じゅうきゅう きゅんきゅんさせるのやめてください
「なに作る?」
私がそう聞くと、カナくんはしばらく考えてから「オムライスとか?」と言った。なるほどー、オムライスかー。オムライスおいしいよね!
「じゃあ、作ろっか!」
元気よくそう言うと、カナくんは笑顔でうなずく。うっ……か、かわいい……。
さっそく二人でオムライスを作り始める。ちなみに尾川くんはテレビを見ながら寝てい……って、寝てるじゃん! まあ、いっか。ご飯ができたら起こせばいいよね。
まずご飯を炊く。オムライスのご飯部分は裏技を使って炊飯器で一気にできるから、ご飯にケチャップと具材を混ぜて……っと。
「こんな感じでいいかな?」
カナくんに確認をとると、彼はうなずいた。
「じゃあ、それ炊いてくれればいいから~」
そう言われて、私はうなずく。
「うん、わかった!」
私は炊飯ボタンを押した。ピッという音と一緒に画面に『残り45分』の文字が浮かび上がる。45分か……結構かかるね。
「卵はいつ焼く……」
卵はいつ焼くの? そう聞こうとした私がカナくんの方を振り返ると、彼はすでにオムライスにかける用の卵を焼いていた。おぉ、上手。そしてかっこいい!!
フライパンの扱い方が上手で、かっこよかった。や、やばい。私、料理あんまりできないんだけど……。
カナくんの近くにいると、自分の女子力のなさが目立っちゃうよ……。それと、カナくん女子力ありすぎだよ。もう、本当に自分が情けない。
「……あ、ごめん。卵焼いちゃった。冷めちゃうかな?」
カナくんが私の方を振り返りながら訊いてくる。う、うぅ、かわいい、かわいい……。
「あ、えっと、たぶん大丈夫だと思う! ご飯が熱かったら、きっと!」
私がそう言うと、カナくんは天使のような笑顔を見せた。
「よかった!」
は、破壊力……。破壊力がすごいよ……。なんで、こんなにかわいいのかなぁ、ほんと……。
「じゃあ、ご飯炊けるまでテレビでも見とこっか!」
カナくんは笑顔でそう言った。さっきから胸がきゅんきゅんしている。うぁ、もう、なんでそういう顔できるの?
私は彼を直視できなくなってしまった。だって、かわいいんだもん。
「え、ちょ、佐野さん? なんで顔そらすんだよ」
少し不機嫌そうな声。顔を見てないから、よけいになんか、なんか恥ずかしい!
……というか、尾川くん寝てるから佐野さんじゃなくてゆきでもいいんじゃ……って、なんか私、ゆきって呼んでほしいみたいじゃん! それはなんか、恥ずかしいなぁ……。
「佐野さん?」
「う、だ、だって! カナくんがかわいいから悪いの!」
「へ!?」
……あ、また、私、変なこと言っちゃったかも。私、いつも恥ずかしくなると必死になってへんなこと口にしちゃうんだよね。引かれちゃったかな? すると、カナくんがこんなことを言い出した。
「……あの、さ。佐野さん、俺ってかわいいの?」
「え?」
やっぱり、私がすぐカナくんにかわいいって言っちゃうからかな?
……うん、きっとそれが原因だ。私のせいなんだ! 私のバカ!
「か、かわいいけど……。あ、でもカナくんは男の子だからかわいいって言われるよりもかっこいいのほうがいいよね」
また、いらないことを口走ってしまった。口をふさぐけど、もう遅い。
私、こういうとこが天然って言われるのかな? いや、違うか。
「やっぱり……そう、なんだ。なんで? なんで俺かわいいって言われんの!?」
「ひえっ」
カナくんに肩をつかまれた。な、なんでと言われても……かわいいものはかわいいし。
「カナくんは、かわいいよ? で、でもかっこいいとこもいっぱいあるよ! さっきの卵焼いてるとことか、プロみたいでかっこよかったし!」
また、長々といろいろ話してしまう。もう、私のこのクセどうにかならないのかなぁ……。
私はそんなことを考える。顔を上げ、カナくんの方を見ると、彼は難しい顔をしてなにやら考え込んでいるようだった。
「……それ、ほめてる?」
「も、もちろん!」
けなしているわけがない。私はカナくんのことをちゃんと褒めてるつもりだった。も、もしかしてかっこいいもかわいいも、カナくんからしたら褒め言葉じゃなかったのかな!?
でも、私のそんな考え方は杞憂に終わった。
「なら、いいんだけど。佐野さん、ほんと優しいね。俺のこと、かっこいいとか言うなんて」
そう言ってカナくんは笑った。けど、彼の瞳にはさみしさが込められているような気がして、不安になった。
(きっとカナくんは、なにかを隠してる……)
わかってる。私にすべてのことを知る権利なんてないってことは。でも、隠されるのはやっぱり少し、悲しい。わがままだって、わかってるんだけど……。
「優しくなんか、ないよ。カナくんだから、言うんだよ」
とっさに口走ったその言葉。ひょっとしたら告白だと思われていたかもしれない。それくらいのことを、私はつい言ってしまったのだった。
驚いてるのか、カナくんは顔を赤くさせて私をじっと見てる。こ、告白だと思われちゃったらどうしよう。
「な、さ、佐野さん。それっ……て」
「ちっ、ちが! 違うから! ふ、ふつーに! カナくんがかっこよかったから、かっこいいって言っただけだから! そう意味で、言ってるんだから、ごっ、誤解しないでね!?」
言いながら、私はバカなのかと思った。こんな慌てていっても、余計怪しまれるだけ。それに、もしカナくんが素直に私の言い分を受け止めてくれたとしても、私は本当はカナくんのことが好きなのにその気がないと思われちゃったら……って、私、何言ってるんだろ。自分でもわけわかんなくなってきた……。
とにかく、私はカナくんのことを好きじゃないって言ってるみたいに聞こえるかもしれないってことだ。うん。
「……誤解は、してない。けど、佐野さ――――」
ピーッ、ピーッ、ピーッ。カナくんの言葉をさえぎって聞こえてきたのは、炊飯終了のお知らせ音だった。もう45分も経ったの?
てか、カナくんはいったい何を言いたかったんだろう。変なところで音鳴るし……。
「あ、ご、ご飯入れよっか。隆夜起こしといて」
カナくんはぎこちなくそう言って立ち上がり、炊きあがったご飯を混ぜ始めた。湯気が天井に着きそうなほど上へと上がっていく。それと同時に、おいしそうなにおいも漂ってきた。うまくできたみたいだね。
そう思いながら、私は尾川くんの方を向いた。幸せそうに寝てる。
起こすのは少しかわいそうかと思ったけど、せっかくのオムライスが冷めてしまってもよくないので、起こすことにした。
「尾川くん、尾川くん」
肩をたたいてみたり、揺さぶってみたりする。
「ん~……」
尾川くんは小さく声を漏らす。そしてそのまま反対の方を向いてしまった。ああ、起きてほしいのに……。
「隆夜、起きない?」
カナくんがご飯を皿に入れながら言う。その言い方が優しいものだから、つい私は甘えてうなずいてしまった。
「そっか。なら、こっちやっといてくれない? 俺が隆夜起こすよ」
こっちというのは、オムライスの盛り付けのことだろう。
「わかった」
私はそう告げると立ち上がってキッチンの方に向かった。
「まだ入れてないのが佐野さんのやつだから、好きな量入れてね。あと、こっちの卵は全員分のかけてくれると助かるかな。あ、ケチャップもここにあるから、適当にかけといて!」
カナくんはてきぱきと指示してくれた。こういうとこ、しっかりしてるんだよね。ふだんはもっと、なんだろう。マイペースな感じ、なのに。
「隆夜、起きろって」
ぺチぺチ、というかわいい音が聞こえてくる。ちらっと二人の方を見ると、どうやらカナくんが尾川くんの頬を叩いているようだった。わ、私にはできない技だね。
視線を戻して、私に使わせてくれるらしいピンクの皿にご飯を入れる。あんまり多く取るのは気が引けるので、二人の量よりもちょっと少ないくらいにしておいた。というか、カナくんたちの分結構多い……。男の子だね。
次に卵をかけて、ケチャップを……。
「起こすのにそんなに顔近づけるやつがいるかよ。キモいな」
「はぁ!? 起こしてやってんのに、ほんと隆夜ってかわいくねーな!」
尾川くんが起きたみたいだ。でも、二人の空気は微妙な感じ。仲がいいのか悪いのか、本当に微妙だ。
「あ、佐野さんどうだった?」
「え?」
尾川くんは、起き上がってそんなことを言った。どうだった、ってどういうことだろう? 私は首をかしげる。
しばらくしてから、私は一つ思い当たる節を見つけた。カナくんとのことだ。一応尾川くんには私の恋を応援してもらっているから、きっとそうだろう。うん、それ以外に何もないし、絶対そうだ。
と、意味が分かったはいいけれど、なんていえばいいのかわからず、私は何も言えないでいた。なんか言ったほうがいいよね。
「ど、どうもしてないよ!」
尾川くんはふきだした。その笑った顔が、少し幼く見えて、初めて尾川くんをかわいいと思った。
……あれ? 私、何考えてんの!?
カナくんも尾川くんも、私をどうしたいのでしょうか。私、きゅん死にしそうです。




