にじゅういち 彼のしゅういは黒いオーラ
え、え、誰なの? トオルくんって、カナくんのお兄さんなの?
でも、カナくんからそんなことは聞いたことないなぁ。私のお兄ちゃんに会った日とかに、俺も兄がいる的な会話をしてもおかしくないと思うんだけど。
「あ、佐野さんはこいつのことは知らないよな。こいつは川井透。カナのいとこ」
そう説明する尾川くんを後ろから襲撃したのは、紹介されたばかりの川井透……くん? いや、川井さん。うん、そっちの方がしっくりくるね。
というか、尾川くんが後方から突き飛ばされて倒れてるんだけど。その上には川井さんが乗っている。うおぉ。
「いとこじゃねぇ、義理の兄だ」
「あぁ、ハイハイ……」
低い声でうなるように言う川井さんに、尾川くんは呆れたように返事をしていた。
結局いとこなのか義理のお兄さんなのかよくわからないままだ。でも、尾川くんが呆れてるってことは、やっぱり本当はいとこなのかな? というか、いとこと義理のお兄さんって、別にどっちがいいってわけじゃないと思うんだけど……。
「あぁ、そんで透くん。この子は――――」
「あー、隆夜、もう間に合ってるから」
尾川くんが私を紹介しようとしたところで、川井さんがそれをさえぎった。あ、そっか。私さっき川井さんに自己紹介したもんね。だからか。
私が納得していると、自称義理の兄の川井さんがにやにやしながら私の方を見た。
「で? お前、カナの彼女?」
「か!? そっ、そんなわけないじゃないですか! っていうか、私さっきもただのクラスメイトだって、言いましたよね!?」
思い込みの激しい人だ。彼女じゃないよ。……まあ、いつかそうなれたら、嬉しいかなー……なんて。
うわあ、なんかめっちゃ恥ずかしい! 死んでしまいたい!
……そういえば、「カナの彼女?」って、さっきも聞かれたような。記憶力が乏しいのかな。って、なんか私、さっきからかなり失礼なこと言ってる気がする……。
そのとき、突然後ろから肩をつかまれ後方に引っ張られた。
「つーか、透くん。佐野さんいじめるのやめてくんない?」
尾川くんの声が耳元でする。うわ、うわ、なにこの体勢。なんか、なんか悪いことをしている気がするよ!
私は尾川くんに肩をつかまれて、そのまま、なんか、尾川くんに後ろからふわっと! なんか、ふわっと来てるんだよ!
……だめだ、全然、ちゃんと説明できてない。つまり、とにかく恥ずかしい体勢だということを察してくれれば助かります。って、私誰に説明してんの。
「おーおー、隆夜くん嫉妬ですかー?」
バカにしたように言う川井さん。な、なんか既視感が。なんだろうこれ。尾川くんとだぶるんだけど。
一方、尾川くんは何か動揺していた。顔は見えないけど、否定する声が震えている。
「ちっ、ちげーし! どーいう神経してんだよ!」
そうだ、尾川くん、私の恋応援してくれるんだった。だから、気を遣ってくれたのかな?
……まあ、川井さんにいじられようといじめられようと、私の恋には関係ない気がするんだけど。私が「彼女じゃない」発言を何度もするのが、痛々しく見えたとか? もしかして、私同情されてる?
「そーゆーネタやめろよな! ほんとおまえ、性格悪い!」
尾川くんが怒鳴る。“そーゆーネタ”ってのは、私とカナくんの話ってことかな? うん、まあやめてほしいね。
でも、尾川くん、そろそろ肩を話してくれると助かるかな。私、かなり恥ずかしいんだけど。
「えー? 隆夜には言われたくないかなぁー。カナのこと、しょっちゅういじってるくせに」
「カナはいいんだよっ!」
え、なんか今、すごくカナくんがかわいそうな言葉が聞こえた気がするんだけど。カナくんはいいって、なんかいろんな意味で差別だよね?
うーん、尾川くんも結構恐ろしいのかもしれない……。人間って怖いね。
すると、川井さんは口角を上げて楽しそうに言った。
「あーそうだったぁー。カナのこといじっていいのは隆夜だけなんだっけー」
顔は楽しそうなのに、なぜか川井さんは棒読みだった。うん、でも楽しそうだ!
……やっぱり、なーんかデジャヴが。尾川くんだね。うん、尾川くんだ。尾川くんしかありえない。尾川くん、前こういうの言ってた気がする。
気のせいかもしれないけど、でも尾川くんやりそう。実は尾川くんのお兄さんだったりして? いやいや、ありえないね。そうなったら、尾川くんとカナくんはある意味親戚関係になっちゃうよ。
そんなことを私が考えていると、こっちはこっちでややこしいことになっていた。
「大体、透くんはいろいろ図々しいんだよ。年上らしくおとなしくしとけっつの」
「はあ? お前こそいちいちぐずぐずうるせえんだよ。年下なんだから俺に偉そうに指図してんじゃねえよ」
うわあ、空気悪っ……! 尾川くんって、高田くんと言い川井さんと言い、相性悪い人が多いなぁ。
というか、年上年下って、そうやって年齢で差別するのはどうかと思うんだけどなぁ。まあ、どっちが言ってることも間違ってはないと思うんだけど……。うーん、でもやっぱり、ちょっといきすぎなキツい言い方かもなぁ。
すると急に話が私に振られてしまった。
「じゃあさー、佐野さんはどっちの言い分が正しいと思ってんの? ま、もちろん俺だよね~」
「え、え、」
川井さんがそう言って、上から私を至近距離で見降ろしてくる。なんで? どこからその自信が来てるの? ちょっと待ってよ、不思議すぎる。
そうしたら、今度は尾川くんも負けじと反論する。
「佐野さんが透くんの味方するわけないだろ。どーせ、二人のじゃまするくせに」
「ん?」
二人のじゃま? 誰と誰のことだろう。尾川くん、ちょっと声小さめだったからよく聞こえなかった。
まあそのことはおいといて、私は考えてみた。意見としては別にどっちもどっちだと思うんだけど、尾川くんの最後の言葉が気になるし……。でも、尾川くんを選ぶと、後々怖そうだしなぁ。今だって、めちゃくちゃにらんできてるし。どうしよう?
「なあ、佐野さん」
「うぅ……」
顔近い、顔近い、顔近い、顔近い! 川井さん、顔近すぎ!
しかも、川井さん結構かっこいいから、不覚にもドキドキしてしまう……。うぅっ、よく見たらカナくんと顔立ちが似ているっていうのが、また、私としてはドキドキするポイントになっちゃうんだよね……。
ああもう、落ち着け私の心臓っ!! 川井さんにドキドキするなんてっ、もう本っ当に私のバカ!
「俺の味方してくれるだろ?」
「かっ、顔近づけないでください川井さん!」
鼻とか当たっちゃいそうなほど、近い。ううぅ、恥ずかしい……!
そしたら突然川井さんは顔をしかめて私を睨んだ。な、何か不都合でも?
「俺、“川井さん”ってガラじゃないんだよなぁ~。透でいーよ。ま、透さん程度な」
「え、は、はい」
透くんは慣れ慣れしくてウザいからやめてな、と付け足す透さん。了解です。
それにしてもガラじゃないって。透さん、透さん……。うん、すぐ慣れそう。よかった。
「じゃあ、透さんで」
「はいよ。あ、俺はなんで呼べばいい? なんかあだ名とかねえの?」
そう訊かれて、私は首を傾げた。あだ名……。
「ゆっきー、って友達には呼ばれてます。けど……」
けど、透さんに呼ばれるのはちょっと、と言いたかったところで、さえぎられてしまった。
「ゆっきー! いーなそれ! ミッキーみたいで!」
テンション高い……。ミッキーみたいって、それ褒め言葉なの?
しかも、気に入られちゃったってことは……。
「じゃ、ゆっきーって呼ぶわ!」
「えっ」
やめてほしかった……。こうなるくらいなら、ゆっきーって呼ばれてるとか言わなくちゃよかった! ちゃんと考えるべきだった。私のバカ。
「ごめん佐野さん、フォローのしようがなかった」
謝る尾川くん。別にいいのに。だって尾川くんは悪くない。
「大丈夫。尾川くんは悪くないよ」
そう言いながら、ちらっと透さんの方を見ると、なんかちょっとニヤッとしてた。う、なに? 別に、私尾川くんとは何もないからね? って、そういうのじゃないか。
「そっかぁ、そっちなのかぁ」
意味深な言葉をつぶやく透さん。そっちもこっちもありませんっ。
「透くん、変なこと考えてたら殺すからな」
物騒なことを言う尾川くん。うわちょっと待って尾川くん怖い。やめてやめて。なんか殺気感じるよ。黒いよ!
その時だった。
「透!?」
聞きなれた高めの声。振り返った先にいたのは、驚いているカナくんだった――――。




