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霊の心  作者: タナカ
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第6話 放課後の公園





 響太は空腹をなんとか水で腹を満たして残りの授業を乗り切り、放課後。


「じゃーな響太」

「健(たける)は野球部か……。運動部は大変だな」

「青春の汗の素晴らしさが分からんとは、愚か者め」

「別に分かりたくない。じゃあな」


 腹が減っているので響太は急いで帰った。


「夕日がしみるぜ」


 腹に。


「下り坂はきついぜ」


 腹に。

 茸(きのこ)でも生えてたら毒かどうか考えずに食べてしまいそうなほどだった。

 えっほえっほと走っていると途中、公園の桜が目に付いた。


「桜か………」


(今ちょうど散り始めか。そういや今年、桜を見てないな。夕方の桜というのも乙かもしれん)


「………ま、ちょっとだけ見ていくか」


 響太は公園の中に入った。

 散りかけた桜が、そこら中を彩っていた。

 しかし地面を見ると、土にまみれた桜の花弁がたくさん見える。


「…………風情?」


 イマイチだった。

 ………帰るか、響太がそう考えた時だった。


「………あれ」


 公園の隅辺りで、立ったまま桜を見上げている小さな女の子を見かけた。

 髪を3つ編みにした、小学生ぐらいの子だった。

 そして気のせいだろうか。

 響太には女の子の姿がかすんで見えた。


「…………え?」


 目をこすってみる。


(いやいや、人がかすむってありえないって)


 再び見ると、女の子はかすんだ姿のまま。


(………桜にはわずかに幻覚症状を起こさせる効果があるっていうしな。それに今夕方だし)


 そう響太は強引に結論付けた。

 そうして苦悩している間にも女の子は微動だにせず、じーっと桜を見ていた。


(………木に何かあるのか?)


 だがそこには桜があるだけで、風船が引っかかっているとか、そういうのはない。

 その子に近づいてみるが、その子は響太にはまるで気づいた様子がなかった。


(物思いにでもふけってるのかね)


 難しい年頃なんだろうねぇ……とおじいちゃんみたいな感想をは響太は持った。


(けどま、もう遅いしな)


 日が暮れかけている。子供はもう帰る時間帯だった。


「もう遅いんだから、早めに帰りなよ」


 響太は女の子に近づくと、そう言って女の子の肩をぽんと叩いた。


(え………)


 その瞬間。

 響太は急に足腰が立たなくなり、その場にしゃがみこんだ。

 急な立ちくらみに驚いていると、わずかに女の子の声が聞こえてきた。


「………………お、ね」


 その声を最後に、響太の意識は途切れた。








 






 ………あのお人形、欲しいな。

 そう思って少女は、棚の上に並んでいる人形を見上げた。

 ずっと欲しかった人形だった。

 だから誕生日を理由に、買ってもらおうと思ったのだが………


『おばちゃーん、どうにか安くならない、コレ?』


 少女とは別の女の子の声が聞こえてきた。

 ………ダメなのかな。

 少女は不安げに、その女の子を見た。


(あ………)


 視界が急にぶれる。

 そこで少女の記憶が途切れた。








 







「………もし………もし………」

「…………え?」


 気がつくと、心配顔をした女性の顔が映った。


「だいじょうぶですか?」

「え、ええ」


(あの子は、一体………)


 響太は混乱した頭で、どうにか夢を見ていたことと、ここが公園であることが分かった。

 辺りを見回してみるが、そこにさきほどまでいた女の子の姿は無い。


「びっくりしました。公園で倒れていらっしゃるんですから。何かあったのですか?」

「………いいえ」


 買い物帰りらしい女性に、とりあえず生返事を返した。


「幽霊でも見ましたか?」

「え?」


 ぎくりとして女性を見ると、その女性は微笑していた。


「でしたら気をつけてくださいな。春になると性質(たち)の悪い幽霊がよく出たりしますから」

「えと………どういう」


「私は、あるお寺で生まれましたの」


 そう言いながら、女性は懐からハンカチを取り出した。


「幽霊とは強力な思念の塊。その思念に呑まれて発狂してしまう方も大勢いらっしゃいますから」


「あのー………」


 女性には悪いが、何か宗教勧誘の様な気がした。


 女性は取り出したハンカチで響太の額についていた血をそっと拭い取ると


「幽霊には、近づかないことです」


 と言って立ち上がった。


「あなたは感応しやすい方みたいですから」


 そして、そのまま女性は去っていった。


「………………なんだったんだ?」


 そう呟くことしかできなかった。

 響太は呆然としていると、ぽつ、ぽつと顔に水滴がついた。


「………雨?」


 空を見上げると、いつの間にか雲で覆われていた。

 夕立が来そうだった。


「…………さっさと帰るか」


(あの子らのことは忘れよう)


 それが一番いいように、響太には思えた。











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