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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
三日目
44/81

8-4 フラグの立てすぎにご用心です




 断崖地帯、そう呼ぶに相応しい景色へと代わっていた、

 木々はすっかりその姿を潜め、見通しがよく無骨な岩壁と悪すぎる足場をさらけ出していた。

 頭上に広がる空には分厚い雲がたち込め、遠くない時間で天気が崩れ出しそうな気配を滲ませている。

「降り出しそうだな……」

「この地域はハッキリとした四季がないけど、雨がよく振るんだよ」

 俺の呟きにロイが応えてくれた、

 涼しげに感じたのは秋だからではなく、年中秋みたいな気候だから、らしい。

「今降られるとイロイロ困るんだよねぇ……」

 そうぼやくロイは銃兵だ、雨が降ってはせっかくの火薬も台無しになてしまうのだろう。

 それでなくても、この肌寒い気候で雨に濡れて登坂行軍……考えただけでも勘弁してほしい気持ちになる。

 早朝から出発し、延々と歩き続けているのだ。皆、声には出さないがそれ相応に疲労を滲ませている。

「リルちゃんがさっき、建物が見えるとか言ってたし、そろそろボク達にも見えてもいいくらいだと思うんだけど」

「ったく、あのねーちゃん目が良すぎだから、俺達には距離も時間も測れねぇよ」

 ゼルの言うことは最もだ。普通、建物が見え出したら「よし、もう少しで辿り着けるぞ」という気持ちになれるが、なにせ彼女の可視距離の射程は異常なのだ、彼女が「見えた」と言ってもそれは相当遥か彼方のことなのだ。

「まぁ、ともかく進むしかないしね」

 ロイはそう言いながら、銃を担ぎ直した。鈍く黒光りする銃身はズシリと重そうだった。その銃口に並行するように飛び出た突起物が真新しいまま光っていた。

 その姿を見送りつつ、ある疑問が浮かび上がった、別に深い意味あるわけでも、何かしらの思惑があるわけじゃない、ただ単にほんの好奇心から来る言葉だった。

「…銃剣は使わないんですね」

「ん?あーアレ好きじゃないんだよね」

 そう、彼の銃には銃剣が着いていない。着剣装置である突起が付いてあるにも関わらず……彼の銃は銃剣装着を前提で設計されたデザインなのだ。

「どうしてです?」

「アレ着けてると、ついつい頼っちゃうでしょ、それがダメなんだな~」

「簡易的な槍になるとかで、槍兵要らずになるんじゃないんですか?」

 彼は「わかってないな~」と言わんばかり大袈裟な身振り手振り(ボディランゲージ)をして見せた。使えるなら使っていいモノではないのだろうか?

「銃の銃身(バレル)はさ、槍の柄軸(シャフト)とは違うんだよ?

 同じように乱暴に扱ったら、ひん曲がって二度と撃てなくなるんだよ」

「曲がって…そんな弱いモノなんですか……」

「釘を打つのに、金槌(ハンマー)が無いからってレンチで叩くようなモノだね」

 銃身は火薬という爆発物の力に晒されながら力強く弾丸を打ち出す、そのイメージから頑丈なモノと思っていたが、どうやら違うらしい。

「極端に曲がらなかったとしても、微妙な歪みが出るだけでも命中精度はガクンと落ちちゃうよ」

 その言葉と共に両手上げての「お手上げ」のポーズを取る。

「ま、使うときは本当の本当に止むを得ない時だけだよ」

「でも、いざという時にすぐ装着できますか?」

「うーん、咄嗟の時は――」

 ゴッ!と鈍く何かが砕ける音が鳴り響いた 

「――こうするね」

 流れるような動きで担いだ銃を両手保持したかと思うと、銃床(ストック)ですぐ横の岩壁を殴打したのだが……そこには見事に握りこぶし大(よりやや大きい)クレーターが出来ていた。

 銃床(ストック)をよく見ると、底の部分が金属だった。丁度、馬の蹄に蹄鉄を着けたような感じに木製のパーツの先に補強金具が取り付けられているのだ。

 この男、人懐っこい顔とは裏腹に相当腕力が強そうだ……。

「…す、凄い力ですね……」

全覆鋼兜(アーメット)の上からでも頭蓋を割れるよ、

 銃兵ってさ、これでなかなか結構な力仕事なんだよ~」

「いーや、オメーは『少し』規格外だと思うぜ?」

 二人してニヤリと人の悪い笑みを浮かべていた。

 


「おい、あレじゃなイノか?」

 何かの発見を告げるアーカスの声で、一同指し示す方向を見張る、

 この断崖地帯をの丘を超えたさらにその先、木々が点在しわかりづらいが、確かに大きな建物のようなモノが見える。

 今進んでいるこの道を行けば、おそらく丘を超えたあちら側にいける筈だ。

 見える尺度から直線距離にすれば、さほど遠くないように思える。

「ね?あったでしょ?」

 リルドナが、ほらほらという感じで建物を指差している、

「そう遠くない…のか、どれくらいの距離だろう?」

「うーーーん……五〇メートルくらい?」

「……なわけねぇだろ…」

 いくら目が良くても、それを距離に換算する測量術は持っていないようだ。

 人間とは不思議なモノで、不器用な人程ほど、手の込んだことをしようとする。出来ないことを必死にやろうとしてしまうのだ……今まさに彼女がソレで、眉を『ハ』の字にし、うんうん唸っている。

 ――が、遂に諦めたのか、いつもの目を点にしたINT3(おバカさん)顔になっていた。

「すまん……無理な注文をした…」


「距離八……三六……八三六メートルといったとこかな」

 その声に振り向けば、ロイが手をかざし、親指と人差し指で『L』字を作って測量しているようだった。

「わかるんですか?」

「ふふふふ、銃兵の測量眼を甘く見ちゃダメだよ?」

 ニカっと笑ってみせるその口元で白い歯がキラリと光った気がした。


 目的地が見えた、と言っても実際は直線ルートで進めるわけもなく、この足場の悪い登坂経路で大きく迂回させられて進むことだろう。

 到着にはまだまだ掛かるだろうが、それでも目に見えて目的地が存在してくれるだけで心持ち気分は軽くなる。

 そこへ、前列の方からゼルが下がってきた、

「ちょっと確認してきたが、やっぱりアレが目的地らしいぜ」

 どうやら彼はブルーノに確認を取るために最前列の方まで上っていたらしい。

 道が狭くなっている為、森の中にいたときのように横に広がって移動できない、それに加えて各々武器を所持している為、前後の間隔も広く取らなくては危険なのだ。

 その結果、隊列は細長く前後に伸びた形になっている。

 これは危険だと思った…こういう状態で襲撃を受けると危険だ。

 狭い足場のため動き回ることも適わず、辛うじて移動の利く前後も人間同士がぶつかり合うため、そちらも塞がっている。もし相手が翼を持った魔物なら、格好の獲物と言えるだろう。

 それは皆わかっていることなのか、緊張と警戒を払いながら、誰も口には出さない。


「なーんか、今襲われたらアウトって感じよね~」

 誰も口に出さ――ないでくれ……頼むからさ……。

「不吉なこと言うな、せめて無事にここを抜けられるお祈りをしてくれ」

「うーん、じゃあ――」

 そう呟きながら思案するような仕草を見せる、嬉しそうに無邪気に振舞う、その無防備な笑顔はこちらまで嬉しくなってくる。

「無事に目的の屋敷に辿り着いたら(・・)、ティータイムにしましょう」

「お、悪くないな、身体も冷えてるし、熱いのを頼むっ」

「はいはい、かしこまり♪」

 ……ん?

 このやりとりって……、

「ん、どうしたの?」

「い、いや……」

「大丈夫よ、ちゃんと淹れてあげるわ、無事に屋敷に着いたら(・・)ね」

「ちょっと、止めろ」

「なによ?今すぐじゃないわよ、無事にここを抜けたら(・・)の話じゃない」

 嫌な予感がする……

「はぁ?何が気に入らないのよ?着いたら(・・)お茶ってのが嫌なの?」

 俺ことエインさんは知っている、雑学(サブカル)知識で知っている。

 このように楽観的な未来観測の会話をしていると、とある条件(フラグ)成立してしまう、

 ――勿論、それは悪い方向で、

 その時、雲が掛かり気持ち薄暗くなった、天気もいよいよ怪しくなってきたようだ。雨が降り出す前に、なんとかここを抜けたいという焦りがジリジリ押し寄せてくる。

 俺はそのことから目を背けるように空を見上げた――

「ほらほら、着いたら(・・)おやつも分けてあげ――」

 ――!?

 黒い雲が大きく翼を広げて舞い降り…いや急降下(・・・)して来――

「ふぐぉ!?」

 思考が追いつく前に激しい水平方向の衝撃に、俺は断崖地帯を無様に転がった、地味に転落しかけたのだが……。

 慌てて身を起こし、先程まで自分が居た位置に目を向けると、お約束のように蹴りを放ったルーヴィックが『首の無い何か』と共に立っていた。

「なに、礼は――」

「言わん!」


 首の無いソレは前足が翼に変形した巨大なトカゲ……いやこれはトカゲじゃなく……


「ちっ…ドラゴン……いや、コイツは」

 ゼルの識別結果を聞かずとも、誰もがその正体に気付いたであろうソレは、一見すると鳥のようだが、全身を覆う見事な鱗が大型の爬虫類を主張する……竜族亜種で、ドラゴンに比べて格段その身体は小さい、空翔る亜竜の飛竜(ワイバーン)だった。

 貴族や軍隊に紋章(エムブレム)図柄(モチーフ)としてしばしば採用されるその姿は、ガーゴイルと並んであまりにも有名だった。

 見上げる空には、まだまだ十数匹の飛竜(ワイバーン)が控えている。

「ほら見ろ、お前が不吉なこと言いまくるからだ!」

「あ、あたしの所為なのっ!?」

「大丈夫か?ナンセンスだぞ。迎撃体勢をとれ」

「だぁー、うるせぇ!とりあえず離れろっ、槍が使えねぇ!!」

 場は一瞬にして騒然となり、各々の判断の上での声が上がる、パニックに陥らなかったのは、さすがプロの冒険者や傭兵といったところだろうか?

 しかし、それは連携のとれたものではなく、酷く身勝手な声の出し合いとなった。

「――来るわ」

 直後、上空で羽ばたき留まっていた飛竜達の一匹が巨大な翼の角度を変え、こちら目掛けて急降下を始めた。全員思わず身構え、構えた武器を握る手にも自然と力が入る。

 ――だが、その飛竜がこちらに到達することはなかった。

 一瞬にして頭部を何かに撃ち抜かれ、地の底から響くようなおぞましい断末魔ともに飛行姿勢を崩して失速し、そのまま俺達がいる足場よりさらに下の岩壁に激突して眼下に広がる木々の海へと姿を消した。

 その出来事に、息を呑む者、賞賛の気配を見せる者、多少の違いとそれぞれの配分で、一部の例外を除いて思わず動きを止めていた。

「――うむ、やはり読みやすい」

 犯人は……やはりコイツだろう、軽く握られた両手の指の間には何本もの針――いや、細身で長い…刺突特化の短剣だろうか――が不気味に鈍く輝いていた。

 そんな中、いち早く我に返ったのが、ブルーノだった。

「少しの間、奴等の動きを制して貰うことはできるかね?」

「問題ない」

 ブルーノに答えながら、さらに短剣を投擲する。

 クロスボウのボルトよりも遥かに鋭い風を切る音共に、上空で姿勢を変えようとした飛竜の頭部に突き刺さる。

「ゼルとロイも彼と同じく引き付けていてくれ」

「あいよう!」

「了解!」

 ブルーノはルーヴィック、ゼル、ロイの三人に殿(しんがり)の指示を出すと、他の人間に急いで前進するように促した。

 先程の三人を囮に使って逃げるというわけでは無い、これはあくまで時間稼ぎ。そう、この移動は――

「迎撃戦の位置取りですか?」

 俺はそう結論付け、ブルーノに訊ねる。

「そうだ、少し進めば若干道幅も広くなる」

「……そちらの道は――」

 このまま進めば緩やかに下る道と急勾配の登りの道に分岐に差し掛かる、ブルーノの視線を追えば『下り』のルートへと伸びているのがわかった…しかし、それは確かに少し道幅の広がっている、今走っているここよりも遥かに迎撃もし易いだろう。

 ……だが、『下り』なのだ。目的地の方向とは逆に進むことになる、進行上の大きなロスになるかもしれない、それに、もしかしたらあれは……。

「ブルーノさん、あえてこちらに進みませんか?」

 そう言いながら、荷物からクロスボウを取り出した。

「――っ!しかしそれは……」

 周囲からも否定的なざわめきが起きる、

 俺はそれらの反応に気付かないように装い、山羊脚(ゴーツフット)レバーをガコンと倒す。

「いえ、こちらこそが『正解』なんです」

 ブルーノは俺の意見に難色を示しはしたが、俺の強い断言に渋々進路を『登り』へと決定する。

 明らかに半信半疑といった空気が滲み出すが

 後方では、空気を切り裂く投擲音や銃声が絶え間なく響いている。敵を殲滅するための攻撃ではなく、彼らが自らに攻撃を向かせるための言わば『挑発』の攻撃だ。

 それを視界の隅に収めながらクロスボウにボルトをセットする。しかし、彼らに加勢するわけじゃない、そんなことしたら彼らの努力を台無しにする。

「……何をするの?」

 リルドナの問いかけに、仕草で「まぁ、みてろ」と指し示し、誤射しないように気を配りつつ先へと進んだ。

 しばらく進んだところで、巨大な岩石が折り重なるように積み上がり、あたかも行く手を阻む意思を持ち合わせているかのように完全に道を塞いでしまっていた。

「行き止まり!?」

「違います」

 ピタリと突き当たりの岩石に照準を合わせる。

「おそらく、これが『泉の貴婦人』の仕掛けた最後の『門』……」

 レバーを握り込み、岩石目掛けてボルトを射出する、ボルトは吸い込まれるように岩石へと飛来し、無骨で無機質な岩はソレを無慈悲に弾きかえ――


「――なっ!?」

「どういうコとだ?」

「……なんだと…」


 ――さない、ボルトは岩石へ激突する瞬間、フッとそのシルエットを消失させてしまった。

 その不思議な現象に周囲から疑問の声があがる、俺もそれは不思議とは思うが仕組みがわからないだけで、意図はわかっている。

「これが『貴婦人の閉ざした門』の効果です。

 ……おそらく森の入り口へと転送される接触起動の転移(ワープ)魔法ではないかと思います」

「今朝、私が切り裂いた結界と同じものか……」

 ブルーノに場所を譲り、結界の突破を促す。

 彼が例の剣の鞘を薙ぎ払うと、岩壁の絵が描かれたガラス壁面がヒビわれて砕け散るように、目の前で偽りの空間が割れて、真の空間が姿が顕す――以前と同じ光景だった。

 そこは比較的幅の広い道が続いていた、そして岩石の全てが幻だったのでは無く、周囲には遮蔽物に使えそうな岩がいくつもある。

「これは……使えるな」

 中でも一番目に付いたのは、まるで岩壁から伸びるアーチのように横の岩壁から崖下へと掛かる岩盤だった。明らかに人工物だ、大きな岩盤をくり貫いて『そういう形状』に仕立てたに違いなかった。勿論なんのためにそうしたのかまではわからない。

「しかし、何故こんなところで結界が……

 いや、それよりもどうしてこちらが正解だと思ったのかね?」

「タイミングが良すぎると思ったんです」

「ふむ……よく意味がわからないのだが……」

 ブルーノは当然の反応を示す、当然だ。確証は無いのだ。

 俺はあくまで仮定ですが、と前置きした上で説明する。

「もしも、俺達を遠ざけようとしているのが、危険な魔物ではなく――」

 次々と後続のメンバーが岩盤のアーチの下へ避難して行く、

「目的地である屋敷だったとしたら?」

「泉の貴婦人が……か」

 飛竜に襲われた地点が、彼らから見て発見しやすいポイントだったのか、偶然だったのか、もしかすると何者かが見張っていて、俺達の通過に合わせて飛竜のねぐらに伝達する手段があったのかもしれない。

 そして襲撃を受けた集団は、それらを迎撃できるような場所を探すだろう、それが先程の『下り』のルート。万一『登り』のルート選んでいても行き止まりに見せ掛けられている、襲撃を受けながらの移動だ、冷静に調べることもせずに引き返すだろう。もっと切羽詰っていて引き返すことも出来なければ、なんとか乗り越えられないかと、岩石に手を触れて転移が発動し、やはり追い返される。

「――結局、追い返されるように仕組まれてるんだと思います」

「ふむぅ……」

 さすがに半信半疑の空気は崩れない、確証も何も無い、俺の勝手な推論にしか過ぎない。それでも俺は強く語る、そのこと自体が全体を鼓舞し士気を上げるのだ。

 こういう場合、言い切った者勝ちなのだ。

「ここにいれば、あの巨大な身体では入って来れないと思いますが」

「そうだな、いつまでもここで待機というわけもいくまい」

「思い切って屋敷まで突っ切るか、それとも迎撃――」

「ここでキッチリ追撃は叩く」

 ブルーノは力強く決定を下した、

 それに応えるかのように、ロイの銃が轟音を上げ、飛竜をさらに一匹撃ち落とした。




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