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貧乏伯爵令嬢は婚活に夢を見ない  作者: 黒坂 志貴


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19/22

19.残念令嬢の覚醒1

薬草仕分けをした日以来、グループは4:2:1になった。庶民ズ二人とラミー&シルベーヌは、連携も協力体制も日を追うごとに強化され、それぞれの得手不得手を活かしつつ切磋琢磨している。

何よりヘタな腹の探り合いがなくなったおかげで、余計な気遣いが減って心理的余裕が増しているのだ。互いを信頼できるとい言うのは、思った以上に良い結果につながった。

一人の超人よりも、協力・共有できる多くの凡人の方が世界が広がっていく。試行錯誤するからこそ、想像を超えた結果が出ることもあり、思わぬ副産物をもたらすこともあった。


そんなふうに仲良く楽しそうに課題をこなし、着実に成績を上げてくる様子に怒り心頭なのは、残念令嬢ズの二人。

今週の成績が、ブランテールは学科2、エリーゼに至っては学科両方とも不合格だった。受け取ったのは週六日目の午後、発表は翌週で他者の成績はそれまで分からない。

わなわなと震えが止まらないブランテールは隣の部屋へ押しかけ、同じく青ざめて立ち尽くしているエリーゼの手から彼女の成績表を奪う。

「お見せなさい!」

実技はいずれも最低ラインでの合格、学科は二つとも合格点に三十点以上届かない不合格。今週の実技では刺繍、ダンス、楽器のうち刺繍だけでも「良」だったブランテールは、少し自信を取り戻す。

「こ、今週は特に難しかったわよね。私たちでも不合格なんだから、ほとんど不合格だったんじゃないかしら。いやあね、また試験だなんて」

そんな五十歩百歩な差でも優位性を確保しつつプライドを保つブランテールだったが、

「キャー!素晴らしいわ!!」

珍しく廊下で響く興奮した声、外野の追い打ちが襲う。

扉の向こうではしゃぐ声がして思わず気になり、ドアを少し開け聞き耳を立てた。

「アタシの部屋でお祝いしましょう!ちょうど定期便で実家から届いたお茶とお菓子があるわ」

「まぁステキ。私もお願いしておいた、とっておきのチョコレートが届いたの。ラミー好きでしょ?持っていくわね」

「わあ!シルベーヌ大好き!私、頑張りました!!」

「楽しみです」

きゃっきゃと楽しそうに盛り上がっているのは、確認するまでもない仲良し四人組。そうして会話の内容から察するに疑いようのない、全員合格。シルベーヌはともかく、平民も没落貧乏伯爵令嬢もあんな難題をクリアしたって言うの?

ここにいないが毎回一位のサーシャはもちろん合格しているだろうから、不合格は自分たちだけということだ。


定期便の両親からの手紙は、相変わらず娘を褒め称えて王城へ日参する勢いで王家と交渉をしていると書かれていた。国王夫妻はじめ役職を持つ貴族への対応は順調だから任せなさい、万が一にも妃に選ばれないはずはないからお前の魅力を存分に発揮するだけで良い、と自信が揺らぐ気配はない。

最愛の娘にとって日々過酷さを増す選抜試験だとは思いもよらず、特別な自分たちが平民どもを交えた茶番に付き合ってやっている、王家と侯爵家の婚姻は当たり前すぎるから話題性や注目度アップにちょうど良い、くらいの認識なのかもしれない。


ブランテールはこの離宮にきて初めて、両親の誉め言葉をプレッシャーに感じた。日が経つにつれて、これまでずっと当たり前だった周囲からの賞賛を疑い始めた。

「あ、あのワタクシったら、申し訳ありません、こんな恥ずかしい成績で。で、でもブランテールさんは流石です、やはりワタクシより優秀で・・・」

こんな状況でも、唯一の味方のエリーゼは何とかブランテールを持ち上げようとする。

「余計な気遣いはいいわ」

覇気のない、青ざめた顔で俯く。


信じて疑わぬ自信があった。何度も自分の優秀さを、存在価値をアピールしてきた。なのにその自信を裏付けていたことが、ことごとく覆されていく。今まで大仰に褒められてきたことも、ここではそれほど価値が無かった。出来ないことは、やろうとしない自分に原因があった。同じ課題に取り組んで、結果大きなで差を見せつけられる。格下が無駄な足掻きをしているとバカにして、見苦しいとさえ思っていた努力を続け、明らかな結果を出して進化する過程を見た。

「・・・うう」

立っていられず、その場で崩れ落ちる。

自分自身に思っていたほどの価値なんてない。

特別なんかじゃなかった。

気付きたくなかった、認めたくなかった。認めてしまったら、どうやって立てば良いのかすら分からない。恥ずかしくて情けなくて、顔を上げることも出来ないじゃないの。

こんなところ、来るんじゃなかった・・・・。



翌週、エリーゼは追試を受けて合格したが、ブランテールは体調不良で授業にも出てこなくなった。食事は全て部屋でとっているらしく、夕食のテーブルマナー最終週、マーデ・カイ方式の席にも来ない。

温暖な気候と水源の豊富なマーデ・カイは明るくおおらかな国民性で、その代表ともいえるくらい王族は細かなこだわりを持たず、会食も作法は少ない。大皿料理を取り分けて酒と一緒に楽しく食べる、ぶっちゃけ宴会のような席でマナーよりノリが合わない方が難しいとされる。

婚姻と飲酒が十八歳以上のルーモスでは、さすがに妃候補とはいえまだ少女にすぎない子供たちに酒を出すわけにはいかない。その分、様々なジュースが用意されていた。

食器は白一色、そこにカラフルな食材を使った料理が盛り付けられ、テーブルは色鮮やかな花や鳥の羽で飾られている。真冬のルーモスで鮮やかな色彩の花々は入手困難なはずだが、離宮の奥にある魔法植物の研究棟で育成実験しているらしい。

「素敵!見ているだけで、元気が出て楽しくなる色彩だわ」

「あら、料理もとても美味しいわよ。こちらの鶏肉ソテーのソースは絶品ね」

「先日習った、マーデ・カイの寄生植物じゃありません?」

「え?あのミギルやウェルとか、同じ木に何種類も寄生して共生する植物かしら?」

「食材になる植物だと目が輝くわね、ラミー」

「普通にきになるでしょ。シルベーヌは違うの?」

目の前にある料理の素材や味付けなどをきっかけに、それらの産地や製造方法に流通、経済効果と様々な話題で食事を楽しむ。講師も同席し、マナーの他に会話を促したり知識を補足したりする。

「ダリルの実とウェルの葉だと思うわ、食用だと習ったし葉が飾ってあるもの」

「正解です、さすがサーシャさん。独特の酸味がクセになるわね」

「栽培方法が面白かったわ。寄生しながら共生する代表的な四種でミギル、ダリル、ウェル、シタル。伸びる方向が違って、食用に適する部分も違うの。面白いわ」

「だったらこちらの和え物はミギルの花びらとシタルの茎じゃない?茎はしっかりした食感で花はカラフルなのにクセが無いのね。何にでも合いそう」

そうして学科や実技で学んだことを活かして定着させ、知識を発展させ、相手に合わせた話題選びや本題から逸れた際の自然な戻し方など、機転を利かせる交流の体験を積んでいく。

また交流目的であれば、全く口を開かない者がいないよう気を配ることも必要だ。


「こちらでは雪景色ですけれど、マーデ・カイは今も青々と植物が茂っているのでしょうね。実際にご覧になったことがありまして?」

シルベーヌは南部の領地とマーデ・カイ出身の祖母を持つ、侯爵令嬢エリーゼに向かって微笑む。ぼっちになってからさらに緊張するばかり、身近な話題にも俯きながらぎこちなく答えた。

「・・・ワタクシも実際に行って見たことはありませんが、一本の木に様々な植物が寄生するというのは、とても興味深かったです。あの、寄生された方の木は大丈夫なのかと思いましたけど・・・」

「あら、そうですわね。あまり寄生植物が繁殖してしまったら、元の木が重さや栄養不足で枯れてしまったりしないのかしら」

ポルテに会話を拾って続けてもらったことに驚きながら、少し安堵しする。あれほど庶民とバカにしてきたのに、見下された感じは全くしない。これまでブランテールを頂点としたヨイショチームしか知らないエリーゼにとって、斬新で不思議な感覚。

「風や動物によって運ばれる寄生植物の種は、たどり着いた木で土台を潰さないよう、相性の良いもの同士が同時に繁栄できるよう、発芽の時期を選ぶそうですよ。和やかに譲り合っているのか、したたかに駆け引きをしているのかは分かりませんけどね」

いつもそっけない博識サーシャだが、マナー実習だと穏やかで親しみやすさまでにじみ出ている。

「それも寄生植物について習ってから、追及されたんですか?」

授業で習った記憶にない知識をさらりと披露されて感心し、思わず問いかけたのはラミーだった。

「はい、数種類の寄生植物が互いに影響し合うと習ったので興味を惹かれて、資料室にあった本を数冊読みました。どれも興味深かったですよ」

「すごいね、私はなんとかついていくだけなのに、同じ講義を聞いてもこんなに知識の幅に差が出るんだ」

言われて、サーシャは顔を赤らめた。この美少女の言動に裏表がないのは、そろそろ周知されてきている。ラミーには全く自覚は無いが、美しい造形から発せられる言葉や微笑みには、ある種の破壊力が宿っているのだ。

この会話をきっかけに全員が話をするようになり、その後も終始和やかに、テーブルマナー講習の夕食を終えた。


「エリーゼさんも、すごい努力家だね。ブランテールさんのために頑張ってるんでしょう?」

帰り際、食堂を出てすぐにラミーはエリーゼに駆け寄る。ドキリとして振り返ると、

「今週は二冊分のノートをとってますよね?一人分でもたいへんなのに、すごいなあって思ってたわ。仲良しなんですね!」

柔らかそうに波打つ淡い金の髪、透き通るようなアメジストの瞳、陶器のような白い肌。ブランテールと一緒に幼少期からパーティやお茶会などの社交場に出まくっていたエリーゼも、見たことが無いレベルの美少女。その屈託のない笑顔と素直な言動は、この上なく眩しい。

「ブランテールさん、今週ずっとお休みされているけど、お見舞いに行ってもいいかな?何が好きか教えてくれる?」

親族でも筆頭の大貴族、デュワーズ公爵家の令嬢ブランテール。キレイで自信たっぷりでなんでも出来て、小さな頃から憧れだった。大好きな彼女を一番にしてあげたい、彼女に認めてもらいたい、褒めてもらいたい。そうすることで家族も褒めてくれるから、それが自分の存在する価値だから。

・・・・一番が揺らいでしまう衝撃。自分の容姿がアレな事は、早い時期から自覚していた。だからこそ可愛いもの、キレイなものが大好きなの。

「彼女は甘いものが大好きだわ。特に、ミルククリーム・・」

透け素材とレースが似合う、儚なげな美少女に見つめられて数秒、エリーゼは陥落した。

「ありがとう、予定を聞いて訪ねてみるわ」

ラミーが去ったあと、エリーゼは赤面しながら美少女の笑顔を脳内再生し、しばらく放心していたのを遠巻きに気付いたのは、サーシャだけだった。

読んでくださって、ありがとうございます。


あれこれ書き散らして、節操なく賞に応募したりしています。

楽しんでいただけると嬉しいです。

気に入って頂けたらイイネなどポチってくださると、とても励みにまります。

毎週金曜 6:20 更新中。

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