6-2 意外と素直になれません
相変わらず森の空気は重く、冷たい。
俺はその空気を押しのけように駆け、ゼルの「走ると危ねぇぞ」という声にも「やる気満々じゃないか」というロイの激励も置き去りにし、ただただ突き進んだ。
初めは迂闊に走れば転倒し兼ねないと思っていた森も、
慣れてくれば意外と走れるモノだ、
そう長くない時間で先行する団体に追いついた。
俺の到達に気付き、黒い細長い影がこちらを向いた。
「ほう、もう傷はいいのか?」
「何故か、バッチリ癒えた…えーっと、リルドナは?」
「ふむ?」
ル-ヴィックは相変わらずの無表情の鉄仮面でこちらを見据えている、
それは値踏みするような仕種にも見てとれた……
そしてヤツの戦塔の迎撃窓のような口が開いた、
「なるほど…お前もか、」
「な、なんだよ…『も』って」
そして例の笑顔を見せる、
「さて、なんのことやら」
「で、どこなんだよ?」
俺は嫌な空気を振り払うように、少しトゲのある口調で促した。
しかし、ヤツにそんな攻撃は通用しない…まるで意に介すことも無く、
「少し暴走気味に走り回っているだけだ――」
そこで言葉を一端切り、懐から時計を取り出し一瞥し、
「あと三秒だ」
「おい、短いぞ?!」
何にツッコミを入れるべきか定まらぬまま、間の抜けた言葉を発してしまった、
今一度、声掛けなおそうとを言葉を模索している間に――
「あーっ!」
「う゛」
いつの間に姿を見せたのか、彼女を鉢合わせしてしまった「バッタリ出会う」という感じだろうか…先程の決心は何処へやら、すっかり言葉に詰まってしまう。
視線をヤツにスライドすると、やはり笑いを堪えているようだ、
素直に「すぐに戻ってくる」と言ってくれればいいのに……やはり性格悪い!
そして視線を彼女に戻す、ん…?何か手に持って――
「あ゛」
俺の視線に気付いたのか、サッと後ろに隠す。
そして相変わらずの目をクリクリと泳がせる彼女…
しかし、それが何なのかすぐに見当が付いた――例の救急箱だ。
――っ。
その瞬間に何かの感情が爆ぜた、自然と口が開く、
「さっきはすまん!」
「えっ?!」
「謝りもせず逃げて、挙句に悪魔呼ばわりだ、そりゃ怒るよな……」
「――っ!」
周囲に他の人間がいるのもお構い無しに俺は頭を下げた、
その言葉に彼女は戸惑った素振りを見せ「別にいいわよ」とそっぽを向き離れようとしたところを、ルーヴィックにガシッと頭を掴まれワシャワシャと頭を撫でられ、拾われた仔ネコのように大人しくなるのだった。
状況がわからず、唖然と立ち尽くす俺に対し、
「今のでいいんじゃないかな?」
「うむ、問題ない」
ロイとルーヴィックのそんな言葉が降り注いだ。
そして俺の思考が追いつかない内に、リルドナはヤツの手から開放され、お魚咥えたノラネコのように逃げ去った。
なんだなんだ?
俺の肩に手が掛かる――ロイの手だった。
「リルちゃんもキミに謝りたいと思ってたんじゃないかな」
「はぁ…そうなんでしょうか」
突然の出来事に、間の抜けた声しか出せなかった。
ちゃんと謝ることが出来たのだろうか…




