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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!~国家一級魔導具師のお仕事トラブルコメディ~  作者: 雪見もち子


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第36話:穿つ未来のカウントダウン(最終話)

出発の準備が出来た私は、玄関に向かった。


私室の二階から、一階へ続く階段を優雅に歩く。

そして、広い玄関フロアに敷かれた赤い絨毯の上を歩み一階へ到着する。


それと同時に、玄関前に待機していたクロードとカトレアの二人が私にそっと笑みを向けた。


二人が大きな玄関扉を開くと、外の眩しい日差しが私たちを照らす。


彼らにエスコートされながら、私は一歩ずつ静かに歩きだす。


そして、私は空を見上げる。


視界に広がるのは晴天の空。

それはいつかの出発の日と同じ、輝かしい始まりの色だった。


「皆さま!準備は宜しくて?」


私の前に立ち並ぶのは、以前と変わらぬ護衛たちと、人員追加されたフェリクスの姿。……だが。


「……あら?まだノアの姿がありませんわね?」


「ノアはオリーブを運ぶ為に、準備を整えているだとか」


ぐるりと見渡す私にクロードが答えた。


ーーコツコツ。


「……ああ、来ましたよ。」


背後から歩幅の狭い小さな足音が聞こえ出す。それは、あの子らしい乱れのない歩行音だった。ノアの姿を確認するように、私は振り返る。


「これで、全員揃いましたわね。ノア、忘れ物は大丈ーー」


いつも通りの無表情。そして、装備も変わらず、茶色の斜めがけの鞄……のはずだった。


しかし、そのノアの出で立ちは、不審……いや、違和感のあるものでしかなかった。


「……ノア、その赤ちゃんを抱っこするような布。……手元のおくるみは、一体何ですの?」


引き攣る私の笑みと、護衛たちのざわめき。


それは、見慣れぬ異様な光景だった。


ノアが胸元に大事そうに抱えているのは、私のエプロンドレスのデザインによく似た、生成りの柔らかそうな生地にシンプルなフリルのついた、おくるみ姿のオリーブ。


私たちの空気が固まる。


「解析の結果、お嬢様の筋力でオリーブを保持し続けるのは『不適合』と判断しました」


そんな私たちの姿を見ながらもノアは気にもせず淡々と告げる。


「僕がこれで随行します。お嬢様は、その腕をドリルを回すためだけに温存してください」


合理的な判断。けれど、私たちはそれ以前に何と言葉をかけるべきか戸惑いが浮かんでいた。


「マスター。此ノ布、肌触リハ規定値ヲ、クリア。従僕、『ノア』ノ心拍数モ安定。落下リスク、0.03%以下デス」


補足するようにオリーブからは機械音声が流れ出す。


(この二人、案外良いコンビになりそうですわね……?)


感情が読みに取りにくいノアの瞳。


(機能性だけで言えば確かに、否定するのも良くないでしょうけれど……)


私はどう判断すれば良いのか迷い、口を閉じては開く。しかし、言葉になる事はなかった。


「……ああ。ノアも漸くリトニア家らしい、効率と合理性に目覚めたのですか」


そんな私よりもノアへ先に言葉をかけたのは、クロードだった。


「あのお包みは私の手製ですのよ。ノアでもこれならば、無愛想などと言われないでしょうし、かつあのオリーブという個体も愛らしさが増しますわね……!」



私は憐憫の目をノアへとそっと向け、距離を縮めるようにノアへと歩み寄る。


「……ねえ、本当にあの二人が教育者でいいの?もし、本当に嫌だったら私にちゃんと言いつけるのよ?」


私は彼の小さな肩に両手を乗せ見つめる。


「……大丈夫です。彼らはああですけれど、従者としての業務に関しては勉強になりますので」


ノアはやや沈黙をしながらも、コクリと小さく頷き見せた。


「けれど、オリーブのお包み姿は似合っていますわね」


私はお包み姿のオリーブにそっと指先で触れる。ツルリとした表層、冷たい温度。けれど、お包みのお陰か、それとも丸みのお陰か、どこか愛らしさ覚えた。


「ああ、そう言えば、オリーブの保管されていた一部の記録データはどうなったのかしら?」


「現在も復旧中です。……ですが、以前と進捗は悪く、現在は何もデータが残っていない状態と変わりないです」


「そう……」


ノアの返答に私は期待半分だった心が僅かに萎む。


(オリーブをまさか解体する訳にはいきませんし、まだ調査は始まったばかりですもの。これから、ですわよね)


「それにしてもこの子って、命名をされたのが先日なのだから、この子は0歳と同じ……つまり、赤ちゃんみたいなものですわね」


脳内を整理するように私は言葉を零す。


だが、続くノアの言葉が無く、私は不審に思い顔を上げる。


すると、私の視界に映ったのは、まるで時が止まったかのように固まる護衛たち。


物音一つとしてない。その場には静けさだけが広がっていた。


「……あら?」


私は思った通りの反応が得られず、思わず戸惑いの声を漏らした。そこへーー。


「正気かお嬢?」とカイルが深刻な顔で見つめ、「やっぱり専属の従者があれだと教育に悪いんじゃない?」と呆れ混じりなフェリクスの声が遠くで聞こえた。


「んんっ!ちょっとそこ!聞こえていますわよ!!」


私はビシっと二人を指差した。


「私たちが命からがら回収したオーパーツですのよ?それを私は大事にしようと!そう言いたいのですわ……!」


一度だけ床を強く踏み、声を上げる。そんな私を見て、二人は呆れたように肩を竦ませた。


(もう!絶対に言いたい事が伝わっていませんわね……。んん、どうしたら伝わるのかしら……)


オリーブを見ながら私は思考を纏める。その時、二人の口元がほんの少し上がっていた事には私は気づかなかった。


僅かに苦悩する時間。しかし、その時の私の脳裏に過ったのはある光景。


「……それに、オリーブを冷たい工房の地下室で一人眠らせておくには、寒すぎますもの」


ぽつりと呟くように、無意識に近い言葉が漏れ出す。近くにいたノアだけが私の言葉を拾ったように、視線を上げた。


「要するに、放置しておくとしても未知の古代技術をただ寝かせておくだなんて、惜しいですもの!!」


私は声を張り、全員に聞こえるように言葉を放った。


「それに私がマスターになりましたし、責任を持ってちゃんとこの子の情緒を育成こうちくしてみせますわよ!!」


胸を張り自信満々に告げる。けれど、その空気を壊すかのように彼が近くに現れた。


「ククッ、育成、ですか……」


笑い声を堪えるように口元を片手で覆うレオンが、私の傍にやって来た。


「……あの手のかかる、お転婆なお嬢様が……0歳の、育児……っ」


肩を震わせながら薄らと目尻に涙を溜める姿に、私の怒りが爆発した。


「レオン!貴方も笑っていないで、準備は出来ましたの!?」


「ええ、勿論ですよ、お嬢様。これからの旅がまた愉快になりそうだと、先日からはりきって事前準備も滞りなく済ませましたのでご心配なく」


レオンの切り替えの速さに、思わず私はじと目のまま見つめた。


前回の調査で私はネジやらパーツやらで馬車の中の予備の食料を少なく見積もった経緯もある。


だからこそ、今回は彼らのいう通り素直に自分の荷物量を減らし、適切な量を用意をされたスペースに詰め込むだけの作業をした。


その際にレオンにも見張られる羽目になるとは思わなかったが、お陰で確かに旅に関する不安は少なくなっただろう。


「はいはい、それじゃあお嬢サマもそこでじゃれてないで、早く馬車に乗っちゃって。カイル君が準備済ませたってさ」


「分かっていますわ!もう、出発しますわよ!!」


いつの間にか準備を進めていたフェリクスは、リトニア号の傍らでゴーグルの位置を直しつつため息を吐くカイルの隣から、声を上げこちらに向け手を振る。


私の数歩先前にはクロードの背、後ろにはカトレアが付き添い、その隣ではレオンの快活な笑い声が響くのを前を向いてリトニア号へと一歩ずつ歩みを進める。


そんな私の隣ではノアと(お包み状態の)オリーブが、静かに寄り添うように並び歩く。


私は技術者として、工房では常に一人で淡々と開発をすることが多かった。


けれど今は、ちょっと物騒で、ほんのり不憫な出来事まで私に降り注いでいる。


それでも――こんなにも賑やかで、楽しい日常がここにはあった。


(最初は、ただ普通の技術者でいたかっただけでしたのに。こうしてリトニア団の責任者になるとは、思いませんでしたわ)


「……でも、この護衛たちとなら、悪い気はしませんわね!」


かくして、「令嬢の旅路」には似つかわしくない物騒な面々が揃い踏みしていた。


「私の護衛、もとい、『リトニア調査団』のメンバーは全員揃いましたわね」


再度私は確認するように辺りを見回す。

そして、大きな筒状の『魔道具』を背負ったクロードが傍に控える。


「そろそろ出発の時刻になります。……お嬢様、最終確認を」


「ええ、そうね、それじゃあいつもの『アレ』……今回は特別バージョンにて、行きますわよ!!」


私は左手にウエストポーチに入らなかった工具箱を持つ。


「レンチも良き、軍手も良き、ハンマーも……良いですわね」


ポケットの中を指差し確認する。


「そして、仕上げにドリル……準備万端ですわ!!」


家宝のドリル。ボーラー様が擬態するカメオの髪飾りに触れた後、私は指をパチリと鳴らす。


すると、クロードは背負っていた巨大なクラッカー砲を手にし、空に向かって打ち上げる。


――ドカァァァン!


放たれたのは、色とりどりの丸い水蒸気と、風圧に巻き込まれた花びら。爆風により、鮮やかな色たちが飛んで行った。


私はその中で、後光差す朝日を浴びる。

そして、これぞ悪役令嬢の嗜みと言わんばかりの、高飛車にして優雅な三段活用の笑いを上げた。


「さあ、リトニア調査団、新たな目的地へ向け、出発しますわよー!!


晴天空の中、私は声を高らかに宣言する。


「そして、私たちの旅は、まだまだ続きますわよ!!……って、あら?これ、以前も言っていましたわね」


そして、私たちは次なる調査地へ向けて旅立った。

無事完結しました!


ここまでお付き合いくださった読者の皆様、本当にありがとうございます!


初めての小説投稿で、まさか17万文字を書き切れるとは自分でも思っていませんでした。


ノリと勢いから始まった『不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!』ですが、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。


公開時期は未定ですが、一度ここで区切りとし、しばらくお休みをいただく予定です。


もし「続きが読みたい!」「面白かった!」と思っていただけましたら、感想や評価をいただけると、とても励みになります。


改めまして、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!


また別の作品や、この作品の続きでお会いできる日を楽しみにしています。

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