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赤ルア(テスト用)  作者: あせこ
二日目
12/81

3-1 やっぱり似ていますか?

 ■妖精の森と泉の貴婦人

 むかしむかし、

 森には妖精が飛び回り、

 泉には精霊が宿っていたほどの昔のお話。


 妖精の森の中には、それは綺麗な泉がありました。

 そこには、泉に負けないくらい綺麗な貴婦人が居ました。

 貴婦人はとても恥ずかしがり屋さん。

 人々の前には滅多に姿を見せません。

 泉に無理やり来ようとする人間を森の入り口へ戻してしまいます。

 だけど、とても心優しい貴婦人。

 森に迷い込んだ子供には、お菓子を持たせて、親の元へ帰してあげます。

 森で怪我をした狩人には、傷の手当てをして、森の外へ帰してあげます。


 森の奥には危険な魔獣が居ます。

 人々が間違って出会わないように、決して奥には行かせません。

 貴婦人の閉ざした門のお陰で、人も魔獣も平和です。


 ありがたやありがたや。


※*※*※*※*※*※*※*※*※*※


 ――ファルクス北部・旧街道

 二百年に舗装された比較的道幅の広い街道。

 当時は、西の森に様々な砦や前哨があり、兵員輸送に高く貢献した。

 今となっては、殆ど利用される事は無い。




 ガラガラガラ……。


 人気の無い街道を馬車の一団が闊歩する。

 目指すは、ルフェの森。


「い、以上です……」

「だ、大丈夫か?」

 お伽話を紡ぎ、エサを運び終えたツバメのようにため息を零す。

 その顔はすっかり血の気が引いて真っ青だ、そして絆創膏満載の指。

 そりゃ馬車の中で本なんて読んだら……酔うな。

「それでは、お兄様、エインさん……私はこれを以ちまして、失礼しま――」

「お、おい?」


 すー、すー。


 まるで糸の切れた操り人形のように眠ってしまった、

 ていうか、早過ぎるっ!

「元々、こいつは乗り物に弱い」

 棋譜の記したノートから目を離さず、リウェンの弱点を告げる。

 違和感を一欠けらも含まない、実に納得の弱点だ。

 …こいつは酔わないのか。

 ちなみに座っているのは俺の隣、馬車の進行方向と逆向きの座席だ。


「急に静かになった気がするよ」

「静かなのもいいだろう?」

 そう、今や車内で起きているのは俺とコイツのみ。

 リルドナはどうしたか?だって?

 俺の目の前だ、ただし彼女も寝ている。

 俺の向かい側の席でリウェンとリルドナは寄り添うように可愛らしい寝息を立てている。


「なぁ、聞いていいか?」

「どうした?」

「なんで、伝説の剣の鞘だけが、オイゲンのおっさんが持ってたんだ?」

 普通に考えておかしい話だと思う。

 キッチリ剣と鞘が揃って持ってても不思議だけどな。

「そのことか…」

 パタンとノートを閉じ、

 侵入者を睨むガーゴイルのように車窓から景色を眺めだした。

「オイゲン家は勇者の末裔の一族だ」

「なーんか、眉唾もんだな」

「だろうな、街の年寄りはともかく、若い連中は誰も信じていないだろうしな」

 ため息をつき、またノートを広げた。

 だから酔わないのか、こいつは。

「剣の不在は教えんぞ?お伽話の内容に抵触(ネタバレ)してしまう」

「んじゃ、あとでリウェンに読んでもらうさ」

 勿論、到着して気分が良くなってからだ。

 あんなに真っ青な顔して気の毒で仕方ない。

 …ふむ~。

「リルドナも酔うのか?」

「そいつの頭にそんな高等な機能は付いて無い、

 おそらくこの馬車の車輪に括り付けて編み物をさせても平気だ」

「それ、なんて罰ゲームだよ……」

 真新しく生まれ変わった自分のコートに目を向ける。

 ――やっぱり原因はこれか?


「夜更かししすぎか…。

 一晩で直すなんてやっぱりキツかったんだな」

「む、どういうことだ?」

 昨晩の事を手短に告げると、怪訝な顔を浮かべた。

「それは妙だな。」

「やっぱり異常な作業速度だよなぁ」

「この程度の物、リルなら三十分と掛からんな」

「そっちなのかよ!」

 いくらなんでもハイスペック過ぎないか。

 俺と一緒に頭を捻っていたヤツは何かを閃いたようだ。

 何かを確認するように俺のコートに目を配る。

「昨日より新しくなっているように見えるが、間違いではないな?」

「俺も、にわかに信じ難いが、確かにこれは俺のコートだ」

 確認から確証を得、結論に辿り着いたようだ。

「リウェか…」

「リウェンがどうかしたか?」

 ヤツは妹二人の名前をいつも省略して呼んでいる、殆ど省く意味がないと思うんだが…。

 リウェンが何の関係があるんだろう?

「こいつが手伝ったのなら、致命的な大悪手(ブランダー)だ」

「お前酷いな…。

 それで?リウェンが手伝ったら三十分が何時間に化けるんだよ?」 

「そうだな…これは一旦コートを繊維まで分解してからの作業をしている……」

「どういう状況だったんだよ…。」

 顎に手を当て、長くない時間思考する。

「九時間…いや、十時間だな」

 と言い切ってから、すぐにハッと言い直す。

「――いや待てよ…昨晩リルに最後に会ったのは何時だ?」

「俺は時計持ってねーよ、でもまぁ十一時くらいだったと思うぞ」

「今朝、部屋の前でリルを見つけたのは?」

「七時前くらいだったと思う――あ…」

 そこまで言い掛けて、さすがに俺でも気付いた。

「計算が…」

「合わないな」

 車内が車輪の転がる音で満たされる。

 しばしの沈黙の後、ヤツは鼻で笑った。

「なるほどな、そういうことか。

 お前は随分とうちの妹達に気に入られたようだな」

「はぁ?」

「素直に喜ぶといい、そして俺もお前のことを気に入った」

「そりゃどうも」


 俺はもう一度二人の姉妹の寝顔を見つめた。

 ありがとうな、

 よくわからないけど、とにかく俺のために頑張ったくれたことには違いない。

 

「それにしても、こうやって並べて観察すると似てるなぁ」

「ほう?そういう感想は珍しいな」

「髪の色の違いはあるけど、顔の造りは似ていると思う」

 似ているじゃない、同じなんだ。

 寝顔を二つ並べて観察できる人間がどれだけ居たかわからないけどな。

「よく見てみろ、区別する明確なポイントはある」

「瞳の色だろ?」

「ふむ、目は閉じられているが?」

 寝ているから、当然目は閉じられている。

 他にもあるっていうのか?

 もう一度間近でリルドナの顔を観察する。

 すー、すー、可愛らしい寝息を立てている。

 隣にいるリウェンも同じ、これも一緒だよな。

「あと五秒だ」

 懐から時計を取り出し一瞥したようだ。

「時間制限付きかよ。」

 さらに食い入るように観察する。

 どこだ?

 ――不意に宣言が飛んできた。

羊飼いの詰(スコラーズ・メイト)。」

「「え?」」

 二人同時(・・・・)に声を漏らす、意味は双方違う色を含んでいるが…。

 俺の眼前には、見開かれた二つの赤い瞳があった。

 その赤さはみるみる顔全体へと広がっていく…。


「きゃああああああああああぁぁぁ・・・・・!」 


 大音量の悲鳴をモロに被弾した。

 この状況はヤバイ。

 隣ではルーヴィックが獲物捕らえたベアトラップのように笑いを堪えている。

 ヤロウ…嵌めやがったな。

 大体、これは初心者狩り(スコラーズ・メイト)じゃなく、詐欺(スインドル)と言うんじゃないか…。

「アンタァァァァ・・・・!」

 狂気の赤眼が迫る。

 逃げ場は当然無い。

 ヤバイ死んだかも…。




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