第34話 突貫バンド結成会議
「わい、ドラムなら叩けるで」
亀の一言に、部屋の空気が一気に色めき立った。
「亀さん、ドラムできるんですか」
「昔、リフォーム現場のリズムで、勝手に体得してん。ハンマーの連打とか、ノリ似とるからな」
得意げに語る亀に、僕は妙な説得力を感じてしまった。確かに、あの豪快な力仕事の連打は、ドラムのリズム感と近いものがあるのかもしれない。
「んじゃ、俺はベースやるッス!」
金太郎が、負けじと手を挙げた。
「弾けるの?」
「いや、今から練習するッス! この筋肉あれば、なんとかなる気がするッス!」
根拠のない自信だったが、その筋肉量を見せられると、案外なんとかなりそうな気もしてくるのだから不思議だった。
「あの……僕も、何かできることがあれば」
控えめに手を挙げたのは、うらちゃんだった。
「うらちゃん、楽器できるの?」
「竜宮城にいた頃、あまりにやることがなくて。琴の練習だけは、ずっとしてたんです」
「琴!」
「はい。あれと似た感じの弦楽器なら、頑張ればギターも弾けるんじゃないかと」
三百年近い時間の使い方として、なんとも渋い趣味だった。だが、それが今、思わぬ形で活きようとしている。
「僕は、シンセサイザーがあれば弾けると思います」
次に手を挙げたのは、一寸法師だった。
「小さい鍵盤楽器なら、指も届きますし。裁縫と同じで、細かい作業は得意なので」
なるほど、と僕は納得した。あの器用さは、こういう場面でも発揮されるらしい。ネットで小型のシンセサイザーを探せば、なんとかなりそうだった。
そんな中、一番最後に、そっと手を挙げたのは、意外にもウサギだった。
「あの……僕は、ラップを、やってみたいです」
「え、ラップ?」
思わぬ立候補に、僕は少し驚いた。最近の韻踏み事件を思い出すと、なんとも納得のいく志望動機だった。
「にんちゃんさんの歌に、ラップのパートを混ぜるのはどうでしょうか。最近、そういう構成の曲も多いと聞きますし」
「男性ラップに、女性のメロディが乗っかる感じ?」
「はい、そのイメージです」
冷静な口調で語られると、意外にもまともな提案に聞こえてくるから不思議だった。
「まあ、ありかもな」
こうして、あっという間に、バンドの編成は決まっていった。ドラム亀、ベース金太郎、ギターうらちゃん、シンセ一寸法師、ラップウサギ、そしてボーカルがにんちゃん。なんとも、規格外なメンバー構成だった。
結成が決まった翌日、僕は町にある楽器店へと向かった。
「あの、練習させてもらえる場所とか、ありますか?」
事情をかいつまんで説明すると、店主は困惑しつつも、奥にある小さな練習スタジオを貸してくれることになった。
「まあ、若い子たちの熱意には協力したいしね」
随分と柔軟な対応に、僕はまたこの町の懐の深さを実感した。
「音楽性については、俺は正直ノータッチにしようと思う」
僕がそう宣言すると、みんなは口々に「了解!」「任せて!」と返事をした。専門外のことに口を出すよりは、彼らの感性に任せた方がいいだろうという判断だった。
「じゃあ、私はSNSで宣伝しとくね!」
カグヤが、頼もしくそう申し出てくれた。あの15万フォロワーの力を借りられるのは、心強い限りだった。
問題は、にんちゃんの練習環境だった。
「魔法の飴、飲むと声出せなくなるから、演奏中はスタジオ用に、別の水槽を用意した方がいいかな」
「うん、それがいいかも」
スタジオ用の小型水槽を新たに手配し、練習日にはそれを担いで運ぶことになった。
「エラ呼吸がメインじゃないから、少しの間なら陸上でも平気だよ」
にんちゃんは、あっけらかんとそう言って笑った。細かい生態の設定まで、律儀に説明してくれるあたり、彼女なりの誠実さが窺えた。
目標として設定したのは、今月末に町で開催されるハロウィン祭りだった。ちょうど、カラオケ大会の企画もあるらしく、そこでのお披露目に向けて、日々練習が重ねられていくことになった。
結成から数日後、僕は仕事の合間を縫って、練習の様子を覗きに行ってみることにした。
スタジオに近づくにつれ、重低音の響きが、廊下にまで漏れ聞こえてくる。
(あれ、なんか……思ってたのと違うぞ)
扉に手をかけた瞬間、僕の頭の中にあった「感動的なバラード」のイメージは、音の壁によって、粉々に打ち砕かれることになった。




