6-5 大食いニート姉さん(シスター)
ルーヴィックの指示に従い森を突き進む数十分、
ついに雰囲気が一段違う場所…開けた場所に出た。
俺は久しぶりに再会する太陽に目を眩まされ、
その日差しを顔に受け、冷めた身体に血が巡るような感覚を覚えた。
長時間、薄暗い森の中を延々と歩いてきたのだ、
他の人間も、緊張を弛緩させるような気配を見せている。
その広場に立ち入り、程なく進んだ、その時――
――ぐううぅぅぅぎゅるるうぅぅ……
…まるで地の底から響く地獄の重低音だ……。
この女は、どうしてこう緊張感ブレイカーなんだろうか?
その場にいる人間全員の視線が彼女に殺到する、
「あ、あたしじゃないわよっ」
彼女はそう抗議するが…
その瞳に負けないくらい真っ赤な顔と、クリクリと泳がせる視線でバレバレだ。
非常に気まずい空気がお越しになられたものだ、
…さて、どうフォローしてやろう?
こんなところでいいか……
「おい、ダイエットするのはいいが、朝はちゃんと食え」
俺は適当に言い訳しやすいようにと、言葉を紡いだ。
これは六十五点くらいくれてもいいはずだ……。
しかし、彼女は空気の読める女では無かったのが誤算だった、
「何言ってんのよっ、ちゃんと食べたわよ!」
俺の想いもなんのその、彼女は素で返してきた、
…いや、別にいいんだよ?俺は……
森から広場を吹きぬける風の音が妙に大きく聞こえた…
それくらいの短い沈黙のあと――
「ハハハハハ、随分と肝の据わったお嬢さんだ」
ブルーノが豪快に笑って見せ、視線をゼルとロイに向ける、
「では、見張りを交代で行った上での小休止をとるとしよう、
ゼル、ロイ――このお転婆なお姫様の護衛をしてやってくれ」
「あいよう!」
「了解ですっ」
ブルーノの声に威勢良く応じるゼルとロイ、もう完全に部下っぽい、
俺は気を遣ってくれたブルーノに(何故か俺が)礼を述べ、
この仕事に関しての何気ない会話を交わすのだった。
それにしても…
意外にも、このブルーノという初老の執事はフランクな人柄だった、
一見すると気難しそうな顔をしているが――
話しかければキッチリと対応してくれるのだ、
それは他の人間も同じだったらしく、目を白黒とさせていた。
哨戒をするゼルとロイに(またもや俺が)礼を述べると「任しといてよ」とロイは腰の小剣を抜き「こいつ、剣も割りといけるんだぜ」とゼルがタイミングよく説明をくれた。
俺たちはそのまま少し進み、比較的見渡しの良い泉の畔に陣取った、ゼルとロイはともかく、他の人間にはあまり好感を持たれていないこともあり、やや離れた位置に落ち着いたのだ。
ここは本当に森の中なのだろうか?と思わせるほどの大きな泉だった、森という城壁に囲まれた泉の庭園とも言うべきなのだろうか…それくらい不思議な空間だった。
森の中とは違い周囲の視界が良く、突然な襲撃の危険も少ないだろう。
ブルーノの申し出に彼女はまたもや魚を得たネコのように活気付く、上機嫌で荷物からガサゴソと携帯用の敷きシートを取り出し、目ざとく日当たりのいいポイントを見つけそこに敷き、そしてチョコンと可愛らしく座り込み――やっぱり正座だった――続いてテキパキと持参したのであろう、お弁当を取り出した。
…要するに相変わらず手際が良いというわけだ。
「――にゃかにゃンにゃかにゃンにゃかにゃンにゃっハイッ♪」
…なんだこの呪文は?!
彼女は上機嫌でなにやら変な歌を唄っている…もうノリノリだ、
俺は勇気を振り絞って声を掛ける、
「おい、悪ノリしすぎだ」
「ちゅちゅちゅちゅーるらっタッタ――て、何よ?今良いところなのにぃ」
その『良いところ』ってのは、食事の準備か、歌の盛り上がりか?
それを聞けない自分が悲しかった…。
「交代で休憩なんだから、早く食って代わってやれ」
「そんなこと言っても~
あたし喉が細いしぃ、慌てて食べたら詰まっちゃうわ」
口はデカイけどな――それと態度もだ!あとは、む……いやなんでもない。
俺はそんなリルドナを放置して、先程貰ったメモを開く、
なんとも言えない、可愛らしさ全開の丸字なのだが、内容は至って真面目だ。
そこには、微弱の魔力を出力して指先で魔方陣を描く手段が明記されている。
「ふむ~俺でも出来る……のか?」
試しにやってみる……指先に薄っすらと白い光が灯る、
そして、適当に指を走らせると、一瞬虚空に白い線が浮かんだ。
「これで魔方陣を描けってことか……」
俺の冒険者ギルドで受けた能力測定での魔法に関する判定は――
…軒並み、どの系統の魔法も最低ランクの「F」だった、
だが、幸いなことに「--」ではないので、一応は魔法を使えるのだ。
ランク「--」は才能ゼロを指す――
もしそうだったらこの光の線を描くことすら出来なかったわけだ。
「でも可能性がある、と出来るは別問題だよな…」
苦笑いを零しながらメモを一通り目を通すと、気になる単語があった
――BlaueAugen
?
メモの一番最後に、さり気無く書かれてある。
わざわざ青いインクで独特な筆跡で書かれてあった、その横には読み方すらわからない奇妙な文字列がズラリ――どういう意味があるのだろうと、頭を捻りかけたとき、
「あ~ソレ、あの子のペンネームみたいなモンよ」
いつの間にか、メモを覗きこんでいるリルドナが言い放った。
「ペンネーム……リウェンの?」
「あの子って作家目指してるからね~」
そこまで言って、彼女は表情を少し変えた――
昨日、小屋で眠るリウェンを優しく見つめている時の顔
……姉としての顔なのだろう。
「あの子、実は白よりも青が好きなのよね」
…カチリ
やはり自分の瞳の色だからだろうか…
だからあの時見えたアレも……
俺はメモを折りたたみ胸ポケットに納める、
理由?
何故ならリルドナがすっかり動きを止めていたからだ。
早く食事休憩を済ませてくれ…




