表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
三日目
33/81

6-3 魔法も使い方次第なんですよ



 相変わらず森の空気は重く冷たい、

 それ以上に周囲から白い目で見られる空気が重かった…

 周囲の警戒しつつ慎重に行動すべき状況にも関わらず、あれほど私事で騒げば当然だ、あの二人組み…ゼルとロイはまだよかったが、他の人間は知人というわけもなく、

 ごくごく、自然な結果だ…というか彼ら二人も知人というわけでもない、

 なんだかんだ言っても、仲良く出来ているのはリルドナのお陰なのかもしれない。

「あ…」

 歩を進めながらメンバーを見渡していると、不意に眼鏡の男――スルーフと目が合った、彼は一瞬、汚い物を見るような目を顕し、すぐにプイっと視線を逸らした。

 やはり俺たち(・・)は相当印象を悪くしたらしい……

 普段の俺なら誰とも特別親しくなることなく仕事を終えるのだ、別に苦にはならない。

 もう今更友好関係を築こうとも思わないので、

 彼らと少し距離をとり大人しく併行しているルーヴィックの方へ俺は歩み寄った。

「なぁ」

「どうした?」

 森へ入った時の緊迫させた集中力はとっくに切れている、

 俺は小声で話しかけ、ヤツもそれに合わせてくれた。

「さっき、ヒールで治療してたんだが…」

「ふむ、なにか問題が?」

「効果がいつもより大きかったんだ」

 そう、俺の能力じゃクソ長い詠唱を費やしても、ほんのチョッピリの効果しか得られず、

 軽傷といえど、何度も小さな効果でチビチビと治療するしかなかった筈だが…それが一発でほぼ治った、

 良い誤算だが、それが気にならないとは別問題だ。

「何か新しい術式でも取り入れたか?」

「いや、俺は術式も何も活用してないし、そもそも知らない」

「ふむ、妖精の森の霊力の影響を受けたか?」

「そ、そうなのか?」

 よくわからないが、今はそういうことにしておこう、

 ――何故なら別の質問が思い浮かび、そちらの方が気になりだしたからだ。



「おそらく…術式による制御だろうな」

「術式なのか?」

 俺を想像を確実にするために聞きなおす。

 別に知って役立てられるかどうかわからないが、好奇心からの質問だった。

 先程のリンクスを焼き払った――アビスの魔法を思い返し、

 ダメ元でルーヴィックに振ってみたら…アタリだった。

「そうだな…術式は、魔法という荷物を運ぶ…荷車と思えばいい」

「すごい大雑把な介錯だな」

「そもそも術式とは、魔法の扱いの手段を示す言葉だった」

「――だった?」

 思わず聞き返してしまうが、ヤツは気にせず先を進めてくれる、

「うむ、いつの間にか意味が曲解され、

 魔法そのものや、魔法と手段を合わせた一連の動作そのものを指すようになった」

 実にわかり難い説明だ、ヤツにそれを告げると「習わなかったのか?」と聞き返された、

 正直言うと魔法は専門外だったし、それが理解できるならもっと高位の魔法を習得している。

 俺の理解を得ない顔を読み取ったのか、違う切り口で話を始めた、

「では、例えばの話だが…ここに怒りで熱暴走するリルが居たとする、」

「いきなりなんつー例えだ……」

 俺の頭の中に、怒りの炎で赤い瞳をギラつかせるリルドナが配置される。

 うわっ、これだけで既に怖いぞ?

「そして、お前はソレを冷却するために、リルにバケツで水をぶっかける、」

「さらになんつー展開だ…」

「するとどうなる?」

 えーっと…水を頭から被ったリルドナは一瞬怯む――が一瞬だけだ、周囲が水浸しになっただけで、冷却したい対象はさらにヒートアップ!火に油を注ぐような真似をした俺はそのまま彼女の手に捕まってしまう、そしてそのまま恐怖の無限コンボで、俺は成す術もなく――

「そこまで想像しなくていい…」

「なんでわかるんだよ」

 つくづく思うが、どうしてコイツはこうも人の思考を読めるのだろう?

 チェス盤思考の延長線に在るのだろうか…

「周囲を水浸しにしてしまうだけで、効果は無いだろう?」

「そうだなぁ…」

 彼女を冷やしたくとも、対象に水が接触するのはほんの一瞬だ、そこは理解できる。

 俺に理解が通ったことを見届けると、ヤツは言葉を続ける、

「では、予めリルを……そうだな水槽に入れた状態で水を注げばどうだ?」

「お前、妹をなんだと思ってるんだ?」

 と言いつつも、想像してみる、

 激闘の末に捕獲に成功したタスマニアデビルの如く、水槽に幽閉されるリルドナ、そこへドボドボと水が注がれて頭から水を被り怯み抗議してくるが、俺には聞こえない…遂には満水となり苦しそうに溺れる彼女は、最後の力を振り絞り水槽を打ち破る!そして身体と怒りを開放された猛獣は俺に襲い掛か――

「…想像力が酷すぎる、逆に評価に値する」

「だから思考を読むな……つまりは――

 たとえ同じ量の水を使用したとしても、受け皿となる水槽の有る無しで冷却効率が違ってくる、ということを言いたいんだな?」

「肯定だ、ノイズだらけの割りに通じていてくれて安心した」

 我ながら凄いやりとりをしたものだ…がヤツは続けた、

「同じ魔法でも、干渉領域の指定を設けるだけで、全く別物に化けるということだ」

「工夫次第ってトコか」

 俺の感想に気を良くしたのか、さらにヤツは言葉を紡ぐ、

「他に例を挙げれば、

 対物障壁の発動条件に『指定範囲内に物体が侵入』とすれば自動で障壁が張れる」

「そんなもん、別にずっと張ってればいいんじゃないのか?」

 さすがに防御系魔法の詳細は全然わからない、率直な意見で返した。

「いや、障壁を持続し続けるのは燃費が悪すぎる、」

「なるほど、接触の瞬間だけ発動すれば魔法力の消費も少ないわけか、

 段々理解出来てきたよ、これは魔法力の消費効率の大きなメリットだな」

「肯定だ、もちろんデメリットもある、

 術式を展開し続けるので他の魔法が使えない」

「一長一短だな」

 いかに便利な道具があろうとも人間の頭で処理する以上、限界はあるわけだ。

「傾向として、攻撃魔法で、それも高位になるほどだが…

 この手の術式の補助を用いて、起動・発動・干渉指定の制御は難しくなる」

「魔法の構造自体が複雑になるからか」

「うむ、魔力の圧縮、色付けも必要になってくる」

 ルーヴィックが口にした、『圧縮』や『色付け』というのは人間が(・・・)魔法使う上で必要となってくる工程のことだ。

 本来、人の魔力は微弱なもので、詠唱により密度を上げてやらなければ使い物にならない、俺なんて相当低い魔力しか持ち合わせていないので、何度も圧縮工程を踏む詠唱となる、教本によっては『増幅』と提唱していることもある、俺が本で学んだのは『圧縮』だったので、こちらで話を進めていく。

 そして『色付け』というのは、この世界のあらゆる物に宿るという精霊の力を借りて魔法に属性を付与することを指す、勿論それ無しでも発火現象のプロセスで魔法を構築すれば炎は出せるが、同じ炎を扱うなら火の精霊に力を借りるほうが簡単で効果も高い。

 攻撃魔法の大抵が精霊の力を借りることになるので、攻撃魔法イコール精霊魔法と認識されるほどだ。

 余談になるが、俺はその『色付け』が特に苦手だったので、攻撃魔法は全般的に習得は無理と諦めた。

 という知識は俺にもあったので、そこはあえて聞かなかった、「習わなかったのか?」とかまた言われそうだしな。

「あまり凝った術式を展開しようとすると、それ自体が大きな作業になる

 …が今となっては、そこまでやる魔道師もめっきり減ったが」

「準備に手間掛けすぎる…ってところか」

「そんなわけで大戦時の魔道兵ともなると、

 自分専用の法具に刻印を施し、魔法の入力補助機器(デバイス)として活用していたようだ」

「便利な物もあったもんだな」

 本の中に出てくるような大魔道師とかが持ってる杖にはそういう意味があったのだろう、

「登録できる術式は…

 通常の法具でニ~三種類、汎用性の高い物で十種類、単一種特化型で一種だ」

「用途に合わせてイロイロあるんだな…」

 感想を述べながら、カチリと思考が合わさる。

 散々目にしてきた、法具があるじゃないか

「あのグリモワールって本もか?」

「肯定だ、あれはおそらく最高峰のものだと認識している」

 俺は、オイゲンの屋敷でのアビスの反応を思い出した、

 なるほど、魔道師として当然の反応だったわけだ。

「ちなみに、何型の法具になるんだ?」

「超高汎用性の多種特化()型だ」

 凄い言葉が出てきたものだ、

 俺は言葉を心の中で反芻し、意味を冷静に品定めする、

「随分とチートな性能なんだな…」

 それにしても意外だったのが、ヤツがこれほど魔法に詳しいとは、

 リウェンの言葉だったら納得したかもしれない。

 俺はその疑問を素直に投げかけた、

「お前がそんなに魔法詳しいとは意外だよ」

「なに、妹からの伝言を俺の言葉に代えて伝えているだけだ」

 ヤツは表情を変えずにアッサリと言い放つ、

 妹…からの伝言だと……?

「リウェンからの伝言か?」

「肯定だ、お前がヒールを使えはするが、

 効果が悲しいくらい薄いとリルから聞いていたらしい、」


 俺が回復魔法を使っているところを見たのはリルドナだけだ、

 あの女の口からどう伝わったやら、少し不安になるが…

 俺の思案の終わりを待たずに、ヤツは口を開く、

「同じ魔法を使うのでも運用法次第ということを伝えたかったらしい」

「気持ちはありがたいが、まるで先生みたいだな」

 俺は学生時代に、苦手科目を出来ないことに「工夫してみろ」と言い放った教官を思い浮かべた、

 どう工夫すればいいか、それがわかるならとっくに克服出来ているだろう?

「リウェは双鎌十字(ツヴァイクロイツ)の魔法校の卒業生だ」

「魔法学校を出てたのか…」

 俺は詳しくは知らないが…各地に魔法を教える学校が今もあるらしい、優秀な魔道師を育成し、

 魔導兵団を作り上げる国策の一環と思っていた…大戦時はきっとそうだったのであろう。

 ただ誰でも入学出来るというわけでもなく、才能ある子供だけがその狭き門を潜ることが許される、

 入学出来るだけでもエリートなのだ、その卒業生ともあれば一級の魔道師のはずだ、

「さらに付け加えると、その年の主席だったらしい」

「優秀すぎるぞ…」

「お前の思う、口先だけの教官よりも教えるに向いていると思うが?」

 コイツ…また思考を読みやがった、

 イチイチ驚いて反応して見せるのも癪だったので、何事もなかったように返す、

「それはグリモワールの力なのか?」

「さすがに評価は法具無しで判断される」

 俺の的外れな質問に、ヤツの当然な答え、

 法具に全て依存するなら学校の意味が無いよな。

 俺は納得していたが、さらにヤツは言葉を続ける、

「そんなものに頼らなくとも、リウェの魔法は充分強力だ」

 ヤツはさも当然のように、そう言い切った、コイツが言うくらいだ相当なモンなんだろう。

 俺はまだ、リウェンの魔法は回復魔法――それもウサギ対象――しか見ていない、

「どんな魔法を使うか知らないが…

 もし本気で魔法を、それもグリモワール有りだとどうなるんだ?」

「ふむ?」

 俺の言葉にヤツは少し視線を逸らし想像の旅へと発つ、

 が、すぐに帰還し、こう俺に告げた、

「お世辞込みで言えば……国一つ滅ぶ」

 笑えない冗談だ、あんな小さな少女が国一つ滅ぼすだって?

「あまりリウェンを怒らせるようなことはしてはダメか……」

 もう鼻を摘んだりしないからな?

 ――いえいえ、私はそんなことしませんよ?――


 そんな彼女の声が聞こえた気がした、

 そうだよな、出来てもやるとは限らないよな。 

 そしてヤツの声で現実に引き戻される、

「というわけで、これを読め、」

「へ?」

 渡されたのは折りたたまれた一枚のメモ用紙、

 ソレを開くと、可愛らしい丸字が目に飛び込んできた、

 内容を読み出すよりも早くヤツは言葉を投げかけてくる、

「お前が使うヒールの呪文(スペル)を方陣に置き換えたものらしい」

「方陣?」

 手にしたメモの可愛らしい文字の、さらに下に視線を滑らせる、

 見たことの無い文字と円で構成された図形が書いてあった。

「法具があるなら、それに刻印してもいいが――」

 そこで言葉を切り、ルーヴィックは左手の指で虚空に(・・・)何かを描く(・・・・・)

 それは微かな銀色に光る魔方陣、注視しようと目を凝らすが、すぐにフッと消えてしまった。

「――お前は、法具もないし、このように虚空に描けばいい」

「いや、それどうやるんだよ…」

 しかし俺の問いには答えず、ヤツは俺の手元を指差す、

「書いてあるから、読めと?」

「肯定だ、それを書いた妹の労力を尊重する」

 変なところで律儀というか、気が利くというか…

 …カチリ、

 ――いや、まて

「でも、今は読まないぞ?」

「ふむ?」

「お前は俺を『ずるべたーん』させたいんだろ?」

 ヤツは答えなかったが笑顔(・・)が応えていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ