17.ぶっちゃけ平民ズ
合宿生活三週目の半ば、七人の妃候補たちは2:2:2:1での行動が定番化していた。
ラミーとシルベーヌのチョコ同盟、ブランテールとエリーゼの残念令嬢ペア、チェルシーとポルテの庶民コンビ、一匹狼のサーシャである。
妃候補の最終選抜、選ばれるのは一人で残りは脱落、それぞれの生活に戻るものと解釈されている。目に見えて成績が下降し、ヤバみが増して来た自覚のあるブランテールやエリーゼのヒステリックが時々発症するようになった。が、デキレース企画側のシルベーヌの思惑は別にある。
自分が妃になるために大貴族令嬢ズとその後ろ盾を引き下がらせる、能力のある女性を拾い上げて国家の人材不足を補い女性の地位を向上する、将来の国家運営に向けて要職を担う者と信頼関係を築きビジョンを共有する。
しかし、これがなかなかに難しかった。
学科のペースは相変わらず早く、午前中が終わるとみんな抜け殻のようになっている。午後の実技は週五から週三に減ったが、毎日の夕食がテーブルマナーになった。今週はルーモス形式で、来週から周辺三国のマナーを週替わりで学習していく。
自由時間は復習に充てないと試験対策も追いつかず、受験生の追い込みシーズンのよう。交流にかける時間と心のゆとりが無いのだ。
今日も盛りだくさんだった第二学科が終了し、昼休憩になる。
気持ちは焦るが、話しかけるきっかけを掴めずにいるシルベーヌがテキストを片付けながらもやもやしていると、
「ラミーさん、ウルス草とシズケ草の見分けが出来るってホント?」
隣のラミーにフレンドリーな様子で、チェルシーが問いかけていた。
「うん、大丈夫。ウィヤ草も似てるよね、花が咲いたら全く違うのに草だけだとソックリなの」
屈託のない魅了魔法のような笑顔で答えるラミーに、シルベーヌは驚いた。人見知りっぽかったのに、いつの間にか仲良くなってる!?なんて急成長。
「前の定期便で実家から入浴剤の調合用に送ってもらったんだけど、どうも手違いで草が混ざってるみたいなの。分けるの手伝ってほしいんだけど、お願いできる?」
「もちろん!お邪魔していいならランチの後で、部屋を訪ねても良いかしら?」
「嬉しい、助かるわ!」
親し気にトントン拍子に進む会話、シルベーヌがその様子を見ていると、
「そうだわ、良ければシルベーヌさんもご一緒にいかが?定期便で届いたお菓子もあるのよ」
思いがけず、チェルシーからお誘いを受けた。
「え?ええ、もちろん、喜んで!」
反射的に返事をすると、ゆっくりともやもやが晴れていく。
「まぁ、嬉しい。待ってるわね」
落ち着いた大人の笑顔、優雅な仕草。その洗練された動きは離宮でさらに磨かれ、貴族にも引けを取らない。
「うん、じゃあ後で」
元気に答えたラミーと笑顔で佇むシルベーヌに気さくに手を振って、チェルシーはポルテと一緒に資料室を出ると、
「ラミーさんって、ホントに話しやすいのね。貴族のご令嬢とは思えない親しみやすさだわ」
「でしょう?あの見た目だから最初は緊張したんだけど、裏切られた、って感じ。モチロン、良い意味でね」
「お友達のシルベーヌさんも、良い方のようね」
そんな会話をしながら去っていった。
「ちょっとラミー、チェルシーやポルテと仲良くなったの?」
ガシ、っと腕をつかんでシルベーヌが顔を寄せてくる。
「え?うん、前に食堂で話したくらいだけど」
「・・・ラミー」
一度うなだれた顔を上げ、ニヤリと笑う。
「貴女と友達で良かった、感謝するわよ親友」
昼食後にラミーとシルベーヌがチェルシーの部屋を訪ねると、ポルテも一緒に出迎えてくれた。シルベーヌが侍女に持たせていた手土産をさらりと紹介すると、スマートな受け答えでチェルシーが受け取って自身の侍女に渡す。
近くで見るシルベーヌの丁寧な挨拶に、美しい所作。自分を美しく見せる、とゆーコトに全く意味を見出せなかったラミーは、ここにきて考えを改めようと思えてきている。理由は単純でキレイってステキ、なんて思わず見とれてしまうからだ。対するチェルシーも落ち着いた態度に口調、親しみを込めた微笑みと完璧な対応だった。
挨拶を済ませるとチェルシーとシルベーヌがそっと目くばせして侍女を下がらせ、部屋には四人だけが残る。
「初めての訪問で恐縮ですけれど、あまり気を張らずに接していただけると嬉しいわ」
シルベーヌが微笑んで、握手を求める。
「こちらこそ。思った通りの気さくな方ね、まずは本題の草の仕分けですけれど・・・こちらを見てくださる?」
奥のテーブルに案内されると、草が敷き詰められた箱が二つ置かれていた。
どれも同じように濃い緑で、長さは二十センチほど。茎に巻き付くように、細い葉が五、六枚ついている。
ラミーは数本を手に取ると、
「根よりずいぶんと上で切っていますね」
独り言のようにつぶやいて、茎に巻き付いた葉を少しめくって内側を見る。
「これとこっちはウルス、これはシズケね。ほかには・・・」
仕分けてテーブルに置き、箱の中を探る。
「ああ、ウィヤも混ざってますね。って、これだけかな?」
最初の二種と離して、反対側に置く。
「一度、全部出して種類ごとに箱に入れましょうか。この布をテーブルに敷いて作業しても良いですか?」
ラミーは一人で、テキパキと準備を開始する。
先程の貴族的挨拶のごとく、あまりにスムーズで思わず見惚れて動けずにいた三人。
「あの、ラミーさん。どうやって見分けるのか、教えてもらってもいい?」
一人で作業を終えてしまいそうな流れを止めたのは、チェルシーだ。一方ラミーも、実家では一人作業が普通だったので思わず没頭しそうになっていた。
「そ、そうでした。こういった無心になれる作業は、ついのめりこんでしまいますね」
コホン、と照れ隠しのように小さく咳ばらいをして、説明を始める。
「まずこちらの二本。どちらも濃い緑ですが、ここを見てください」
茎に巻き付いた葉をめくって、内側を示す。
「ウルスは緑、シズケは真ん中が白くなっています」
三人は見比べて、おお~、と感嘆する。
「それからこっちのウィヤ。ウルスやシズケに比べて、葉が広がる位置が少しズレてます」
よく見ると前者は茎の同じ位置から葉が二枚対称に広がっており、後者は二枚の位置がややズレている。
が、比べてよく観察しないと気付かないレベルだ。
「あと、葉の筋・・・葉脈?がウィヤの方が少し細くて、匂いも違います」
これまた三人が凝視するけれども、言われてみれば見えなくもない?というレベルで、匂いに関してはチェルシーしか分からないようだ。
「よくある草の匂いよね?」
小声でシルベーヌがポルテに問いかけ、ポルテはうんうんと頷いている。
「凄いわね、ラミーさん。感覚がとても鋭いんだわ」
私も香水の嗅ぎ分けは得意なのにな~と、チェルシーが感心していると、
「ね、こんな繊細な美少女人形なのに、とんだ野生児よね」
シルベーヌの酷評に、ラミーはガーンと頭上に岩を乗せて落ち込んだ。
「ゴメンね、ラミー。けなしてるんじゃないのよ、そういうトコロが好きなの」
シルベーヌはラミーを抱き寄せ、頭上の岩をどけて撫でる。
「ああもう、知ればしるほど愛おしい」
そんな二人のやりとりをみて、チェルシーとポルテが笑う。
「シルベーヌさんまで、こんなに気さくだと思わなかったわ」
「私も。貴族にも色んな人がいるのね」
これをきっかけに打ち解け、それからの作業は連携もよく早かった。
テーブルに布を敷いて箱の草を全て出し、まずはラミーがウルス&シズケとウィヤを分ける。続いてシルベーヌとチェルシーがウルスとシズケを分け、最後にポルテがそれぞれを束ねて箱に入れていく。
そうしていくらもかからず、仕分けは終わった。
「ありがとう、本当に助かったわ。お茶を用意するから、くつろいでいってくださいな」
手早く片づけてソファで待っていると、チェルシーが侍女と一緒にお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「こちらがシルベーヌさんに頂いたクッキーのチョコレートサンド、こちらは先日の定期便で母から届いた木の年輪風焼き菓子とリーフパイですわ」
説明しながらテーブルに乗せていく。侍女がお茶を淹れて皆に配ると、テーブルは一気に華やいだ。
「お茶は王都で冬に好まれる紅茶をご用意しました。お好みでミルクとジャム、お砂糖もありますので、よろしければお使いください」
侍女が下がり再び四人になると、
「まぁ、美味しい!薄く焼いたクッキーにチョコレートを挟んであるのね?寒い季節にピッタリの濃厚な味わいですこと」
チェルシーが一口食べて、軽い生地と濃いチョコレートの組み合わせを絶賛する。
「うふふ、気に入っていただけて良かったわ。ラミーがチョコレートをとても気に入っているので、つい私もチョコレートのお菓子を選んでしまうの」
シルベーヌは持参した手土産を気に入ってもらえたことを喜び、ついでに推しのラミー情報を加える。
「さすがシルベーヌ、チョコレートは心の栄養よ!」
そうしてラミーはすっかり餌付けされているのだな、と二人に伝わる満面の笑みでご満悦だ。
「リーフパイって、葉っぱの形で可愛いわ。サクサクな歯触りで手軽な一口サイズ、そうして後を引く塩とバターの組み合わせ、これも悪魔ね」
シルベーヌもチェルシーと友好関係を築くべく、菓子での交流をはかる。
「悪魔。そう、こちらも歓迎すべき悪魔ね。年輪風焼き菓子、しっとり濃厚でお茶にも合うわ。勉強してると甘いものがより美味しく感じるし、とっても沁みてく感じ」
そんな水面下に全く気付かないラミーは饒舌に菓子を褒めちぎる。その言葉に裏表の無さは確信されたようで、もう普通にしているだけでチェルシーにもポルテにも好印象だ。
美味しいものを前に、女子トークに花が咲く。
「ワタシ、お菓子なんて食べたのは舞踏会とここに来てからなの。町ではとても手が出せなかったもの」
ポルテがポツリとこぼした本音に反応したのは、ラミーだ。
「私も同じ!実家で食べ物といえば近所で調達できる食材だけだったから、贅沢品は縁が無かったのよ」
たまに父様や母様の思い出話に出て来るから、聞いたことはあったんだけどね。なんて花のような笑顔と鈴を転がすような可愛らしい声で麗しの伯爵令嬢が語ると、庶民ズ二人はギャップに固まる。
「あら?」
せっかく弾んでいた会話に水を差してしまったかと、続けてアッサリぶちまける。
「あの、うちは名ばかりの没落貴族なの。両親の見栄でこんなところに来てしまって・・・ああでも、勉強は難しいけど楽しいし、皆さんとお友達になれて嬉しいのよ」
いきなりの暴露話に、庶民ズは対応に困ったままだ。さらにぶっちゃけ爆弾を落とすラミー。
「正直、ハードル高そうな妃は王子ラブのシルベーヌにお任せして、私は勉強して割の良い仕事を斡旋してもらうのが目標なの。借金ハンパないんだもの」
割の良い仕事に就くなら、貴族の腹芸も将来的には必要になるだろう・・・。
しばらくの沈黙、破ったのはチェルシーだった。
「アタシも乗るわ、その話。舞踏会で一番お似合いだったのはシルベーヌさんよ。王子は素敵な人だけどアタシもポルテも、庶民出身で王家に嫁ぐなんて現実的じゃないと思っていたわ。でも自分たちの環境じゃ、ここみたいに充実した教育は受けられない。商売に興味はあるけど、将来、兄が二人もいる私が家業を継げるわけないし、親が用意した相手に嫁ぐくらいしかないのよ。与えられる道以外にも、勉強して自分で選択肢を持てるなんて素晴らしいわ」
正面から見据える瞳は、とても力強い。
「ワタシも同じ。頑張って働いても自分で店が持てる訳じゃないし、むしろ頑張るだけ疎まれたりするの。結果を出しても生意気だとか、女のクセにって言われるだけ。ここにきて評価されるのが、本当に嬉しいしやりがいを感じているのよ。ワタシに向いている仕事で、思い切り力を尽くしてみたいわ」
こちらも正直な気持ちと、本気に疑いようがない。
シルベーヌは、にっこり笑って二人の手を取った。
「本当の気持ちを教えてくれてありがとう、とても有意義なお茶会だったわ」
シルベーヌは満足してキレイに締めたハズなのに、コソコソ話が続いていた。
「それにココの教育で確信したけど、妃ってかなりの重責よね」
「そうそう、キレイなドレス着て微笑んでるイメージしかなかったけど、現実を思い知ったわよ」
「ねぇ?期待と責任ばっか重くて気が引けるって言うか、割に合わないと言うか」
「だからこそ、王子ラブで責任感のあるシルベーヌを推すしかないでしょ」
「「賛成!」」
「・・・・ちょっとあなた達?」
王子争奪で始まったハズなのに、いつの間にかクラスの面倒な役員を押し付ける会議みたいになってる!?
シルベーヌは思惑通りの結果を得たにも関わらず、周囲の解釈は予想外な方向へ飛んで行ったようだ。
結果オーライ・・・?
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