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誰にも邪魔させない、私たちの青春。  作者: 青木ユイ
第一章 2016年度 高校一年生
19/35

番外編 カラオケ①(奏音目線)

「今日はカラオケかぁー……」


 そう、今日はカラオケである。しかもメンバーには、佐野さんが含まれている。なんてこった。


「やべー……緊張してきた」


 そう思った今この瞬間が集合時間の五分前だということを、俺はまだ知らない。



「やべえ!」


 いや、やべえと言ったところでなんの解決もしない。とりあえず最終手段として走っていた。

 やべえ! 言っても意味ないけど、とりあえずやべえよ、この状況!


(言い出しっぺが遅刻は、いろいろとマズい!)


 こうして俺は驚異の速さで走り待ち合わせのアレクに到着した。それも、待ち合わせ時間ぴったりに。



 カラオケボックスに入ると、ジャンケンで順番を決めて歌い出す。なぜか俺が今日くるのが一番遅かったからということで、罰ゲームとして恋愛曲を歌うことになってしまった。め、めんどくせぇ~……。

 結局、うろ覚えの曲を下手な感じに歌ったわりには高得点を取ることができて安心した。別に点数にこだわりはないけど、あんまり低いとやっぱり見栄えが悪い。あと、なんか恥ずかしいし、多分隆夜と廣山にバカにされる。だから、高得点を取れてよかった。

 ちなみに点数は96。結構よかったと思う。

 だけど、問題はカラオケが初めてという佐野さんだった。


「100点!?」


 そう、佐野さんはカラオケが初めてだというのにもかかわらず、100点をたたき出してきたのである。マジかよ!

 俺も最初は機械の故障かなにかだと思ったけど、そんなことを考えるのは佐野さんに失礼だと思って、やめた。これはきっと、彼女の実力なんだと思う。いやーでも、生で100点が見られるとは思ってもいなかった。すっげーな、ほんと。世界は広いよ、うん。

 そのあとしばらく歌っていると、いつの間にか佐野さんは寝てしまっていた。仕方ないから三人でローテーションして歌う。

 さらにしばらくすると、隆夜がジュースを取りに行くと言い廣山はトイレに行くと言って部屋を出て行った。

 その時、隆夜はにやにやしていた……。あいつ、絶対なんか変なこと考えてる!


「つか、寝すぎじゃね……?」


 佐野さんは気持ち良さそうにして寝ていた。こっちまで寝たくなってしまいそうなほどの幸せそうな寝顔だ。かわいいなーと思って、それから二人きりということを思い出して恥ずかしくなった。

 俺、最近ほんとおかしい。これも佐野さんのせいなのだろうか? でも、俺は――――。


「ん……」

「わっ」


 佐野さんの漏らした声に、俺はオーバーに驚いてしまった。びびらせないでほしい。

 そしてそのあと、そろそろ起こした方がいいのかと思い彼女に声をかけた。


「佐野さん、佐野さん」

「んぅ~……ん?」


 佐野さんはゆっくりと目を開く。そして、ガバッと顔をあげた。


「わ、私、もしかして寝てた!?」

「うん、かなりね」


 叫ぶ佐野さんに俺は笑顔で答える。嘘じゃない。結構寝てた。

 すると彼女はきょろきょろして周りを見回した。そして、思っていたであろうことを口にする。


「桧原くんだけなの? 尾川くんと廣山さんは?」


 何度も瞬きしながらそう尋ねられ、俺は頷く。


「隆夜はドリンクバーで、廣山はトイレだってさ。二人とも遅いなー」


 本当に、遅い。結構時間も経っているのに帰ってこない。さては二人で駆け落ちか……? って、んなわけないか。

 アホなこと考えるのはやめて、真面目に考えよう。ジュースなんてさっと取りにいけるし、トイレはまあお腹が痛かったりしたら長くなっても仕方ないかもしれないけど、廣山、そんな素振りしてなかったしなあ……。

 そのとき、佐野さんが遠慮がちに声をかけてきた。


「あの、桧原くん……」


 すかさず、返事をする。


「ん? なに? ゆき」

「っ!?」


 佐野さんは目を丸くしていた。そう、俺たちは下の名前で呼び合うようになっていたのである。と言っても、俺は外面だけゆきと呼んでおいて、心の中ではずっと『佐野さん』のままなんだけど、今は二人だしいいかと思ってゆきと呼んだのだ。

 驚いている佐野さんは、顔を真っ赤にしていた。そんなに恥ずかしかったのかな。なんか、悪いなあ。

しばらく佐野さんは深呼吸をしていた。すると、突然口を開いた。


「な、なんでさっきまで私のこと佐野さんって呼んでたの?」

「え?」


 俺はぱちぱちと瞬きを何度か繰り返してから、ああ、と頷いた。


「人前でゆきって呼ばれるの嫌かなーと思って、佐野さんって呼んでたんだ」


 そんなことか、と安心する。

 言ったことそのまま本当のことだ。佐野さんが人前でゆきと呼ばれるのは嫌かと思って、隆夜や廣山の前ではおとなしく佐野さんと呼んでいた。ただそれだけだ。あとは、俺もからかわれたりするのが恥ずかしいなあと思ったから。

 別に大した理由もない、普通の呼び方である。まあ、人前でも佐野さんがゆきと呼ばれたいのなら話は別だけど。

 というか、佐野さんはゆきって名前じゃないんだけどね。佐野優樹菜なんだけどね。


 あぁ~……と感嘆する佐野さん。そんな感心するようなこと、俺言ってないんだけど。

 あまりにも重い沈黙が長く続くので、俺は口を開いた。


「二人遅いし、なんか歌う? あ、ゆきしんどくない? 顔赤いけど」


 佐野さんは顔を赤くしていた。自意識過剰っぽくて嫌だけど、多分俺のせい?


「う、うたいま、す。でも、桧原くんが先に――――」


 彼女が最後まで口にする前に、人差し指で唇をおさえつけた。折れ、ほんとなにしてんだろ。

 佐野さんは目を見開いて、俺を見つめる。


「ひ、ひはらく、なにして、」

「約束、忘れた?」


 上目づかいで訊く。座ってても佐野さんに上目づかいできるって、俺はどんだけチビなんだ……。

 佐野さんの前ではカッコつけてみるものの、心の中の声はダサかった。つーか、なんか勢いで唇触っちゃったんですけど、これは、引っ叩かれる覚悟をしておいた方がいい感じですか……!

 そう思ったけど、佐野さんはそんなことしてこなかった。多分、廣山にやったら往復ビンタをくらわされるだろう。やっぱり、廣山と佐野さんは種別が違う。

 ちなみに約束というのは下の名前で呼び合うということで、佐野さんが桧原くんって言ったからちょっと意地悪してみたくなっただけ。びっくりしてる佐野さんは、結構かわいい。やっぱり、何度も思うけど彼氏がいないのが不思議だ。


「あ、う……カナ、くん?」


 真っ赤に染めた顔でそう言った彼女は、悔しいけどすごくかわいかった。慌てて、顔を背ける。だって、見てられない、恥ずかしい……。


「ああ、もー……」


 顔を隠してうなだれる。多分、俺今佐野さん以上に顔真っ赤になってると思う。悔しいけど、でも、佐野さんは綺麗でかわいい。

 でも! でも、やっぱずるい。これが作られたものじゃなくて、天然そのもののかわいさなら、ほんとに、ほんとに綺麗だと思う、けど。

 うわあ、もう、恥ずかしい! 俺のバカ!


「ゆき、さ。それ、まったく自覚なしでやってる?」

「へ?」


 佐野さんは首を傾げて言った。


「自覚って、なにが?」

「自覚なしか……」


 俺は顔を手で覆って大きなため息をついた。

 やっぱり、天然物だ。あのかわいさは、計算されて作り出されたものじゃない。佐野さん自身のかわいさなんだ。いや、別に知らない、けど。

 その時、俺は顔をあげた。なんでかわからない。けど、佐野さんに歌わせたいと思った。佐野さんが100点をとった「Dream」を。

 俺はリモコンを操作して「Dream」の画面を映し出した。


「これ、歌って」


 佐野さんに差し出す。彼女はぽかんとしてから「これ、一回歌ったよ?」とぎこちなく言った。

 それくらい、知っている。でも、歌ってほしいと思った。


「いいから、早く歌って」

「あ、ちょっ」


 俺の手にしたペンが画面に触れる。ピッという電子音とともに、「Dream」の前奏が始まった。

 佐野さんは、仕方なくというように歌い出す。声は震えていたけど、でもやっぱり、綺麗な歌声だった。


「Dream

 誰かが願った想いは

 ねえいつまでも君の

 心の中で眠ってる

 Dream」


 最後のサビが終わり、採点結果が画面に映し出される。また100点。やっぱり、天才なのかもしれない。


「ひゃく、てん」


 佐野さんが驚いたようにつぶやいた。100点の自覚もないらしい。

 俺は少しからかおうとして言った。


「やっぱ、100点じゃん」

「たっ、たまたまだよ!」


 佐野さんは焦りながら否定する。たまたまとは、随分無理をした言い分だ。二回連続100点の、どこがたまたまだと言うんだろう。根拠がない。

 しかし、そのことを言っても、佐野さんは首を横に振った。


「違うよ、才能なんかじゃないよ。機械が壊れてるんだよ」

「なんでそんなに謙遜するんだよ」


 意味がわからない。

 謙遜しなくても、結果は出ているんだからもっと自信を持てばいいのに。イライラする。でも、これがきっと佐野さんのいいところなんだろう。だから、そんなこと言ったらだめだ。うん。

 すると佐野さんが小さくつぶやいた。


「ほんとに、ちがうんだよ」


 彼女は泣きそうになっていた。うつむいている。ずるいと思った。

 でも、それ以上に自分が恥ずかしくなって、情けなくなって、とっさに謝る。


「なんか、ごめん」


 そしたら、佐野さんは必死になって否定してきた。


「ちが、ちがうの!」


 わからない。女子ってわからない。佐野さんがわからない。

 なにがそんなに嫌なんだ。なにがそんなに恥ずかしいんだ。否定ばっかして、そんなんで楽しいのか!

 ……だめだ、わからない。それに、逆ギレしたってどうにもならないのに、俺、バカみたいだ。

 恥ずかしくなって肩を小さくさせていると、佐野さんの穏やかな声が聞こえてきた。


「大丈夫だから、私。カナくんが心配する必要なんてないんだよ? 謝る必要もない。だって私、カナくんのこと――――」


 そこまで言って、佐野さんは瞬時に口を閉ざした。顔が真っ赤だ。佐野さん、今なんて言おうとした……?

 そんなこと、一瞬でわかる。佐野さん、俺に告白しようとしてたんだ。無意識に口走ってしまっているみたいに見えたし……って、なんか俺、考えすぎ? こういうのってやっぱり、自意識過剰?

 顔が熱くなっていくのを感じて、俺は慌てて顔を手で隠した。なんか、調子狂う……。


「ごめ、今のはその、ちがくて」


 佐野さんの言い訳する声が聞こえてくる。でも、ほとんど耳に入ってこない。


 ――――佐野さん、今のってもしかして、告白ですか?

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