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アンダーグラウンドノーツ  作者:


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第4話

「――っ、そんな、氷を一瞬で……!?」 

玲奈の顔に驚愕が走る。だが、過酷な訓練を積んできた彼女たちの心は折れていなかった。


氷の結界を破られることなど、最初から想定の範囲内だ。


「リリー、今よ!」

「任せなさいッ!」 


玲奈の鋭い声に、空中で姿勢を制御していたリリーが即座に反応する。 

リリーが両手を大きく広げると、神谷鉱石洞の空気が一箇所に猛烈な勢いで収束し始めた。

彼女の能力は広範囲の風の操作。

大穴という閉鎖空間においては、空気の密度を爆発的に高めることが可能となる。


「ハァァァッ!」 


リリーが放ったのは、極限まで空気を圧縮させた見えない砲弾。それが直撃したのは、アンノウンそのものではなく――怪物ががっしりと四肢で掴んでいた、大穴の岩壁だった。 


ズドォォン! という凄まじい爆音が洞窟内に轟く。 

衝撃によって硬質な結晶の壁が見事に粉砕され、足場を完全に失った三メートルの巨躯が、なす術なく数メートル下の縦穴へと真っ逆さまに落下していった。


『おおおおお! 壁ごと落とした!?』


『リリーちゃん天才かよ!!』


『いける、いけるぞニューカラーズ!』

一変して沸き立つコメント欄。しかし、大穴の怪物はそんなに甘い存在ではなかった。 落下しながらも、アンノウンは異常な反射速度で岩壁に鋭い爪を立て、凄まじい火花を散らしながら強引に姿勢を持ち直す。

それどころか、剥ぎ取った岩壁の破片を、その怪力で凄まじい速度の「石のつぶて」として投げつけてきたのだ。 


シュバババババッ! と空気を切り裂く音が響く。


「きゃああっ!?」 


未だ空中に身を置いていたリリーは、予測不能の対空攻撃を完全に避けることができず、鋭い結晶の礫がその肩や脇腹を容赦なくかすめ飛んだ。

ボディスーツが裂け、鮮血が舞う。


『リリーちゃん!?』


『嘘だろ、空中であの攻撃は避けられない……!』


「リリーちゃん...! ……くっ、このッ!」

すかさず動いたのは、後方に控えていた国枝翠だった。 

小柄な身体からは想像もつかないほど手慣れた動作で、翠は腰のホルダーから特注の二丁拳銃を抜き放つ。

銃口から放たれたのは、対アンノウン用に設計されたエネルギー弾。 

ダン! ダン! ダン! ダン! 小気味いい連続の銃声とともに、翠は圧倒的な弾幕を張り、再び壁を登ろうとするアンノウンの顔面へと弾丸を叩き込んでいく。

硬い表皮を貫くことはできずとも、衝撃とスタン効果のある特殊弾は怪物の視界を塞ぎ、前進を確実に躊躇わせる。


「リリー、こっちへ!」 


玲奈が叫び、手をかざす。リリーの落下予測地点に向けて、空間の水分を一瞬で凍らせ、頑強な氷の傾斜ボードを形成した。滑り台のように作られた氷の足場へとリリーが滑り込み、地上へと無事に生還する。


「翠ちゃん、お願い!」

「うん、任せて!」 


翠がすぐさまリリーの元へと駆け寄り、その傷口に両手をかざした。 

翠の掌から溢れ出した、ほのかな光を放つ治癒の力は、リリーの引き裂かれた傷口を、瞬く間に塞いでいった。


「ふぅ……。ありがとう、翠ちゃん。もう痛くないよ」


「よかった……。でも無茶はダメだからね?」 


リリーが立ち上がり、三人は再びアンノウンを正面に見据えて、一瞬の視線を交わした。


「玲奈、翠ちゃん。一気に決めるよ。作戦は――」 


リリーが短く告げたプランに、二人が力強く頷く。 その間も、ドローンカメラが捉えるリアルタイムの画面には、視聴者からの必死の応援メッセージが滝のように流れ続けていた。



『がんばれニューカラーズ!!』


『おっさんだけど全力で応援するぞ!!』


『3人とも無事に帰ってきてくれえええ!』


「いくよ、みんなっ!」 

合図とともに、翠が再び二丁拳銃の弾幕を張り巡らせた。

激しい銃撃がアンノウンの足元と顔面を正確に狙い撃ち、その巨体の動きを狭い範囲へと完全に制限していく。


「そこね――凍りつきなさい!」 


間髪入れず、玲奈の絶対零度の冷気が炸裂した。翠の弾幕によって一歩も動けない状態のアンノウンの足元を、今度こそ逃がさないと言わんばかりの分厚い氷層がガチガチに凝固させ、その怪力を完全に鈍らせる。


「これで……終わりだぁぁぁーーっ!」 


空中に飛び出したのは、リリーだった。 彼女は自身の周囲の風の力を限界まで操り、前方へと凄まじい「推進力」を生み出す。

さらに、自由落下によるエネルギーで身体全体を弾丸のように超加速させた。

リリーの両手に、気圧の壁すら突き破るような、極限まで圧縮された不可視の風の刃が形成される。


「ハァァァァァッ!!」 


加速のブーストを乗せた、渾身の一撃。 風の刃が、光を反射しない漆黒のゴーレムの首元へと容赦なく叩き込まれた。 





――パリィィィィィィン!!! 




神谷鉱石洞の美しい結晶の響きとは違う、硬質な何かが完全に崩壊する音が轟いた。 アンノウンの硬い黒の表皮が、風の質量兵器によって完全に粉砕され、巨体が光の粒となって霧散していく。 

一瞬の静寂の後、洞窟内には三人の荒い息遣いだけが残された。


『うおおおおおおおおおおおおお!?!?』


『やったああああアナあアアアア!!』


『マジで勝った!!!』


『ゴーレム種は相当固いんだよ、みんな頑張った...!』


 コメント欄は、もはや文字が重なって読めないほどの狂乱に包まれていた。

投げ銭のエフェクトが画面を埋め尽くしていく。


「はぁ、はぁ……。みんな、応援ありがとう! ニューカラーズ、第1階層の攻略、大成功です!」 


リリーがカメラに向かって、誇らしげに、そして最高の笑顔でVサインを掲げた。 玲奈も小さくガッツポーズを見せ、翠はホッとしたようにへたり込んでいる。 

結果的に、これ以上ないほどの大成功を収めた彼女たちの初配信。 

記念すべき第一歩を見届けた視聴者たちの歓声に包まれながら、ニューカラーズのチャンネルは、大盛況のうちにその画面を暗転させたのだった。

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