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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
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にじゅう だぶるで攻めるのはずるい

「佐野さんってほんと天然」


 尾川くんの言葉に、私はうなだれた。返す言葉もありません……。でも、なんで私って天然なんだろう? どういうところが? やっぱり、わかんない。


「隆夜、佐野さんからかうのやめろよ」


 カナくんはそう言いながら口にオムライスを運んだ。

 私たちはやっと昼ご飯を食べ始めたところ。でも、尾川くんはさっきから笑ってばっかりで、全然食べていない。私も、恥ずかしくてしばらく食べる気になれなかった。まだ、一口しか食べてない。

 カナくんの作ったオムライスは、おいしかった。

 まあ、ご飯のところは炊飯器で作ったんだけどし、失敗するわけないのかもしれないけど。

 でも、カナくんが焼いた卵とか、クレープの記事みたいにすごく薄くて、びっくりした。卵って、あんなに薄く焼けるもんなんだね……。驚きだよ。

 尾川くんがやっと何も言わなくなった。私は安心してオムライスを一口ほおばる。ケチャップもおいしいやつなんだね、きっと。トマト風味っていうのかな? そんな感じの味がする。

 私、トマト系のものって結構好きだから、こういうのはうれしいなぁ。


「おいしい?」


 向かいに座ったカナくんが聞いてくる。私はうなずいた。


「うん! すごくおいしい!」


 カナくんは「よかった~」と言って笑顔を見せる。うっ、心臓が……。

 すると尾川くんが私とカナくんを交互に見比べながら口を開いた。


「そこの二人、いちゃいちゃするなら二人の時にやってくんない? 俺、リア充なんて見たくねーよ」


 しっしっ、というふうに手を振りまわす。り、リア充なんてそんな……。付き合ってるわけでもないのに。

 っていうか、私たち別にいちゃいちゃなんてしてないよね!? 尾川くん、応援してくれるのはうれしいけど、冷やかしたりするのはやめてくれると助かる……というか、やめてほしい。


「ばっ、ばか! お前、あんま調子乗ってたらほんと怒るからな!」


 カナくんは照れているのか少し赤くしながら怒鳴った。怒鳴ってる時点でもう怒ってる気がする。でも、そういう顔もかわいいなぁ……。

 って、かわいいばっかり言ってちゃだめなんだった。危ない危ない。カナくんだって男の子なんだし、かわいいって言われていい気はしないよね。うん、そうだそうだ。


「ははっ、カナ、なんでそんな必死になってんだよ。もしや、なんかあんのか?」

「はっ!? な、ななな、何言ってんだよ! ばっ、バカ隆夜! 本気で怒るぞ!」


 尾川くんにからかわれて、カナくんはムキになっている。カナくん、動揺しすぎだよ……。そんな感じだから、きっと尾川くんは面白がって余計にカナくんをいじろうとするのに。

 まあ、尾川くんの気持ちもわからなくもないんだけどね。すぐムキになっちゃうのとか、かわいいし。あ、またかわいいって言っちゃった。だめだなあ、私。


「カナはほんとかわいいよな~。そんな必死になって」

「かわいいゆーな!」


 尾川くんは、さっきからもう食べ終えていた。早っ! 食べるの早すぎじゃない!?

 不機嫌そうにしている彼を、尾川くんはいつものようににやにやしながら眺めていた。……好きだなぁ、ほんと。


「なー、佐野さんも隆夜になんか言ってよー。いっつも俺、からかわれっぱなしなんだけど」


 カナくんは私の方を見てそう言う。私は少し間をあけてから「あははー」と棒読みで笑った。

 

「何その。意味深。怖っ」


 か、カナくんに怖がられた……。ひどい。

 いくらなんでも、そんなハッキリ言わなくってもいいんじゃないの……? カナくん、意外とそういうのズバッていうタイプなんだね。あぁ、もう、つらい。

 この悲しみをどうにかするには、食べるしかない。無心になろう。目の前もオムライスに集中するんだ、私!

 それに、オムライスって冷めたらいろいろとあれだしね。うん、食べよう。


「カナ、無視されたな」

 

 尾川くんが冗談っぽく言うと、カナくんは「言うなよ……」とうなだれていた。え、私、無視したつもりはなかったんだけど……。

 

「わ、私、無視とかしてないよ! へ、返答に困っただけだからっ!」


 そう言って、また、私は一人で勝手にまくし立ててしまったことを後悔した。本気で、このクセどうにかしたい。

 

「……いや、別にいいよ、佐野さん・・・・

「う、うん……桧原、くん」


 カナくん、今、私のこと佐野さんって呼んだ。尾川くんがいるからなんだろうけど、でも、なんかわざとらしいような気がする。これも、私の勘違いならいいんだけど。

 うーん、でもなんか違和感を感じたんだよね……気のせいかな? 妙に『佐野さん』ってところを強調していたような。なんて説明すればいいのか分からないけど、なんだかいつもと、違う……。

 それに、私、また“天然”って言われるようなこと言っちゃったのに、何の反応もなかったし。どうしたんだろう……?


「おい、カナ。ノリ悪いぞ」


 尾川くんがそう言ってカナくんの肩をつかんで自分の方に引き寄せる。すると、カナくんはそのままこてん、と尾川くんの方に体を傾けて目を閉じてしまった。

 カナくんは、尾川くんの腕のあたりに頭を押し付けるようにしている。背の差が大きいから、肩までは届いていなさそうだった。ま、また心臓の調子が……。


「おい、カナ?」


 尾川くんが彼の顔をのぞきこむ。

 しばらくして、尾川くんは呆れたようにつぶやいた。


「……寝てやがる」

「えっ」


 よくカナくんの顔を見てみると、気持ちよさそうに眠っていた。よ、よかった。私、てっきり倒れたのかと……。

 

「ごめん佐野さん。俺ちょっとこいつ寝かしてくるから、ちょっと待ってて」

 

 真剣な顔でそう言われて、私はとっさにうなずいた。

 

「う、うん。私は大丈夫」

 

 私がそう言うと、尾川くんは安心したように、ふわっと柔らかく笑った。

 そして、カナくんを横抱き(!)してスムーズに立ち上がると、階段を上がっていった。お、お姫様抱っこってやつだ……。さすが尾川くん。そしてさすがカナくん。

 カナくん、絶対軽いよね……。私だったら、あんなにスムーズにお姫様抱っこなんてしてもらえないよ。尾川くん、さっと抱えてたしね。すばやかったしね……。

 カナくんの体重の軽さだけじゃなく、尾川くんもそういうの上手なんだと思う。お姫様抱っこが得意って、なんか王子様みたい……。

 でも、尾川くんは王子っていうより騎士団長とかやってそうなイメージかな。うん、ぴったりだ。そういうイメージがしっかり当てはまってる。服も似合いそう。

 すると、玄関のドアが開く音が聞こえた。お母さんとかなのかな? あ、そういえばカナくんのご両親はいったい何の仕事を――――。

 

「誰だよお前!」

「へっ!?」

 

 入ってきた人の怒鳴り声がリビングに響く。私は驚いて立ち上がった。

 男の人……いや、男の子だ。男の子がいる。大きいからお兄ちゃん……なのかな? でも、あんまりカナくんには似ていないような。

 って、そうじゃないよね。

 自分の家に知らない女の子がいたら、怪しむのは当たり前。自己紹介でもしないと。


「あ、あの、私、カナく――――ひ、桧原くんの友達……いや、クラスメイトで! あっ、それに、上に尾川くんもいますからっ、だから、わ、私一人で来たわけじゃな……」

「うるさい黙れ喋るな!」

 

 最後まで言い切る前に、また怒鳴られた。カナくんと声は似てる。でも、カナくんよりはちょっと低めかな。

 ……っていうか、なんで私喋るなとか言われなくちゃいけないの!?


「お前だな? 俺のカナをたぶらかしてんのは」

「たっ、たぶ……!? わ、私そんなことしてませんっ!」


 たぶらかす……って、騙すってことでしょ? 私、カナくんのこと騙したりなんかしてない。

 というか、俺のカナって、この人こそ誰?


「で? 名前、なんて言うの」


 私より結構背が高い相手は、上から私を見下ろすようにして言った。う、なんか、やっぱりちょっとカナくんに顔似てるかも。目とか、真剣な時の顔つきとか、雰囲気、とか。

 いや、でも、やっぱり似てると言っちゃいけないかも。だって、めっちゃ偉そう……。敢えて言うなら、高田くんとかそういう感じ?


「さ、佐野です。佐野優樹菜。桧原くんの、クラスメイトです」


 怖い。見下ろされるのほんとに怖い。でも、泣くな私。怖がるな、私! しっかりするんだ!


「へー、佐野さんねぇ……。そういえば、四月の……何日だったけな? カナがカラオケ行ったんだけどさぁ……そんとき、お前いただろ?」

「え、は、はい……」


 な、なになになに? カラオケは別に二人で行ったわけじゃないし、今日だって尾川くんがいるもん。なにも変なことしてないんだけど。

 って、私がカラオケ行ったって知ってるの!? 怖っ!

 ……あ、カナくんから聞いたのか。うん、そうだろうね。それしかありえないよ。うん、絶対。むしろそれ以外なら一体この人なんなのほんとに怖い。


「やっぱりな。なんだよお前、カナの彼女?」

「ち、ちがいます! ただのクラスメイトです!!」


 この人、ちゃんと話聞いてたのかな? まあ、男の子の家に女の子がいたら、彼女かと疑うのは仕方のないことなのかもしれない。

 それに私、クラスメイトです、としか言ってないしね。隠してるって可能性も考えたのかも。いや、それでもさすがにちょっと疑いすぎじゃない?


「ふーん?」


 まだ、完全に疑いが晴れたみたいではなさそう。じろじろと私を見てくる。

 ……えーと、ちょっと一回最初に戻るけど、結局この人誰なの?


「あの、あなたは……?」


 私がおそるおそるそう聞くと、相手はじろっと睨んできた。う、睨むのはやめてほしい……。

 男の子が口を開きかけた、そのときだった。


「あっ、トオルくん!? なにやってんだよ!」


 私と男の子は、ほぼ同時に声のした方を振り返った。階段を下りてくるのは尾川くん。カナくんを寝かせてきたらしい。

 トオルくん……って、この男の子の名前? 尾川くんは、知ってる人なの?


「よお、隆夜。久しぶりじゃん。最近会ってなかったからさ、会いたかったんだよ」


 男の子……トオルくんは、少し笑いながら尾川くんにゆっくりと近づく。尾川くんは何歩か後ずさりしながら、小さくつぶやいた。


「俺は……会いたくなかったけどな」

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