3-3 芽生えた疑念
――ルフェの森。
――フォレスト・ルフェ――妖精の森。
ファルクスに東方に位置する広大な森。
森林信仰する者には、神々が住まう神聖の森。
詩を奏でる詩人には、妖精の住まう幻想の森。
狩りをする狩人には、獲物が住まう狩猟の森。
一時は戦火に巻き込まれ、多くの木が焼けてしまったが、
時が傷を癒し、力強くまたその姿を顕してくれようとしていた。
戦争の残骸というトゲをその身に宿したまま…。
森の入り口にある、いくつもの小屋。
その前には六台ほどの馬車が停まっている。
「んじゃ、アンタは悪いけどあたしの荷物もよろしくね」
「あいよっ」
ズシリ。
かなり重い、何入れてるんだ?
素直に何往復かしよう…。
「すまんな、あいつの荷物は重いだろう?」
「かなり――なぁ……」
リルドナはズンズンと先に小屋へと姿を消す――リウェンを背におぶって。
あの後、リウェンは一度も目を覚まさなかった、
リルドナがあれほど大声を出したのにも関わらずだ。
「よく寝てるなぁ」
「途中で何度も起きないように、相当深い眠りにしたんだろう」
リウェンの荷物を運びながら、少しおかしな表現をした。
深い眠りにした、深く眠っているではなく。
聞いてやろうと思ったが、スタスタと先に行ったしまうので、慌てて追いかける。
応える気は無いらしい。
ならば俺は話題を変える。
「なぁ、周りの連中は随分と物々しい装備だよなぁ」
「うむ、彼らはお前と違って戦闘要員だ、頼もしい限りだろう?」
長大な槍に、刃幅のゴツイ大剣…おいおい、マスケット銃まで持ってきてる奴がいる。
コイツら戦争でもする気なのか?
「おそらく、彼らは冒険者ではなく傭兵だろう」
「戦闘のプロ集団ってわけか」
武器博覧会と貸した停車場を横切り小屋に荷物を次々と押し込む。
俺の武器?
腰の後ろに帯びたショートソード一本、
あとはリュックの中に山羊脚式のクロスボウ一丁だ、これだけあれば充分だろ?
おそらく、荷物を降ろし終えたのであろう魔道師の男――アビスとばったり会った。
「おや、あのお嬢さんはお疲れなのですかな?」
「乗り物に弱いらしいです、かなり調子悪いようでした」
「おやおや……」
不意に鋭い声がやりとりに割って入る、
「――おいおい、遊びに来てんじゃねーんだぞ?」
声の方に目を向けると、槍を手にした男が居た。
体格はかなり良いほうだ、逆立てた髪に日に焼けた顔、いかにも傭兵といった風貌だ。
「まだ、森に入ってもねーんだぞ?
そんなんで明日から大丈夫なのかよ、こっちは命懸けで仕事してるんだ、勘弁してくれよ!」
勢い良くまくし立てる男の前に、さらに別の男が割って入る。
こちらも同じくかなり体格の良い男だ、金髪でどこか人懐っこい顔をしている。
「ゼル、そんな言い方しなくてもいいだろ?」
「だがよぉ…」
「ボク達と違って戦場走り回ったりしてないんだ、一緒の考えを押し付けるのは良くないぞ」
「ちっ、ロイは甘えなぁ…」
舌打ちし悪態を着くのがゼル、金髪の方がロイというらしい。
ロイと呼ばれた男は右手を差し出す。
「ボクはロイだ、よろしく、
えーっとキミはムノー君…だったよね?」
「…エインです、」
握手しながら、握りつぶしたくなる衝動に待機命令を下し、自己紹介を交換する。
この男はさっきマスケット銃を手入れしてた奴だな。
片方の男も渋々と口を開く。
「ゼルだ、いいか?足引っ張るんじゃねぇぞ?」
「やめろって――
気を悪くしないでくれよ、コイツは口が悪いだけかだらさ」
尚も罵声を浴びせようとするゼルを、呆れ顔のロイが小屋のほうへと引っ張っていった。
その間も、延々と何かを喚こうとしているように見て取れた。
二人の姿が小屋へと消える。
周囲が静けさを少し取り戻し、俺は思考を張り巡らせる。
ゼルの言う事は間違ってないと思う。
そして、それは他の人間も思っていることだろう。
周囲から向けられる視線は決して好意的なものとは思えなかった。
「――エイン、」
「ん?あ、あぁ何だよ?」
急に意識をルーヴィックが引き戻す。
コイツも作業の手が止まっていたようだ。
「悪いが、あと頼んでいいか?」
「いいけど、どうした?」
質問への質問となる問い掛けには応えず、そのままロイ達が向かった小屋へと歩いていく、
その背中には、「ついてくるな」と言わんばかりの無言の圧力が気取れた。
「まぁ、無理に首を突っ込まないさ」
もう一度、周囲を見る。
今回の仕事のメンバーは十四人。
まず俺。
例の兄妹、ルーヴィック、リルドナ、リウェン。
先程の魔道師のアビス。
それと、さっきの傭兵二人組ロイとゼル。
刃広の大剣を手入れしてたゴツイ男――ガディ
その姿は冒険者っぽいが、一曲ありそうなアーカス。
見るからにガラの悪そうな風貌のゴダール、ボルコフ。
どこか軽薄そうな細身で眼鏡を掛けたスルーフ。
そして、オイゲン――の代理という、執事のブルーノ。
――あれ?
十三人しか居ない…一人足りない。
昨日、集合した時は居た筈なんだが…。
確認しようと、もう一度視線と思考を走らせる。
――!
アビスと目が合ってしまった。
「おや、誰かお探しですかな?」
「あ、いえ…。
昨日、屋敷で集合した時より、一人減ってる様な気がしたので」
「ああ、ザスコ氏のことかな?」
「――ご存知で?」
「うむ、なんでも急遽戻らなくいけなくなったらしく、昨晩に契約解除の連絡があったようですな」
急遽戻る?
そいつ傭兵だったか…ダメだ、全然記憶に無い。
とりあえず、アビスに礼を述べ、俺は作業に戻ることにした。
といっても、大した荷物は残ってなかったので、すぐ運び終えることが出来た。
日はまだ傾いていない。
空は晴れている。
何故か俺の心は晴れなかった。




