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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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25/29

25.王妃来訪

明け方までの雨もやみ、久しぶりにすっきりと晴れ渡った空は青く、雪の残る急峻な山が映えてキリリと美しい。昼過ぎ、離宮本館の前に一台の馬車が止まり、そんな景色を擬人化したような王妃が降り立った。ウレシックが出迎えて招き入れると、玄関ホールに集合していた妃候補の少女たちは、一斉に優雅なお辞儀をし、シルベーヌが代表で挨拶をする。

「本日は、お目にかかれて光栄でございます。この度は私たちのために学びの場を与えて頂き、ありがとう存じます」

肌の露出を控えた準礼装に乱れの無い振る舞い、何より以前と全く違う穏やかな雰囲気に満足し、王妃は全員を見渡して微笑む。

「皆さんが真剣に取り組み、努力なさる様子を聞いて、とても嬉しく思っておりました。実際の姿をみると、たいへん心強いですね」

それからひとりずつ労いの言葉をかけ、滞在期間中に使用する、王室専用三階の客間へとウレシックと二人で向かって行った。


ピンと張りつめていた空気が解れ、緊張が緩和されるのが分かる。

「ナマで見ると、迫力あるね。オーラを感じるわ」

ポソリとラミーがこぼすと、

「ホントそう!習ったコトも飛びそうだったわよ」

「確かに、実技テストなんて比じゃない緊張感ね」

ポルテとチェルシーの庶民ズが追随する。

「ちゃんと合格もらってるんだから、堂々としてればいいのよ。ね、ブランテール?」

「そうね。両親もよく、微笑んで胸を張りなさい、って言っていたわ。努力をおろそかにしていた頃を思い出すと恥ずかしいけれど、貴女たちは自信を持つ根拠があるでしょう。社交界では基本ね」

以前はことごとく勘違いマウントを連発していたのに、この矯正ぶり。立派な尊敬する友を目の当たりに感涙のエリーゼをチラ見して、シルベーヌはうふふと満足そうに微笑む。

あんなに残念だった公爵令嬢が、さすがの貫禄に反省と優しさがプラスされてる!完璧な仕上がりに満足して、偽りの無い感想を述べた。

「本当に、頼もしいわ」

学科も実技も合格点を出せたメンバーだけれども、実際に王妃を前にすると場数の差がハッキリと出た。幼少期から人前に出ることが当たり前だった貴族に比べ、庶民ズと引きこもり貴族の動揺具合は一目瞭然。しかし、これはもう慣れるしかない。


伝達のあった時間に資料室へと集合し、学科の授業体制と同じ席に着いた少女たちを前に、教壇に立つ王妃はキッパリと言い切った。

「王子妃は、シルベーヌとします。皆さん、異存はありませんね?」

シンと静まり返っていたが、静寂を破ったのはブランテールの拍手だった。僅差でラミー、他の少女たちも続き、全員が拍手をもって肯定する。

あれ?妃確定宣言ってコトは、もしかして合宿解散??

ラミーの脳裏に拍手をしながら疑問が浮かぶと、ちょっと待って、まだ手取りの良い就職先の確約もらってないんだけど!?と、不安がよぎる。

「妃を決める試練でしたので、本来であればこれで解散となるトコロですが・・・」

しばらく間をおいて、王妃は語る。

「皆さんも学科で勉強した通り、我がルーモスの置かれた環境が、このままでは楽観視できないと理解されているものとします。すでにシルベーヌから説明のあった通り、この合宿は従来の身分を重視する貴族男子中心の体制を崩し、性別や身分ではなく能力重視の新体制に移行する足掛かりとなるものです。いずれは教育機関を充実させ、初等から専門まで国内で学べる場を提供し、国民全体の知識の底上げと人材発掘を兼ねた仕組みを構築していきます。しかし多くを一度に変更しても反発が大きく、改善どころか停滞や崩壊に繋がる可能性があり、強引に進めるのは危険だと考えています」

王妃の口調は淡々としていても、静かに炎が燃えるような力強さがあった。

「そこで、まずは王室直轄の魔法植物の分野から、変革を試みることにします。一口に魔法植物と言っても、その用途や可能性は幅広く、特に大戦で使用された大規模魔法のように危険も影響も大きなものも含まれることから、施設はこの離宮に集約し、王室管理とされてきました。現在は医療や生活に関わる、比較的影響の小さなものを中心に研究開発と製造輸出をしています。ですが昨今、周辺国をはじめ諸外国からの情報開示要請や共同研究の申請など、度を越せば均衡を崩しかねない駆け引きも多くなっています」

少女たちは真剣に、習った地図と各国の立場や情勢などを思い浮かべながら聞いている。熱さましや痛み止め、油を使わない照明などを細々と輸出して外貨を稼いできたが、人によっては麻薬や兵器に匹敵するような切り札を研究・所持しているのではないか、その気になれば大陸を牛耳る力を隠し持っているのではないかと疑い、危険視して牽制すべきと動きのある国もあるのだろう。

もしくは懇意になって、それらを優先的に入手したいと考える個人がいるかもしれない。少なくとも周囲の三大強国は共存共栄を目指し、出し抜いて一瞬優位に立つよりも恒久的に平和な取引をする方が互いに利があると認識し、どこかが脅威といった考えはない。が、それ以外の、特に現在は関係の薄い国からすると、従えやすい小国、平和ボケした宝の持ち腐れの国、なんてモノに見えているのかもしれない。


「ですから今後、この離宮を魔法植物の拠点として、技術交流や共同研究、また法整備や商談など、様々な分野で国内外から専門家を招き、王室主導の一大事業として確立していきます。必要に応じて投資を行い、また人的資源の確保に向けて教育にも力を入れます。まずは今季、この離宮に雪が降るまでに、皆さま方には交代で来客対応をしながら、それぞれ自分が力を入れたい仕事を見つけてください。多くのご縁もあるかと思いますので、伴侶を探すのも奨励します。互いに良いと思える方に出会えたら王室が責任を持って添い遂げるよう応援しますし、結婚後の仕事や子育てにおいても一緒に整備していきましょう」

語りに熱を帯びて来たと思ったら、さらっとものすごい課題を吹っかけてくる。合宿期間の残りで、実習しながら人脈作って就活と婚活の同時進行をしろと? 

シルベーヌ以外の少女たちは、点目や白目など、それぞれ面白い顔で固まっていた。

「ああ、もちろん結婚を強要はしませんよ?けれど結果の決まっていた妃選抜で皆さんには貴重な時間を割かせてしまったので、出会いの場を提供できればと思いましたの。それに、これからは家庭と仕事の両立も希望する方にはゼヒやっていただきたいのよ。どれも大切な役割ですから、協力して楽しめると良いですね。皆さんの若い力と自由な発想に期待していますのよ、ほほほ」

なんだか、巻き込まれた感がスゴイ。王子妃というエサにつられてノコノコ参加したら、がっつりと国家改革の中心メンバーにされている。今回だけちょっと手伝ってくれない?と、知人に誘われて参加した地域イベントに、気づけばスタッフとして組み込まれていたような感覚。趣旨には賛同できるしメンバーもいい人だけど、そんな積極的に盛り上げる側になりたいとは思ってなかったんだけどな~・・・、みたいな。コッソリ美味しい仕事について確実に借金返済したかったラミー、弟妹のために小金持ちへ嫁入りして支えて欲しいという家のシガラミから逃れて好きな勉強に打ち込みたかったサーシャ、男尊女卑思想の強い家族に反発して見返してやりたかったポルテ、家族に愛されはしたが完璧な兄の陰で何も期待されず能力を必要とされなかったチェルシー。自分の居場所を求めていたけども、歴史の一端を担うようなたいそうなポジションは、誰か別の特別な人がやるもので、自分とは関係ないと思っていたのに。

「はい、頑張ります」

「ア、アタシも精一杯頑張ります」

ブランテールとエリーゼが、王妃に返事をする。あれ?残念だったハズの令嬢たちが、使命感に燃えている。

「皆さんがいてくださると、とっても心強いわ。一緒に頑張りましょうね(大きめのはあと)」

なんだか嵌められた感があるけど、コレってチャンスよね?国費での教育、王室厳選エリートとの出会い、高給そうな職場選び放題、将来的な身の上相談先の確保、どれをとっても破格の待遇。ちょっと、いやかなり重責なコトを除けば、勝ち確人生を約束されたようなもの。

借金返済のためにはためらってはいけない、シガラミ断ち切るチャンスを逃してはならない、家族を見返すなら食らいついて損はない、自分の商会どころか国家に期待されるなんて想像以上だ。

そんな器じゃないとか、余計な謙遜は相手にとっても失礼だろう。必要なことは教えてくれる、足りないところは補ってくれる、出来ないトコロは伸びしろだ。

「「挑戦します!!」」

四人、声を揃えて返事をした。少なくとも全員、ここに来た時よりも成長している。それも人生最大の濃密さと勢いで、悩む時間も無いくらいひたすら努力して、気づけば実感するくらいにハッキリと。


「ほほほ。皆様、これからもよろしくね」

多くは語らないが、これは重責と孤独に耐える辛さを知った王妃の、優しさかもしれない。

「さあ、たぬきさん達との戦いは、これからが本番。手ごわくても逃げてはいけませんよ?」

いや、単に手駒を確保したかっただけ?

「辛抱強く、根気強く、頑張りましょうね」

そう言う王妃の表情も口調も、穏やかだった。

人の心は、それほど単純にできていない。その行動は自分のためでもあり、息子である王子のためでもあり、王室、国家全体のためでもあるだろう。

少女達を巻き込むのも同様の理由からだろうが、大義名分のために個人は犠牲になれという話でもない。やらなければならない責任があり、それらを全うするには協力者が必要であり、その協力者もギブ&テイク、出来ればウィン・ウィンの関係が望ましい。

そんな一石二鳥の人生、一挙両得な未来を目指して、実践研修はスタートした。

読んでくださって、ありがとうございます。


あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。

楽しんでいただけると嬉しいです。

気に入って頂けたらイイネなどポチってくださると、とても励みにまります。


毎週金曜 6:20 更新中。

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