月と姫と
......なんだって?
「ち、ちょっと待てよ!」
「なんだ?」
「なんだじゃねぇよ!おかしいだろそれは!」
「何がおかしいと言うのだ」
御影は意に介す素振りすら見せなかった。それが余計に日向の感情を掻き立てた。
「もともとかぐや姫を連れ戻したかったんだろ!?なんでいきなり血族者が消える設定になってんだよ!?」
「それがかぐやの正体だからだ」
「正、体...?」
日向の問いかけに、御影は黙ってうなずく。
「かぐやと言う名は、もともと人間がつけた名だろう?かぐやの本当の名は『御月姫』と言うてな。その名の通り、月を糧とし、月のために生きるものなのだ」
「月のため?」
「そなた、月が輝く訳を知っておるか?」
突然そんな理解的なことを言われても...。
そう思ったものの、日向は考える。
月が輝く訳...って言ったら-――。
「た、太陽の光が反射するとかなんとか...」
「容易すぎるがまぁいいだろう」
何でそんな上から目線なんだよ全く。
「だが、月はそれだけで輝いているわけではないのだぞ?」
「左様に御座いますか...」
「左様だ。月が輝くのは、他でもない。御月姫がいるからだ」
...関係性が見いだせなかった。それとこれとがどう繋がるって言うんだ。
「御月姫ははもともと、月の光となるべくして生まれる。月の都で御月姫が死んだら、御月姫は月の光となり、月の一部となる」
「またそんな......」
いろんな話、いや。今までに話された話があまりにも突飛すぎるため、もうあまり驚かなくなってしまった。だが、話事態がものすごいことに代わりはない。
「御月姫が月の都で世継ぎを産み、新たな御月姫が誕生する。そして母親が死に、月の一部となったあと、新たに生まれた御月姫がまた、母親と同じ人生を歩むこととなる」
「わりぃ言い方をしたら、月は人を食っちまうわけだ」
「よき言い方をするならば、御月姫は月となり、現世に生きるものを見守っているのだがな」
なるほど、そう言う考えもあるか、と日向は心の中で賛同した。
「ってことは、月の一部になるべくして生まれたのが、かぐや姫ことその御月姫ってことなんだな?」
「左様だ」
「...けどよ、それじゃかぐや姫の血族者が消える理由にはならなくないか?」
「いいや。言うてしまえば、それが理由だぞ」
「どーいうことだ?」
日向が聞き返すと、御影は腕を組んで、小さく息を吐いた。
「そなたなぁ、本当にわらわの話を聞いておったのか?」
「相づち何回打ったと思ってんだ」
「......考えてもみろ。大まかな言い方をすれば、月と言うものは御月姫がいるから輝いているようなもの。ならもしも、御月姫が死なず、月の糧となるものがいなかったら、月はどうなる?」
月の糧がいなかったら?
そんなこと決まっているだろ。
「月は――――」
日向はそこまで考えて、やっと主旨を知った。
言葉を止めた日向を見つめ、御影は息をはく。
「もうわかったであろう。わらわたちが呪われた理由が」
「.....月の糧がいなかったら......月は、輝かなくなるのか...?」
「...そう、なるのだろうな」
御影はそう言って、また窓の外を眺めた。
「月の一部となれば消える。だが、この世界で条件を満たした生活をしなければ、それでも消える。結局わらわたちに、平和に死ぬ運命などありはしないのだ」
「...か、かぐや姫の血族者が、条件を満たした生活をしても死んだ場合は、どうなるんだよ...?」
「さぁな。月の都に帰るか、使者が特別わらわたちに作用する力を使えば、月の一部となれるが、この世界で死んで、月の都から見放されたものの末路など...想像したくもないわ」
日向はその言葉に、言い返したくなるのを、唇を強く噛み締めてこらえた。
ここで何を言っても無駄だ。自分はこの世界のことも、かぐや姫のことも、御影のことも...何も知らない。
目の前に立っているだけなら普通に可愛らしいただの女の子が、変に命の危機にさらされている。
その状況。自分に一体何ができる?
何も知らない無知の人間が。
わけもわからないタイムスリップなんかで平安時代に来てしまったただのよそ者に、これから先の御影の未来をどうできよう。今まで生きてきたかぐや姫の血族者たちの、何がわかる。
否。わかることなど、ありはしないのだ。
(だからって......)
自分の知らなかった歴史上に、こんな悲しい現実があっていいのもだろうか。
日向は勉強があまり好きではなかった。
中でも、英語と歴史は、大の苦手で...。だからこそ、授業なんてあまりまともに聞いていない。
だが、耳を済ませば聞こえてくる。教師の話す言葉が。
誰と誰が対立した。どこかがどこかを滅ぼした。戦争が起こったり、革命を起こしたり。
今までの歴史にだって、悲しい出来事はいっぱいあった。
だが、今の日向にとっては、そんなことの中の、どんなことよりも――――。
今目の前にある現実のほうが、よっぽど残酷に思えた




