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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
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じゅうなな なないろに光る宝石?

 尾川くんはさっきからずっと笑っている。赤くなった顔を隠すカナくんをからかって、楽しんでいる。もちろんその内容は、さっきカナくんが口にしたことなんだろうけど、私にはそれが分からなかった。

 なにがそんなにおもしろいんだろう。カナくんが言ったこと、別に変じゃなかったのに――。


「佐野さん、わかんない? こいつ、『一緒にいれたらなー』って言ったんだぞ! つまりそれはさあ……」

「あーっ、もう! 隆夜、おまえ、うるさい!」


 カナくんは手を振り回した。べしべし、と尾川くんの体に当てる。でも、尾川くんは楽しそうにしていた。

 ま、まさか尾川くんって、えむ……? いやいや違うでしょ。落ち着いてよ私。


「佐野さん! こいつの話きかなくていいから!」

「はいはい」


 怒鳴るような口調で言うカナくん。私はその剣幕に圧倒されて、すぐにうなずいていた。


「あと隆夜! おまえ、いらないこと言うなよな! そういうの、マジでやだ!」


 今度は尾川くんに向かって怒鳴るカナくん。彼は何に対してそんなに怒っているんだろう。

 さっきまでカナくんが抱きしめていたグレーのクッションを、抱きしめながらそう思った。


 しばらくして。

 やっと二人の口ゲンカに決着がついた。彼らの顔を見るなり、すぐに勝敗が分かる。

 尾川くん、超笑顔。まぶしいくらいだ。対するカナくんは、死んだ魚のような目をしていた。大きい声を出しすぎて、つかれたんだろう。

 私はクッションを彼に渡すと、とりあえず「元気出して」と言っておいた。カナくんはクッションに顔をうずめ、小さくうなずく。

 一言で言おう。かわいかった。


 一方、つきっぱなしになっていたテレビを見始めた尾川くんの顔は涼しげだった。横でカナくんがうらめしそうにしているけど、気にしないことにしよう。

 テレビからは落ち着いたナレーションの声が流れていた。


『七色に光っているように見えるこの宝石は――』

「オパール」


 ナレーションの声より早く宝石の名前を口にしたのは、カナくんだった。あとから少し遅れてテレビから『オパールと言います』という落ち着いた声が聞こえてくる。

 どうやら、この番組は宝石を題材とした紹介するようなものだったらしい。

 尾川くんは少し驚いているようにも見えたけど、すぐに笑って「なんでカナそんなに詳しいんだよ」とカナくんの脇腹をつついたりしていた。そういうの、ほんと好きだなぁ、尾川くん……。


「オパールくらい知ってるよ。隆夜が常識ないだけだろ」

「はあ!?」


 またケンカになりそうだ。でも、ケンカするほど仲がいいとか言うよね。だからきっと二人は、仲がいいはず。


「佐野さんだって、知ってるよな?」

「へ!?」


 急に話を振られて、私は動揺した。宝石のことなんて、私、全然知らないんですけどー!

 でも、ここは知ってるって言ったほうがいいんだよね? でもでも、カナくんに嘘をつくなんて、そんなことできない! できるわけない!


(私、どうすればいいの!?)


 悩む。でも、この時間さえも悩みの種だ。だんまり、なんて、印象よくないに決まってる。

 だからって、どうすればみんな幸せになれるの? なんて言えば呆れられない?

 パニックになればなるほど、混乱してくる。カナくんが何か言ってるけど、耳に入ってこない。口をパクパクさせているだけのようだ。音無しテレビを見ているみたい。

 ――――って、そうじゃない! なにか、なにか言わなくちゃ。焦るほど、思考が追いついていかなくなるのが手に取るようにわかる。ああ、私はどうすればいいの。これだから私はほんとにもう。


「佐野さん!!」

「ひ、あ」


 両手を握られ、体を揺さぶられて叫ばれる。カナくんは、必死そうな顔をしていた。

 少ししてから、やっと自分がおかしくなっていたことに気づいた。ほんと私、みんなに迷惑かけてばっかり……。


「これは、俺、邪魔者かな?」


 ふざけたような口調で尾川くんはにやにやしながらつぶやき、そっと部屋を出ていく。い、今のどういう意味……。


「あ、カナくん、あの、ごめんなさい。私、なんか、焦っちゃって」


 私はあわてて謝罪する。呆れられてないか、不安になる。本当に、自分がいやになるなあ。


「……佐野さんは」


 カナくんが、ぼそぼそとそうつぶやいた。彼の顔は蒼白だ。ど、どうしたんだろう?


「なんで佐野さんは、そうやってすぐ謝るの!?」


 間近にせまられ、怒鳴られてしまう。顔近い。顔近い顔近い!

 カナくんの怒りの沸点があんまりよくわからない。なんでそんなに怒ってるの? 私が謝ったことくらいで、そんなに怒らなくってもいいのに。


「……俺、さ。結構わかりやすく接してるつもりなんだよ? 佐野さ、ゆ、ゆきだって、もうちょっと意識してくれたってよくない?」


 カナくんは、蚊の鳴くようなごくごく小さな声でそう言った。あまりよく聞き取れなかったけど、それ以前に内容が分からない。

 私は失礼を承知の上で、カナくんに向き直った。


「カナくん」

「な、なに?」


 顔を引きつらせ、体を後ろに傾けるカナくん。そんなに、私から離れたいんですか……。


「あ、あのね。その……もう一回、言ってくれない?」


 カナくんは、静かに肩を落とした。

 落胆、という言葉がここまでしっくりくるような表情を、私は今まで見たことがなかっただろう!


「と、とりあえずさ、あの、俺、佐野さんと仲良くしたいって思ってるから! だから、その……あ、謝ったりしなくていいから。友達、だし」


 カナくんは恥ずかしそうにしながらつぶやいた。真っ赤に染めた顔を必死に手で隠している。と言っても、ほとんど丸見えなんだけどね。

 私の視線に気づいたカナくんは、気まずそうにうつむいた。


「……あーもう……なんなんだよ……」


 一人悶えるカナくんを私は直視できないでいた。かわいい。かわいい!

 わーもうかわいい、超かわいい! わーわー!(もう頭おかしい)

 ……私、ちょっと落ち着こう。


「え……っと、とりあえず、その、離れよっか?」

「あ! ご、ごめん!」


 落ち着きを取り戻した私が口を開くと、カナくんはあわてて飛びのいた。なんか、もう、そういう反応やめてほしい。こっちが恥ずかしくなる。

 もっと余裕ぶってくれれば、私も恥ずかしくないのに。変なとこではずかしがるから、こっちも恥ずかしくなるんだよ。あー、でもなんか、やっぱりかわいいなぁ……。


「……ほんと、ごめん。俺、めっちゃカッコ悪いよな……」


 おでこのあたりに手を当て、大きなため息をつくカナくん。その仕草も、かわいすぎる。破壊力が、すごい……。こういうところがやっぱり、私、好き。

 というか、カッコ悪いと自分では言ってるけど、カナくんは十分かっこいいと思う。それに、なによりもかわいい。

 男の子相手にこんなにかわいいを連発するのは、失礼かもしれない。それでも、カナくんのことを知れば知るほど、かわいいと思ってしまうのです……。

 きっとみんな思ってるはずだよね。目の前にしちゃえば、もう、だって。


「……かわいい」

「ん?」


 心の中でつぶやいたはずが、声に出してしまったみたい。なんか言った? と首をかしげているその仕草もまたかわいいです。でも、今は、そんなこと聞かないでほしい。

 いくら口から出ていたからと言って、まさかカナくんの耳に届いてしまうほどの声を出していたとは思わなかった。ど、どうやって切り抜ければいいの……!?


「あ、あの、ちがっ」

「あ、そうだ佐野さ、あーえっと、ゆき?」

「うあっ、は、ハイっ!?」


 必死になって否定しようとすると私の声をさえぎって、カナくんは首を傾げながら声をかけてきた。し、心臓が、止まるかと思った……。

 カナくんが、私をゆきって。呼ばれたことあるけど、でも、首をかしげながら上目づかいでゆきって!!

 だめだ。超恥ずかしい。考えるだけで頭が吹っ飛びそう。顔が赤い。どうしよう、こんなのって。

 すると、カナくんは言いにくそうに口を開いた。


「あ、いや、たいしたことじゃないんだけど。……その、今度! い、いつでもいいから……どっか、遊びに行かない? と、友だち、誘って!」


 必死、という印象を受ける。友だち……ってことは、瑞樹ちゃんとか誘っていいってことだよね。廣山さんも来るのかな?


「それって、あの、誰が来るとかは……?」

「それは、今決めたばっかだから決まってないけど……。誰か誘ってほしい人いる?」


 唐突な質問に、私はうろたえた。な、なんて言えばいいの、かな?

 と言っても、カナくんとの共通の知り合いは、三人くらいしかいない。というかまず、私、交友関係狭すぎじゃない? でも、絶対友だち少ないね~なんて、言わないで。ほんとに。そんなんじゃないから。


 しばらく考えた末に、三人とも誘うことにした。カナくんはうなずいて、「じゃあ誘っとくよ」と笑う。

 ……誘うのは、三人。尾川くんと廣山さんと――――高田くん。高田くんのことは苦手だけど、でも誘わないわけにはいかない。だって、なんか仲間外れにしてるみたいで罪悪感あるし。

 それから、瑞樹ちゃんのことも伝えておく。カナくんは笑顔でうなずいたけど、でも、少し顔色を変えたような……。そう言えば、二人は同じ中学だったんだっけ。なにか、あったのかな?


「じゃあ、六人で行くってことでいい?」


 カナくんの問いかけに、私はうなずく。私、カナくん、尾川くん、廣山さん、瑞樹ちゃん、高田くん――――。うん、六人だ。


「じゃ、とりあえず隆夜に部屋に入ってもらうか」

「あ! うん、そうだね!」


 そうだ、尾川くん、なんでかよくわからないけど、部屋出て行っちゃったんだよね。……あ、私に気を遣ってくれたのか。別にいいのに。

 あ、でも、さっきの場面を尾川くんに見られていたら、それはそれで面倒だったかも。そう考えれば、逆によかったのかもしれない。


「隆夜ー」


 カナくんがリビングのドアを開けて顔を覗かせる。私も同じように廊下の方を見てみるけど、尾川くんの姿は見えない。


「どこ行ったんだろう?」


 私が首を傾げながら言うと、カナくんも「なー」とうなずいてリビングの外の廊下を行ったり来たりしはじめた。私も、おうち散策を含めて、リビングを出てうろうろする。でも、尾川くんはやっぱり見つからなかった。


(尾川くん、どこ行っちゃったんだろう――?)


 そのとき、背後で物音がした。とっさに振り向き、口を開く。


「尾川くん?」


 返事はない。でも、泣き声のようなものが聞こえてくる。なに? ホラー!?


「ひっ」


 がさっという音がする。今、何か、動いたよね……!?

 私、佐野優樹菜。ホラーな現場に立ちあっています。

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