけです、それよりも今は――」
「……ふむ」
彼は状況を理解し、少し思案したかと思うと、何やら荷物から奇妙なものを取り出した。
一見すると小銃、しかし銃口が空いていなく、代わりに宝石のようなものが先端に付いている。引金は付いているが、撃鉄が無く、S字金具が連動しているわけでも無かった。
そんな俺の好奇の視線に応えるように、
「まだ、試作品なんだがね」
「銃……じゃないですよね?」
「ちょっとした法具みたいなモノだ」
そう言うと、彼は上空の飛竜に向けてソレを『撃った』。
銃口――のようなモノから淡い緑色の光弾が発射され上空の飛竜へと飛来する。
「ほう」
「なんだありゃ?」
その光の弾丸を受けた飛竜は突然小刻みに震えたかと思うと、まるで切り裂かれたように傷だらけの姿を晒していた。
「持つ者の魔力を吸い、魔法弾として撃ち出すだけのモノだ」
「魔法弾…?
火薬の代わりに魔力を使用するモノなんですか?」
その問いにはルーヴィックが代わる形で答えた、
「擬似的に元素魔法・魔法弾丸を構築しているわけか」
「その通りだ、『色付け』さえキッチリすれば、そこそこの威力が出る――」
色付け……属性付けのことだ。つまり各種属性弾を撃ち分けられる銃というわけだ。
スルーフは説明を続けながらも、魔法弾をさらに射出する。
「だが、魔力の圧縮率も低く、色付け無しでは殆ど殺傷能力も無い、」
ザシュ!と切り裂く音と共に被弾した飛竜はズタズタに切り裂かれていく。光弾の色は緑――おそらく風の力が宿っているモノだろう、光弾が接触すると同時に真空の刃が対象を切り裂く仕組みとなっているようだ。
「現段階ではまだまだ使い勝手の悪い玩具だがね」
「否定だ、なかなか面白いモノだと思う、」
「なんにせよ、援護射撃が居てくれるのはありがたいよ」
玩具と自虐的になるスルーフに対し、ルーヴィックとロイがすかさずフォローを入れる、がスルーフの気持ちもなんとなくわかった。この手のマジックアイテムは魔法を扱えない者に擬似的な効果手段を与えるのが、メインの概念だ。
元々、魔力が弱い者が使うのだから、威力は極小でしかない、それを補う為に『色付け』がという魔法技術が必要になってくるのだから、本末転倒もいいところなのだろう。『色付け』せずとも威力を出せるほどの魔力の持ち主なら普通に魔法を使っているだろうし……。
だからといって、それを嘲笑ったり出来るわけがなかった。
まだまだ改良の必要が残るモノと承知の上で、少しでも助勢になろうと持ち出してくれているのだ、その気持ちを察せられない程、空気の読めない者は居ない。
「うん、面白そうなオモチャよねー、
魔法校の学生が自由研究で提出したら良さそうだわぁ」
――筈なんだけど……。
彼は特に気にした様子も無く、必死にロイの銃撃を援護するように魔法弾を放ち続ける。
実銃よりも威力は大きく落ちるが、その分速射性は高い。上手くロイの再装填の間を埋めてくれている。
玩具なんてとんでもない!要は運用法次第なのだ。
「ふむ……私も少しはお役に立てているようだね…」
そう呟く彼の表情には疲労の気配が色濃く表れていた。
無理も無い、圧縮率も低い中で断続的に魔力を消耗しているのだ、彼は錬金術師であって、魔術師ではない。生命力から魔力を生成する能力があまり高く無いのだろう(俺よりは遥かに高そうだが)明らかに消耗していっている。
そこへまた飛竜が襲撃してきた。それにガディが対応する、先程までの大剣を盾にするモノではなく、両手保持のまま前方へと鋭く突き出す凶悪な平突きだった。
グシャリと首から翼にかけて歪に引き裂かれ、飛竜は無残に転がる。
さらにそこから横薙ぎに振り回し、遠心力を伴った暴風の如く荒々しい薙ぎ払いを繰り出し、接近していた飛竜を容赦なく肉塊へと変える。
「…ちょっ、アンタ!」
間一髪、それに巻き込まれそうになったリルドナが苦情を漏らす。しかし、立て続けに襲い掛かってくる飛竜の迎撃に追われ、それは有耶無耶にされてしまう。
ガラン!とガディの大剣の切先が地面に投げ出される、やはり超重量武器らしく、連続で振り回すことは出来ないようで、彼はため息が混じりに「やれやれ」と呟くと、再び大剣を握りなおそうと力を入れる――
しかし、そこへ新たな飛竜が彼へと強襲する。
ガディはすぐさま、迎撃が間に合わないと判断し、大剣を手繰り寄せ――というか自分自身が大剣へと駆け寄って、刀身を盾にして受け止める。
「むぅ、」
「おいおイ、旦那無茶しすぎだゼ?」
動きを押し止められた飛竜にアーカスが斬りかかる。もう何度も見た一連の行動だが、その太刀筋は流れるようなモノでは無くなっていた。
乱暴に繰り出される斬撃は、勢い余って何発かガディの腕や足を掠めていく。
見かねたリルドナが血相を変えて叫ぶ、
「ちょっと!アンタも何やってんのよ!」
「まぁいい、気にするな」
しかし、当事者であるガディは気にも留めない。
――力の入れすぎ、暴走、空回り。
ガディもアーカスも焦っているのだ、先程アビスを護り切れなかったことに負い目を感じ、もう失敗すまいという気持ちだけが空回りしてリズムが崩れている。
このままでは近いうちに綱渡りをする道化師はまた転落してしまう――
「あー!もうっ!」
その空気に耐えかねたのか、彼女は苛立った声を上げる、
焦りの空気はいつの間にか、彼女まで伝播してしまったようだ。
「落ち着け、リル。冷静に周囲へ注意を払え」
ルーヴィックが注意を促すが、最早、彼女の耳には届いていないようだった。
――非常にマズイ気がした。
護衛対象に迫る飛竜を食い止めるのが主目的だったはずのガディが、自発的に攻撃をしてしまっている。
リルドナもまた、『飛竜の死骸の片付け』という仕事から外れ、完全に迎撃に参加していた。俊敏に動き回り、周囲を巻き込むことの無い柔軟な攻撃で確実に仕留める。何よりもその『目』でいち早く察知し、敵を捕捉出来るのが大きかった。
だが、目が良すぎた。
それに頼り切る為、目が届かない死角に対してはノーマークになっていたのだろう。
リルドナの背後から接近する飛竜が俺の目に飛び込んできた。
「おい、バカ、後ろだ!」
咄嗟に俺は叫んでいた、そして彼女なら咄嗟に対応出来ると思っていた。
「――え?」
俺の言葉に反応し、首が動き、身体も振り返るように動き出す――筈だった。
彼女はほんの少しだけ首を動かしたところでビクンと固まってしまった。その顔は鬼気迫る表情に染まり、あたかも聖職者が十字架を踏めと命じられた如く、本能的な拒絶を発していた。『振り返る』という行動が罪深いモノであるかのように……。
だが、このままでは、むざむざと背後からの攻撃を許してしまう。
「……う――」
「おい!聞こえてるのか!」
「――るさいわねっ!!」
彼女は置かれた状況を全て振り払うように大声を上げる。と同時に大きく跳躍し飛竜の突撃を飛び越えるように避ける。
そして、自分の下を飛竜が通過するタイミングで太刀で一閃し、飛竜の左翼が切り落とした。
片翼をもがれた飛竜はそのまま飛行姿勢を保てなくなり、慣性のまま地面を削りながら爆走していく。
攻撃を回避しつつ敵の戦闘力を奪うという悪くない返し手だろう――それが単独行動ならば。
制御を失った飛竜が突き進む先には――スルーフが居た。
「――マズイ、スルーフさん避けて!!」
俺は咄嗟に声を張り上げて訴えた。そんなの既に手遅れだと知りながらも……。
直後、ブワッ!と激しい風が巻き起こり、周囲の砂埃や小石を吹き散らした。
――激突の瞬間。
彼は例の魔法弾を自分の足元に撃ち、目の前に風を発生させて『突っ込んでくる物体』の進路を逸らしたのだ。
直撃を免れた彼は致命傷は負っていなかった。
――が、近距離で風の刃を巻き起こしてしまった為、少なからず切り傷を負っていた。
「――自分の攻撃で傷を負うとは、世話が無いんだがね……」
彼は力なく自虐と皮肉めいた笑いを浮かべていた。
それを目にしたリルドナは愕然と言葉を失い、立ち尽くしていた。厳密に言えば、別に彼女の所為じゃない。変則的な迎撃をして、その進路上にたまたまスルーフが居た。
ただそれだけなのだが。
結果に後悔し、『もし』を考えてしまうのが人間だ。
もし、彼女がその場で振り向き、キッチリ迎撃していれば?
もし、迎撃の太刀が、不安定な跳躍中でなく、キッチリ踏み留まって放っていたら?
もし、仕留めた飛竜を後方へと流さなければ?
もし、飛竜の巨体がスルーフへ至ってなければ?
もし、スルーフが緊急回避手段を取らずに済んでいれば?
彼女の性格からしてここまで細かく考えはしないと思うが、もたらした結果のきっかけが自分の行動にあると感じ取ってしまっているのだろう。
普段から傍若無人に振舞っている分、精神的に打たれ弱いのかもしれない。目の前の『結果』に対し、相当なショックを受けているようだった。
そこへ容赦なく、また別の飛竜が襲い掛かる。
しかし、彼女は立ち尽くしたまま動かない。動けない。
「おい、バカ!動けよ!」
俺は必死に声を張り上げながらリルドナの下へ走りこむ。距離にして一五メートル、遠すぎる。
彼女の頭に食らいつこうと、飛竜が獰猛な顎を大きく広げ肉薄する。
――間に合わない、走り込んだがあと一〇メートル。
ガンッ!と激しく金属板を横倒しにしたような音が鳴り響くと同時に、不自然な方向にギュルンと旋回し激しく地面を削りながら墜落した。
「ひ、ヒゲ……様?」
「それは私のことかね?」
呆れた様に聞き返す。その男は、全身を威厳あるフルプレート鎧を身に纏い、腰に帯びた由緒正しそうなロングソードを腰に帯びた姿で、格式のありそうなカイトシールドを大きく横に振りかぶった初老の男――執事のブルーノだった。
彼は手にした大きな盾で殴打することで、飛竜を羽虫でも追い払うかのように、アッサリと叩き落とした。
「いい加減にせんか!浮ついているぞ、しっかり両の足で立てぃ!!」
「す、すまねぇ!」
「はいっ!面目ありませんっ!!」
その怒声に背を正し、畏まるゼルとロイ。他の人間も同じような感覚を受けているに違いなかった。
「護衛はロイを中心に五メートルで均等配置だ!」
ブルーノの指示に「おう!」やら「心得た」やら各々の了解の声を出し、動き始める。先程までの焦りによる、ぎこちない空気が霧散し統制の取れた動きへと研ぎ澄まされていった。
「ムノー君、申し訳ないがスルーフ殿の治療をお願いしたい」
「わかりました」と答えながら、もう『無能』は公式なのかと、ため息をついた。
俺はスルーフの治療のために一旦岩陰まで下がる、ついでにリルドナも引っ張って行った。精神的に不安定すぎる彼女をそのまま前線に立たせることもできないからだ。
スルーフの傷はそれほど酷いものでもなかった、岩陰に行くのにも自分の足で移動もしていた。しかし、その出血を放置はできない。
俺は今日何度目になるかわからないヒールを使おうと、スルーフを小さな岩に腰掛けさせ、自分自身も屈みこみ意識を集中した。
「待て、よすんだ…魔法力が尽きたらどうする!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
構わず俺は魔方陣を虚空に描き始める。
――ダメです、それ以上使ってはいけませんっ!――
「……くっ」
また危険を報せる声が届いた、だがそんなことは構っていられない。
ポゥ、と淡い光が灯り、スルーフの傷を癒していく、どうも今日は失敗無しだ。
「……よし、これで多分表面上の傷は塞がっているので、無理に動かなければ大丈夫と思います。本当はもう一回掛けておくべきでしょうけど、ご忠告をありがたく受け取って、これ以上の使用を控えておきま――」
そう言いながら立ち上がろうとしたが、ガクンと力が抜ける。
「あ、あれ……」
「お、おい!?だから言ったんだ」
息が苦しい。まるで長距離を配分無視で全力疾走してしまったように、息が上がり、身体に力が入らない。続いて、連日資料調査で徹夜したように、身体中に妙な痛みが走った。
「それが魔法力切れだ。
一時的だが極度の呼吸困難に酷似した症状に苛まされる……」
「ア、アンタ……」
視界がグラグラと安定しない、それでもこの二人が心配そうな顔で俺を見ているのはわかる。
気を抜くと、このまま倒れそうだったが、意識はしっかりしている。
こんなところで大人しく気絶てられるか。
身体は充分に動かないが、頭はまだ生きているのが幸いだ。
「とにかく、君はここで大人しくしているんだ。私は再び援護に回る」
スルーフは例の銃を手にし、行こうとするが、
「ストップよ、メガネも魔法力切れそうじゃないの?」
「――な、何を言うんだ!?」
リルドナの見立ては正解だろう、元々魔力の少ない彼が、極力出力を小さくし、小出しにするように魔法弾を放っていたのだ。ただでさえ連発したのに、先程の激突回避の為に、高出力の突風を巻き起こしたのだ。もうそれ程魔法力は残っていないのだろう。
「あたしには……『視える』のよ」
そう言うリルドナの目はスルーフの顔を見据えている。
やはり見間違いじゃなく、その瞳は明らかに光が灯っている。
「そ、その瞳の光は……まさか血系特性の――」
「――今はやめて頂戴、あたしには見抜ける。それだけよ」
やはり何かしらの特殊な能力を持っているのだろうか、だがその推測は彼女の拒絶の言葉で遮られた。好奇心もあったが、今はそれよりも――
「ソレ貸してよ、あたしが撃つわ。魔力があれば使えるのよね?」
「使えるが……色付けやら魔法技術が必要なんだぞ?」
「……魔法技術なんて全然よ、
あたしは妹と違って器用に術式を構築したり一切できないしね」
リルドナが魔法を使っている姿なんて見たこと無いし、想像すらしてなかった。それでも彼女は「でもね」と口にする。
「あたしは魔力を持っている、それだけで充分じゃない?」
「……わかった、だが配分には気をつけるんだ、自己制限なんて掛かっていない、無理に撃てば魔法力を吸い尽くされる……つまり魔力が足りなかった分は無理やりにでも吸い出そうとするんだ、意味はわかるな?」
魔力は生命力から生成される、いわば魔法の燃料だ。それが足りない時、制御が掛かっている術式なら『発動』しないで片付く。しかし、足りなくても無理やりに動かそうとする術式では、足りない部分を直接、生成元である生命力を侵食し吸い出そうとする。これが魔法力切れのメカニズム (らしい)だ。それを踏まえて念を押したのだろうが……
「わっかんな~い」
乙女チックに小首を傾げてらっしゃる彼女は、やはり信頼と安定のINT3だった。
「要は、根を詰めすぎるとバテちまうってことだ」
なので親切なエインさんはこうやって補足してやることを忘れないのだ。
「ふ~ん、勉強と同じなのね、納得納得」
「お前は一回ハゲるくらい頭使った方が良いぞ……」
俺の言葉に、お約束通り「なによぅ」と噛み付こうとしたが、スルーフが置いてけぼりをくらいそうだったので、彼に話の主導権を明け渡す。
「使い方は単純だ、グリップ部分から勝手に魔力を吸ってくれる」
そう言われ、リルドナと一緒にグリップを見る、よく見るとなにやら妙な紋様が刻印されている、『吸収』行う機構がここにあるようだ。
「引金を引けば、魔法弾が構築され射出される。狙いは射線をイメージし易い様に実銃と同じく備え付けの照準をアテにすれば良い」
「この照門 に照星が重なるトコで撃てばいいのね」
「くれぐれも力はセーブして最小で、何しろ試作品なんでね――って君は左利きなのかね? コラコラ、いきなり引金に指を掛けるんじゃない!」
説明途中で銃を弄ろうとする、せっかちなノラネコに泡を吹くスルーフ、なんだか最初の『軽薄そうな』と思ったイメージはすっかり失われていた。
「そういや、お前って銃使ったことあるのか?」
「ないわ。でも――」
ハッキリと「ない」と断言する彼女だが、自信を込めて語る。
「あたしの能力、『武芸百般』を持ってすればカンタンよ」
先程までの落ち込み振りはどこへいったやら……そう告げる彼女の顔はすっかりいつもの調子に戻っていた。
だがそれで良い、そちらの方が断然彼女らしくて安心できた。




