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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
35/35

にじゅうろく 頭をよぎり、うろついて

〔ゆきな:私はその人と付き合ってるわけでもないから、会わせるのはちょっと無理かも……〕


 考えた末に、私はそんなメッセージを送った。もしかしたらカナくんだったらお願いすれば来てくれるかもしれないけど、そもそも片思いだったら全く接点がないってこともあり得るはずだよね。だったら、会わせるのは無理って断っても変ではないはず。

 二人には申し訳ないけど、普段から迷惑かけてるっていうのに、私のわがままでカナくんに何かしてもらうってのはこれ以上あんまりしたくない。それで嫌われちゃってもやだし。

 写真くらいだったらいいかな? 今度、カナくんに聞いてみようかなぁ……。


 と、そんなわけでゴールデンウィークが終わった。今年は土日とくっついてなかったから、あんまりゴールデン感がしなかったね。

 でも、今日学校に行けばすぐ休みだし。やったね!


「ゆっきー、久しぶり~!」

「あ、瑞樹ちゃん。久しぶり!」


 久しぶりに瑞樹ちゃんに会えた。電話はしたけど、会うのは三日ぶりだもんね。あれ、四日ぶりって言うのかな? まあ、それはいいとして。


「ねーゆっきー、今日って何日だったっけ?」

「え? 6日だけど」

「あ、そっか。昨日までだったもんね、ゴールデンウィーク。」

「うん、そうだよ~」


 今日は、5月6日……だよね? なんかあるのかな?


「あ、そうだ。ゆっきーって誕生日いつ?」

「へ?」


 なんだか、今日の瑞樹ちゃんは質問が多い……。どうしたんだろう? まあいっか、そういう日もあるだろうしね。


「えっと、私の誕生日は12月14日だよ。まだまだなんだよね。瑞樹ちゃんはいつ?」

「ん? あたしはねー、6月17日。えへへ~、ゆっきーよりちょっと年上だね!」


 瑞樹ちゃん、テンション高いよ。ほんとに、今日はどうしたんだろう?

 ちなみに今日の瑞樹ちゃんの髪型は、前髪の横の一部分を両方とも編み込みにして、それも全部髪をまとめて、耳の後ろで二つ結びにしている。……うーん、ちょっと説明が難しい。

 それにしても、瑞樹ちゃんの誕生日って6月だったんだ。あと一ヶ月もすれば誕生日になるってことか~。教えてもらえてよかった。お祝いしそびれたら残念だもんね。



「今日は来週の土曜日に行く校外学習の準備をします」


 一時間目の総合学習の時間。担任の吉川先生は笑顔でそう言った。こ、校外学習……! もうそんな時期なんだ。入学したときに配られた一年間の行事表に書いてあったのは見たけど、こんなにすぐに来るとは思わなかった。

 あ、そういえば私って高田くんと同じ班なんだったっけ……。うぅ、最悪だ。高田くん苦手なんだよなぁ。

 しかも、校外学習って泊まりなんだよね。ということは、二日間も高田くん、その他いろいろな方々と一緒に……。うっ、せめてカナくんとかそういう人たちと同じ班だったらよかったのに! なんでよりによって高田くんなの。瑞樹ちゃんが同じ班だってのが唯一の救いだよ。

 あーでも、やっぱり班は自由だったらよかったなぁ。残念。まあ、自由になったからと言って私がカナくんと一緒の班になれるとは限らないけど。カナくんから言ってくれるとは限らないし、私から言うのはなんとなくできない気がする。

 廣山さんは、カナくんと同じ班なのかぁ……。いいなあ、羨ましい。高田くんとカナくんを交換したいよ。って、なんか私失礼だ。


「おい、佐野。さっさとカレーの役割決めるぞ」

「うわっ」


 突然高田くんが現れた。私の頭に手を乗せて、体重をかけてくる。お、重っ!


「高田、いらねえことしなくていいから」


 木坂くんが何気にフォローしてくれる。高田くんは小さく舌打ちをして私から少し離れた。


「ねーねー、カレー誰が何の役する~?」


 可愛い笑顔で私たちに尋ねてくるのは、たしか岸本さん。クラスの中でもまあまあ目立っている方の子だ。


「役割って、何があるんだったっけ?」


 すかさず瑞樹ちゃんが質問する。岸本さんは、すぐに答えてくれた。


「えっとね、カレーのルーを作る人と、ご飯を炊く人とで分かれるみたい。ご飯はかまどで炊くから火加減とかも調整しなきゃいけないんだって。んで、カレーの方はまあ具材切ったりとか煮込んだりとかかな? あ、あとね、デザート作る人もいたらいいかも~」

「ふ~ん……」


 カレーなどの具材は、山に登る前に最寄りのスーパーに行ってそれぞれの班で買うらしい。二日目の朝ご飯の分も必要だから、結構多くなりそうだ。でも、楽しそう。


「じゃあ俺かまどにする」

「おっ、小崎早い! さんきゅ~!」


 かまど係をすると言ってくれたのは小崎くん。岸本さんは嬉しそうにして、小崎くんの腕にぎゅうっとしがみ付く。えっ、な、何この幸せなリア充!

 小崎くんは「やめろよ、恥ずかしい」とかって言ってるけど、ちょっと嬉しそうにしているような気もせんでもないような……。え、えっ、これって私たちが見ちゃっても大丈夫なやつなの?


「じゃあ俺もかまどするわ」


 木坂くんもそう言って手を上げる。あれ、もしかしてかまどは男子がやった方がいいやつなのかな?


「あ、あの、じゃあ私は瑞樹ちゃんと一緒に……」


 恐る恐るそう言うと、岸本さんは笑顔で答えてくれた。


「あ、一緒がいい? んー、じゃあカレーの方行ってもらってもいい?」

「う、うん!」


 私はうなずく。瑞樹ちゃんもそれでよかったらしい。あっ、でも私料理だめなんだった! なんでカレー作ることになってるの!? ばか! 私のばか!


「んじゃ、あたし芽亜めあと一緒にデザートやる~!」


 岸本さんがそう言って、今度は鹿留さんの腕にぴとっとくっついた。わ、なんか岸本さんかわいい……! というか、鹿留さんの下の名前って芽亜って言うんだね。かわいい名前。


「ん~……じゃ、高田はどうする?」

「んー? なんか言った……?」


 高田くんは勝手に寝ていたみたいだ。目をこすりながら私たちの方を向く。


「佐野と同じやつでいい」

「ちょっ!?」


 何でもかんでも私と一緒にしないでよ! 変な勘違いされちゃったらどう責任とってくれるの!?

 ほんとにもう、高田くんってば自分勝手なんだから。やだなあもう。


「あ、そっかぁ。佐野さんってたしか、高田と同じ中学だったんだっけ? 仲良いんだね~」

「ちがっ、違うよ! ほんとに違うから! そんなんじゃないからっ!」


 さっそく岸本さんに変な誤解をされている。全力で否定したけど、むしろ否定しすぎたかもしれない。

 彼女はにやにやしながら「そんな照れなくてもいいのにぃ~」と言ってきた。だかえあっ、本当にそういうのじゃないんだってば……!


「ま、じゃあ高田はカレー係ってことで決まりね。よーし、役割決定! んじゃ、かいさ~ん」


 岸本さんは楽しそうに解散を告げて自分の席に戻ると、役割をメモしてくれているみたいだった。いろいろしてくれてほんとに助かる。でも、ちょっと悪いかも。

 でも、彼女が仕切ってくれたおかげで役割分担がすぐに終わった。周りの班はまだ話し合いを続けている。中でも一番揉めていたのは、カナくんたちの班だった。


「えり、絶対桧原と一緒にカレーがいい~っ!」

「ちょっと、穂積ほづみは黙ってなさいよ!」


 廣山さんが何やら叫んでいる。自分で自分のことを“えり”と呼んでいる女の子が、カナくんの腕にぎゅーっとしがみ付いて離さない。あれに怒ってるのかな? っていうか、めちゃくちゃ羨ましい……。

 あんまり背が変わらない……というか、ほとんどカナくんと同じくらいの背の女の子。かわいい。てか、なんだかさっきから人の腕にしがみつく子が多いような。やっぱり、可愛く見えるからとかなのかな?

 たしかに、同じ女子の私から見ても可愛いと思うし……。ん? ということは、そのかわいい行動をされているカナくんもそう思ってるってこと……? そ、それは困る! さすがカナくん、ライバルは多そうだ。


「ちょっと~宇美ちゃんもえりなちゃんも一回落ち着きなよ~」


 険悪なムードの二人の間に、朗らかな声で割って入っていったのは、背の高いショートヘアーの女の子。女子にしたらちょっと声が低目な気もする。けど、アニメとかに出てくるようなかっこいい声だから、ちょっと羨ましいかも。

 カナくんに引っ付いているのは穂積えりなちゃんと言うらしい。横で同じように見ていた瑞樹ちゃんが、「あのショートの子は西山にしやま稔李みのりだよ」と教えてくれる。稔李ちゃんって言うんだ。なんか、このクラスかわいい名前の子が多い気がする。


 もう一度カナくんたちの方を見てみると、西山さんが間に入ったからか少し口論は落ち着いたみたいだ。でも、穂積さんはカナくんにぴったり密着したまま、全然離れようとしない。

 カナくんは、穂積さんにひっつかれて困っているみたいだった。でも、さすがに女の子の手を振り払うのには抵抗があるのかじっとしている。ちょっと引っ張ったり「やめろよ」とか「離せよ」とか言っているみたいなんだけど、穂積さんは何も言わずただカナくんの腕を掴んでいるだけだ。彼からしたら迷惑なのかもしれないけど、私からすれば穂積さんはかわいいなあ、と思った。


 普通ならやっぱり、自分の好きな人とかわいい子が一緒にいたら嫉妬しちゃうものなんだろうけど、私は嫉妬するというよりも穂積さんがかわいいのがとても羨ましいって気持ちの方が勝つ気がする。だって、かわいい子は何をしたってかわいいんだもん。ああやってくっついててもかわいいし、普通の子にされるよりもかわいい子にされた方が、男子だって嬉しいと思う。

 これは私がやったところでたいしてかわいくはないし、そもそもあんなこと私にはハードルが高すぎて出来そうにない。小さくてかわいい彼女だからこそできることなのだと思う。だから、すごく羨ましい。


(私にはあんなことできないもんね……)


 そう考えると、ちょっとだけ胸が痛くなる。穂積さんが羨ましい。かわいい子が羨ましい。かわいいことができる子が羨ましい。私には、決して真似できないことだから。

 使途を全くしていないと言えば、嘘になるかもしれない。ほんとは、穂積さんにああやってカナくんにくっついてほしくないと心の中では思ってる。だからと言って、私がどうこう言える問題でもないし……。関係ないもんね。だからそこは、やっぱり私が文句を言う権利はないような気がする。少なくとも、私はそう思う。

「えりは、絶対絶対桧原と一緒がいいっ! 桧原と一緒じゃなかったら、えり、もう校外学習行かない!」


 前言撤回。なんってわがままなんだろう。すると、一人の勇者が立ち上がって、私の気持ちを代弁してくれた。


「なら別に来なくていいけど。こっちは全然気まあなくて迷惑してんだよ。お前が来なかったらさっさと決まるんだっつの」


 口は、悪いけど。はっきりと述べたのは少し肌が焼けている眼鏡をかけた男の子。名前は分からない。やっぱり、入学式の日にちゃんと自己紹介を聞いていなかったのがいけなかったんだろうなぁ。ちょっと反省。


「な、なにそれ! 葉中はなかひっどい!」


 穂積さんは目に涙を溜めながらそう叫ぶと、カナくんのカーディガンに顔をうずめてそのまま泣き出してしまった。廣山さんは腰に手を当ててため息をつき、西山さんはあちゃー、というような表情をしている。うーん、たしかに泣かれるとどうしたらいいのか分からなくなっちゃうよね。

 葉中と呼ばれた眼鏡の男の子は、悪びれる様子もなく呆れたように小さくため息をつき、自分の席に座った。カナくんは穂積さんに離してもらえなくて、どうしたらいいのかとおろおろしている。とりあえず、穂積さんを自分の席に座らせて頭をポンポンと軽く叩いた。う、うらやまっ……!(声が出ない)


「穂積、大丈夫? 泣き止んだ?」


 カナくんは女子の泣き顔を見てはいけないと思ってるのか、視線を穂積さんの顔から少しずらしている。穂積さんは、そんなカナくんの問いかけに小さく頷いた。


「うん……ごめん、桧原」


 蚊の鳴くような小さな声で、穂積さんは謝った。けれど、少し離れたところに座っている私にも聞こえた。


 なんだか、校外学習は平和に終われなさそうで不安です。

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