7-3 そこに在ったのは
俺たちは洞窟部分を後にし、先程の地下壕のような場所へ戻った。
やはり人が生活していたらしく、端々にその痕跡を無受ける。
「むー、この森に人が住んでいたってことか?」
「大昔は居たのだろうな」
「……」
そう、椅子や寝台など、家具らしきものがありはするが、その風化具合は相当な年月の経過を物語っている、
そして、もうひとつ気になったのが……
「なんか、どれもサイズが小さいよな」
「ふむ……、」
「……」
――ん?
俺は周囲を調べつつも、ルーヴィックに声を掛ける、
「ところで、地上へはどう帰る?」
「あのロープを気合で登るしかあるまい」
「やっぱ、それしかないかぁ……」
「……」
――ふむ?
遥か天井から垂れ下がるロープはあたかも天上から差し伸べられた蜘蛛の糸のようだ、
私利私欲に感情が走った途端、プッツリ切れたりしないだろうか?
「アレって大丈夫だろうな?
途中で外れたりしたらシャレに無んねぇぞ……」
「問題ない、しっかり固定した」
「そうか……」
「誰かが意図的に切ったりしない限り大丈夫だ」
「どうしてお前は、俺を不安にさせたがるんだ?」
「……」
――おいおい、
さっきからおかしいぞ?
「おい、リルドナ」
「――あひ?!」
俺が呼ぶと、彼女は過剰に反応を示した、
やはりおかしい、先程から右手を見つめて黙ったままだった。
――あの巨大カニを追い払ったあと、俺はもう一度彼女の右手にヒールを掛けてやった。
あの『居合い』とかいう剣技は鞘の中で刀身を走らせ、充分に加速し、その爆発的な一太刀はかなりの速度があり伸びもあるとかどうとかで、『近間の飛び道具のように恐ろしいものである』とまで言われているらしい。
とにかく達人の扱う極意なのだろう、そしてそんな代物を扱ったモノだから、
なんとも彼女の右手は「マジカル☆グローブ♪」とでも言いたくなるような一回り体積の増量された腫れ具合となってしまっていたのだ、
いや……どういう理屈でそうなったかは、わかんないぞ?
――そして、最初と同じく手首を掴んでヒールを掛けてやったんだ。
何故か手首を掴まれた彼女は大人しくなってしまうのだ……わからない……。
「よくわからねぇが、また腹でも減ったのか?」
「ち、違うわよ……もう、バカッ!」
俺の的外れな言葉に、辛うじて心境の切り替えが出来たようだ。
俺は再び周囲の家具に目を運ぶ、その数から十数人程度が生活していたように見受けられる、やはりその大きさ…サイズが引っ掛る、どう見ても子供用に誂えたサイズだ。
そして、その家具の配置から生まれる間隔や空間は、明らかに小さな身体の持ち主が生活するのに適したものだと推測できる。
こんな場所に子供が……?
いや、ノームやホビットといった小人族ならば、このサイズでも問題ない。先程だって「こんな場所に人間の子供がいるわけはない」と思ったら、やはりその正体はコボルトだったりと、フタを開けてしまえば真相はそういうモノなんだろう。
――それでも何か引っ掛る、
俺は何に対して意地になっているのだろう、
薄っすらと浮かび上がりつつある一つの仮説を決定付ける為だろうか?
だが、それに反して仮説が外れることを願いつつもある……。
ならば、よせばいいのに、調査の手を止められない、
その空間の奥の方、部屋に見立てるなら隅に当たる部分、そこ近辺は家具が激しく痛んでいる、むしろ壊れていると言った方がいいかも知れない、そこで何者かが争ったかのように……、
俺は心の奥で警鐘を鳴り響くのを、無理やり抑えつける、
壊れた家具を乗り越え、その奥を覗き込んだ・・・…
……果たして、それを見つけてしまった――
「――うっ…」
「どうした?エイン」
――地下壕、
――子供、
「……い、いや」
――泉の畔、
――集落、
次々とキーワードが頭に蘇ってくる、
――白の民
――魔王に襲われ、
「どうしたのよ?無能、」
「く、来るな、」
――地下壕、
――巨大カニ、
俺の制止を気にも留めず、彼女は「それ」を覗き込んでくる、
「もー、なんなのよ?」
「見るんじゃねぇ!」
――カニは肉食、
――子供、
「――っ、ひっぁ?」
「このバカッ、見んな!」
――人間は捕食対象……
―――――――――――――――――――――――――――――――小さな人骨……。




