第27話 ツッパってます
第27話 ツッパってます
朝、チャイムの音で目が覚めた。
もう、ずいぶんとこの音にも慣れたものだった。うらちゃんの日から数えて、これで何人目になるだろう。寝ぼけ眼のまま玄関へ向かい、勢いよく戸を開ける。
「……あれ」
誰もいなかった。
朝の澄んだ空気だけが、玄関先に満ちている。人影ひとつ見当たらない、静かな朝だった。
(また夢でも見たか?)
そう思い、戸を閉めようとした、その時だった。
「……こ……だよ」
どこからか、声が聞こえた気がした。
「え、どこ」
僕はきょろきょろと辺りを見回したが、やはり誰もいない。
「ここだよ」
もう一度、声がした。今度ははっきりと聞こえた。声のする方向は下だ。僕は視線を落とした。
地面すれすれ、玄関マットの端に、手のひらに収まってしまいそうなほど小さな青年が立っていた。
「一寸法師……だよな」
思わずそう呟くと、その小さな青年は、腰に手を当てて胸を張った。
「わかってんじゃねーか」
声変わり前のような、けれど妙に凄みを利かせようとしている口調だった。
僕は、あらためてその姿を観察した。童話の一寸法師といえば、お椀の舟に箸の櫂、武器は針、というのが定番のイメージだったはずだ。だが、目の前の彼が右手に握っているのは、明らかに違う代物だった。
釘バット。
しかも、そのサイズは彼の体格にぴったりと合わせて作られているようで、明らかにお手製だった。誰が、どうやってこんなミニチュアサイズの釘バットを作ったのか。想像すると、それだけで少し笑いがこみ上げてきた。
「なんだよ、その顔」
「いや、別に」
僕は慌てて表情を引き締めた。
服装も、また独特だった。ダボっとしたシルエットのズボンに、丈の短い刺繍入りのジャケット。よく見ると、背中に大きな犬の刺繍が施されている。今の時代でも、たまに見かけないこともない格好だが、どちらかというと、少し前に流行った、いわゆるヤンキーファッションだった。
(また、日本のサブカルチャーに影響されてる系か……)
カグヤのギャル文化への傾倒を思い出し、僕は内心で苦笑した。この世界の童話キャラたちは、揃いも揃って、日本の若者文化に妙な親和性があるらしい。何か法則でもあるのだろうか。
まあ、それは追々考えるとして。
「とりあえず、中入るか?」
僕がそう声をかけると、一寸法師は、釘バットを肩に担ぎながら、ふんと鼻を鳴らした。
「別に、入ってやってもいいけどよ」
態度は大きいが、その体は、僕の手のひらにすら収まってしまいそうなほど小さい。ギャップの大きさに、僕はまた笑いをこらえるのに必死だった。




