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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
二日目
21/81

4-4 その知識は間違ってますっ!


「ほーい、おまたせっ!」

「お、待ちかねたぞ」

「ボ、ボク達も一緒でよかったのかな…」

「問題無い、」

 相変わらずトレーを使わず素手で料理を運ぶリルドナ。

 さすがに人数が多いので、持ちきれない分はリウェンが台車に載せて運んでいる。

 本人が転んでも、台車は倒れないので安心だ。

 無駄の無い優雅な動きで、次々と料理が配膳されていく。

「ほぉ、こりゃたいしたもんだ」

 称えられる賞賛は、配膳された料理にか、配膳する仕草へか、

 ゼルは率直な意見を述べる。

「猪の肉は少し臭みが強いので、少し香辛料が多めに配分してます。それと――

 冷めない内にお召し上がる事をお勧めします。今なら臭みもほぼ気にならない筈ですよ」

 次々と配膳される料理について、リウェンが説明を加える。

 居並ぶ料理は、まさに猪尽くしという感じだ。

 小柄な料理長と横柄な副料理長の仕事は踊る。


「――リル、」

「え?お兄ちゃん何?」

「弦が付いたままだ」

 リルドナの目が部屋の入り口へ流れる。

 俺たちも釣られて、視線を移す。

 そこには壁に立てかけられた、長い弓。

 ――リウェンの歩行サポート(?)のために両手を空けたかったリルドナが、

 自分の兄に持たせた物だった、あえてルーヴィックは片付けなかったのだろうか。

「あーいっけな~い」

「特注で作って頂いた職人に対し、失礼に値する」

 リルドナは弓に歩み寄り、弓の上部に手を掛け、その逆を壁に立て掛ける。

「よっ…と、」

 弓に体重を掛け、ゆっくりと弓の湾曲を大きくしていく。

 実にしなやかに曲がる弓だ。

「あれは特注品なのか?」

「わざわざ弦の張りをレフティモデルにしてある」

 そういや、左利きだったな。

 ゼルもロイもその珍しい形状に目を見張る。

 特にロイの見る目は強い好奇心の色があった。

 砲術士としての知識欲だろうか。

 大きく湾曲した弓から弦が外される。

 今度は、掛けていた加重を少しづつ緩めていく、弓は少しづつその姿を元に戻し――

「あれ?」

「へ~そんなになんだ」

 戻る弓はそのまま逆方向に(・・・・)反り返ってしまった。

 元はこういう形状だったんだな。

「これ、倭国の物じゃないの?」

「そうよ~金髪もよく知ってるわね」

 応えながらも弓を細長い布の袋に収納していく。

 相変わらずテキパキとした、器用な手つき。

「んじゃ、コレ片付けて、手を洗い直してくるわ~

 アンタ達、先食べてていいわよ、 ま、臭みが好きならゆっくりでもいいわよぉ?」

 だから、どうしてそんなに嬉しそうに言うんだ…。

 投げ掛ける相手はすでに扉の向こうだった。

 ――しかし、

 なんでこのタイミングで言うのだろう。

「なぁ、別に食事済んでからでも良くなかったか?」

「いや、今でいい、あの手は冷やしたほうがいいしな」

「ん、冷やす?」

「どういうこった?」

 ゼルとロイも意味がわからず問い返す。

 俺にはなんとなく、わかった。

 リルドナは素手で料理を運ぶ、それも冷めないように食器を熱して、だ。

 平然と持っている様に見えるが『熱いのが平気』ではなく『熱いけど我慢できる』なのだ。

 あいつの性格だ、ヘタに指摘すると余計意地になるに違いない。

「意外にも気の利くヤツだったんだな」

「俺はいつでも空気を読んでいるぞ?」

「良くも悪くも読んでくれますよね」

 リウェンはクスクスと笑っている。

 きっと今までもロクな心理戦を繰り広げなかったんだろう…。

「では皆様方、姉もああ言っておりますので、どうぞ遠慮なさらずお先に召し上がってて下さい」

「悪いけど、そうさせてもらうね」

「冷めると臭みが気になるらしいしな」

 ゼルとロイは料理に手を付け始めた、俺もそれに習う。

 料理に視線を巡らせると、様々な肉料理が自己主張をしてきた。 

 しかし、俺の視線を受け止めたのは、肉料理ではなくスープだった。

「リウェン、もしかしてこれって――」

「正解です」

 俺の問い掛けに満面の笑みを見せる。

「昨日、お召し上がりになられたスープと同じです、

 ただ、今日はブルーピースふんだんに使用していますので、また違った味が楽しめますよ」

「そりゃ、楽しみだ」

 早速スープから頂くことにする。

 じんわりと染み渡るあの味だったが、

 リウェンの言う通り微妙にアクセントが違う。

「たしかに、うめぇな」

「うん、これはいけるよ」

 ゼルとロイも賞賛の言葉を発する。

 どうせならリルドナが戻った時にも言ってやって欲しい。

 きっと真っ赤になって照れるはずだ。

「ただいま~って、ホントに先に食べてるし、冷たいわねぇ」

「お前が先に食えと言ったんだぞ」

 噂をすればなんとやら、リルドナは帰ってきた。

「ホントは牡丹鍋もしたかったんだけど、お味噌がなくてねぇ」

「ボタンナベ?ミソ?それも倭国の物か?」

「そうよ」

「ホント、お前は倭国好きなんだなぁ…。

 そういえばさ、お前のソレって――」 

 視線をリルドナの下半身に向ける。

 コイツはスカートを穿いていない――

 おっと、別にパンツ丸出しってわけじゃないからな?

 変な期待しちゃダメだぜ?

 スカートとは違う物を穿いてるという意味だ。

 俺も最初はスカートと思ってたいたが、どうもスカートとは違うものに見える。

 途中で二股に分かれ、まるでズボンのようなのだが、裾が大きく開いている。

 ズボンのようなスカート。 

「ソレも倭国の物か?」

「そうよ、袴っていうのよ」

「へぇ~通気性良さそうだね」

「あれだろ?あの国って蒸し暑いからだろ?」

 ゼルの言葉で昔読んだ本でそういう記述があったことを思い出した。

 なんでも、湿度が高い為に家屋にも様々な工夫がされているとか。

「夏はそうねぇ、でも年がら年中ってわけじゃないわよ?」

「四季がハッキリとした土地なんですよ、あと地域によって天候も様々です」

「そうそう、山を挟んで片や滅多に雪の降らない地域、片や豪雪地帯とか普通にあるもんね~」

 もう一度、昔読んだ本を思い返す。

 その中で見た倭国の地図はとても狭い土地だったはずだ。

 そんな狭い空間でなんとも神秘的な土地だ。

「それでも、蒸し暑いのが苦手なら、北方の島へ行くといいわ」

「ああ、あの菱形の大き目な島か」

「たしか、『えぞ』とかいうんだったかしら、あっちは夏でも涼しいわよ」

 オチは見えたが、あえて聞く。

「冬はどうなるんだ?やっぱり寒いだろ?」

「そりゃ、死ぬほど寒いわよぉ」

 どうしてコイツはこういう話題を嬉しそうに話すんだ。

「真冬にはマイナスニ七三度にまで下がるらしいわ」

「この国より寒いじゃねぇか」

「そうね、倭の国で唯一オーロラが見れる土地みたいだし」

「そんな過酷な環境じゃ、誰も生活できないんじゃないのかな?」

「うーん、その環境下でも従軍し、任務を遂行する特殊部隊を『トンデンヘイ』というらしいわ」

「すっげぇな、そりゃ」

 さすがの傭兵の二人も想像を絶するモノなのだろう。

 過酷な大自然の驚異に晒されながらも、逞しく生きる倭国の民。

 そんな彼らの生活に様々な知恵での工夫を思い浮かべる。

 俺は倭国へ想いを馳せるのであった。


「ね、姉さん、とりあえずお掛けになってください」

「あ、そうね」

 姉に着席を促すリウェン。

 その顔には何故か、カラスに追われる仔ネコのような苦悩の表情があった。

「冷めるない内に、が基本だしね~」

 姉は妹の横に着席する。

 ――?

 なんだおかしいぞ?

 この二人は確か同じ背丈だったはず。

 しかし、眼前には姉が一段高く見える。

 横からテーブル下の様子を伺う。

 すぐに答えは出た。

「おい、」

「何よ?」

「なんでそんな座り方なんだよ」

 そんな座り方とは、椅子の上に膝を揃えて畳んだ状態だった。

 椅子の下には、履いていた黒の平底パンプスが並べてある。

「正座よ、食事する時は基本なのよ?」

「それは椅子の上でするモノなのか……」

「当たり前よ?和の心なんだから」

「なんだよ、和の心って…」

()び、()び、()えよ」

 これも聞きなれない言葉だった。

 視線をリウェンにスライドする。

 目が合った――がすぐに視線を逸らしクリクリと目を泳がせている。

 きっと先程の会話には何か間違いがあるようだった。

「イタダキマス、」

 キッチリと両手を揃え、食べる挨拶をする。

 この辺は律儀なやつだ。

 ――?

 今日はどうも違和感が仕事熱心だ。

 リルドナの右手に握られた一五センチほどのペンのような細い棒。

 それは二本あり、起用に動かしていた。

「お前の持ってるソレって――」

「あ~、コレ? お箸よ」

「じゃなくて、お前左利きじゃなかったのか?」

 今までに、何にするにしても左手だった。

 さっきの弓だって左持ち用の特注品だった筈だ。

「テーブルマナーだからね、倭の国じゃ左利きでも子供の頃から矯正されるらしいわ」

「お前にしては、聞き分けがいいんだな…」

 変なところで律儀だ。

「それに右で扱うほうが便利なときもあるのよぉ?」

「ほう?」

「こうやって、お行儀の悪いコには――」

 ガキッ

「何しやがる!」

「コラ、ガードしないのっ!」

 一瞬の出来事だった。

 リルドナは右手に持つ『箸』の反対側を左手で掴み、

 そのまま持ち替えたままゼルの頭を殴打しようとしていたのだ。

 流れるような一瞬の動きだった。

 それを食事用のナイフでガードしたゼルもさすが戦闘のプロといえる。

「だってヤンキーじゃない~?」

「それは勝手にお前が呼んでるんだろうが!」

「ゼル、確かに行儀は悪かったと思うよ」

 確かに、テーブルに肘を着いて行儀は悪いと思う。

 ――だが、いきなり殴りかかるのはどうかと…。

 俺よりも反撃性能の高いゼルは尚も抗議していた。

 リルドナも負けては居ない。

 食事中だぞ、お前ら。

「大丈夫か?ナンセンスだぞ」

「なんだよ、いきなり」

 不意に錆びついた鎧戸ように閉ざされた口を開いた。

 すっかり存在を忘れていたが、ヤツも同席していた。

 ヤツは顔色一つ変えずにサラリとこう言った。

「冷めるぞ?」

 それはとてもご最もな意見だった…。

 誰も聞いてなさげだけどな。


 外には暗闇の支配。

 虫の鳴き声。

 完全に一日の終わりを告げようとしていた。 



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