3-4 リウェンのないしょ!!
「ほら、これで全部だ」
「ありがと」
部屋の隅に荷物を固め、適当に開いている椅子に腰掛け、一息ついた。
小屋――といっても、そこはしっかり改装され、ちょっとした宿舎として機能していた。
部屋もいくつかあるし、最低限の生活設備もある。
これを自由に使って良いというのだから、金持ちというのは実に羽振りがいい。
「まだ寝てるのか?」
「うん、もうぐっすりよ」
部屋に置かれた簡素なベッドでリウェンは寝息を立てている。
その表情は穏やかで、顔色も良くなっていた。
ベッドの傍らの椅子に腰掛け、リルドナは複雑な表情を浮かべている。
「また…無理しちゃったのかなぁ、この子」
「こんなんで明日から大丈夫か?」
俺の問いに顔を曇らせた。
聞いちゃ不味かったかもしれない。
「そのために、あたしが居るからね~大丈夫よ」
「実はな、さっき――」
言わなくていいかもしれない事を思わずリルドナに話してしまった。
先程から拭えない不安が判断をおかしくしているようだった。
「あ~、あのヤンキー顔かぁ、
あたしもアイツ嫌いよ、なんていうか、乱暴なもの言いとか何様?って感じ」
それは目の前の女も該当すると思うのは俺の気のせいか?
「この子、身体は弱いけど、魔法使わせたら天才よ?」
「だろうなぁ、イメージピッタリだ」
「あれ、驚かないのね?」
「お陰様で耐性が付いたんだよ…」
消去法で行けば、魔法使いというポジションしか思いつかない、
絶対に戦士・盗賊とか定番職がこなせるとは思えない、というか思いたくない。
「神聖魔法が得意だから、回復の要になれるわ」
「そりゃ、ありがたい、
どこぞの凶暴女に殴られた時は是非お願いしよう」
「言ってくれるわねぇ」
憎まれ口を叩き合いながら、リウェンの寝顔を見守る。
どうやらリルドナを元気付けることに成功しつつあるようだった。
「――それなら、ちゃんと説明してやった方が誤解がなくていいな」
「なんて言うつもり?」
さて、どうしようか?
この子は魔法が使えるから足手まといじゃないです!キリッ
イマイチだ…。
そこにヤツの声が飛来した。
「――その必要は無い」
振り返り、何処へ行っていたかと詰めるつもりだった、
しかし、俺の意に反し開いた口からは別の言葉が漏れてしまった。
「お前…その格好どうしたんだ?!」
現れたルーヴィックは、左手で逆手に抜き身の刃を握っていた。
独特な形状のやや長めの短刀だ。
そしてヤツの表情は相変わらず鉄仮面のような無表情だが――
まるで手にした刃のように殺気を帯びていた。
「あぁ?すまん、抜き身のままだったな」
さらに、一見真っ黒な服装の為気付け無いが、注視すると所々裂けてしまっているのが判る。
勿論――馬車から降りた時には無かったものだ。
視線をリルドナへ移す――さすがのコイツも言葉を失い、怪訝な顔を浮かべている。
「少々、手荒な真似だったが…、ご理解頂いて来た」
ガキン…と、
俺の心配を他所に、耳障りな金属音を立てて後腰の鞘に刃を収める。
「何してきたんだよ。」
「なに、ほんの『少しだけ』お手合わせ願って来ただけだ」
誰に?――いや、わかってるさ。
「さっきのゼルって男か?」
「実にいい腕の持ち主だった」
満足そうにそう語り、また例の棋譜ノートを眺め始めた。
「で、お手合わせの結果はどうした?」
「ステイルメイト――いや、引き分けだな」
「へぇ~お兄ちゃんと引き分けだなんて、あのヤンキー顔もやるわね」
リルドナよ、お前はきっと勘違いしている…。
ヤツは今、ステイルメイトと言ってから、引き分けと言い直したんだ。
――ステイルメイト――
自分の手番だが、駒を動かすと自殺になっちゃうヨ!という状態、もちろん動けない。
打つ手無しの状態の筈だが、面白い事に、これは膠着状態とみなされ引き分けになる。
追い詰められた時の苦肉の策ともいえる。
それを踏まえて考えると、意味は二つ思いつく。
――追い詰められて負けそうだったが、なんとか引き分けに持ち込んだ。
――追い詰めていたが、敢えて引き分けにしておいた。
のどちらか。
「お前の性格だとなぁ……」
きっと後者に違いない、
前者なら最初から、引き分けという筈だ。
「何か言ったか?」
「いや、何も~」
改めてルーヴィックの得物を見る。
――やや長めだが、ショートソードよりかは短い短刀。
――ゼルの得物は確か、槍。
どう考えても、ルーヴィックの方が不利だ。
「お前、ついでにプライドを打ち砕いて来ただろ?」
「さぁな、こちらも戦力として通用すると示しただけだ」
トコトン性格悪いなコイツ。
その分、頼もしいヤツということはハッキリした。
「んじゃ、もうケチ付けられることも無いんだな?」
「ああ、問題ない。
――が、リウェは置いて行く」
「どーしてよ!?」
俺よりも先にリルドナが抗議を飛ばす。
よし、俺も参加しよう。
「そうだ、リウェンを置いて行ったら、誰がこの女の暴力から救うんだ?」
「コラ、調子に乗るな」
ペシっと叩かれる。
なんかいい感じに漫才ができる仲になってきた、あまり嬉しくもないが。
「冗談はさておきで、置いていくとしても、ちゃんと本人と相談してやれよ」
「そうよね、決定はせめて起きてくるまで、待ってあげてよ」
リルドナと共に抗議に参加する。
ヤツは懐から時計を取り出し思案する素振りを見せた。
「なら、あと十二秒待て」
「はぁ・・?」
十二秒?
俺とリルドナは眠れるお姫様をじっと見つめた。
…………。
………。
……。
…。
パチリ
「あ…」
リルドナが思わず声を漏らす。
…本当にキッカリ十二秒だった。
リウェンは、ぼんやりした表情のまま、
視界にリルドナの姿を認め、顔だけを向ける。
「あ、お姉ちゃん、オハヨー」
「おはよう…あ、あはははは…」
クリクリと目を泳がせながら、指で向こう見てみろジェスチャーをする。
――つまり、俺とルーヴィックの居る位置だな。
「なぁに~?」
違和感が――そろそろ、俺の出番だな――と呟いた気がした。
おねえちゃん・・?そんな呼び方だったか?
リウェンがむくり身を起こし、俺と目が合った。
「よ、おはよう、よく眠れたか?」
「…………」
金魚の様に口をパクパクさせ震えている。
何かを言おうとしているが、うまく言えないようだ。
プツン。
何かが切れたようだ。
「ああああああぁぁぁぁぁ・・・!」
ガバっと布団を頭まで被って隠れてしまう。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・。」
「おーい…」
「忘れて下さい、忘れて下さい、忘れて下さい・・・・。」
「えーっと…。」
「お願いします、お願いします、お願いします、忘れて下さい、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします…」
巣穴を塞がれたシマリスのように完全混乱しているようだが、
もう何がなんだか…こっちもパニックだ。
「ちょ~っと、二人とも席外してもらっていいかしら?」
「お、おう…。」
二人揃って部屋を追い出され、廊下に立ち尽くす。
まだ中からは「忘れて下さい」が連呼されている。
「ど、どうしたんだ、一体…」
「うーーーむ…」
ため息を漏らしながら何かを思案している。
何か知っているのか?
「仕方ない、」
「なんだ?」
「一局指すぞ」
「また、それかよ…」
元々、違和感はあったんだ。
ルーヴィックを『お兄様』と呼び、
リルドナを『姉さん』と呼んでいた、不自然だったんだ。
家庭の事情だろうし、聞いてはいけないことと思ってた。
不安がまた俺に堆積していく気配がした。
さっきからおかしい…。




