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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
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じゅうはち じゅうぶん彼はかわいかった

「だ、誰……?」


 怖い怖い怖い! さっきから、泣き声を押し殺しているような声が聞こえてきている。待って、なにそれ。

 これってもしかして、心霊現象的なやつ? 私、そういうの得意じゃないんだけど! そして、私まったく霊感ないんだけど! なんで!?


「佐野さん」

「いやあああ!」


 なっ、名前、名前知ってた! あの人(?)、私の名前を……っ!

 パニックなった私は、とりあえず叫んで走った。なんでかわからないけど、そうしろって誰かが言ってる気がする!

 そのとき、肩をつかまれた。もう遅いのに、今更息を止める。なんか、なんか、なにこれ私殺されちゃうの? 好きな人の家で? そんなのって。


「佐野さん、俺だって」

「へ」


 目の前に現れたのは、私たちが探していた尾川くんだった。

 あぁ、そうだよね。心霊現象なんて、そう簡単に起きるはずないよね。……恥ずかしい。


「ごめん、驚かせた? なかかなか気づかねーから、ちょっと笑っちゃった」


 尾川くんはそう言いながら笑った。今も笑ってるね……。

 どうやら、私が泣き声だと思っていたのは、泣いていたのではなく笑っていただけらしかった。笑いを必死に抑えようとして、それが私からしたら泣いているのだと思ってしまっただけみたい。もう、驚かせないでよ……。

 大きなため息つくと、彼は「ごめんごめん」と悪びれることなくつぶやいた。なんかもう、つかれた。


「隆夜!」


 しばらくして、騒ぎ声が聞こえたのかカナくんが駆けつけてきた。


「もう、どこ行ってたんだよ。驚かすの、やめろよ」


 彼は呆れたようにつぶやく。すると尾川くんはまた、さっき私に言ったように「ごめんごめん」と言った。悪びれる様子はもちろんない。でも、まあ、こういうところが好かれるんだよね、きっと。


「俺だけだったらまだいいけど、佐野さんにまで迷惑かけんなよ」


 カナくんは不満げにつぶやく。私は別に、迷惑かけられてないと思うけど……。まあ、けっこう怖かったけどね。

 今はまだ明るかったからよかったけど、もし暗いときだったら尾川くんが姿を現す前にぶっ倒れててもおかしくなかったかもしれない。だから、それを考えれば、たしかにもう二度としてほしくはない。でも、それはそれで楽しかったから、私はそんなに気にしてなかったりもする。

 それにしても、なんでカナくんは私のため(?)に怒ってくれるんだろう? 私のために・・・とは限らないと思うけど……。


「まーいーじゃん。そんなカリカリすんなよ、カナ」


 尾川くんはからかうような口調で言うと、無理やりカナくんの肩を組む。いつもみたいなにやにや顔で、楽しそうだ。

 カナくんは嫌そうに体をよじらせるけど、尾川くんの力が強いのか振りほどくことはできなかった。四月のときも思ったけど、やっぱり、カナくんは力もあんまり強くないのかな? それとも、尾川くんの力が強いだけ?


「やー、ほんとカナくんは力弱いなぁー」

「うっぜぇ……」


 バカにしたような笑みで尾川くんがカナくんの顔をのぞきこむと、カナくんは顔をひきつらせて正直な言葉を口にしていた。カナくんも、あんなこと言うんだね。

 やっぱり、カナくんは私といるのと尾川くんや廣山さんといるのとは違う気がする。何が、というわけじゃないけど、接し方というか、なにか違う。

 当たり前、なのかもしれない。だって、わたしとカナくんはつい最近出会ったばっかりだし。

 だから、中学からとかの深いつながりを持ってる友達と接し方が違ったりするのは、仕方ないことなのかもしれない。でも、なんだか、少しさみしい。ランク付けされているみたいで、悲しい。

 わがままなのかもしれないけど、でも、やっぱり差があるのはさみしいよ――。

 って、ダメダメ。一緒にいれるだけでも、幸せだって思わなくちゃ。いつの間に、私、こんなに欲張りになっちゃったんだろう。

 こんなに近くに入れるなんて、それだけでいいはずでしょ? 私の、バカ。


「ごめんな佐野さん。隆夜が変なことして」


 カナくんは何も悪くないはずなのに、謝ってくる。私には謝らないでって言うくせに、カナくんはそうやって、私のことを思ってくれてるんだと思う。けど、私としては、カナくんに謝ってほしくはないなぁ……。

 そう考えながら、私は首を横に振って「大丈夫だよ」と言った。驚いたは驚いたけど、別に私は怒ったわけじゃないし、謝ってほしいとも思ってない。だから、カナくんにも尾川くんにも謝ってもらわなくていいんだけど……。


「ごめんな佐野さん、って! カナ、ほんと佐野さんの前だとキャラ変わるよなぁ~」


 尾川くんはにやにやしながらカナくんをからかいにかかる。相変わらずだなぁ。

 というか、私の前だとキャラが変わるって、私自身としてはそんなにうれしいことじゃないんだけど……。でも、まあ、ポジティブに考えれば『特別』って感じがあるってとこかな?

 うーん、でも、これは特別扱いに含んでいい内容なのかな? ちょっとビミョーじゃない?


「もー隆夜うるさい。絶対、今、変なこと考えただろ! 前に隆夜に言ったじゃん! 俺はそーゆ―ことじゃないって!」


 カナくんの大きな声が、三人だけの廊下に響き渡る。そーゆーこと……って、どういうこと?

 尾川くんはなにかを察したのか、瞬時に謝った。カナくんは、意味がないことを分かってるんだろうけど、手で口をふさいでる。私が聞いちゃいけない内容だったんだね……。

 別に、二人だけの秘密を教えてほしいとは思わない。そりゃあ、ちょっとは気になるけど……。でも、秘密は秘密だしね。

 私は笑顔で告げた。


「私、意味、分かってないから。だから大丈夫! 二人の秘密なら、私、無理に聞こうとか考えてないし、今のこと言いふらしたりしないから!」


 なにを言いたかったのか、自分でもわからなくなってくる。でも、私はきっと、二人に安心してもらいたかった。敵だって思われたくなかった。だから、きっと私は。

 すると、カナくんと尾川くんは顔を見合わせて、そして笑い出した。な、なんで?


「さ、佐野さん、気にしなくっていいって! カナの言うことなんて、たいしたことじゃねーし! な、カナ!」

「おまえ、それ失礼だろ……。うん、でも、今のは別に……」


 二人の少しぎこちない言い方にはなにか引っかかるものを感じたけど、とりあえず二人は怒ったりしているわけではなさそうだ。それなら、よかった。

 ほっとして、私は気を緩ませた。絡まっていた糸がほどけたような感覚。


「ごめん、佐野さん。別に、ほんとに大したことじゃないから。でも……」


 そこまで行って、カナくんは口を閉ざした。言いにくいことなのかもしれない。私はあわてて言った。


「い、いいよ! 言いにくいことなら、わざわざ私聞かないし! 今じゃ、なくてもいいよ」


 精一杯笑顔を作ると、二人は微笑んだ。


「ほんと佐野さんって思いやりあるよな」


 カナくんがそう言って、天使の笑みを見せた。わ、私を殺す気ですか。そんなことされたら、しかも上目づかいというボーナス付きって、それって!

 頭が混乱している私とは反対に、カナくんは笑顔でした……。うん、かわいいってことは、私、もう知ってるから。わかったから、上目づかいでほほえむの本当にやめてほしい。かわいい。


「つーか、佐野さん時間大丈夫? もう十二時過ぎてるけど」

「えっ!」


 尾川くんの言葉に、私は飛び上がった。まさか、もうそんな時間だったなんて。

 とりあえずカナくんの家の電話でお兄ちゃんに友達の家にいる伝え、一安心。これなら、もう少しくらいここにいられるよね。


「電話してきたよ~」


 私はカナくんたちに報告する。すると彼らは、私の方を見ると「おー。オッケーって?」と聞いてきた。笑顔でうなずく。

 お兄ちゃんは「友達って誰?」と聞いてきたけど、正直に「桧原奏音くんと尾川隆夜くん」と言った。そしたら、お兄ちゃんは電話の向こうで大爆笑していた。「優樹菜、やるなぁ~」とか言ってたけど、きっとお兄ちゃんが想像しているのとは違うと思う。

 というか、兄として妹が男子二人と家にいると知っても何も言わないのはどうかと思うんだけどなぁ……。まあ、実際男子二人と一緒にいる私が言えるようなことじゃないけど。

 はっ! そっか、私、今、男の子二人と一緒にいるんだ! しかも、ここカナくんの家だし! 親とかいないし。

 うわぁぁ……中学の時だったら、絶対逃げ出してただろうなぁ……。というかまず、そんなに仲のいい男子なんていなかったしね。そう考えると、私、成長してるのかもしれない。

 そっか、私……成長してるんだ。きっと、カナくんと入学式の日に出会ったから。瑞樹ちゃんが、私に声をかけてくれたから。尾川くんが私に協力してくれたから。廣山さんが、なんだかんだ言って私のこと気にかけてくれたから。高田くんが……転校してきたから? いや、高田くんは別に関係ないか。私の嫌いな人だし。


「じゃ、よかったじゃん。何時まで?」


 尾川くんが聞いてきたので、私は「五時くらいになったら帰るね」と告げた。

 基本、あんまり遅くまでは遊ばないタイプなんだよね。お兄ちゃんに心配かけたくないし……。というか、どちらかというと私がお兄ちゃんを心配しているのかもしれないけど。まあ、それはいいとして。


「五時か~早いな。こないだのカラオケは六時まで行けるって話だったよな?」

「うん、あの日はね」


 尾川くんがそう言うので、私はうなずいた。カラオケの日は六時までいいってお兄ちゃんに言われたんだ。まあ、結局廣山さんの体調の関係で早めに帰ることになったんだけどね。

 それで、帰りに高田くんにあったんだっけ。うわぁ、結構嫌な思い出……。

 それにしても高田くんって、本当に私のこと好きなのかな? そんな風には見えないんだけど。


「……てか、おなかすいてない? なんか食べる?」


 口を開いたのはカナくんだった。時計の針はとっくに正午を過ぎたところを指している。

 たしかに、空腹を感じないわけでもない。


「んじゃ、食うか。カナ、なんか作れ~」


 尾川くんはそう言ってソファーに寝転がる。私はあわてて「桧原くん、手伝うよ!」と言った。桧原くん、と呼ぶのは違和感を感じる。そんなにカナくん呼びになれちゃったなんて……。

 自分でもびっくりな、私でした。

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