表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/81

2-6 ツンのあとにはデレがあるんですよ


 ボーン、

 ボーン、

 ボーン…。

 時計が鐘を鳴らし時を告げる。

 長針と短針の角度が最も鋭角になる時刻。

 鐘が一回ではないので、十一時だ。


「……いってぇ、ててて……」

 自室に戻った俺は悪態をついた。


 例によって、リルドナに暴力の前になす術も無く、

 運悪く吹き飛ばされた先に植え込みの木があり、そこに勢いよく突っ込んだものだから……。

「くっそ…破れてるじゃないか」

 愛用のコートが見るも無残な姿へと変貌している。

 木の枝があちこちを突き刺し、服だけでなく身体中傷だらけだ。

「明日出発だってのに…。」 

 ――とりあえず身体(こっち)をなんとかするか……。


 俺は目を閉じ、精神を集中し、詠唱する。


 ボゥ…


 微かに発光し、傷口がほのかに温かくなる。

 ヒールの魔法――覚えておいて損の無い魔法の第一候補だろう。

 効果の方はさておきで、ちょっと頑張れば誰でも覚えられる手軽さがウリだ。


「ちっ、やっぱこんなもんだよなぁ……」

 傷口の痛みは少し和らいだが、和らいだだけで、それ以上の効果は得られない。

 痛みが邪魔して、意識を集中しきれないのも原因だ。


 魔法の効果は、術者の魔力と詠唱の質と長さに比例する。

 逆を言えば、高い効果を得たければ、魔力か詠唱のどちらかを要求されるわけだ。

 俺はごく普通の人間だ、魔力の量には期待できない、詠唱で補うしかないんだ。

 そして、良質の詠唱には長い呪文(スペル)と高い集中力を要する。

「絶対、戦闘中には使えないな……」 

 無いよりはマシ、俺は再度詠唱を始める。


「随分と長い詠唱ねぇ?」

 不意に声を掛けられ、詠唱が中断される。

 そういえばドア開けっ放しだったな。

 もう誰だか判っているので、振り向かずに返事をする。

「悪かったな、俺みたいな平凡はこうでもしないと使えないんだよ」

「え…?そういう意味じゃないわよ?

 あたしには無理だなぁ~って関心してんのよ、そんな長い呪文(スペル)覚えられないわ」

 ふぅ… とため息が零れる気配がした。

「自分で治せちゃうんだ……」

 振り返りリルドナの表情を視界に捉える、

 何か残念そうな、少し寂しげな顔をしている。

 後ろ手を組み、何かを隠しているように見て取れた。

「何を持ってるんだ?」

「え?や、これは……」

 言い淀むリルドナを詰める様に身を乗り出したとき、彼女はぎょっとした表情を浮かべた。

 ――そういえば、ボロボロになった服を脱いで自分で手当てしてる最中だったんだ。

 つまり上半身裸だった。

「あ!ゴメンっ」

 彼女は真っ赤な顔で謝り、その場で回り右して背中を向ける。

 おかげで隠していた物の正体がわかった、

「救急箱か…?」

「あ、あはははは……」

 乾いた笑いを絞り出しながら…がっくり肩を落とした。

 その姿がリウェンと重なる。

「貸してくれよ、それ、」

「え…?アンタ自分で治せるんじゃ……。」

「実は痛くて集中できないんだ、こんなんじゃ大した効果も出せないよ」

 本当にそうだった、今の状態じゃ鼻血も止まりゃしない。

 リルドナは満面の笑みで、俺の手当てを始めた…まるで玩具を買ってもらった子供のように。




 ペコッ、

 プシュー…

 ヒンヤリと冷たい消毒液。

「…?」

 何故か不思議と染みない、

 あの独特の痛みが走らないのだ。

「コレ、リウェンの特注品だからねぇ」

 続いて、クルクルと丁寧に包帯が巻かれる。

 薄々感じていたが、この女かなり手先が器用だ。

「ほい、次は右腕出して」

 手際よく、だけど丁寧にその手を進める。 

「しっかし、アンタ。

 魔法を曲がりなりにも使えるとはねぇ」

「少しは見直したか?」

「そうねぇ、もう無能じゃないわ」

「ほうほう、じゃあなんだ?」

「器用貧乏!これでいいんじゃない?」

 それも酷いな。

「あぁ、もう好きに呼んでくれ……」

 

「アンタのソレ」

 目ざとく俺のコートを見つける。

 お前のお陰で、殉職したんだぞ。 

「なんていうか、ボロっ!」

「ボロいのはお前の功績だ、

 胸を張って俺に謝るがいいぞ」

 俺の皮肉に顔を曇らせる。

「代えは無いの?」

「コートはこれしかないからな、

 テープ止めでもして急場は凌ぐさ、ボロと蔑まされようが俺はコイツと運命を共にする」

「んな、大げさな…」

 

 スッ…と、

 リルドナが左手をこちらに差し出している

 ――?

「なんだよ?」

「貸しなさい、」

 視線が捉えているのは…このコートか?

 どうする気だ?

「繕ってあげるわ、

 そんなボロじゃ見っとも無くて外歩けないでしょ?」

「直せるのかよ」

「任せなさい!」

 最後の包帯を巻き終え、返す刀で俺のコートを引っ手繰る。

 広げていた救急箱を回収し、足早に撤収しだす。

 

「アンタはもう今日は寝なさい、絶対明日には直しておくから。」 

「ていうか、直ってなくても明日には返せ。」

「はいはい、かしこまり、」

 そう告げ、リルドナは部屋から出て行った。

  




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ