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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
34/35

番外編 カラオケ(瑞樹目線)

 そんなわけで、カラオケに行く日になった。

 アレクの前に行くと、すでに姫が来ていた。何となく気まずい。とりあえず「姫早いね~」と言ってみると、案外普通に「瑞樹ちゃんも早いじゃん」と返されたので、少し安心する。昨日、睨まれたから、今日も無視くらいされると思ってたんだけど。

 しばらく待っていると詩織や越川、そして桧原も現れた。五人そろったので、さっそくアレクに入って昼ご飯を食べて、それからカラオケ店ボワール・サクスに入って個室にぞろぞろと入っていく。

 五人だからか、部屋は少し広めだ。でも、春に行った時の部屋よりは少し狭いような気もする。

 暑苦しいのでクーラーをつけ、あたしたちは早速歌い始めた。


 一番手は越川。自分から歌いたいと言い始めた。こういうのって、普通みんな一番は嫌がるから、こういうキャラがいるとサクサクすすみやすい。

 全員何曲かずつ歌い終わった頃、姫と詩織が突然立ち上がった。あたしを見下ろしている。なに? 顔、怖い。


「ねー瑞樹ちゃん。一緒にトイレ行こ♪」


 姫の笑顔が逆に怖い。なんなの? 昨日まではあんなに態度悪かったくせに。でも、ここであたしが二人を無視すると桧原とかにも見られてるから、色々と誤解を生みそうだし……。


「うん、いいよ」


 この時あたしは、自分の選択が間違っていることに気付いていなかった。



「……で、どうしたの?」


 二人はトイレに着いても、個室に入ろうとはしない。女子のトイレとは、身だしなみチェックがほとんどなのだ。鏡の前に立って、髪を直したりむやみに手を洗う。その行動が、同じ女子でありながらあたしには理解できない。それ、あたしがついていく必要あるのかよ……。いや、普通にトイレだったとしてもきっとついていく必要はないだろう。なんのための連れションだ。

 というか、せめて学校ではトイレじゃなくて水道のところの鏡で直してほしい。人が通るから嫌なのか何だか知らないけど、うちの教室からはトイレより水道の方が近い。いちいちトイレについていかせないでほしい。てゆーかだから、まず一人で行けよ、トイレくらい……。


「姫ね、ずぅーっと思ってたんだ。なにがおかしいのかなぁって。そしたらね、今日ここに来てわかったの」

「あたしたちからして邪魔なのは、瑞樹なんだってことがね」


 姫の言葉に続けて、詩織が言った。それはつまり?


「だから、瑞樹ちゃんは帰って!」

「……え?」


 いやいやいやいや、あたしが? なんで? なんで帰らなくちゃいけないわけ? 意味分かんない。姫たちも、ついに力ずくであたしをこのグループから追い出そうとしはじめたんだね。

 別に、あたしだってもうこのグループにいたくない。嫌な事ばっかりアシ、姫たちにはこうやって陰でこそこそ嫌味言われたり嫌がらせされたりするし。さっさとこのグループから抜けて一人で気楽に生活したい。でも、桧原が、いるから――――。

 あたしがもしこのグループから抜けたら、桧原との関係性がなくなってしまう。彼のことだから、抜けた次の日から完全無視とかはしないと思うんだけど、もしそうなってしまったらと思うと怖い。だから今まではグループから抜けなかった。それに、人の目も怖かったしね。

 でもこうやって姫たちから無理やりグループを追放されるんだったらそれはそれでいいかなあ……なんて、ちょっとあたしおかしいかも。


「……ちょっと、瑞樹なんか言いなよ。無視するとか感じ悪いよ?」


 いやいや、感じ悪いのはどっちだよ……。詩織の言葉に突っ込みを入れながら、仕方がないので口を開く。


「別に、帰ってもいいけど……なんで? あたし、今日は塾ないって言っちゃったし、理由づけできないじゃん。それにトイレであんまり遅いと桧原たちに心配され――――」

「つべこべうるっさいなあ!」


 バシャーン、と、音がした。体が冷たい。……え、あたし、水かけられた?


「そのカッコじゃ部屋には戻ってこれないでしょ。カナにも、心配されたくないんでしょ? だったら、さっさと帰った方がいいと思うよ? あとはあたしたちが何とかしとくからさあ」

「何とか……って、」

「いいからさっさと帰れよっ!」


 詩織に突き飛ばされ、あたしは壁に背中をぶつけた。詩織、力強すぎなんだけど……。いつもか弱い女子アピールしてるくせに、ギャップありすぎなんだよこの人。

 それに、ほんとに性格悪い。そのくせ男子の前では猫かぶったりして妙にモテるタイプなんだろうなあ。あ、それは姫もか。


「ね、さっさと帰ってくれない? カナもえっかもみんな、あんたがいるから気ぃ使ってんの。分かんないの? 同情されてんだよ。恥ずかしい。あたしだったら絶対耐えらんない。ねえ、だからさ――――さっさと負けを認めて一人で帰ってよ」


 詩織の言い方は、いつものように嫌味っぽかった。そして、冷たく突き放すような、そんな雰囲気を醸し出していた。……なんて性格の悪い。

 でも、たしかに詩織の言うとおり、あたしがこの状態で部屋に帰ったら気を遣わせてしまうだろう。心配もかけると思う。やってきたのは詩織だけど、そんなこと正直に告発したら、絶対こいつら口裏合わせて泣くし。いっそあたしが泣いてやろうか。


「……帰るよ」


 結局あたしはそう口にして、カラオケ店を出た。お金のことは何も言われなかったから、さくっと出て行く。払ってくれるだろう。多分。これで犯罪扱いされたらもう何とも言えないよ。

 もし後から請求されたらその時はその時で払うことにしよう。



「……はあ」


 とぼとぼと歩くあたし。びしょ濡れなんだけど、これ、他の人から見たらどういう風に映ってるんだろう……。やっぱいじめられっ子かな?

 いや、別にどうでもいいけど、とりあえずさっさと帰って着替えよう。じゃないと風邪引く。絶対風邪引く。そんな気がする。すごく。


 家の近くまで来たとき、後ろに誰かがいるよ運真紀がした。振り向いてみても誰もいないんだけど、でも何か気配を感じる。え、もしかしてこれって尾行さつけられてる!?

 はっ、そういえばあたし結構濡れてるけど下着とか透けてないよね!? やばっ、全然そういうこと気にしてなかった! 一応確認……うん、大丈夫。薄着だから心配だったけど、上に着てたシャツ黒でよかった。

 というか、後ろにいる(?)人は一体……。


「椎名!」

「んぐっ!?」


 走っているような足音が聞こえたかと思ったら肩をつかまれ、しかもその人はあたしの名前を知っている。混乱で変な声を出してしまった。でも、これってさ。


「……桧原?」

「よかったーっ、追いついた!」


 桧原は、いつも通りの眩い笑顔で、あたしを見上げていた――――。



「……で、なんで、桧原がここにいるの? カラオケしてたんじゃなかったの?」

「いや、だって石井が椎名は帰ったって言うから。でも、椎名が何も言わずに帰るかな? って思って家に行こうとしたら椎名見つけたから」

「う、うん……?」


 ここは、あたしの部屋。あんな道のど真ん中で話すのもどうかと思ったので連れてきた。お父さんは出張だしお母さんは今日友達の家に遊びに行ってるし。親がいたらまた別だけど、いないからいいだろう。というか、あたしとしては早く着替えたい。いくら夏だからって、あたし絶対風邪引くよこれ。

 というわけでさくっと家に連れ込んでリビングで待機してもらってあたしは部屋で着替えてきた。

 でも、あたしが濡れてたことに対して桧原が何も訊いてこなかったからよかった。桧原のことだから絶対何か訊いてくるだろうと思ってたんだけど……まあ、なんとなく察したのかもね。いや、むしろ察してなかったらある意味あの人すごいと思う。

 あたしが入れた紅茶を口にしながら、桧原は遠慮がちに尋ねてきた。


「あの、それでさ。椎名……石井たちにいじめられてる?」

「ごふっ」


 飲み物飲んでる間にそういうこと言わないでほしい。気管に紅茶入ったじゃんか。肺炎になったらどうしてくれる。


「な……なん、で?」


 げほげほせき込みながら尋ねると、彼は「なんでって……」と呆れたような表情を見せた。えっ、あたし呆れられてるの?


「普通、分かるし。大体さ、椎名も隠すなよ、そういうこと。俺たち、友だちなんだし……」

「友だち、だけど……隠すよ、普通」


 そんなオープンに、いじめられてるとか言うわけないじゃん。というか、これ、いじめというより嫌がらせだとあたしは思ってたんだけど。いや、自分がいじめられてるって思いたくないからそう思い込んでただけなのかな?


「そう、なんだ……。ごめん、無理やり。なんか嫌なこと言っちゃうし」

「いや、いい、けど」


 歯切れの悪い会話が続く。もっとテンポ良くいこうよ。あたしも人のこと言えないけど。


「ごめんな、椎名」

「いや、なんで桧原が謝んの」

「だ、だって俺が悪いし、」

「いや意味が分からないんだけど。別に桧原悪くないじゃん」

「や、違う。俺が悪いから」

「……どうでもいいけどさ、お腹空かない?」

「さっき昼飯食べたばっかじゃん」


 シリアスさがない。さっきまで結構シリアスな会話してたはずなのに、急にあたしの一言でそれが消えたよ。いや、シリアスな雰囲気をどうにかするために言ったんだけど、なんか桧原にすごい勘違いされてる気がする。あたし、別に大食いじゃないよ。お腹も空いてないよ。普通の女の子だよ。


「ごめん嘘」

「……どこが?」


 正直に告白したらどこがって返された。なんかめっちゃ悲しいんだけど。そしてもうなんか、会話がすごいぶっ飛んでる。


「だからさ、そうやって無理に話題変えようとしなくていいから」


 桧原はうつむきながらそう言った。あんまり表情は見えない。でも、ちょっと声、震えてたかもしれない。そんな気がする。なんとなくだけど、ちょっとだけ。


「無理にじゃないよ。あたしが変えたいと思ったから変えただけだよ。桧原が、そうやって言う必要ないよ?」

「……っだから!」


 突然大声を上げる桧原を、呆然として見つめるあたし。え、なに? 怖いんだけど。なんか最近、桧原、情緒不安定なの?


「なんでさ、そう、我慢するんだよ。いいじゃん、弱音、吐いたって。なんか、そういうの、見ててつらい」

「つらい……?」


 見ててつらいって、どういうこと? なんか、すごいあれだね。人の気持ちにあれするんだね。あれ。なんて言うんだろう。あ、共感。思い出した。共感……で、あってるかな? 共感しやすい? え? こんな言葉あるっけ?

 ……脱線するんじゃない、あたし。


「別にあたし我慢してないし。嫌なことは嫌って言ってるよ? だから桧原が心配する必要ないって」


 へらへらしながらそう言ったけど、今言ったことが全部真実だとは言い難い。嫌なことは嫌って全部言ってるとは、言い切れない。確かにあのグループにいるときは我慢している部分もあったし。

 でも、人間が共存するってことは、みんなが少しずつ我慢するってことなんじゃないの? 相手のいいとこも悪いとこも全部受け止めて、ちょびっとずつ我慢して……って、それができることはいいことだと思うんだけど。


「……嘘つき」

「えっ、ちょっ、さすがにそれはひどくない!?」


 嘘つき呼ばわりされた。まあ、あながち間違いではないんだけど、そんなにはっきり言葉にされるとこっちとしても傷つくんだけど。


「そうやって我慢してもいいことないよ。……ごちそうさま、俺帰るね」


 桧原は紅茶の入っていたカップを机に置いて、立ち上がった。


「あ、ちょっと、」


 彼は、あたしに背を向けて出て行った。あの人の怒りの沸点がいまいち分からない……。

 まあ、いっか。今さら、取り繕う必要もきっとないだろう。だって、あたしはもう、あのグループにはいられないだろうから。





 あれから、三年の月日が流れて。あたしと桧原は、偶然同じ高校に入学した。しかもクラス同じって、呪いかよ……。神様、一体あたしは何をした。


「佐野さんおはよー」

「あ、カナくんおはよう!」


 高校でできた友だち、ゆっきーは桧原のことが好きらしい。かわいくて好きとか、あたしと気が合いすぎる。

 高校では中学の頃のような変にクールぶったキャラじゃなくて、普通に明るい女の子になることにした。面倒だから、こういうキャラが一番楽でいい。素を出すのもあんまり好きじゃないし。


「瑞樹ちゃん、どうしたの?」

「ん? なんでもないよ? ねーそれよりゆっきー、桧原のこと、もうオープンにカナくんって呼んでるんだ?」

「あっ! そ、それは、その!」


 顔を真っ赤にしているゆっきー。うーん、この子、ほんとに純情だなあ。まあ、それがかわいいんだけどね。あたし、かわいい子好きだし。……あれっ、今あたし問題発言した?


「……瑞樹ちゃんのいじわる」

「あははは」


 こうしてあたしは今日も、ゆっきーと桧原の幸運を祈るのです。と、言いつつまだ桧原のこと諦めてないけどね。まあ、このことは当分ゆっきーには秘密かな?

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