21.チーム次世代、始動
残念令嬢ズが揃って授業に出るようになって数日、サーシャを招いたシルベーヌの部屋で、ラミーと三人でお茶を飲む。
「あ~あ、あの舞踏会からデキレースだったなんてバカみたい。私の緊張感を返して欲しいわ」
ぷい、と少し赤らんだ頬を膨らませてサーシャはそっぽを向いた。
「ね、私も借金まみれで場違いなトコにきちゃったと思ったけど、シルベーヌに聞いて安心したのよ」
キラキラの眩しい微笑みフラッシュ。屈託のない美少女の笑顔は大好物なのに、直視できなくて目をそらし、直後に後悔する。
「最初から貴女が色仕掛けとかくだらないコト考えないのは分かってたんだけど、どうしても会話のキッカケがつかめなくて」
シルベーヌの安心感のある笑顔のおかげで、自然に向き直ることができた。これで見逃さずに美少女の微笑みも堪能できる。よし、とテーブルの下で握られたサーシャのガッツポーズに、ラミーは気づかず、シルベーヌは気づかないフリをした。
残念令嬢ズが陥落して勢力が6:1になると、このように孤高のサーシャのデレを引き出すまで、それほど時間はかからなかった。自分が『小さくて可愛らしい』扱いをされるのは苦手だが、黙って佇むだけで絵になる美少女は憧れらしい。美しいは正義、その美少女が自分に向けて美しく笑いかけてくれるなんて、心臓が止まりそうなのだ。
ツンが弱まっても仕方ないだろう。
さて。
ぶっちゃけあったところで、それぞれの目標を整理してみよう。
〇ラミー(伯爵令嬢)
本人:貧乏伯爵家の借金返済が出来る職に就きたい。結婚は考えられない。
親・家:可愛いラミーが幸せなら全部OK。後継者ゼロでも継ぐものないから気にしない。
〇シルベーヌ(伯爵令嬢)
本人:身分は低いが幼少期から王子が好き、妃になって支えたい。
親・家:娘を支持、必要な協力は惜しまない。しっかりした兄がいるので家は安泰。
〇ブランテール(公爵令嬢)
本人:複雑なことは苦手、両親と家のプレッシャーを無くしたい。安心できる人と結婚したい。
親・家:ウチの可愛い娘が王子妃に決まってる!兄二人で公爵家と領地の後継、娘が王家で盤石体制ぬかりなし。
〇エリーゼ(侯爵令嬢)
本人:責任者は向いていない、補助的な役割希望。望んでくれる人と結婚したい。
親・家:デュワーズ公爵家に追随すれば間違いなし。家のことは弟に任せて、全力でブランテール様ヨイショを忘れるな!
〇サーシャ(子爵令嬢)
本人:勉強がしたい、実家に頼らず勉学を活かせる職に就きたい。結婚は出来ればしたくない。
親・家:経済的に厳しいので、早く安定した結婚をして欲しい。でもって、幼い弟妹のために援助希望。
〇チェルシー(国内大手の商家の令嬢)
本人:自分を活かせる仕事がしたい。結婚はどちらでも良い。
親・家:本人の意思を尊重するが、王家と繋がりが強固になるのは大歓迎。後継は弟二人のうち、長男を予定。
〇ポルテ(町人、食堂の娘)
本人:女でも自立できる仕事がしたい。特に兄が『働く女は生意気』と見下すので、一矢報いたい。
親・家:男は仕事、女は家の価値観。おとぎ話を夢見ていないで、身の丈に合った平凡な幸せを目指して欲しい。
と、まあざっくりまとめるとそんな感じ。
互いの目標と家庭の事情をハッキリ共有出来た候補者たちは、探り合いも王子の取り合いも不要だ。むしろ自分がどうしたいのか、どうなりたいのかを優先して、残り約十カ月、教育を受けながら離宮を出た後の落としどころを見つけられるよう協力していこうと結託した。
過去は無かったことにならない、不満もひっかかるトコロも全員がゼロになったわけじゃない。
けれど、今までよりはるかに長いこれからを優先して、建設的に進めるならやりがいもある。恨み言を言って出来ない理由にするより、結果を出せる力をつけたい。
その決意を実行、ブランテールの追試に協力したのは、ポルテだった。成績は上位では無かったが、教えるのが上手い。本人いわく、分からなかった事が多いから理解する段階を説明しやすいんじゃないかしら?だった。
ずっと成績トップのサーシャは自分が理解して深めていくことは得意でも、段階を踏んで教えるのは苦手なようだ。同じくシルベーヌやチェルシーも挑戦したが、あまり上手くいかなかった。上位レベルの人は中級には教えられても、初級に説明するのが難しいのと同じかもしれない。
また、庶民だ格下だとバカにせず、真剣に向き合ったブランテールの努力も、これまでとは一味も二味も違う。飽きっぽいのは変わらなかったが、以前のように投げ出さないし向き直るまでが早い。また、他責思考を矯正しようと意識しているのが分かる。
実家からの手紙にも、自分の意見を少しずつ返信しているらしい。かみ合わなくても、諦めたくないそうだ。
互いに感情を持つ人間、やる気のない人に教えるのは萎える、逆にやる気のある態度を見せられれば親身にもなる。ポルテも最初は、ブランテールの謝罪も言葉だけで『出来なければ責められるのでは?』と警戒していたが、クセのようについ出てしまう他責の言葉を訂正して謝罪されるたびに、自分改革に本気で取り組んでいるのだと実感した。そうして、どうすれば分かりやすいか?どんな表現、どんな順で説明すると伝わりやすいかと試行錯誤するようになっていく。
学科と実技の授業が繰り返される日々、元からあまり勉強が得意ではないブランテールとエリーゼにとって、毎週のテストは本当に辛いようだ。けれど、二人とも投げ出しはしなかった。時々追試を受けながらも、なんとか合格点を絞り出していく。他の五人にとっても決してラクな道のりではなかったので、それぞれが協力して得意分野を教え合い、苦手分野を補い合って乗り越えていった。
しばらくすると、共通認識にラミーにはチョコレート、ブランテールにはミルククリーム、サーシャにはポテトチップスが有効と追加され、必要に応じて餌付けされるようになっていった。
「先日の講義で触れられた森林資源について、いくつか実物を持参しました。同じゴツイデ国内でも、北部と南部では原料の木材が違います。実際に触れると分かりやすいかと思います」
チェルシーが実家の商会を通して入手した木切れを数枚、教卓に並べてブランテールに目くばせすると、促されて木切れの前に小物やおもちゃを並べていく。
「ありがとう、相談して正解でした。これだけの品を日常使いされているなんて、さすがはデュワーズ公爵家ですね」
「たまたまですわ」
「では、説明はチェルシーさんにお願いしましょうか」
講師が指名すると、以前のように自慢も主張もしないでブランテールは自席に戻る。
「こちら後ろにあるのが原木、手前がそれらを使って実際につくられている品々です。向かって右側から北部、左へ行くほど南部のものになります。色が白からだんだん濃い茶色になっているのが分かると思います。では、一つずつ見ていきましょう。まずこの北部で有名な・・・・」
当初はあからさまにブランテールを避けていたチェルシーも、協力を仰いで堂々と発表をこなす。残念令嬢ズの覚醒は、周囲へ与える影響も大きかったようだ。
誰しも、自分の間違いや欠点をを認めるのは恥ずかしく勇気がいるもの。彼女らの姿が、時間と共に薄っぺらな一時しのぎや上っ面だけでは無いと受け入れられ、その勇気や根性が伝播していく。
負けていられない!主役だった王子不在のまま、ライバル達はエネルギーを放出しまくり、貪欲な若者パワーでもって明るい未来を目指す。
終盤に差し掛かると、共通認識にエリーゼにはブランテールグッズ、チェルシーには犬(特に大型)グッズ、ポルテにはポプリやせっけんなどの香り系小物が有効と追加される。
各部屋付きの侍女たちも、元から優秀であからさまな態度はなかったが、シルベーヌの制圧が進むにつれて緊張感がほぐれ、同じように働いていても背景が違って見えるくらいには雰囲気が変わっていた。
そんな努力の甲斐あって、三カ月強に及ぶ詰め込み学習は、追試を含めて全員の合格で終了、今日は資料室に集まった妃候補の少女達は講義と同じように座り、教壇にはウレシックが立ち、隣に並べられた椅子に講師三名が着席していた。
「妃候補の皆さん、合格おめでとうございます。ひとまず、お疲れ様でした。様々な試練を乗り越えられ、合格以上の充実感があるのではないでしょうか。講師の皆さまにも、改めて御礼申し上げます。このウレシック・ナンネン、名の通りの心境でございます」
ぶっ、っと小さく数名にウケたらしい挨拶で、初めて宰相タヨリーニ・ナンネンの弟だと知った。
挨拶を終えて、その場は解散になった。明日から三日間は休暇、自由行動も出来るが足場の悪い雪解けの季節に三日でどこかへ往復するのは無理だろう。敷地内も解け残った雪が多く、徒歩で行ける範囲はあまり広くなさそうだ。
けれど抜け殻状態の今は、誰しも好奇心より休暇を希望するだろう。
総合一位はサーシャ、次点がシルベーヌ。不合格を一度も取らなかったのもこの二名だけで、他は分野による差があり、全体の印象としては得手不得手がハッキリした結果となった。
「さすがガリ勉サーシャと未来のシルベーヌ王妃ね。ソツの無いこと!」
ブランテールが茶化すと、
「アラ、貴女は嫌味のキレが悪くなりましたわね」
「ホント、全く腹が立たないわ。演技力が落ちたのではありませんか?」
やり玉の二人が、楽しそうに笑いながら言い返す。聞いていた他の候補者たちも、和やかに笑い合った。
「頑張ったよね、私たち」
「ええ、もうかなり抜け殻ですけど・・・」
「うふふ、明日から三日は休暇ですって。ゆっくり休みましょう」
最後まで何が有効か共有されなかったシルベーヌ、『人やモノに釣られて判断してはいけない』なんてもっともらしいコトを言っていたけど、ラミーはシルベーヌのベッド脇にある年季の入ったアヒルのぬいぐるみ枕が弱点だと知っている。
以前、試しに人質ならぬぬい質にしてみたら、ごまかしながらもいつもより高級そうなチョコをたくさんくれたのだ。きっと、すりかえたら眠れないに違いない。
一番の友達のシルベーヌ、いつも余裕で優しい笑顔のシルベーヌ、けっこう腹黒いシルベーヌ、私に夢と未来を提示してくれたシルベーヌ。
大好きだから、私だけの秘密にしてあげるね。
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