第24話:広間の疾走と断絶の射線
最適な結果を求め、最善の道を選んだ末に掴んだ最高の結果。
しかし、それを手にした直後、その隙が私たちの慢心による、最悪の結果を招いてしまったのは、この直後のことだったーー。
◇
戦闘を終えて、私たちは一息をついた頃、祭壇上に浮かぶ不思議な箱へと向かう。
魔力障壁を最大まで展開していたノアは疲労の色が濃く、フェリクスに背負わせ、私はその隣に並んで祭壇の前へと向かう。
「これって一体何でしょうね……ノア、何か分かりそうかしら?」
「モノクル越しから見える魔力から察するに、先ほどのゴーレムと同じ”古代魔力”なのは確定していますが……少々お待ちください、解析します」
じっと目を凝らし、フェリクスに背負われたままノアが解析を続ける。私はその隣で落ち着きなく、待ち続けた。するとーー
「……やはり、これは目的の古代遺物、器の中身である核での可能性が高いです」
魔力障壁による封印の類ではないようで、目視できる限り異常がないことを確認したノアは、私が触れるよりも先に、無機質な声と共にそれを掴み取る。
「古代の”箱”……通称、『ブラック・ボックス』と呼ばれる古代遺物を確保しました」
湧き上がるのは喜び、挫折の日々に苦悩したことは多々ある、それがやっと努力を結んだのだと、肩の荷を下ろしそうになった、わずかな気の緩み。
「ついに、ついにやりましたわ!」
「お嬢様……ああ、このカトレアもお嬢様のお喜びの姿に感動しました。これまでの軌跡を経典へーー」
「淑女がそのように飛び跳ねるなど、言語道断ーーと言いたい所ですが、よくがんばりましたね、お嬢様」
賞賛と共感の言葉を贈るカトレア。そして、クロードは普段よりも優しい目をして暖かな言葉を贈ってくれた。
各自警戒はしつつも破壊されたゴーレムも稼働する事はなく、沈黙を続けていた。
――それが、油断に繋がったのだろうか。
突如、空間を揺らすような地鳴りで私たちは思わず体勢を崩した。
「きゃっ!!」
「お嬢様、伏せてください!」
私は言われるまま身を伏せるようにしゃがみ込む。そして、揺れが収まると同時に私は顔を上げ、前方の祭壇奥に視線を移した。
祭壇の奥から、次第と息詰まりそうになるほどの濃度の高い魔力が、徐々に侵食するようにフロアを埋め尽くす。
(息が詰まりそうですわ……)
すると、壁と同色の茶色く錆びた、何かの指先が壁へとかけられていた。
「なんですの。あれは……」
壁が迫り出すかのように、ゆっくりゆっくりと動き出しーーやがて、前身を此方側へと乗り出した。
私たちの勝利の余韻を消し去るように、祭壇の背後から「絶望」が立ち上がった。
先ほどの二体目のゴーレムとは明らかな格の違い。高さも横幅までも大きく、全体的に厚みのある形状。その規格外の装甲が浮き彫りになった。
「まさか……伝説の、古代遺物、兵器……『特務型』ゴーレム……?」
ノアの呟きは、もはや報告ではなかった。
理解が、追いつかない想定不能の古代遺物。それも――『伝説級』。
私たちは、動きを止めた。
誰も、何も言えない。
恐怖ではない。その前段階――脳が、情報の受信を拒絶していた。
――ズシンッ!!
一歩動くたびに、絶望が近づいてくる。
――グシャッツ!!
そしてそれは、容赦無く同位体であるその残骸をーー踏み潰した。
「な、……っ、まさかの二回戦かよ!?」
「 しかも、さっきとのは明らかに形状も異なりますわ!!」
私たちの混乱の声。
だが、無情にもその時はやって来た。
『警告ーー承認者以外の魔力を検知ーー』
『ブラック・ボックスへの干渉を確認。……殲滅モードへ移行します』
特務ゴーレムから告げられた無機質な音声。
『魔力高火力魔力砲・再充填完了まで……残りーー3分』
私の顔から血の気が引く。
『計測不能』。
レオンの合体大剣は連戦の衝撃に耐えかね、刀身の半分にまで亀裂が走っており、損傷が激しい。
あの二体に使ってしまった、メインウェポンを掴むレオンの顔は、険しさを写した。
「……チッ、あと一撃まともに受ければ、この剣ごと私が先に斃されますね」
最強の騎士と呼ばれるレオンの口から漏れた、初めての弱音。
「カトレア、お嬢様の安全を優先に」
「お嬢様、どうかお下がりを!!」
私は言葉を発する事は疎か、思うように身体が動けない。
カトレアの手が私を掴んだ、その時。
――カツン。
弾丸を床にとりこぼした音が、嫌に耳へと響いた。
「……全員、撤収っ! リトニア号まで死ぬ気で走れ……ッ!!」
カイルの怒声が広間に響く。
巨大扉のそばに停められたリトニア号ならば、逃走が可能かもしれない。
僅かに残る可能性。
倒すことより、命の優先を選択する。
しかし、あそこまでは遮蔽物など一片もない。広大な石畳の床を横切らなければならない。
「お嬢様、失礼ッ!」
レオンが私を横抱きにし、爆発的な脚力で一歩を踏み出した。彼の身体強化なら、一瞬でリトニア号まで到達できる。
――だが、他の面々は違う。
「……っく、この速度、どこまで持つか……!」
ノアを、背負い走り続けるフェリクス。そして殿を固めるカトレアとクロード。
彼らの走力では、リトニア号までの距離はあまりに遠く、そして『特務型ゴーレム』の魔力チャージ速度の方が先だった。
「っ……レオン、 私はいいから、皆を……っ!」
「無理だ! お嬢様ごと全員が焼き払われる!……選択肢は、ないっ!!」
レオンの表情は、かつてないほど険しく苦悶の表情が浮かぶ。
リトニア号まで、あと数百メートル。
(――広い)
魔力砲の放出まで、わずか3分。
たったの「3分」。
(あまりにも、遠いですわ……!)
――止まる。
が、
――ガキンッ!!
弾幕の音。
――パンパンパンッ!!
ゴーレムの足元にある残骸へ向け、フェリクスが双銃で弾幕を放つ。
すると、残骸からは煙が上がり、特務ゴーレムの視界を塞ぐことに成功した。
「――カイル!!」
「ああ、逃げ切らせる!」
――ダンダンダン!!
カイルの銃から放たれる弾丸がゴーレムの片腕の核に命中し、動きを鈍らせた。
「……お嬢様、先に行ってください。……カトレア、あとは頼む」
「っ、どうか、ご武運を……ッ」
クロードによる『過剰身体強化』で超加速し、魔導爆弾をゴーレムの足元へ次々と投球した。
――ドガシャァァァンッ!!
砂埃を巻き上げ『精密照準』を強制的に外させようと足掻く。
だが、その全ての執念を持ってしても、古代の守護者の絶望的な出力を「止める」には至らなかった。
「……冗談じゃねーっての! こんな火力じゃ、間に合わない……ッ!!」
リトニア号のステップまで、あと数メートル。
だが、砂埃を裂いて放たれたのは予定よりコンマ数秒遅れただけの、冷徹な紅い閃光。
――回避不能。
――防御不能。
理屈も、感情も、届かない。
――ただ、網膜が白く焼き切れる。
「「…………っ!!」」
――計測不能、制御エラー。
逃げる仲間の背中を、紅い光が情報の暴力で飲み込んでいく。
死の射線が私たちごと空間を更地へ変えようとした。
その瞬間――更なる絶望の光景が、私の瞳に映った。
――『その運命を、穿ちますか?』
誰かの声が、聞こえた。
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。
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