第16話 ウサギと亀 絵本と罵声
遠足の日、僕は赤ずきんのクラスの様子を見に、こっそり学校近くまで顔を出した。目的は半分、カグヤの応援だった。
「はい、みんなこっち向いてー! いくよー、はい笑って!」
子供たちを並ばせ、カメラを構えるカグヤの姿は、すっかり様になっていた。以前の、ただ写真を撮られるだけだった彼女とは、明らかに違う顔つきをしている。
「カグヤちゃん、あたしも撮って〜!」
「はいはい、一人ずつね〜」
子供たちに囲まれながらも、カグヤはテキパキと構図を決め、シャッターを切っていく。時折、赤ずきんにもレンズを向けては、
「赤ずきんちゃん、そのポーズかっこいい! もう一枚!」
と声をかけている。当の赤ずきんは、いつもの仏頂面のまま、それでもわずかに口角を上げていた。
「あとで写真、みんなに配るからね〜」
カグヤの弾んだ声が、秋晴れの空に響いていく。この二か月ほどで、彼女が本当に、自分の居場所を見つけつつあるのだと、僕は遠目にそれを眺めながら感じていた。
その夜、書斎で片付けをしていると、ふと本棚の扉に目が留まった。今夜が、あの月に一度の夜らしい。
棚の中を見渡すと、いつもとは少し違う本が、目に留まった。表紙に、可愛らしい挿絵が描かれた、絵本のような一冊だった。
(たまには、こういうのもいいか)
難しい顔をした古い本ばかり読んできた気がする。今夜くらいは、気楽な気分で眠りたかった。僕はその本を手に取り、枕元に置いて、そのまま目を閉じた。
翌朝、僕を叩き起こしたのは、チャイムの音ではなかった。
「……おまえ、挨拶もできねぇのかぁ〜〜!」
玄関先から響いてきたのは、怒鳴り声だった。低く、腹の底に響くような、有無を言わせない迫力を持った声。
寝ぼけ眼のまま飛び起きた僕は、階段を転がるように駆け下り、玄関の戸を勢いよく開けた。




