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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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36/40

36.打ち上げ女子会

「お疲れ様、カンパーイ!」

「「カンパーイ」」

シルベーヌの掛け声に、この場に出席した一名を除いて全員が元気に呼応する。一口飲んでグラスを置くと、拍手が響いた。

国際会議も無事に終了、各国ゲストを送りだし、それぞれが持ち場でまとめた結果や課題を持ち寄った報告会、という名の女子会。

妃候補の少女達全員がかつて授業を受けていた資料室へ集まり、堅苦しいのもメンドクサイからランチとお茶会を兼ねて、頑張った自分たちを労いながら報告しようとしてこうなった。

カンパイは季節のフルーツを使ったジュース、軽食はサンドウィッチやカナッペなど片手で摘まめる軽食が数種類、長くなりそうだからとこれまた一口大で可愛らしい焼き菓子やチョコレートが準備されている。

色とりどりで盛り付けにもこだわったいくつもの皿は、思わず目移りしてしまう。皆きゃっきゃと楽しみながら自分の皿へ気に入ったものを取るが、乾杯もせず主役席でどんよりと滅入っているその人は。

「あらクラン、どうしたの?早く取らないと、人気のものは無くなってしまうかもよ?一先ずお腹を満たしてからの報告会で、問題ないでしょ?」

好きそうなもの、取りましょうか?と、ごく普通にあしらわれるが、誰も何も言わないって怖いんだけど。

「ねえシルベーヌ、僕、どうしてこんなの着せられているのかな?」

白と水色を基調としたドレスはシルベーヌが着ている白と黄緑のドレスと色違いのデザインで、胸元のリボンと襟や袖、スカートのフリルやレースがお揃いで使われている。髪飾りの花もそれぞれのカラーで色違い、元々少女のようにキレイな顔は薄化粧で違和感なく可愛らしい。

「異国の文化で『双子コーデ』って言うそうよ。だって、女子会ですもの。一緒に頑張ったんだから、貴方だけ仲間外れは寂しいじゃない。まぁ、私より似合っていて複雑な心境ではありますけどね」

シルベーヌの朗らかな声に、他のツッコミを遠慮していた少女達が、そっと王子に注目する。

「そうではなく・・・報告会議に王子がドレスで出席だなんて、やっぱりおかしいと思うんだけど」

そう、今回の国際会議はシルベーヌと共に責任者を務め、初めての重責と緊張感に押しつぶされそうになって本当に厳しかった。国家を背負う行事の矢面に立ち、必死にその役目を果たそうと手探りと体当たりで立ち向かう婚約者を心から労いたく思って、最後までやりきる力になりたいと願って、さらに言えば愛情表現のひとつとして約束した。

『シルベーヌ、無事にこの会議が終わったら、僕が出来ることなら何でも願いをかなえよう』

その約束で最後の力を振り絞り、自覚した限界をはるかに超えてやり切ることができた。


確かに約束したし、本心だったし、君の望みは僕が出来ることだったけど・・・・!シルベーヌのことだから一般的な令嬢のように珍しい宝石や流行のドレスよりも、自分の趣味やこだわりに関することだろうなとは思っていたよ。好きな童話の初版本かな、学院を案内して欲しいとかかな、会話にも慣れたと思うから好きな場所へ一緒に出掛けて仕事以外の話を楽しむなんてどうだろう?なんて想像していたんだけど・・・・ふ、ふたごコーデ??だなんて僕には異次元レベルだよ。

にこにことご満悦なシルベーヌ以外、まじまじと見るのも憚られて遠巻きに注目していた少女たちは固まってしまっている。が、

「やっぱり、クラン王子ですよね?・・・凄い、とっても素敵!似合っています!!」

キラキラのエフェクトを背後で爆発させて心からの賛辞を贈る、この状況にツッコミが出来る勇者は、ラミーしかいない。

「でしょう?クランが会議が無事に終わったら私の願い事を聞いてくれる、って折れそうな時に励ましてくれたからやり切れたの。不敬かなと思ってずっと言えなかった希望だから、かなえてくれて嬉しい!あ、もちろん皆の協力も心強かったわよ」

「そうなんだ!意外でビックリしたけど、二人ともとってもお似合いで素敵だわ」

「でしょ、でしょ?私はともかく、クランは肖像画でも残しておきたいくらいよ」

盛り上がるシルベーヌとラミー以外はビミョーな空気だったが、愛の形はそれぞれなんだな、とか、クラン王子はあんなお願いもかなえてしまうくらい本気でシルベーヌが好きなんだな、なんて様々な解釈をしつつ、そう言えば王子妃選抜自体がデキレースだったか、お似合いですよ、と改めて納得した。


会議自体は細かな課題は残しつつ概ね成功で、お金や成果に対する取り決めも済んで契約書を交わし、来月以降の滞在受け入れについて本格始動をすることになる。魔法植物由来の薬や道具は、これまでルーモスの秘術として各国との貿易材料に使うだけだったが、その有用性と可能性は小国一つで隠し持っていても発展は無い。

また、他国もそれぞれ研究や開発に向けての動きがあり、それなら個別に手札を隠しながら探り合うよりも、協力して発展させ利益を分け合う方が互いの未来のために有益だとの意見に賛同してもらえた。

流石にいきなりすべてをさらけ出す裸の付き合いは出来なくても、互いの手札を見せ合いながら歩み寄ろうと言う話だ。

「それにしても・・ちょっと、胡散臭い人も混ざっていたわよね?」

「ええ。表立った行動は無かったけれど、さりげないつもりでも引っかかったわ」

「アタシも気になる人がいましたわ。迷ったフリをされていたけれど、ご案内した場所以外で三回も遭遇しましたもの」

「そう?警備からも連絡があったのよ。情報を整理しておいた方が良さそうね。この用紙に分かる範囲で良いから、書き出しておいてくださらない?なるべく早めに、執務室へ届けて欲しいわ」

シルベーヌは全員に、氏名はもちろん外見的な特徴、出身国や在籍、役職や肩書、気になった点の詳細などを一枚の表にした用紙を配布する。集まった情報を元に、精査するためだ。

各国厳選の代表者といえど、無条件に信頼は出来ない。聖人君子のごとく完璧であっても裏があるのが人間だし、真面目であるが故に思い込みで暴走してしまうかもしれない。何かの事情でお金に困ったり、家族や親族に心配事ができたり、逆らい難い圧力をかけられたりして、本人の意思とは違う言動をしてしまうかもしれない。そんな不測の事態にも早めに気づければ、穏便に対処することも可能になる。炎上前に火種や火種になりそうなものは、注意する必要があるのだ。

不正などの内部問題は協力関係を維持するためにも放置できないから、なるべくならそんな心配のない公正で柔軟な人たちにきてもらいたい。出し抜いたり嵌めたり騙したりして敵を作るより、冷静に協力体制を築いて互いのメリットを増やした方が無駄が無いだろう。他の足を引っ張って一人勝ちを狙っても、長い視点でみると利益は薄いと大戦を繰り返した歴史が証明している。

荒野を一人で開拓するのとはわけが違う。交流がある限り、自己の利益のみを追求するだけでは、いずれ行き詰まるのだ。

これを機に、まずは周辺三国と強固な関係性を築き大陸西部の安定をはかれば、小国ルーモスの安泰へと繋がる。互いに信頼を築いて良き隣人となれるよう、これからの交流には期待がかかっている。

それぞれの立場から報告を受けて現状を共有し、シルベーヌが締めた。

「どうもありがとう。皆さん、とても有意義な意見で助かります。すぐに対応可能なものは各部署の責任者へ通達、人員や設備についてはウレシックやサヴァランと相談します。では、これで報告会は終了、次は受け入れと晩餐会に向けて頑張りましょう」

シルベーヌとクランは執務室に戻って打ち合わせの草案作りがあるので退室するために立ち上がり、

「せっかくですから、皆様はそのまま、お時間の許す限りご歓談くださいな」

そう言って仲良く双子コーデで腕を組んで扉まで移動すると、思い出したように振り返って声をかけた。

「そうだった、悪いけれどラミーは一緒に来てくれる?ちょっと急ぎのお願いがあるの」


三人が退出した後、残っていた緊張感が解れてふっと場の空気が和らいだ。

「王子って、意外にシルベーヌに甘いようね。それにドレスが似合い過ぎ!」

「ねぇ?ラミーみたいに言えないけど、本当にお可愛らしい!近づきたかったのに恐れ多くて行けなかったわよ」

「はぁ、最初で最後だったかしら。姿絵が欲しいくらいだけど、きっとここだけの秘密ね」

「当り前でしょう。このメンバー以外で話題になんて出来ませんわ」

始めはヒソヒソと、しかしだんだん盛り上がって大きくなり、行き過ぎたのを反省して、またボリュームを絞りつつ思い出して堪能する。

「それにしても、シルベーヌったら。仮にも婚約者で王子にお願いを聞かれて、自分とお揃いの女装ってナナメすぎでしょ!」

「あのほとんど声すら聞いたことのない王子が、女性に向かって願いをかなえようだなんて、勇気を振り絞ったんじゃないかしら」

「うんうん、きっとそう。せっかく雰囲気も盛り上がってたんだろうけど・・・王子ファイト!」

「ね?いいもの見せてもらったけど、王子は複雑だったわよね。次は良い雰囲気を有効活用できるように私たちは協力を惜しまなくてよ」

「賛成ですわ!」


ほんの半年ほど前まで、ガチガチのライバルだったとは思えない台詞の連続。今はもう、シルベーヌ&王子カップルを認めているどころか、今日から改めて王子が不憫に思われ始めている。

誰もが認めるお似合いな二人と離宮内では不動の常識として定着したが、王都をはじめとする国内では、いまだ候補者同士でし烈な争いを繰り広げていると認識されている。特に貴族内ではブランテール推しが優勢で、デュワーズ公爵を筆頭にもはや確定も時間の問題と揺るがない。

何せこれまで魔法植物を有する唯一無二の国家として自信を持ち、国際社会では一目も二目も置かれる存在と信じて疑いもせず、その特別な国で王家に次いで権力を握る公爵家の当主であるという自負。

正当な血筋には敬意を払うのが当然、ならば王家の嫁には公爵令嬢以外に考えられない。国内三家の侯爵家のうち、一つは数十年前に途絶えたまま名前しか残っておらず、もう一つは近年勢いもなければ年頃の娘もいない。

この条件で負ける訳が無い。


「ふん、お父様には私から何度でも説明するわ。それにすり寄ってくるコバエみたいなオジサマ達も、払いのけなくちゃ!」

まるで憑き物が落ちたようなブランテールは、どこまでも逞しくて頼りになる。

「ワタクシも今回の会議でルーモスの立場が良くわかりましたわ。この国だけが、自分だけが特別だなんて幻想を抱いたままでは、崩壊してしまいます」

息まくブランテールに、エリーゼが大きく相槌を打って賛同する。勉強と実体験の成果だが、この二人は離宮合宿で最大の成功例だ。

魔法植物分野はそこに不随する利権も大きいので、次世代の国家事業として安定させるべく、王子を中心に野心を持つ国内貴族を平定する必要もある。その懸念筆頭がデュワーズ公爵家だ。

幸いにしてブランテールは国際社会でのルーモス王家の位置を理解し、協力体制を肯定するようになった。また、デュワーズ公爵家支持のラフロイグ侯爵令嬢であるエリーゼも続いてくれるのは、非常に心強い。

これからは、その親世代を攻略できる結果を出さなくてはならない。事業分野の発展は楽しみでもあるが、難題は続く。

来月から共同研究者と栽培実習者の受け入れが始まり、さらにその翌月末はこの離宮で王家主催の晩餐会が催される。

そこにルーモス貴族議会の役員と妃候補たちの両親が招待されるので、説得力のある結果を示し、新体制の基盤を築いていかなくてはならないのだ。

読んでくださって、ありがとうございます。


あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。

楽しんでいただけると嬉しいです。

気に入って頂けたらイイネや評価などポチってくださると、とても励みにまります。


毎週金曜 6:20 更新中。次回、「初心者だもの」

双子コーデ・カップルの明後日なラブと、ラミーが森へおつかいにいくお話。

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