3-2 ブラインドチェスは猫も食わず
残念(?)なことに俺は死ななかった。
ヤツお得意の――
「大丈夫か?ナンセンスだぞ」
で救われた。
走行中の馬車の中だ、暴れて万が一事故でも起こしたら大変だ。
バシリスクのように身のこなしが軽いこいつら二人は大丈夫かもしれないが…。
俺は絶対アウトだ。
それ以上にリウェンはマズイ、しかも今は寝ている。
というわけで、この場は何とか凌いだ。
でも、まぁあれだな?
「お前のせいだろうがあぁぁぁぁだらぁぁぁぁ!」
「暇だったんでな」
「うっさいわね、リウェン起きちゃうでしょ!」
とかやってたが、リウェンは全く目を覚まさなかった。
パタンとルーヴィックはノートを閉じる。
そして、こうほざいた。
「仕方ない、一局指すか」
「は?」
「お前も退屈だろう?」
「じゃなくて、ここでか?」
「そうだ。」
「チェス盤も置けないだろう?
置けても揺れて駒落ちるだろう?
あと、ついでに酔うだろぉ!?」
一気にまくし立てた。
つっこむところは、まだまだあるが。
「問題ない、」
「アンタ達、面白いわぁ」
正面ではリルドナがゲラゲラ笑っている。
その膝にはリウェンの頭があった、膝枕ってやつだな。
「目隠し対局なら出来るだろう?」
「俺、やったことないんだが……」
「問題ない、」
「俺の方に問題あるわ!」
「まぁ、やってみなけりゃわからんさ」
何を根拠に…。
錆びついた鉄扉のように無責任なことを言ってくれる。
「で、どうする?返事は『はい』か『イエス』で応えろ」
「…拒否権なしかよ!」
というわけで、生涯初の目隠し対局が始まった。
俺の行動は――
チェスを指すか、
紅茶を飲むか、
凶暴姉に殴られるか、
の三つくらいしか無い気がするんだ…。
「そら、Qg4だぞ?」
「むぅ、Na3でいく」
二人して腕組みポーズで指し手を宣言し合う。
ちなみに、リルドナは目の前で棋譜を記入している。
「ふむ、Ra4だ。」
「目は閉じたほうがいい、余計な情報が入らなくて済むからな。」
なるほど。
俺もそれに習う。
「えーっと、Nc6」
「そんなのあり得ない、そこにはお前の騎士側の歩兵がいるぞ」
「なんで、その行に騎士側の歩兵いるんだよ?」
「八手前にアンパッサンしただろう?」
「そうだっけ?」
棋譜をノートに記していたリルドナに問う。
彼女は無言でノートを突き出す。
意外にも綺麗な字、『18.bc6(e.p.)Qa4』と書かれている。
「く……言う通りだ」
「そら、やり直せ、受け手を聞こうか」
正直、キツイ…局面が全く把握できない。
ヤツは両目を閉じ余裕の表情だ。
呆れ顔で記入を続けるリルドナ、心底ヒマそうだ。
「なら、Kf2だ、一旦離脱する!」
「本当にそれでいいのか?」
「な、なんだよ、」
「本当にそれでいいのか?だ、」
「くぅ……わかんねぇけど、これでいい」
もう頭の中はグチャグチャだ。
良いか悪いかすら判らねぇ…。
「Nf2#…チェックメイトだ」
「な……?!」
「だから確認したんだぞ?」
「それなら、素直に悪手と言え、」
「まさか、全然気付かんとはな…」
無茶言うな。
これは脳によくないゲームだ。
つまりどういう状況かというと、目の前に僧正や女王チラつかされて、かなり前の手番で配置されていた騎士に気付かず、俺はその射程圏に王をむざむざ動かしてしまったというわけだ。
記憶の中でしか局面が視えない状況ならではの伏兵だったわけだ。
「では、もう一局行くか」
「「え~?!」」
二人同時に不満を漏らす。
もう、ご勘弁頂きたい、いやマジで。
俺達を乗せた馬車は突き進む。
朝日はすっかり昇り、秋の晴間を演出し続けていた。




