第25話:絶望と「白」の衝撃
巨大な特務型ゴーレムが放つ、一撃目の紅い閃光。
「……フェリクス、下ろしてください。……僕が囮になります。確率論的に、それが全滅を回避する唯一の手段です」
空気が歪むほどに高まる中、ノアが淡々と死を口にした。だが、その瞬間。着地したフェリクスの大きな手が、ノアの頭をクシャリと、乱暴ながらも温かくひとなでした。
「……ま、俺が盾になれるとは思わないけどさ。……子供残して逃げるってのは、大人的に『なし』な訳。効率以前の問題っしょ?」
フェリクスが不敵に笑い、ノアの肩を抱くように低くしゃがみ込む。ノアは驚いたように目を見開き、言葉を詰まらせた。
「……貴方は……。……いえ、分かりました。
次の一撃、僕が展開できる全魔力障壁の威力は半減……ですが、僅かでも耐えて見せます」
ノアとフェリクスの2人が立ち止まる姿が視界に入る。ーー彼らをここで無くす訳にはいかない。
レオンに担がれたまま、私は溢れそうになる感情を思考の渦へと変換する。
(停滞してはダメ、諦める事だけはしないーー生存戦略の為の一手を、考えろ!!)
『ギロチン』の制限時間は、3分間。残りまだ10秒もある。
だがしかし、それを使うにも僅かな隙、それも制御を停止させるだけの力が必要だ。
逆を言えば、それさえあれば、トドメは刺せる。
ただの魔力では無効化。
だけど、『特務ゴーレム』の原動力には、魔導回路が組み込まれている。
(……ならば、使える手は、まだある!)
ーーその時、私の絶叫が広間に響き渡った。
「レオン、『これ』を投げなさいッ!!!」
私は渋るレオンに降ろされ、作業着エプロンの内側に隠し持っていた、父からのお守り『特殊電磁波弾』を装填した小型銃をレオンに託した。
レオンの剛腕によって弾丸のごとく宙へ射出されると、並走するカイルへと投げ渡した。
「カイル! そのガラクタの魔導回路を、強引に麻痺させなさい!!」
「了解。……リトニアの秘密兵器なら、一発当たれば十分だろ?」
カイルが銃を手中に収め、走りながら引き金を引く。放たれた電磁波弾がゴーレムの胸部で弾け、青白い火花が古代の回路を、一時的にショートさせる。
紅いチャージが霧散した、そのコンマ数秒の空白。
「――これで最後だ、ガラクタがッ!!」
レオンが、大剣に全魔力を流し込み、黄金の閃光を纏って肉薄した。
ーーギギギギィィィィンッ!!
鼓膜を裂くような、金属同士の断末魔。
レオンの剛腕が振り下ろした一撃。
ゴーレムの硬質な装甲を断ち割り、内部の核を抉り出した。
同時に、限界を迎えていた大剣が、役目を終えたかのように音を立てて砕け散る。
その鋼の破片は爆風となって、ゴーレムの首を勢いよく撥ね飛ばした。
「やった……! 倒しましたわ!!」
私が空中で歓喜の声を上げようとした、その時。
禍々しい赤黒い光が溢れ出した。
遺跡全体を震わせる、ーー最悪の警告音が鳴り響く。
『――緊急自爆プログラム起動。周辺座標の”完全消去”を開始します』
ゴーレムの核が、紅く輝いた。
遺跡全体に、警告音が響く。
ノアの声が、初めて明確に揺れた。
「……魔力砲、再チャージ……!」
空気が変わる。
先ほどとは比にならない圧。
ただの“攻撃”ではない。
この空間ごと消し飛ばすための、最終処理。
『残り、三十秒』
静寂。
三十秒。
短すぎる時間が、絶望として全員の上に落ちる。
回避は不可能。
防御も間に合わない。
思考すら追いつかない。
(――終わる)
誰もがそう理解した、その瞬間。
ーー純白の閃光が、世界を塗り潰した。
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ー特務型ゴーレム自爆シーケンス。
周辺空間の魔導密度……飽和状態。
生存圏、消失。
警告。
敵個体、予備回路による強制爆破を断行。
……全対象、消滅予測。
再計算……不可。
回避・防御、いずれも成立せず。
座標(X:?? / Y:--- / Z:!!)にて、
異常回転エネルギーを検知。
出力……計測限界を突破。
速度……理論上値を逸脱。
……。
ノイズ増大。
観測データ、崩壊開始。
解析不能。
再演算……不可。
再接続要求……応答なし。
ーー閃光の赤と、
飛び散る火花ーー。
――観測、不能。




