第13話 狩人、小学校へ行く
家に連れ帰ったものの、赤ずきんのお腹が盛大に鳴った。ここ最近、すっかりご無沙汰していた「たいせい」に、彼女を連れて向かうことにする。
引き戸をくぐると、カウンターの端に見覚えのある後ろ姿があった。
「あ、うらちゃん」
声をかけようとした、その瞬間だった。
赤ずきんが、地を這うような低い姿勢から、猛烈な勢いでうらちゃんに突っ込んでいった。
「うおわっ!?」
うらちゃんの脛に、小さな蹴りが炸裂する。八歳の脚力だ、大した威力はないはずだが、うらちゃんは蹴られた瞬間、まるで熊にでも襲われたかのような悲鳴を上げた。
「な、なんで女の子が!」
「女の子じゃない、狩人」
「せめて子供って認識してくれ……!」
涙目で後ずさるうらちゃんに、赤ずきんは無表情のまま追撃の構えを見せる。僕は慌てて二人の間に割って入った。
「ちょっと待て待て、うらちゃん、この子はただ
(まあ、でも……)
考えてみれば、この二か月ほどで、僕はすでに、そういう常識を何度も塗り替えられてきた。うらちゃんの団地入居も、カグヤの見習い就業も、細かいことを言い出せばきりがないはずなのに、気づけば全部なんとかなっていた。この町には、そういう不思議な柔軟さがあるのかもしれない。
「……多分、なんとかなるよ」
「あら、頼もしい」
母は嬉しそうに笑った。結局、その予感は正しく、どこをどう通したのかはわからないが、数日後には、赤ずきんは町の小学校に通うことが決まっていた。
小さな町の小学校は、一学年一クラスしかなく、しかも赤ずきんの学年は、全部で八人という少人数だった。転入初日、教室の前に立った赤ずきんは、珍しく緊張した面持ちで、小さな拳を握りしめている。
「じゃあ、自己紹介してもらおうかな」
担任の先生に促され、赤ずきんは俯きがちに、それでもはっきりとした声で名乗った。
「……赤ずきんです。静寂の森の狩人を、しています」
教室に、一瞬の静寂が訪れた。
(あ、これは……)
僕は廊下の窓越しにその様子を見守りながら、思わず息を呑んだ。滑った。完全に滑った。
そう確信した、次の瞬間だった。
「かっけぇぇぇええ〜!」
教室中の子供たちが、一斉に歓声を上げた。
「なにそれ、忍者みたいな!」
「狩人ってなに、剣とか持ってるの!?」
八歳児たちの熱狂は、僕の予想を遥かに超えていた。赤ずきんは面食らったように目をを持ち上げた。
(よかった……大滑りしなくて)
僕は廊下で、そっと胸を撫で下ろした。この町の小学二年生たちの感性は、どうやら大人よりもずっと柔軟にできているらしい。。




