20.残念令嬢の覚醒2
休日の午後。侍女を通して調整し、食堂でミルククリームサンドクッキーを作ってもらったラミーは、シルベーヌと一緒にブランテールの部屋を訪ねた。
ついに一週間、ブランテールは授業にも出ないどころか、部屋を出てこなかった。先週の不合格も追試を受けないまま、今週は全て不合格だ。このまま棄権でもして帰られたら『公爵家は令嬢から改革』の予定が狂ってしまうので、なんとしても引き留めてこちら側に寝返ってくれないと困るのだ。どれだけトップが残念でも貴族の三分の一を占めるディワーズ公爵一派全体を失うのは痛いし、全員が漏れなく残念な一族じゃないハズだ!上司の顔色伺って出る杭にならないよう潜んでる有能者をあぶりだして有効活用しないともったいない!!と、シルベーヌが力説していた。
それもそうね、とラミーはアッサリ納得しているが、このカケラも歯牙にかけない態度をチェルシーやポルテが見ていたら、幼少期から敵視して必死でマウントを取り続けて来たブランテールがちょっとかわいそうでいっそう残念にみえたかもしれない。
予定通りの時間に到着、侍女とやりとりをして部屋へ通されると、ブランテールはベッドで起き上がっていた。見たところ血色は良いし、辛そうなところは見当たらない。
「ごきげんよう、思ったより元気そうで安心したわ」
シルベーヌが勧められたベッド脇の椅子に腰かける。
「ごきげんよう、これお見舞いです。ミルククリームが好きって聞いたから、食堂で作ってもらったの。私、鳥や獣は捌けるんだけど、お菓子は苦手で・・」
美少女伯爵令嬢らしからぬスキルを織り交ぜて挨拶をし、手土産を差し出しながらえへへと笑うラミー。
微妙な空気の異変に、シルベーヌがこっそりラミーに肘鉄をくらわした。
「ごめんなさい、気にしないでね。今日は少し、お話できたらと思って来たのよ」
そうして、デキレースの仕組みをバラす。てっきり上から目線で思い知ったか、帰れ!的な暴言を予測していたのに、ブランテールにとって思ってもみない方向だった。
「貴女も講義受けて分かったでしょ?王子妃が玉の輿どころか、貧乏くじだって。今でも本気で王子と結婚したいと思ってる?」
見た目はちょっといないくらいの美形だけど、コミュ力無いから会話すら難しいわよ?一緒にいても楽しませてくれるとか気の利いた事出来ないし、ぶっちゃけリードして欲しい女子には合わないわ。勉強した通り国家も王室も財政はそれほどゆとりある訳じゃないから公爵令嬢のあなたは今より贅沢出来ないし、責任が増えるだけ。臣下もたいていは自分の損得や都合に合わせて立場を変えるのよ?イメージや憧れでなれるものじゃない、気苦労と重責のポストよ。
シルベーヌは、ブランテールのお花畑思考を打ち砕くべく力説する。が、聞けば聞くほど好きなはずの王子や国家をディスっているようにしか聞こえなくなっているとシルベーヌは気づいているだろうか。
さておき。すっかり勢いのなくなった残念令嬢は、黙って聞いてため息をつき、静かに答え始めた。
「・・・・正直、無理だなって思ったわ。認めたくなかったけどね。悔しいけど授業で課題に回答することすらままならないのよ?実践であんなの連続クリアなんてどう考えても無理。未来の王妃だなんて、憧れだけでなれるものじゃないと痛感したわ。三つもの大国に囲まれて舵取りするなんて、王子と会話もままならない私じゃ上手くいくわけない。でも、両親と家のプレッシャーがハンパないのよ!絶対ムリなのにムリだなんて言えない、イヤだなんてわがままも許されない、どうしていいか分からないわよ」
能力を自覚したけれども、解決策が無いと訴える。
「あのね、私は本気でクラン王子が好きなの。そう、もうずっと昔から。家柄は釣り合わないけど、頼りにされたいし支えになりたい。そのために惜しまず努力を重ねて来たつもり。もちろん、これからもよ。その本気を買ってくれたのが王妃様、大々的に妃選びを企画して周囲を納得させ、さらに足りないところを合宿で補えるよう協力してくださったの」
人材不足も深刻だから、シルベーヌと王子の結婚に反対しているデュワーズ公爵家を筆頭にラフロイグ侯爵家など有力貴族も追放や閑職を与えるのではなく、どこかで折り合いをつけて協力できる体制を築きたい。国内で潰し合ってる場合じゃない、得意分野を伸ばして住み分けたり補い合ったりしたいのだと言葉を尽くした。
思い返せば、ブランテールたちがバカにするたび、シルベーヌは己を磨いて立ちはだかった。高価なドレスを纏えない代わりに、美しい所作と気遣いの心で老貴族の賞賛を得ていた。外国からの来賓への挨拶を間違えてバカにされれば、数年後には日常会話を習得して和やかに歓談できるようになっていた。
自分より目立って目ざわりでしかなかった態度が、忍耐強く努力した結果だったのだと思い知る。
身分も格下で容姿も人並み、これまでさんざん悪態をついてきたのに、正面から顔を合わせることもできずに俯く。
そう、勉強もダンスも刺繍も、誰しも最初から出来るのではなく、出来るようになるには努力が必要なのだ。人より秀でた結果を出せるのは、それだけのことをしたからだ。
ブランテールは改めて思い至った。これまで自分が自慢してきたものは、親の地位や財力があってこそのもの。自分で努力して手に入れたものではない。
元からあるものや財力や権力で代替したもので競って、勝てば自分、負ければ相手か代替者のせいにしてきたにすぎない。
他者の努力を認めず、あるものや持っている者を妬み、出来ない理由を正当化してきた。自分は本気で努力したこともないのに。
・・・・・・・なんて、恥ずかしい。
「なんだ、王子じゃなくて妃の地位を狙ってたんだ!恋のライバルじゃなくて良かったね、シルベーヌ。ブランテールさんも、なんか印象変わったね。前より知的で大人な感じがする」
儚なげに煌めく美しい笑顔で、ラミーがぶっこんできた。その絵面とセリフがどう見てもかみ合っていない気がして、二人で美少女をジト見する。
そんな視線を気にする様子もなく、ラミーはガシっとブランテールの手を取ると、
「うん、面倒な妃なんてシルベーヌに任せて、気楽で割のいい仕事探せばいいんじゃない?この合宿で頑張ったら、王室も認めてくれるよ!」
キラキラと周囲まで輝く、聖女のような清らかさで言い切った。
「ちょっとラミー、言い方!!」
親のプレッシャーってしんどいよね!ウチの両親も悪い人じゃないんだけど、お花畑だから無駄なプレッシャーばかりかけてくるのよ。でもシルベーヌが勉強したら借金返済がラクになる仕事に就ける、って言ってくれたから頑張ってるの。チョコもくれるしやりがいあるよ。一緒に頑張りましょう。
え?今までの自分を否定する勇気がない?そんなもの、これからの方が長いんだから良いじゃない。数年経ったらキャラ変後が普通になってるわよ!
シルベーヌのツッコミなどものともせず、握る手に力をこめて語り続ける。ずっと脳内ツッコミだったラミーだが、ここにきてあふれ出るコトが増えてきているようだ。
「あの、だってアタクシ・・」
男女問わず、美形というのは特に至近距離でかなりの威力を発揮するらしい。傲慢なブランテールの恥じらいととまどいを引き出しにかかる。
「帰ってご両親に叱られるのも納得いかないでしょ?だったら一緒に頑張りましょうよ。ね?」
邪気のカケラもない好意と裏表の無い素直な言葉は、残念令嬢のこだわりを溶かした。
「え・・・ええ、来週の授業には出るわ」
「ブランテール様!」
いつの間にか控えていたエリーゼが、感極まって出て来た。
「ああ、ブランテール様。さすがでございます、ワタクシも一緒に頑張りますわ」
あまりの迫力に思わず手を除けたラミーをすり抜けて、エリーゼはブランテールに抱き着く。さすがブランテール様、ブランテール様はやはり素晴らしい、ブランテール様すごい、尊敬します!連呼で褒め称えて大仰に号泣し、二人の世界を作り上げた。
まぁ心配は本心、芝居がかったセリフもあの二人なりの友情で、気持ちは偽物では無いだろう。
「ありがとう、ラミー。やっぱり貴女ってスゴイわ」
少し離れて、シルベーヌはラミーに囁く。
「?お見舞い、成功よね?元気になったみたいで良かった」
何に対しての感謝かよくわかっていないが、ラミーは純粋に気分を持ち直したブランテールを見て、良かったと思う。シルベーヌと仲悪そうだったけど、なんだかちょっと和解したっぽいし満足だ。
ほくほく見守っていると、シルベーヌが圧のある目くばせをする。
「ねぇ。あなたの正直さは美点だけど、この状況で余計な事言って欲しくないのは分かる?」
シルベーヌに促されて、ラミーもチラリと抱き合う二人に視線を移す。
「・・・・・ああ、見たままを口にして感動に水差さないで、ってコトかな」
「正解」
バッチリメイクが滝になっているのはツッコミ不要、了解しました。
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