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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
二日目
19/81

4-2 死を運ぶ刃



 

「そら、昇格(プロモ-ション)女王(クィーン)だ」

「く…やっぱりか」

「まずは一個だぞ?」

 ヤツの歩兵(ポーン)が俺の本陣に深く切り込み、栄誉を授かった。

 だが、すぐに殉職をしてもらうことにする。

「ちっ…暴れる前に刈り取るぜ」

 ただちに城兵(ルーク)で侵入者を排除する。

「本当にそれでいいのか?」

「うるせぇな」

 相変わらずの対局の時間。

 ヒマさえあればチェスしている気がする。  

 しかし、今回は少し勝手が違う。

 ヤツは騎士(ナイト)を切り込ませてきた。

「ハンデはくれてやったんだ、頑張れよ?」

「全然、ハンデと思ってないだろ…お前」

 ハンデと称して、ヤツが自らに課したのは、歩兵(ポーン)昇格(プロモ-ション)

 それも、両端の歩兵(ポーン)城兵側の歩兵(ルーク・ポーン)だな。

 これらは、『呪われた歩兵(ポーン)』と言われ、昇格(プロモ-ション)が困難とされる。

 盤面をじっくり見てくれたら、なんとなく判ると思う。

 ヤツはそれらを二つとも昇格(プロモ-ション)させた上で勝利するという。

「結局、お前に絡め取られてる気がして仕方ない!」

「人聞きの悪いこと言うな。そら、お前の手番だ受け手を聞こう」

 ヤツはハンデそのものを囮にし、次々と陽動を仕掛ける。

 実際問題、何手までに昇格(プロモ-ション)しろいう制限がないので、非常に厄介だ。

「なら、その歩兵(ポーン)を刈り取るまでだ」

「良い心意気だ、だが手損(ロス・オブ・テンポ)にならんようにな?」

 ヤツの挑発を無視し、もう一度盤面を見据える。

 ――さっきの騎士(ナイト)はどういう意味がある?

 …。

 ガチャ。

「ちょっと!お兄ちゃん、ごめーん――あ、」

 ――コンコン。

 いや、遅いぞ、入ってからノックするな。

 この女、とうとうパターンを変えてきやがったな。

「どうした?」

「ちょっと猪解体(バラ)してほしいのよ」

「なんだ、まだ切って無かったのか?」

 先程、仕留めた猪をまだ捌いて無かったようだ。

 というか、どういう料理になるんだろうか…。

 猪って豚みたいな肉なんだろうか?

「十六分割くらいでいいか?」

「先に毛皮剥いでよ」

「ふむ、とりあえずそちらに行く」

 ガタンと席を立ちつつ、左手を腰に回す。

 やっぱり、あの短刀でやるつもりか?

「すまんが、ゲームを中断する」

「ああ、長考させてもらうさ」

 さて、このf4の騎士(ナイト)、それとh4の城兵(ルーク)、並んで何を狙っている?

 うーん…。

 むぅ…。

 …。

 部屋を出て、小屋からかも出る。

 炊事場は勿論外にあるからだ。



「あれ、アンタもきたの?」

「悪いか、気になって仕方無いだよ」

 俺の顔をみて、にやぁ~と笑う。

 本当に、表情豊かな女だ。

「こっの野次馬ぁ、やらしいわねぇ」

「なんでそうなるんだよ…」

「まぁ、アンタだけじゃないけどねぇ~」

 リルドナの視線の先に視界をスライドする。

 固唾を飲んで見つめる金髪の男と、

 その横に槍を手に何かしている途中の男。

 ――槍の穂先を交換しているように見える。

 先程の傭兵二人組、ゼルとロイだった。

 その表情は険しい。

「どうしたんですか?」

 適切な言葉など見つかろう筈もなく、俺は間の抜けた質問をする。

 先に反応示してくれたのは、やはりロイの方だった。

「ボク達はちょっと通り掛かっただけなんだけど――なぁ、ゼル?」

「チッ…なんなんだよ、ありゃあ」

 苦しげにその重い口を動かしている。

 ルーヴィックに視線を移す。

 何やら猪『だった』物を前に吟味している様だ。

 もう毛皮の無い肉の塊だ。

「猪の肉としか言えません」

「んなコトはぁ判ってる…」

 会話が噛み合わない俺達。

 それもそうだ、俺は途中から顔を出した。

 戦況の膠着を打破すべく、リルドナがヒョッコリ間に割って入る。

「ヤンキー顔も金髪も、お兄ちゃんの刃捌きに絶句してるだけよ」

「誰がヤンキーだ、コラ!」

「金髪…は勿論ボクのコトなんだろうね」

 明らかな反感を示すゼルと、苦笑いだけで済ませ大人の対応を見せるロイ。

 つくづく、この女の命名センスは容赦が無い。

 まぁ、金髪ってのはそのまんま過ぎる気がするが。

「不思議だな、金髪って言い方がお前にしては上出来に思える……」

「なによ、アンタもこういうのがいいの?」

「無能よりはマシのはずだ!」

「んじゃ、栗毛」

「俺は馬かよっ!」

 ちなみに俺の髪は茶、他人が言うには少し赤みが掛かってるらしい。

「じゃあ、チャバネ?」

「もう哺乳類ですらないぞ…」

 火薬の少なすぎた銃声みたいに可愛らしく「チャバネ?」と言ったが却下だ。

「キ、キミたち仲いいねぁ…」

 乾いた笑い声でロイが感想を告げる。

 不毛な言い合いは、ルーヴィックの投石ような一声で打ち切られる。

「骨はどうする?」

「あ、ブツ切りでいいわ、骨ごと行った方が味がでるしねぇ~」

「ふむ、心得た」

 キン…。

 と短く金属音が鳴ったかと思うと、凄まじい速さで刃を振るう。

 次々と切り裂かれる肉塊、目の錯覚か刃が宙を舞い切り裂いている様に思える。

 それは、斬撃の弾幕、近づく者の命を容赦なく奪い去る死神の様だった。

「すげぇ…」

「でしょ?」

 腕を組み得意げにするリルドナ。

 別にお前を賞賛している訳じゃないだぞ。

 その横に視線を移す。

 戦闘のプロである傭兵の彼らも言葉を失っている。

 あれが人間相手でなくて良かったと正直思った、

 あんな光景が繰り広げられたら…しばらく肉なんて食えなくなるはずだ…。

「こんなものでいいか?」

「うん、バッチリ!ありがと、お兄ちゃん」

 笑顔で礼を述べる妹、事も無げに応える兄。

 こいつら一体何なんだ?

 余りにも飛び抜けた性能。

 実力に不釣合い外見。

「しっかし、マジでデカイ猪だな」

「こんなのよく仕留めたね」

 見れば見るほど大きな肉塊。

 ちょっと夕食にするには多すぎる食材に思えてきた。

 その思考を汲み取ったのか、エサに群がるノラネコのようにリルドナが動いた。

「ねぇ、アンタ達って豆好き?」

「「はぁ?」」

 何処かで聞いたことのあるフレーズだった。




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