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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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26.新しい課題

翌日からは王妃の采配に従って実践研修が開始され、それぞれの侍女もサポートとして付き添ったり相談相手になったり連携をとったりとフル稼働状態。魔法植物を使った新薬と生活道具の開発・研究をすすめながら、希望する国から視察団を招いて接待をするので、本人の要望と適正で役目を振り分けつつ、状況をみながら相互協力をする。

日程調整は王妃とウレシック中心にシルベーヌが補佐をし、サーシャとポルテは主に研究と栽培補佐、他四名は接待をメインに栽培と製造を担当することになった。日程交渉次第なので講義のように平日のみとはいかないが、原則、稼働は週七日のうち五日、二日は休暇がとれるようシフト制になる。可能であれば一斉休業を目指し、ホワイトな環境づくりをしていく予定らしい。

やることは山積みでいくら時間があっても足りないのだが、そこは慌てて徹夜したところで見通しが立つほど小さな仕事ではないので、長期戦の構えで持続可能なペースを維持したいと考えているそうだ。

なるほど、壮大な目標も実現するには堅実にこなすしかないということか。なるべく要領よくいきたいけれども、試行錯誤が必要だと難しい。

ああ、ここが答えの決まっているテストで合格するのと、一番違うところだ。ビジョンはあっても行きつく方法は分からない、目指すゴールにも明確な正解は無いし、関わる人や国の思惑もそれぞれ。出し抜いたり蹴落としたりするだけでは良い関係は築けないから、互いのメリットのバランスを模索しつつ、どうにも合わなければ距離の取り方を考えることも必要だろう。

みんなと仲良くなるのは理想だが、それぞれの主義主張や優先順位が異なれば、相いれないと互いが納得して相応しい付き合い方をするしかない。

それらの結論を出して進むには、実際に付き合ってみる以外に方法は無いのだ。


最初の来客は、これまで魔法植物の商品を扱ってきた三つの商会の代表者たち六名で、うち二名はチェルシーの父と兄だった。

毎年の定例会で、雪解けで馬車の通行が可能になると、その年の販路や商品、数量を確認するために開かれている。施設見学と新商品や変更のあった商品の説明、また販路や小売りで聞かれた感想や要望を確認し、取引の大枠を決める会議で、親睦会を含めて三日間である。

合宿終了まで妃の発表はしない方針なので、チェルシーがシルベーヌと共にホストとして迎え、その優雅で洗練された振る舞いに父と兄はひっそりとデレながら、王室主催の定例会で重責を務める娘を有力候補として認識したらしく、始終上機嫌だったのが面白い。しかしそんな価値観に縛られていたら、今後の商売にも支障が出そうだ。

「王族主催の定例会議でホストになるとは、よく頑張っているじゃないか」

常に上から目線でものを言う父のセリフは、労いよりも王家から信頼を得られる立場を勝ち取ったことに対する、安定や取引や事業拡大を期待するのもにしか聞こえない。

チェルシーは意識改革が促せるような人脈が欲しいなと思う反面、受け入れられないなら時代に飲まれて消えても仕方ないかな、と思ったりする。

父は娘が王家に嫁ぐことで商売の安泰を図りたいのだろうが、そんなお上頼みでしか存続できない組織なら今後は不要、身内でも独立した大人であれば選んだ道で別の運命が待ち受けることも理解してもらわねばならない。

「この短期間に凄い努力を重ねたんだね、姉さん。僕も見習って、もっと頑張らないと恥ずかしいな」

一方、昔から謙虚な弟の言葉は、すんなり信用できる。一見、地味でおとなしくても、努力を重ねて周囲をよく見ている弟の方が、これからの商会トップに向いているだろう。今はワンマン父の天下かもしれないが、近いうちに支持率逆転もあるかもしれないな。

なんて、まさかこんな和やかな食事の席で、冷徹に切り捨てる未来を創造されているとは夢にも思っていないだろう。定年と同時に、離婚を突き付けられるダンナと同じかもしれない。



現在、離宮で製造された商品は、王室が認めた国内三つの商会にのみ卸されている。国外での販売は、それぞれの商会が持つ国外拠点や移動販売、または外国拠点の商会へまとめて卸し、その商会の拠点で販売されることになる。

いずれにしても末端になると、移動や保管時の状況が悪い場合があったり、販売時の説明が不十分で効能や使用方法が正しく伝わっていなかったりといった問題も少なくない。

今のところ、取り扱いが慎重なものは量産していないこともあって、特に常備薬以外の薬に関しては一般販売は行わず、国内の医師を通じてのみ直接患者へ使用されるようになっていた。

魔法植物から製造される薬は、一時的に症状を緩和するか、元からある治癒力の補助的な役割を果たすものでしかない。欠損部位を修復したり、不治の病を完治するような、文字通りの魔法薬ではないのだ。

理論上、それらを可能とする見解もあるが、実際に製品化できるほど研究されてはおらず、実用化するには影響が大きすぎるので、当面は不可能と称して保留しておくつもりだ。


研究棟へ移動した一行は、例年通り、責任者のサヴァラン・グレンモーレンジィから商品説明を受ける。資料やサンプルの配布など、補助を務めるのはサーシャだ。改めて薬の効能や製品の使用注意を受け、相談のあった使用方法の説明書きは、販売予定国の各言語で対応できるよう進めると請け負った。

一見、スムーズに進行しているようだが、責任者として女性が出ることに不満を隠さない者が一定数存在し、今回は補助まで少女だったことに反発する。

「前にも言いましたが、痛み止めの飲み薬は、もう少し小さくなりませんかね?ビン入りで運搬も効率が悪い。・・・と、ああ、助手さんじゃ分かりませんか」

サンプルを配りに近づいたサーシャに声をかけたのが、四十がらみの小柄な男だ。三つの商会の中では一番の古株だが、規模は一番小さい。落ち目な老舗のプライドだけがにじみ出る、そんな目つきだった。

「バスカー商会のカール様、でしたね。申し訳ありません。その件ですが、痛み止めの主成分であるタミドは抽出後、精製アルファ水に溶かした状態でないと効能を維持できません。そして暗所で保管する必要がありますので、黒ビンに詰めないと出荷や運搬、販売時にも布などで覆うなど対応の必要が出てしまいます。重くて嵩張るのは申し訳ありませんが、現状では一番、効率を考えた形態です。今後、同様の効果を持つ軽い素材での容器作成や、薬自体の錠剤などへの形状変換など、利便性を考えた研究も進めて参りますので、今しばらくお待ちくださいませ」

砂糖菓子の妖精のような小柄で頼りなく見える少女に、驚くほど落ち着いた口調で丁寧に説明されて、カールはたじろぐ。子供が偉そうにしゃしゃり出て研究ごっこをしているのが不快で、立場を自覚させてやろうとふっかけたのに、見事に返り討ちにあってしまった。

「あ?ああ、それなら仕方ないな。まぁ、しっかりやってくれ」

バツが悪そうに、ふいと視線を逸らす。サヴァランは、『へぇ、さすが成績一位独走者』と感心しているようだ。

説明会の終了後、頭髪は頼りないがふくよかで安心感のある紳士が、サーシャに声をかけて来た。

「失礼、お嬢さん。先ほどの説明は分かりやすくて良かったよ。私はリンチバーグ商会のジャストン・ダニエルです。お名前を伺ってもよろしいかな?」

こっちはさっきのオジサンと違って、目が優しい。

「はい、サーシャ・ハクシューと申します。研修を兼ねて、助手をしています」

丁寧なお辞儀は、優雅で美しい。

「ハクシュー、というと子爵様のご令嬢ですな。丁寧なご挨拶を頂戴し、恐縮です。いや、才気あふれる素敵なお嬢さんで、素晴らしい。ここに来る楽しみが増えますよ、これからどうぞよろしくお願いします」

全体的に丸くて愛嬌があるところに、にこにこ笑顔になると癒される空気感。なんとなく、着ぐるみっぽい。

「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

仏頂面がデフォのサーシャを、頬染めて笑顔にさせる男。その出会いに妃候補の少女たちは誰も立ち会えなかったので、幻の笑顔ネタが広がるまでは、その後数か月を要した。


商会一行が帰った後は、次の来客までしばらく間があるというので、休暇をはさみながら交替で研究棟や畑での実習をすることになる。

研究棟は原則、朝九時から夕方十八時まで。畑は朝七時から十九時までで二交替。食堂は本館と研究棟で三食とも交替制、温室や畑の昼食はその一角で、同じく交替で運んでもらった軽食をとるようになっていた。

王家直轄地の離宮内に自宅は持てないので、働くものは全て宿舎を中心とした集団生活。一部を除いて冬季のみ帰省するが、同じ釜の飯状態な職場なので、人間関係は濃いめになりがち。それぞれの場所で関わる人も増え、一気に知り合いが増えていく。最初は戸惑っていた少女たちも、少しずつ慣れてチャレンジの日々を楽しく過ごしていた。

読んでくださって、ありがとうございます。


あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。

楽しんでいただけると嬉しいです。

気に入って頂けたらイイネや評価などポチってくださると、とても励みにまります。


毎週金曜 6:20 更新中。

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