8-3 錬金術は学問なんですよ
首に巻かれた紙帯に再び手をやる。
「ふむう、治癒力促進かぁ……」
「うむ、どうやら彼は錬金術師らしい」
それを聞いたゼルが思わず声を上げた、ちゃんと近くに居たんだぞ?
「錬金術ぅ?なんか胡散癖ぇな。
……あれだろ?ただの鉛を金に換えるとか」
「その偏見は彼らに対して失礼だ」
錬金術に対するイメージを述べるゼルに、それを否定するルーヴィック、正直言えば俺もゼルと同じ意見だった。
「錬金術は、魔術的にも科学的にも学問の一つだ」
「学問……?」
錬金術といえば、怪しげな薬品やら術やらを扱う魔術の一種だと思っていた。学問とはまた違った表現をするものだ。
「占星術、錬金術、召喚術といった感じで様々ある魔術の一分野と思えばいい」
ルーヴィックの講義が始まり、全員黙って話に耳を傾ける、
「そんな中でも錬金術は『知る為』の学問といえる、確かに世間の持つイメージは怪しげな薬品で実験したり術を行使したりと、そんなものしかないだろうが……それらは全て『知る為』の過程に過ぎない」
「本来は『万物融解液』により物質から『性質』を具現化させている『精』を解放し『精』の性質を得ることがその根元的な目的であり、生命の根元たる『生命のエリクシール』を得ること、つまりは不老不死の達成こそが錬金術の究極の目的だそうだ」
「エリ…クシール…だと」
それは伝説の霊薬の名前でもあるんじゃないか……つい反応してしまった。
「む、エインどうした?」
「なんでもない……続けてくれ」
「その『性質』というのが…そうだな、金が金であるという『性質』、を具現化している『精』を上手く得て理解できれば、金という『性質』を他の物質に与え、金を生み出すことも出来るということだ」
「そリャ、すげェナ……」
「――という謳い文句で貴族からカネを毟り取ってた連中もいたようだ、彼らは研究するための費用の出資者を釣るために、都合の良い解釈だっただろうな」
「なんでぇ、嘘っぱちかよ?」
ゼルがガッカリしたように呟いた。
「完全にそうではない、彼らの目的は金ではないしな、あくまで『過程』に過ぎなかっただけだ」
「副産物である『金』をチラ付かせて強欲な貴族を釣ったわけだね」
なるほど、この部分が世間一般にある錬金術のイメージの元のようだ、
「その『過程』で生み出された『副産物』も錬金術の持つ遺産だろうな、『理解・分解・再構築』の物質変化の理論は錬金術独自の術式を引き立てているし、『万物融解液』の開発過程で生み出された弗化水素は、ほとんど全ての無機酸化物を腐食する溶媒として科学の分野でも貢献している」
俺達はその副産物の恩恵を知らずの内に受けているのかもしれない、
「未だに本来の目的――不老不死に達した者はいないだろうから、未完成の学問だろう、最終目標に近づくために、さらに新たな副産物を生み、日々成長進化を続けいく可能性を秘めた分野といえる」
……こう一気に説明されても頭が着いて行けそうにない、それは他の人間もそうだろう、
だからといって、ヘタに口を挟んで話の腰を折る者も居なかった。
「…が、そもそもが探求・研究のため、魔術師からは『研究することしか能がない』と揶揄されることも少なくはなかったようだ……便利な法具や術式は彼らの功績によるものが多いのに……な」
「そうねぇ、双鎌十字でも、二科生を『アルケミー』って呼んでたけど……あれってやっぱり蔑称だったのね」
双鎌十字……リウェンが通ってたという魔法校のことか、
「話の腰折って悪いが、二科生ってなんだ?」
「双鎌十字は学科が二学科制なんだ、前線で戦う魔導兵を育成する一科、後方支援の回復術者や法具を製作する魔法工師を育成する二科だ」
「一科生は二科生を『アルケミー』と呼んでたし、二科生は一科生を『ソーサラー』と呼んでいたわ」
なんだか、どっちもどっちな言い合いだなと思った、それぞれの得意分野で活躍するべく勉強している筈なのにお互いの価値観で見下しあう……そんな感じだった。
「ともかく、実際に魔術を行使し力を振るう魔術師は、錬金術師を頭デッカチの能無しと蔑んでいたのさ」
「なんでぇ、魔術師ってのは随分と傲慢なんだな」
「こういう喩えはどうかと思うけど、
力を振るう魔術師が武官系で、知識と技術を蓄える錬金術師は文官系なんだね」
「そうだな、基本的にはそうだが…中には強い力を持った術を扱う者もいるな、練成陣と言われる術の構築式を組み込んだ魔方陣を描き、そこに魔力を流すことによって様々な術を使っていた、中には手と手を合わせるだけで自分自身を構築式とし、力を循環させて術を発動させる者もいる、実に興味深い分野だ」
「ず、随分詳しいんだね……」
ロイがたじろいてしまうのも無理はない……これほどの知識を一気に披露されては仕方のないことだ。
話に夢中で気付かなかったが、いつのまにか木々の間隔が広くなり、道も平坦だったものから登り坂が目立つようになっていた。
「あのメガネ……自動人形とか造れるのかしら?」
「なんだリルドナ、お前はそういうのが欲しいのか?」
「欲しがってるのは、あたしじゃなくお兄ちゃんよ」
ヤツが欲しがる自動人形……ここでカチリと思考が合わさった、
「さては対局用か!?」
「肯定だ、他に用途があるとは思えないが?」
彼は何をわかりきったことを言うのだ?と言わんばかりの態度を見せた。
「錬金術に詳しいのは、結局そこかよぉ!?」
俺の叫び声が森から鉱山と繋がる岩壁に鳴り響いた。




