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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
三日目
28/81

5-6 最初の襲撃



 俺たちが無駄話に花を咲かせ、突き進み続けて数十分。

 元々、段差が多い森だったが、その区画は一際それが顕著だった。

 そこは森の中であってあたかも断崖地帯。

 そんな中、ルーヴィックは突然声を漏らした。

「止まってくれ、ブルーノ卿」

「私はただの執事だ、卿は要らん、どうしたんだ?」

 突然の行軍停止に一同はざわめく。

 ルーヴィックの視線の先は切り立った崖。

 そこに何があるというのだろう?

「ここだ、ここでいい、」

「はぁ?この岩の壁がなんだっていうんだ?」

 ゼルがそういい、崖に手を掛けようとした。

「触るな!」

 ルーヴィックの鋭い声に手が止まる。

 滅多に聞けそうに無い貴重な声だった。

「また振り出しに戻ることになる」

「――! ということがコレが?」

 そこでカチリと思考が繋がった。

 確か、お伽話にもあった、『貴婦人の閉ざした門』というやつか?

「ブルーノ卿、ここを『ソレ』で切り裂いてくれ」

「うむ、わかった…」

 ブルーノは例の剣の鞘を取り出し、ルーヴィックの示す岩壁に歩み寄る。

 そして、鞘を剣のように構え振り下ろそうとした、その時…


<人の子よ、此処はそなた達が踏み入って良い場所ではありません>


「――?!」

 不思議に響く声だった、人の言葉を発しているが、人のソレとは思えない。

 この声が『泉の貴婦人』なのか?

 臆すことなく、ブルーノは言葉を返す、

「泉の貴婦人よ、ご無礼承知でここを通ることをお許し下さい」


<なりません…ここより先は――ちょっアンタ――>


 話途中に鞘は振り下ろされていた。

 そして、岩壁の絵が描かれたガラス壁面が、ヒビわれて砕け散るように、

 目の前で偽りの空間が割れて、真の空間が姿が顕す。

 にわかに信じがたい光景だった。

 他の人間もそうであったのだろう、皆言葉を失っている。

 何故かリルドナが笑いを堪えつつ「化けの皮剥がれてるわよ」とか漏らしているが、今は無視。

 この女の笑いのツボがイマイチ理解できない。

「では、行くぞ」

 ブルーノの声にぞろぞろと皆付き従う。

 幻の壁面の向こうには、薄暗い道が続いていた。

 別に狭いわけじゃなかった、一列になって進むとか、腰を屈めたりすることもない。

 だが空気が明らかに違う、得体の知れない何かが圧し掛かるような感覚。

「ここからが、魔獣とやらの領域か」

「そうだな、そろそろ無駄口はつぐんだ方がいい」

 俺の呟きに、律儀にルーヴィックが答えた。

「無駄口ついでに聞くぞ?どうして、ここだとわかった?」

「そうだな、音だな」

「音?」

「この岩壁だけ音を反射しなかったんでな」

 なるほど、と言いたかったが、そう簡単に判別できるのか。

 コイツならやりかねないが…。

「さすがだな、そのまま最強の駒は俺を守ってくれると思えばいいな」

「ほう、調子がいいな?」

「差し詰め、盤上の女王(クイーン)だな」

「俺は男だ女王(クイーン)にはなれんし、そもそも買いかぶりすぎだ」

「じゃあ、何だ?」

城兵(ルーク)だな」

 充分強い駒だろうが…という気持ちはサックリ切り捨てる。

 俺は気を引き締め直して足を進めた。

 日はまだまだ低く、朝の空気は冷たい、

 ここは一段と冷えるように思えた。



 深い森を招かざる俺たちは進む。

 相変わらず足元は起伏が多く歩き辛いが、

 もう人工の建造物の残骸は見当たらなくなっている。

 やはり本当に人の立ち入らない場所のようだ。

 誰も言葉を発しない、ピリピリとした緊張の空気がだけが聞こえるようだ。

 ――これだけの人数がいて、無言。

 発せられる警戒の緊張感は音が無くても騒がしく感じる不思議な感覚だ。

 音は無いことは無い、柔らかい大地を踏みしめる音。

 あとは、各々の荷物が固有の声を奏でるくらいだ。

 静寂と沈黙は違う、長時間の沈黙は人間には耐えがたいものだ。

 そして耐え切れなくなった者は口を開く…それは勿論――

「ねぇ~なんていうか、こうヒマよねぇ?」

 このノラネコのような女だ。

 ていうか、空気を読め、

 ログと空気を読めないヤツは冒険者失格だぞ?

「ヒマとか言うな、これは仕事だ」

「うーん、まぁそうなんだけどね~」

 つい返事をしてしまい、リルドナは(みず)を得たネコ(サカナ)のように活気付く。

 正直、俺も沈黙はきつかったということだろう。

「仕事なんだから、周囲に警戒配っておけよ」

「んー、でも、」

 そう答えながら、彼女はキョロキョロする。

「もう囲まれてるんじゃないかしら?」

「え?」

 今、とんでもないことを言わなかったか?

 言葉の意味を理解し直そうとした、その時 


 ガサッ!

 不意に視界の端の茂みから何かが飛び出した。

「――いっ?!」

 それは大型の獣、

 一見して猫のように見えるが、サイズが違いすぎる。

 リンクスというヤツだろうか?

 俺は咄嗟に腰の剣を抜く。

「気付いてるなら、早く言え!」

「だってぇ…喋っちゃダメみたいだったんだもん……」

 そんな可愛らしくシュンとしてもダメだ。

 先に「ヒマよねぇ」とか言う前に教えろ…。

 獣は次々と姿を顕す、その数は数十匹。

「いかんな…散開しろ!」

 ブルーノの声に、一同は動き出す。

 正規のパーティを組んでいるわけでもないんだ、

 各個人で立ち回るほうが都合がいいわけだ。

「くっ!」

 俺は迫り来る獣の鋭い爪の一撃を凌ぐ、

 さすがに動きが速い、反撃する前に間合いが開く、

 足場が悪く、下手に走れば転倒するかもしれない。

 一方相手は庭同然の森だろう、遠慮なく走り回っている。

「このっ!」

 そこに続けて、また爪の一撃が放たれるが、これも凌ぐ、


 ガサッガサッ…

 不意に背後からの物音、

 そして耳に流れ込む荒い息遣い。

「――!」

 振り返ると、そこに別の獣が姿を顕し、

 今まさに俺の首に飛びかかろうとしていた。

「がっ――?!」

 俺は側面からの衝撃を受け吹っ飛んだ。

 辛うじて、受身を取るが…おい、痛いぞ?


「なに、礼はいらんぞ」

 視線を向けると、首の無い(・・・・)先程の獣と、刃を抜いたルーヴィック。

 あの一瞬で獣の首を刎ねたらしい。

 俺は身を起こし、ヤツに言葉を掛ける、

 礼を?いや違う。

「だからって蹴り飛ばすんじゃねぇぇ!」

「コラー!ちゃんとお兄ちゃんにお礼を言いなさい!

 ――ネコでもお礼を言うわよ?」

 俺の悪態にリルドナが激を飛ばす。

 なんでイチイチ俺はネコと比較されるんだ。

「リル、荷物を頼む」

「はいはい、かしこまりっ!」

 荷物をリルドナに任せたルーヴィックは大きなリュックに姿を変えていた、

 ――のではなく、荷物を置き去りにして動き出した。

 俺も荷を降ろし、身軽になる。

 それは当然、命のほうが大切だから。


 ズゥ…ン

 不意な振動、地震か?

「おい、邪魔だ…」

「な…!」

 不意に目の前を巨大な鉄の塊が倒れこむ。

 その正体は、巨大な幅広の剣。

 打ち下ろされると同時にズゥーンと小さな振動が起きる。

 剣の下には…見たくも無い肉塊が、なんとも哀れな姿だ。

「もう少し離れろ、巻き込みそうだ」

「す、すみません」

 巨漢の剣士――ガディだった。

 その体格に負けず劣らぬ巨大な剣を振り回している。

 時折、周囲の樹木を巻き込むが、哀れ罪の無い木は薙ぎ倒されていく。

 俺はそんな木の仲間入りしないように、離れる。

 立ち居地も空気も読めない人物に思えた。


 ドォ…ン

 今度は爆発音、雷鳴か?

 ではなく、これはロイのマスケット銃の音だろう。

 彼は的確に狙いを付け、確実に仕留めていく。

 だが、銃は再装填に大きな隙が出来る、その瞬間を巨大な獣が――

 槍で薙ぎ払われた。

「オラオラッ、堂々と背中向けて隙作ってんじゃねぇ!」

「それがゼルの仕事でしょ、文句言わないでしっかり護衛頼むよ?」

 銃兵を護衛する槍兵、なるほど本当にいいコンビのようだ。

 お互い罵り合いながら、次々と獣の群れの数を減らしていく。


 ゴオォォ…!

 今度は燃えるような熱感、火炎か?

 それはそのまま炎だった、あのアビスという魔道師が炎を発している。

 業火は次々と獣を飲み込み、ただの焦げた肉塊へと変えていく。

 不思議なことに、森の中であれほどの炎を放っているのに、燃えるのは獣だけ。

 何かしらの対象制限をかけているのだろうか、到底俺には真似の出来ない技術だ。


 しかし、魔法の詠唱は銃の再装填と同じく、大きな隙を作る。

 俺の心配に応えるかのように、ターバンにマントを羽織った男――アーカスが割って入る。

 彼は独特の形状の刀剣――カットラスを振りかざし、群がる獣を追い払う。

 この二人、仲間だったのか?

「アンタには触れさせねぇカラ、しっかり駄賃は頼むゼ?」

「わかっている、全く食えない男だ……」

 同じ仕事を請け負っている人間から報酬を取るのか…なんとも曲者だ。

 だが、腕は確かなようだった、口にした通りことごとく獣の攻撃を阻んでいる。


「さすがだな…」

 こと戦闘に関してはまるで俺の出番は無い。

 むしろ近づくと邪魔になってしまう、

 自分が標的にされない限り手出し無用だろう。

 そう割り切り、高みの見物に興じようと視線を巡らせた。

「あ?」

 何やら木陰に置かれた物を漁る小さな人影。

 置かれた物は…俺の荷物だ。

 小さな影は、子供のように見えるが、なぜこんなところに?

 思考を走らせてる間に、人影も走り出す。

「おい、待て――!」

 俺は慌てて追いかけた、少し迂闊だったかもしれない。




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