8-1 バファ○ンですか?ノー○ンですか?
Schwester
Schwester
Altere Schwester
Trennt die Kleinigkeit dich richtig, und sollte ich essen?
Ibt du moglicherweise nicht allein?
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昼下がり、しばしの休息(?)に別れを告げ、俺達は再び進みだしていた。
向ける足は再び森の中へと向かう、木々という壁の中へと俺達の姿は消えていく……。
結局、『泉の貴婦人』という存在と出会うことは無かった。お伽話にもある通りに滅多に人前に姿を現さない存在なのだろうか?
まぁ、もし目の前に現れていたとしても決して『好意的な対応』して貰えるかわかったモノじゃない、あえて深く考えることは止め、俺は草木の匂いが立ち込める森の空気を深く吸い込み気合を入れ直すのだった。
無言の進軍を続ける俺達だったが……そろそろ来る筈だ、アレが――、
「ねぇ、なんて言うか――」
「黙ってろ」
紡がれる言葉を先読みし、俺はピシャリとソレを切り捨てる。
発言を遮られた人物は、俺よりも頭一個分丸まる背が低く、髪も服も黒一色で、法衣だか、修道服だか、二重回しだか、よくわからない服装をしていて、その赤い瞳を爛々とギラつかせてギャアギャアと抗議してくる、勝手気ままな彼女は黒いノラネコのような女だ。
一見すると、幼く見える顔と小柄な体格と黒髪の所為で「東洋人?」とか思ったりもするが、その疑問を真っ赤な瞳がバッサリ否定する。
「――頼むから激しく大人しくしててくれ」
「なによう、まるであたしが落ち着き無いみたいじゃない」
落ち着きなんてレプトケファルスの人工育成の成功率並みに無いだろぉ!?
と言いたくなる気持ちを海洋調査に送り出し、代わりに赴任してきた頭痛さんに心悩まされるのだった。
もうすっかり、他のメンバーとの距離が物理的にも心理的にも遠い……。
ブルーノを先頭に、黙々と追従する男達。その最後尾には槍を手にした男と、マスケット銃を背負った金髪の男――ゼルとロイの傭兵コンビがピタリと付き従い、そのさらに後方でトボトボと着いていく俺と細長い鉄仮面と小柄なノラネコ女……なんだか落ちこぼれの生徒の気分だ。
「どーしたの?無能。頭でも痛いの?」
「現在進行形で絶賛頭痛に悩まされてるぞ……」
「ふーん、大丈夫?」
「大丈夫じゃない、問題だらけだ」
そこで大きく息を吸って、
「――だから黙ってろ」
再びピシャリと切り捨てる俺、なにようと噛み付く彼女。まるで『痒い』⇔『掻く』の悪循環だ。それらを振り払うようにリュックのサイドポケットから冒険記帳を取り出し、先程の地下壕の出来事を書き綴り始めた。
「……アンタ、器用ねぇ…」
率直な感嘆を漏らす彼女だが、実は大したことは無い。なにせ、まともに字なんて書けてないし、内容も酷く適当だ。
そもそも文字を書くのが目的じゃない、要は気を紛らわせられれば良かったんだ。
「大丈夫か?ナンセンスだぞ」
――危険です、前をお向きなって下さい――
……。
挙句、ルーヴィックにも謎の声にも心配されてしまった。
「あー、畜生……、」
俺は誰に向けるわけでもなく悪態を付く、
こんなことなら頭痛薬でも持って来れば良かったか?
でも、あれは食後に服用しないとダメだっけ?
さっきの騒動ですっかり食事から時間経過してしまっている、薬を飲むにしても、とりあえず何か胃に入れなければ。
優しさで構成されたその薬は決して胃に優しくないのが珠に傷だ。
などと、俺が思考を泳がせていると、リルドナが余所者に縄張りを侵犯されたノラネコのように緊迫し真剣味を帯びた表情を浮かべていた。
「……そろそろね、」
何かあるのだろうか?
この女は異常に目が良い、俺達が感知できなかったモノを何か捉えたのかもしれない。
「……来るわ……五、四、三、二、一っ、」
「うむ、ジャストだ。
リル、体内時計の精度が上がったな」
と、ルーヴィックが時計を一瞥しながら、リルドナのカウントダウンの正確さを評価した。
何か嫌な予感しかしない、
――が、俺はそれでも訊いてみた。
「どうした、何かあったのか?」
俺の問いに、えへへ~と可愛らしく笑みを浮かべ、
「うん、三時よ、三時♪ おやつのじか――」
――ん、と発音させる前に、バシン!と手にした記帳で叩く、カドで殴打しなかったのは、せめてもの情けだ。
「いったー…、何すんのよ!」
彼女は犬歯を剥き出しにして抗議してくるが、『おやつ』という新たな単語の所為でさらに頭痛さんが張り切って仕事を再開しだした気がした。
「――あ、」
そこで、俺は三つ気付いた、
「なによ?」
「……すまん、」
「はぁ?」
突然の俺の謝罪に毒気を抜かれたかのようにキョトンとした顔を見せる、
「勢いとノリのあまりに叩いちまった……すまん」
これが一つ目の案件、女には手を上げるまいと三年前に誓っている、こう見えてもエインさんは紳士なんだぜ?
「それと――」
と言いかけて、言い淀んでしまった、
二つ目の案件、薬を飲むのに胃に何かを入れる部分、彼女はいろいろお菓子を持っているのは先程の地下壕でも判明している。ならばそれを分けて貰って、とりあえず胃を誤魔化すことはできる。
ただし、こんな状況で自分からお菓子の話題に飛び込むと、彼女のノラネコイズムは決してソレを見逃さないだろう。
三つ目の案件は頭痛薬。彼女も 歴とした女だ、頭痛薬…もしくはそれに代わる薬の一つくらいは持っている筈だ(根拠は聞くな)
そもそも救急箱を常備しているくらいだし、薬を持っていても不自然じゃない。
――頭痛を和らげる為に、お菓子と薬を分けて貰い、その工程でさらなる頭痛の原因を振り撒いてしまうのか……。
なんという二律背反、なんという堂々巡り、疑念は他には向けられない、降りかかるのは自分にだけ!いやいや、頭痛を和らげる為ならさらなる頭痛を厭わない、別にそんな苦労が嫌じゃない!むしろ好き!?ってなんだ暴走したこの思考回路は!?俺はいつから、そんな愛憎併存を抱えた面倒な人になったんだ!?いやいや、冷静な対応を欠落して、大人になりきれない遅延猶予を抱えた子供なのかもしれない!
「ぬうぅぅ……」
「…ど、どうしたのよ……そんなに頭痛いの?」
ふふふふふ……リルドナよ、自由奔放なお前にはこの気持ちはわかるまい……。
「リル、気にするな」
「え?」
「それはJ・H・S症候群という心の病だ、命には関わらない」
意味はよくわからないが、サラっと酷いことを言われている気がして仕方ない!
……クソッ、さらに頭が痛くなってきそうだ……。
「――おい、あンちゃん」
不意に、思わぬ角度から声が飛んできた、
薄汚れた白いターバンとマントに身を包んだ男――アーカスだった。
「は、はぁ?俺のことですか?」
「おう、オマエのコトだゼ、頭痛ェんだロ?」
彼とは初めて会話するが、言葉の節々に妙な訛りがある、言語圏の違う地域出身なのだろうか?
「あ、はい…そこのノラネコの所為でいろいろと」直後、誰がノラネコなのよぅ!と聞こえた気がするが些細なことだ。
「コレ、やルよ、どうしようもなく辛クなったら煎じて飲めヨ」
と俺の方に何かを投げてよこした、「おっと」と俺は慌ててソレをキャッチする。
ソレは緑色の…小さなコイン大のボタン状のなにやら怪しげな物体。
「ま、少々苦ェが、効くゼ?」
「何ですか?コレ」
「ん、ペヨーテの塊茎だナ」
ふむ、ペヨーテ……聞き慣れない名前だ、植物の何かだろうか?
「…幻覚性のサボテンの一種だ、服用は止めた方が良いと思うがね」
さらに前方から声が掛かる、今度は眼鏡を掛けた男――スルーフだった。
「サボテン科ロフォフォラ属の植物で、トゲのない小さなサボテンだ。全体に産毛のようなものが生えていて、あたかも青虫に見えることから『ペヨーテ』という名前が付いている」
「さぼてん…?」
スルーフの言葉を聞きながら、さぼてんの「てん」の部分で目が点になるINT3モードの彼女を誰も気にも留めず説明は続く、
「ペヨーテはメスカリンをはじめ様々なフェネチルアミン系アルカロイドを含んでおり、西の新大陸の先住民達を中心に治療薬として使用されている」
俺は思わず驚かずにいられなかった、その知識の深さによるものじゃない。ここまで彼が雄弁に言葉を語っていることにだ。
「先住民達は万能薬として扱ってはいるが、その強い幻覚成分は服用する時と場合を選ばなければいけないモノだがね」
強い幻覚性……それはちょっと不味くないか?とか思い始めた時、アーカスが割って入った。
「おっト、幻覚トカ、ソレはオマエらの偏見ダろうが」
「言い過ぎかどうかは別として、その精神高揚感をもたらす効能はムノー君の『仕事』上差し支えあるモノだと思うがね?」
「ケッ、何かとケチつけヤがって」
すっかり機嫌を損ねたアーカスはそっぽを向く、(そしてさり気無く俺の名前が『ムノー』で確定しいる)
だがそれに気にした様子もなく、スルーフは付け加えた。
「もう一つ、服用しない方が良い理由があるんだがね――」
俺は、ふむ、と先を促した。
「ペヨーテは極めて成長が遅く、花を付けるまで三〇年、栽培株はかなり成長が早いが…それでも発芽し花を付けるには五年から十年はかかる。つまり稀少な植物なんだがね」
俺は、ふむ、と先を促した。
「先住民達は治療や儀式といったモノにペヨーテが必要なので、とにかく需要は高い――つまり高価なモノなんだ、服用せずに売り飛ばすことを推奨するがね?」
「そ、そうなんですか……いいんですか?こんな高価なモノ、」
「アァ?いいって、仕事終わっタら取るモン取らセて貰うカラよ」
金取る気か……、あとでコレは丁重に返却するとしよう。
「大体、頭痛薬程度なら、そっちのお嬢さんに頂いた方が良いと思うがね?」
「ンだナぁ、女なら鎮痛剤くらい持っテるよナァ?」
だからそこを強調するな…見ろ、いくらINT3の彼女でも意味を悟って、顔を赤くしだしてるじゃないか……。
「な、なによ、この不審者、アンタにはでりばりーの欠片も無いの?」
そこは『デリバリー』じゃなく『デリカシー』だろ……、ヤバイ、頭痛さんがさらに勢力を拡大してきた。
そしてさり気無く『不審者』とかこれまた酷い命名が判明した。
「アァ?誰が不審者だッてェ?」
「アンタのことに決まってるでしょ」
ビシィっとアーカスを指差すリルドナ、やめてくれ、エインさんの辛抱はもうゼロだぜぃ……。
「ンだとォ、……おい、ムノーのアンチャン!」
そして、その怒りの矛先が何故か俺に向いた……勘弁してくれ。
「自分の嫁の教育くラい、キッチりヤッとけよ」
「―――――――――――――――――――――――――――――――はい?」
「こんナ美人、手を出さない方がおかしイぞ?」
「…あ、ああああああああ、あたしが美人……?」
リルドナの赤面モードのスイッチが入り、可愛さ二割アップを果たした。そして言葉だけでリルドナの敵性ノラネコオーラを無力化したのだ。
さすがは、曲者のアーカス、今度その対応術を是非ご教授願おう。
「そそそそんな、お世辞……」
「髪も綺麗な黒髪だシ、肌も透き通ルように白いシな」
彼の言うとおり、リルドナの髪は真っ黒だが艶があり、漆黒という言葉が似合う、光の反射が髪へ作り出す光輪は『天使の輪』とも言える。肌も白くきめ細かく、血色の良いその顔は赤面する前であってもほんのり桜色で可愛らしい。
ただ、『美人』というには、まだ顔に幼さが残り、化粧っ気もなく、『美人』というより『可愛い』が似合うのだ。それはまだ与えるには早い称号かも知れない。
明らかにお世辞だろうが、確実にリルドナはその罠に嵌っている。
「そそそそんなこと、ないの…ありませんのです……よ――」
すっかり動揺した彼女は言葉遣いまでおかしい、
「ふごぉ!?」
変な言葉の「ありませんのですよ」の「よ」の部分で大きくその左前足を振りかぶり、炸薬入りの肉球を俺の頬に炸裂させた。
ヤバイ……本気の左だ……。
俺は一気に意識を刈り取られ、そのまま崩れ落ちるのだった。
……頼むから俺のライフを削るな。




