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第39話 銃声とひらめき



「軽犯罪法、知ってますよね?」


 警察官の一言に、王様の顔が、みるみる青ざめていった。だが、その反応が気に食わなかったのか、警察官はおもむろに腰の拳銃を抜いた。


「え」


 僕が反応する間もなく、乾いた発砲音が響いた。


「なっ……!?」


 狙いは、正確には王様の足元だった。土煙が上がり、王様は文字通り飛び上がった。


「なにしてるんだぁ!」


 もう一発。また足元。王様は、両足をバタバタと交互に跳ね上げながら、その場で滑稽な踊りを踊らされる羽目になった。


「ちょ、ちょっと待って、いくらなんでも……!」


 僕は思わず声を上げたが、警察官は淡々と、なおも足元を狙って撃ち続けていた。


(いや、この町、今の日本ではどうなんだ……)


 一瞬、冷静にそんな疑問が頭をよぎった。だが、すぐに思い直す。隣にいるのは、上半身裸で見栄を張り続けた挙句、公衆の面前に飛び出してきた変態予備軍だ。多少の荒療治もやむを得ないのかもしれない。


「わ、わかった! わかりましたぁ!」


 王様は、これ以上ないほど情けない声を上げながら、その場で土下座にも近い姿勢で謝り倒した。ようやく発砲が止まり、警察官は「次はないですよ」とだけ言い残し、パトカーに戻っていった。


 命拾いした王様を連れ、僕たちはそそくさと家へと引き返した。


「……危うく、蜂の巣にされるところであった」


 リビングでへたり込みながら、王様は、まだ震える声でそう呟いた。


「あんな威嚇のされ方、初めて見ましたよ」

「余もだ……」


 しばらく二人で放心していたが、僕はふと、この状況をこのままにしておくわけにもいかないと気づいた。


「あの、そもそもの話なんですけど。なんで、あんなに人前で服を脱ぎたがるんですか」


 僕がそう切り出すと、王様は、少し言いにくそうに視線を泳がせた。


「……昔の絵本に、こう書かれておったのを、余は覚えておる。あの日、余は民衆の前を、裸のまま練り歩いた」

「ええ、知ってます、その話」

「あの時は、ただ、恥ずかしかった。だが……」


 王様は、そこで一度言葉を切り、少し照れくさそうに続けた。


「先ほど話した、カナダにおった頃だ。あの寒空の下、たまたま人前で服を脱ぐ羽目になったことがあってな」

「え、なんでまた」

「詳しくは聞くな。……その時、なぜか、妙などきどきを感じたのだ」


 衝撃の告白だった。あの絵本の教訓的な結末が、まさかこんな形で、本人の性癖に転化していたとは。


「余自身、この気持ちがなんなのか、よくわからん。だが……確かに、あるのだ」


 その言葉には、戸惑いと、それでいて、どこか隠しきれない期待のようなものが滲んでいた。


(合法的に、見られる場所……)


 僕は、頭を抱えながら考え込んだ。


(プール……いや、満たされないだろう。ジム……いや、それも普通だ)


 候補を一つずつ却下していく中、ふと、僕の頭に一つの光景が浮かんだ。


 汗を流し、上半身裸で作業する男たち。

 畑仕事だ。

 これなら、多少の裸は日常の範囲内。しかも、仕事にもなる。一石二鳥どころではない、完璧な解決策に思えた。


「あの、農作業ってどうですか」

「……農作業?」

「近所の農家、人手が足りないってよく聞くんですよ。汗かいて、上半身裸で働いても、誰にも咎められません」


 王様は、一瞬、屈辱に顔を歪めた。


「この余に、土いじりをせよと言うのか」

「まあ、そうなりますね」

「……ふん」


 しばらく葛藤するような沈黙が流れたあと、王様は、ぼそりと呟いた。


「……見られるのなら、致し方あるまい」


 どうやら、プライドよりも、あの秘めた欲求の方が勝ったらしい。僕は、その返事に安堵しながら、さっそく近所の農家へと連絡を入れることにした。


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