第26話 一寸法師 小さいヤンキー
相撲大会での金太郎の活躍を見てから、僕はなんとなく、自分の体のことが気になり始めていた。
「金太郎、俺も少し鍛えたいんだけど、何やってるか教えてくれないか」
「おお、いい心がけッスね! じゃあ、俺のメニュー教えたるッス」
金太郎は嬉しそうに、指折り数えながら語り始めた。
「朝、まず10キロ走るッス。それから腕立て、腹筋、それぞれ限界までやって、最後に丸太持ち上げッスね」
「……丸太?」
「裏山から拾ってきたやつッス。あれ、いい負荷になるんスよ」
あっけらかんと語られるそのメニューは、長年デスクワークで凝り固まった体には、明らかにオーバーワークだった。10キロ走る時点で、僕の心はすでに折れかけていた。
「その……もう少し、軽めのやつってないかな」
「軽め? う〜ん……」
金太郎は、真剣に考え込んでいたが、やがて、思いがけない話を切り出した。
「そういえば、テレビでショートスリーパーってのを見たッス。睡眠、あんまりいらん人のことッスよね」
「うん、それが?」
「あれになれたら、筋トレする時間、もっと増えるんちゃうかなって」
「……いや、それは絶対やめてくれ」
僕は、体だけでなく、健康面まで色々な意味で危うい発想に、思わず全力で待ったをかけた。
「睡眠は大事なんだって、人間にとって。金太郎の場合はよくわからないけど、俺は絶対に真似しないからな」
「そうッスかね……」
納得したのかしていないのか、金太郎は不思議そうに首を傾げていた。この筋肉馬鹿には、常識という概念が、時々どこかへ行ってしまうらしい。
その夜、書斎で片付けをしていると、また本棚の扉がわずかに開いていることに気づいた。
(ああ、今日か)
もう何度目になるだろうか。最初は戸惑いばかりだったこの現象も、今ではどこか、楽しみな気持ちの方が勝るようになっていた。次はどんなキャラクターが来るのだろうと。
「そういえば」
夕食の席で、母がふと思い出したように話し始めた。
「『たいせい』、最近すごい賑わってるらしいわね」
「そうなの?」
「変わった店員さんがいるって、SNSで広まってるみたいよ。町の外からも、わざわざ食べに来る人がいるんですって」
うらちゃんの働きぶりが評判になっているのか、それとも、カグヤの存在が話題になっているのか。おそらくは、その両方だろう。
「カグヤちゃん目当てで、写真撮ってもらいに来る人もいるらしいわよ」
「へえ……」
僕自身は、特に何をしたわけでもない。ただ、この町に人が来て、賑わっていく様子を聞くと、なぜか少しだけ、誇らしい気持ちになった。
自分の家族が褒められているような、そんな不思議な感覚だった。
僕はその温かい気持ちを胸に抱えたまま、書斎に戻り、近くにあった一冊の本を手に取った。今夜はどんな物語が、この町に新しい風を運んでくるのだろう。
そんなことを考えながら、僕はそっと本を枕元に置き、目を閉じた。




