2-5 実は純白じゃないんですよ
ジャコ、
ジャコ、
ザバァー。
「ふう…」
俺は宿の庭にある井戸(ちゃんとポンプ式だ)から水を汲み顔を洗った。
身に染みる冷たさだったが、すっかり熱くなった頭には丁度いい。
結局、ゲームは俺のチェックメイト負け。
負けはしたが、久々の対局に心地よい充実感を覚えた。
チェスは、勝敗を競う――しかし、勝つことが目的じゃない。
「楽しまなきゃな」
手早く顔をタオルで拭き、踵を返し視線を宿に向ける。
……リウェンが立っていた。
「ん?キミも顔洗う?」
「いえ、ちょっとお礼を言いに」
心底済まなさそうな顔を浮かべた。
「なんだか、兄の我侭にまで付き合って頂いてしまって…」
「あ~、構わないよ、こっちも楽しかったしね」
それを聞いて、リウェンは表情を安心という軟化材で緩めた。
「なんとも賑やかな兄妹だ、見てて羨ましくなるよ」
「そうですか?」
宿に歩を進めながら、話を続ける。
「俺は冒険者になってから、殆ど独りだったしね」
「あら、ご家族の元にはお帰りになってないんですか?」
「全く。
ほぼ飛び出すように冒険者になったし、今更会わせる顔もないよ。」
――親の反対を押し切って冒険者になったんだ、帰れるわけないだろう?
「そんなことはないです、
きっと…立派になったエインさんを迎えてくれますよ!」
「立派に?
いやいやいや…お世辞はよしてくれ」
クルリと振り返り、そのまま後ろ向きで歩きながら、微笑みかけてきた。
「だって、わたしを助けてくれたじゃないですか」
その笑顔に心を吸い込まれそうになった――が、重大なことに気付いた。
――後ろ向き…だと?
それは非常にマズイ、何がマズイかだと?
何もない所で躓いてこける特技(?)を持つ人間が後ろ向きなんかで歩いたら……
「にゅ!?」
ずる、べたーーん。
「こうなるよな」
「うぅ……」
例によって目には涙を浮かべている。
後ろ向きだった為か、派手に倒れ、白い下着が見えてしまっていた。
俺は極力見ない様に心がけ、反対側に回り込んでから助け起こす。
「す、ずみませ~~~ん。グスッ…」
「怪我とかしてないか?」
本当にこの娘は冒険者として生きていけるんだろうか…。
「いつまで抱いてんのよ?」
「え?! あ、悪い」
「わ、わたしじゃないです」
視線を動かすと、そこには黒服に着替えたリルドナ。
暗いので、黒一色の彼女は見つけにくい。
その顔はちょっぴり不機嫌の色を持ち合わせていた。
「出発は明日なんだから、いつまでもイチャついてないで寝なさいよ。」
「ね、姉さん、これはわたしがドジだから…。勝手なことエインさんに言わないでっ」
とりあえず、リウェンから手を離す。
ジーっと、
それはリルドナがジト目で俺を見つめる音。
「――で見えたんでしょ?」
「何がだよ…」
赤いジト目が迫る。
「リウェンのぱんつ、」
「ぶっ」
「ね、姉さん……?」
リウェンの声は震えている。
リルドナは尚も詰め寄る。
「ほらほら、見ちゃったんでしょ?
ちょーっと、この子が背伸びして選んだ黒のレース。」
「いや、白だったぞ?」
――あ、しまった。
見る見るリウェンの顔が真っ赤に染まっていく。
リルドナは、にやぁ~といやらしく顔を歪めた。
こ、この顔芸の魔女め。
「そこに直れ、この無能!」
理不尽だ……。




