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霊の心  作者: タナカ
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第5話 仲の良い2人




 一限目、響太と健は間抜けな遅刻理由から先生にこってり説教され、精も根も尽き果てた姿で授業を受けていた。

 響太が机に突っ伏していると、隣の机から花柄のメモ用紙がとんできた。


『あ〜っはっはっは! 軍隊ごっこしてたら体力切れて遅れたなんて、あんた何年生?』


 紀子からだった。

 隣のその張本人を見るとすました顔で授業を受けているが、その頬はわずかにゆるんでいた。


 ぴしっ!


 響太は顔をひきつらせ、額には青筋を浮かべていた。

 即座に返事をノートの隅に書きなぐると、隣の紀子にすぐさま書いた紙を投げつける。


『うるせ〜!! ふってきたのはたけるだ! あれがなければぎりぎり間に合う予定だったんだ! だから俺は全然悪くない!!』


 紀子は響太の手紙を何気ない風に読んだ。

 そして一瞬だけにやりと笑うと、机からかわいらしいメモ用紙を取り出した。

 返事はすぐに返ってきた。


『ふつう軍隊ごっこなんて振られてもやらないよ〜。いいわけは見苦しいのだ。(・∀・)ノケラケラ!』


『そうでもしなきゃあの坂を制覇できそうに無かったんだよヽ(`Д´)ノ! それに今日は目覚ましが誤作動したんだ! あれが全て悪い!』


「おい。俺の授業はそんなにつまらんか」

「「はい?」」


 突然ふってきた声に、響太と紀子は恐る恐る顔を上げる。

 するとそこには40歳独身男性の数学教師が仁王立ちしていた。


「手紙の交換とは仲がいいものだな」

「「いいえ! これっぽっちも!」」

(ばかっ! ハモるな! 余計このおっさんの神経を逆撫でするだろ!)


 響太が紀子を睨むと、紀子も響太を睨み返していた。

 あんたワザとハモったでしょ?

 紀子の目はそう語っていた。

 ふつう狙って言うことが重なるなんてできるわけないのだが、その時の2人は気づかなかった。


 そして、気づかなかったことがもう1つ。

 当人たちにとってのにらみ合いは、婚期を逃した男性教師には、場所もはばからず見つめ合うカップルに見えるわけで………


「イチャイチャするなら廊下でしてろ!! このバカップルが!!」


 結局、40歳独身数学教師生駒の、勘違いと逆恨みで、2人は教室を追い出された。







 








 昼休み。


「…………ううう。反省文なんて嫌だよう………」

「うなるな。自業自得だろ」


(おまけに昼飯は寝過ごしたせいで少ないし)


 生駒教師の怒り爆発により、響太と紀子は二人そろって弁当片手に反省文の提出をせまられていた。


「響太が面白いことするから、つっこまずにはいられなかったのよ………」

「この関西人め」


 ついでに紀子はばりばり関東出身である。


「元山さん、手伝おうか?」


 クラスでそこそこかっこいいバスケ部伊藤が話しかけてきた。


「甘やかすな。伊藤。こいつ付け上がるから」

「む〜、響太は後で殴るとして、本当にいいよ。第一反省文なんて自分でやるものだし」

「そ………そう………」


(なんでお前が落ち込んでるんだ?)


 なぜか残念そうな伊藤がとぼとぼ自分の席に戻ると、


「ぎゃーっはっはっは! 余計に体力使ってやんの!」


 健が大爆笑してきた。

 だが響太はむやみに反論できない。めっちゃ悔しかった。


「んで、それで足りんの?」

「なんとか…………」


 健の視線の先には響太の弁当箱、もといタッパー。いつもの3分の1ぐらいの大きさしかなかった。


「やせ我慢ー!」

「やかましい紀子! 無駄金使いたくないからな。うち貧乏だから我慢もしたくなるわ!」

「むぅ、なんてうまい唐揚げなんだ! 素晴らしいよ母さん!」

「健! てめぇ殺す!」


 ぶんぶん拳を振り上げるが、力が入らずうまく当たらない。


「………よけい腹減った」

「「あーっはっはっは!」」


 二人に笑われ、響太は机に突っ伏す。二人の勝ち誇った声が異常にむかついた。響太は一瞬弁当パクってやろうかとも考えたが、ヒトの食いかけを食べるほど、自分は落ちてないと思い直した。

 だが、弁当…………そう思わずにはいられなかった。


「あ、そういえばさ」


 紀子が今思い出したかのように聞いてきた。


「昨日の演奏、どうだった?」

「演奏? ………ああ。歓迎会の奴か」

「ミハルちゃんの歌声のインパクトで、紀子なんか誰も気にしてな………ぐふっ!」


 健の発言に紀子が無言でひじ鉄をした。…………威力がふつうのとは桁違いの。


(さすが武闘派………怖)


 健轟沈。


「恥ずかしくて死にそうだった」


 とりあえず沈んでいる健は無視することにした。


「恥ずかしいとは失礼な。それに、ちゃんと演奏できてたよね」

「………………まぁ、邪魔にはなってなかったろ」


 正直、演出も面白かったし、演奏も神谷深春と一緒の舞台なのによくできていたというのが響太の意見だった。

 しかし、紀子を褒めるのはできないことはないが、何か背中がかゆい。故にこれが響太の手一杯。なのだが。


「そっかそっか! へへ―――。ありがと!」


 紀子は嬉しそうに笑っていた。


「いや、ほとんど褒めてないのに何故喜ぶ?」

「そりゃ響太、お前のツンデレな性格知ってりゃ………」

「「余計なこと言うな!」」


 復活していた健の脳天に俺と紀子は再びパンチを叩き込んだ。


「ぐわっ!」


 頭を抑え涙目で健はまた冷たい教室の床に沈んだ。

 健、がんばれ。










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